今回は公開から1週間過ぎてからの記事となりますが『仮面病棟』の感想記事になります!
ミステリーは書きづらいんだよなぁ……
カエルくん(以下カエル)
「直接的に犯人やトリックを語ることは憚られるしね。
とは言っても、いつもネタバレありの記事を書いている身からすると、今更ミステリーだけで何を言っているの? という意見もありそうですが……」
主
「これはこれ、それはそれってね!
今回の記事も直接的な犯人を告げたり、あるいはトリックを明かすような真似はしませんが……やっぱり、言外から感じてしまうものがあるかもしれません。
特にネタバレありの項目については、ドラマについて色々と語っているので、ご承知おきください」
カエル「それでは、記事のスタートです!」
感想
それでは、Twitterの短評からスタートです!
#仮面病棟
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2020年3月7日
木村ひさしって実はすんごい監督なのでは…?
ミステリー・サスペンスとしても見応えがあるだけでなく、考えさせるテーマもある
撮り方はドラマっぽく邦画の悪癖もありつつ、きっちりと面白い
年100本以上観る映画好きからは評価されないかもしれないが、自分は称賛したい好きな作品です pic.twitter.com/zvIU0WINjF
これは評価が割れるでしょうが、自分は好きな作品です!
カエル「これで木村ひさし監督の作品は『任侠学園』『屍人荘の殺人』に続いて、どれも当たりっていうのがうちの評価になります!」
主「たださ、すごく評価が割れる映画でもあると思う。
この映画がダメ、という人はそれはそれで納得する。自分もよく語るんだけれど、”ダメな邦画にありがちなこと”っていうのが、全部組み込まれているんだよね。
説明しすぎなセリフ、安っぽい美術や画面、役者重視の撮り方、首を捻る展開……それらのオンパレード。
だから、この映画がダメって言う人は多いだろうし、自分もそれには同意する部分もある」
カエル「……あれ、でもこの映画は好きなんでしょ?」
主「”映画で大事なことは何か?”ということにも繋がるんだよね。
同時に”ミステリーで大事なこととは?”という問題にも。
これだけミステリーが大流行して、今や一般的な地位になってしまった中で、新しいトリックとかはなかなか生まれないよ。それこそ、なんらかの技術革新がなければ不可能。
この映画のトリックは正直に言えば、読める。自分もちょっと想像の範囲内すぎて、むしろ”え、それでいいの?”という気持ちもあった。
だけれど、そういうことじゃないんだよね……」
木村ひさし映画に関して思うこと
そう言えば、こんなTweetもしているよね
木村ひさしと英勉は大作邦画界の希望になるかもしれん
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2020年3月7日
それでいいのか? という話もありそうだけど
グランブルも予告めっちゃ良かったので期待大です!
自分は木村ひさしと英勉監督には、大きな期待をしています!
カエル「えっと……どちらも、いわゆる映画好きから注目を集めるタイプの監督ではないよね? この前の『おれなら』の放送でも『英勉って誰?』と言われていたし……」
主「なんでこの2人に注目するかというと……なんかさ、ここ最近、特に洋画かなぁ。
洋画を見ていると『またこのパターンか』と思うことが多いんだよ。
特に脚本。物語の作り方が鉄板のパターンが出来上がっているからこそ、その流れがわかっていると、かなり似たような構成に見えてくる。
しかも、近年はメッセージ性も似たような作品ばかりだから……”はい、今回はこのパターンですね”って思う。特にディズニー・ピクサーの映画はそうで、しっかりとした技術のもとに制作されているからこそ、それがマニュアルのように感じられてしまい、オリジナルの工夫が少ないように思うこともある」
カエル「その流れに沿って作る、というのも1つの技術だとは思うけれど……」
主「だから、まあこれもよく言うんだけれどさ『上手い!』って観客に思わせたら、それはちょっと違う。
大事なのは『面白い!』とか、そう言う没入感だと思うわけだよ。
技術は大事だけれど、技術を観に映画館にいくわけじゃない。
拙くても、心に響く何かがあるから、映画館に向かうわけだ。
少なくとも自分はね」
で、木村ひさしと英勉にはその心に響く”何か”があると……?
極論いってしまえば、映画ファンに評価されやすい作品ってある程度決まっているのよ
カエル「……また、なんかトンデモ発言をしようとしている?」
主「これは暴論だよ。
でもさ、自分も映画ファンだからわかる。
評価がしやすい作品ってあるの。
例えば社会派映画とか、あるいは芸術的な映画はすごく映画ファンが評価しやすい。
『これがわかる俺って、やっぱりスゲェでしょ?』って映画たち。それらはカッコイイし、映画祭とかでも評価しやすいしね。
だけれど、評価しづらい映画ってあって……それがいわゆる今作のような映画だよね。
ちなみに、自分はアニメ映画でもそれを感じているからこそ、あまり語られづらい子供向けアニメ映画とオタク向けのアニメ映画、いわゆるファンムービーをあえて上位にすることで『これを評価できる俺ってすごいでしょ?』感を出してます。
まあ、本当にいいものだし、これを評価しないのはどうなんだろう? と心から思っての選出なのだけれどね」
カエル「……なんか、裏話が始まったね。これはあまり映画ライターや映画批評家からは『映画プリキュア』とか『冴えない彼女の育て方Fine』なんかの話は聴かないなぁ……と言う思いもあって、ということかな」
主「で、邦画の……特に娯楽映画って評価されづらいよね。
2019年だと『翔んで埼玉』とかがそうだったかも。あれって実は娯楽映画のふりをした社会派映画であるけれど、ルックがあんな感じだからか、その方面では評価されていない気もする。ひと昔のアメコミ映画とか、今の特撮とかも似たようなものかもね。あとは漫画原作実写映画。
まあ、言ってしまえばこの手の娯楽映画って、最初から『どうせクソみたいな邦画でしょ?』と思われがちなんですよ。
残念なことに、それはそれで間違いとも言い難いけれどね」
あくまでも独断と偏見に基づくものです
で、木村ひさしと英勉の主戦場はそこなんです
カエル「10年後にも観られている作品とか、映画史に残る……あるいは業界で話題になる作品ってわけではないよね?
あくまでも……言葉が悪いけれど、その場限りで消費される作品たちと言うか……」
主「だからこそ凄いんです!
全国で50館くらいの、骨太な邦画ではない。
また、ドキュメンタリーでも社会派でもない。
全国300館で公開される、しかもネームバリューもあまりないタイプの娯楽映画ですよ。
年間1本、2本しか映画を見ない、若手役者が好きな中高生や若年層を相手にするような映画だったりさ。色々と裏事情も感じさせるようなタイプの映画」
カエル「……ねえ、褒めているんだよね? 色々なところを敵に回すような発言だけれど……」
主「褒めてますよ!
だから、映画としては大味、演技も大仰もいいところ。
行間を汲み取ることに慣れていない、何もかも説明してあげなければわからない人たち向けの、予算も大作というほどはない映画ですよ。
あ、ちなみにいうと、そういう人たちが悪いとも、そういう映画が悪いとも全く思いません。誰だって最初から目が肥えているわけではなくて、若者や初心者を引き込むのに、そういう映画は大事だと自分は思っているから。誰かが作らないといけないし、それらの映画が次の世代への入り口を作るものだ。
だけれど、そんな映画でも”何を語るのか?”ということがすごく大事だと感じさせてくれる。
ナリは確かにボロボロかもしれない。多くのツッコミも妥当、映画史に残らない。
だけれど、そんな色々な制約の中で”何ができるのか? 何を伝えるのか?”を考え抜けば、映画はできるという例でもある。
その心意気や詰め込まれたものを感じた時、大きな意義のある鑑賞体験となる……そんな映画だよ」
役者について
ちなみに、役者についてはどうだったの?
特に褒める人も貶す人もいないかなぁ
カエル「上記の話だと『10年後に残るタイプの映画ではない』という話だけれど、それは役者陣もそうかもねぇ……あくまでもキャラクター演技ではあるし、人間の奥深さを表す作品とは違うし……」
主「みんな、求められているものを出したんじゃないですかね?
だけれど、坂口健太郎も、永野芽郁もこれがベストアクトにはならないと思う。
内田理央はエロかったけれどね!」
カエル「……そんな目でしか見れないの?」
主「高嶋政伸は口から唾を飛ばしながら演技する姿などは、さすがベテラン! と思う。だけれど、代表作にはなり得ないよね。
その意味では役者陣で語ることはないんだよ……
でも、これは悪口のようだけれど、必ずしもそうではない。
この映画において、代表作になるようなベストアクトをしたら、それはそれでバランスが壊れる。仮面の男が出てくるからって『ジョーカー』のホアキン・フェニックスの演技をされたら、それこそ大問題だし。
その意味では、しっかりとコントロールできているんだよ。
ドラマ的な部分も多々あり、悪い部分もあるけれど……でも、それぞれ求められた演技を披露している。それはそれで役者にとって、とても大事なことなんじゃないかな?」
以下ネタバレあり
作品考察
ミステリーとして
それでは、この先は致命的なネタバレは避けつつ、作品内容に踏み込んでいきます
ミステリーとしては期待外れ、という意見もわかるかなぁ
カエル「序盤のうちに色々な可能性を出しておいて、その中のどれかのパターンかなぁ? と思ったら、案の定その通りだった、って感じかなぁ」
主「逆に『あ、それでいくんだ』って思ったくらい。
ピエロの正体についてはちょっと拍子抜け感もあったけれど……まあ、あれはあれでありだと思うよ。
ギリギリでフェアって感じもするけれど」
カエル「……この肩透かし感って、2000年代に細田守がOPを務めた、アニメ化も果たした某ミステリー漫画が好きだったから、というのもあるかもね。
そのパターンかな? って最初に考えちゃったというか……」
主「それはあると思う。
あとは……単純に、誰もが指摘するようにツッコミどころは多い。
犯人が単独だから、いつかは疲れ果てて眠ってしまうかもしれないし……なんなら、うまく脱出する隙はあっただろう。患者が人質に取られている、などと考えれば理解できなくもないけれどさ……」
カエル「その意味では不満が多く噴出するのは、納得なんだね」
主「納得納得。
さっきも語ったけれど、ダメ邦画の条件がたくさん重なっているしね。
既存の映画の文法から考えると、映像も物語もダメダメ……とまでは言わないけれど、でも褒めはしないかもしれない。
ただ……これも他の映画のネタバレになるからあれだけれど、あのスタートを見てあるミステリー映画を連想した人も多いと思うんだよ。
そういったある種のお約束というか、オマージュを尽く裏切ってきたこと、それは評価するべきなのかもしれない」
本作が描いた”覚悟”
……さっきから批判しかしてないような気がするけれど、本当に褒めているの?
この映画と脚本を”現役の医師”が描いたというところが大事だよ
カエル「今作の原作と脚本を務めた知念実希人は現役の医師だと、何度も予告などでも使われていたのが印象的だったね。そう考えると、病院の設定などはやっぱり忠実なのかな?」
主「……ここからはいつも通り憶測が多く混じるけれど、この映画を見ていて自分はどきりとしたんだよ。
あの病院の姿……あれって、どこかで見覚えがない?」
カエル「あんまり直接は語れないけれど、中盤からの展開自体は医療ドラマではよくあるものな気もするけれど……」
主「……はっきりいうけれどさ、自分は相模原の事件を連想したんだよね。
もちろん命は等価であるし、生きる価値のない命などない。だけれど……本当に心の底から、そう言える人ばかりなのかな? って。
すごく意地悪な話だけれどさ……ヤフコメとかで『死刑囚は人類のために臓器移植や人体実験をして逝けばいい』なんてコメントがある時もあるんだよ。所詮ヤフコメではあるけれど、それがたくさんのいいねを集めている。
そんで……相模原の事件が起きた直後、被告の意見に対して一定の理解を示すコメントを見受けられた。
それを考えるとさ……ああいうことって、ありそうだなって思ったんだよ」
本当の意味で命の価値は等価なのか? という問題……
個人の感覚からすれば、自分の命と5歳の子供の命だったら、やっぱり子供の方が重い気がする
カエル「だからと言って、本人の承諾もなく命や体に関することをしては絶対にいけないという倫理的な問題があるよ!」
主「それはもちろん、その通りだよ。命の価値が等価じゃないなんて考え方は絶対に間違っている。
だけれど、例えば人に迷惑しかかけないような、刑務所にも行ったことがあるおじさん・おばさんの命と……10代の真面目に生きてきた少年少女の命が、本当に等価だと言い切れる?
戦場とかあるいは事故現場を描いた物語で、若者を守るために危険なところに向かうのはベテランという描写がある。それって本当に、等価の価値だと言えるのか?
実は……どこかで、無意識的にも、意識的にも、価値の優劣をつけているのではないか?」
カエル「それは……でも、あくまでもそれは問いであって、現実の話ではないわけで」
主「そういうことって、現役の医者だと余計に考えるんじゃないかなぁ……
自分がこの映画から感じた覚悟の1つがそこでさ。
”命って本当に同じ価値なのか?”という問題。
あの病院、実際にあったら……患者や家族には喜ばれるし、当の本人は意識もないし、家族もいないわけだし……実利だけならば、アリだと考えることも可能なのではないだろうか?」
木村ひさしの作家性
……そういうところが、木村ひさし作品の魅力に伝わってくるんだね
自分には、正義の味方、ヒーロー映画が描けていない命題に向き合っている監督だと思う
カエル「『任侠学園』は任侠道を進む昔ながらも極道(モドキ)が学校経営に取り組むコメディであり『屍人荘の殺人』は……ネタバレ厳禁映画のため詳しくは記事を読んで欲しいけれど、正義や愛の暴走を描いた映画、という評価だったよね」
主「この映画もそうだけれど、近年の木村ひさしの映画は”正しいとは何か?”ということを追求している。
任侠道の……正式にはヤクザでなくても、実質的にはヤクザな男たちが子供たちを導くという、アベコベをコメディとしっかりとヤクザらしさを描いた『任侠学園』
法が捌けぬ悪を、個人の愛と正義の元に捌き、その業に飲まれていく人を描いた『屍人荘の殺人』
そして本作も同じであり……正義の暴走と、さらなる理想を語っている」
じゃあ、あのラストっていかにも邦画的なものではあるけれど……
あのラストを描く覚悟は相当決まっていると思うよ
主「あの最後に出てきた演説は、邦画の悪癖のような部分もある。
綺麗事でもある。
だけれど……あれがなければ、この映画の”正義”を示すことはできなかった。
医師の仕事は誰であろうと、命を守ることだ。
それが例え悪の手段で手に入れた余命であり、手を汚した人であっても同じなわけだ。
あの言葉は……現役の医師としての重みがある。
じゃあ、あの後はどうなったのかは……そこは各個人の解釈に任せるけれどさ。でも、その終わり方も含めてすごく好き」
カエル「じゃあ、この映画や木村ひさし映画が好きな理由って、映像表現や物語の作り込み、役者の描き方が優れていることではなくて……このメッセージ性ってこと?」
主「そうなるかな。
ダメ邦画のフォーマットを使っているし、ドラマっぽい。映画ファンからは嫌われるかもしれない作品たちだろう。
それでも……この映画が示したメッセージは、馬鹿にできない。
むしろ、すごくいい。
その一点突破型の作品なのかもしれない。
きちんと読み取ることができる……少なくとも、自分には繋がってくる作品たちばかりなんだよ。
このダメ邦画のフォーマットだからこそ、生きる描き方な印象もある作品だね」