今回はミステリー映画の『屍人荘(しじんそう)の殺人』の感想記事になりますが……色々とやりづらい作品だね
どうしてもネタバレの加減が難しいからなぁ
カエルくん(以下カエル)
「もちろんミステリー作品ですので、犯人・トリック・動機などに関する部分については最後まで黙秘しますが……その前段階があるからねぇ」
主
「ちょっとした描写の説明がヒントになってしまうこともあるし……かといって突っ込まないとこの作品の良さを説明できないしなぁ」
カエル「ということで、今回は以下の3パターンに分けて語っていきます!」
- ネタバレなし(ざっくりとした感想と役者について)
- ネタバレに繋がりかねない説明あり(ミステリーとしての本作の類型など)
- ネタバレあり(犯人・トリック・動機などは伏せて、それ以外はガッツリネタバレ)
主「こういう形態でないと説明できない映画であることは了承していただきたいです……」
カエル「ちなみに原作は未読ですが、鑑賞直後にすぐに買いに行きました。
ただ、この記事を書いているときはパラパラと読んだくらいですので、そういう認識の人間の感想だということをご理解ください。
では、早速ですが感想記事のスタートです!」
ネタバレなし(予告編程度の言及)
感想
では、いつものようにTwitterの短評からスタートです!
#屍人荘の殺人
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2019年12月14日
素晴らしい! 愛してる!
ミステリーというジャンルそのものを変革させそうなほどのインパクト、キャラミスとしての完成度、アイドル映画として文句なし!
これほどのミステリーが生まれていたことを知らなかったのも悔しい!
2019年1番の衝撃と敗北感を味わった大傑作! pic.twitter.com/h7uZR5ayfJ
大好きで、悔しくて、愛している見事な大傑作ミステリー映画です!
カエル「おそらく、世間評価ははっきりと割れると思います。
それはそれで納得で、中には『許せない!』という感想も出てくるんじゃないかな?
多分、うちは世間評価と比較したら、褒めすぎと思われるくらい高い部類になるかもしれません」
主「どうだろう、0か100とまでは言わないけれど……癖はある。
あと、多くの人が批判しそうなポイントも想像できるし、そこに関しては後半で説明しますが、自分は2019年でもトップレベルの大傑作だと思います!」
カエル「それは物語が優れていたから?
それとも映画として?」
主「両方かなぁ……今作って、最近ちょこちょこ耳にするけれど、いわゆる『キャラミス』と言われるものなんですよ。つまり、キャラクターの魅力の上に成り立つミステリー。
”映画としては難点がある”と考える人は、正しいと思います。
多分それは捉え方が自分と違うだけで、その意見もよく分かる。ぱっと見、若者向けのテレビドラマのような邦画ミステリーのようだしね。
ただ多くのミステリー作品は……それこそホームズとか、あるいは名探偵コナン、相棒とかもキャラクターの魅力で人気を博している部分もあるから、王道のミステリーと言える。
そのキャラクターがとてつもなくいい!
ただし予告でも何となく感じるけれどラノベやアニメ系のミステリーだから、ガッツリと本格派の刑事ドラマなどを期待すると肩透かしをくらいます」
あの予告編でしぶ〜い探偵ミステリーを期待する人はいないと思うけれどね
そして物語が素晴らしいと感じたね!
カエル「ここに関しては、やっぱり原作の力が大きいんだろうね」
主「前述のように、自分はまだ映画を見ただけで原作は買っていないけれど、すぐに買いに走ったほど。お話の構成とか……まあ、色々なものがうまく絡み合って魅力を発揮している。
それと、多分映画だからこその味もあるんじゃないかなぁ……?
本作を小説で読むのと、映画で観るのでは印象が全然違う気がする。
そこも自分が絶賛する理由の1つなんだけれど、ガッツリとネタバレが絡んでくるので、後半でお話しします」
”悔しい!”という思いが湧き立つ作品
えっと……超絶褒めているんですが、あまり褒め言葉としては一般的でない”悔しい”ってどういう意味なの?
最大級の褒め言葉だと考えてください
主「恥ずかしながら、自分も小説を書いていた頃がある……というか、今は書いてないけれどやめたわけではないんだけれどさ、その時の自分の思いがすごく暴れているのよ。
極端な話をするけれど、どんな物語を見ていても、そのほとんどは予想の範囲内なのね。
それだけ現代は雛形というか、類型ができていて分類できてしまう。また物語も流行があるから、大体いくつかの物差しを持っていると、何となくどんなタイプかは図れてしまう部分はあるんだ」
カエル「もうこれだけ物語に溢れていると、全く新しい物語を生み出すのは難しい状況だよね。それこそ、ネットやVRなどの新技術をテーマにしないとできない物語を作るとかになるのかなぁ」
主「もちろん、素晴らしい大傑作もたくさんあるけれど……それは”丁寧な仕事ぶり””挑戦する精神””語り口のうまさ”などで感動するわけ。
全く斜め上の予想外の作品てあんまり多くない。
あるにはあるけれど、その方向には興味がなかったりということでそんなに衝撃はなかったりする。
そうだなぁ……自分は鉄道に一切興味がないからさ、”時刻表ミステリーで最高傑作ができた!”と言われても、全くピンとこない。他にも……社会派監督と娯楽派監督だと考えることも全く違うから”ヘェ〜、なるほど”とか、上手い! で終わってしまうことになったりする」
でも、今回は”悔しい!”なんだね
この話は自分が思いつきたかった!
主「もちろん、自分の方がうまくできる! とは言わないよ。
だけれど、自分にも思いつけるはずなんだよ。
答えを見てから問題を見るようなものだけれど、自分の知識や趣味嗜好を考えれば、この形式は絶対に思いつけた。
でも、この発想は完全になかった。
だからこそ悔しい!
完敗!
しかも、いきなりこれほどの完成度の作品を生み出してしまうなんて……脱帽です」
スタッフ・キャストについて
それではスタッフとキャストについてお話ししましょう
今作はこのメンバーの味が出たんじゃないかな?
カエル「まずは木村ひさし監督はミステリー作品やテレビドラマ出身の方です。『TRICK』シリーズなどで有名な堤幸彦監督の元で助監督などを務めた経験もあり、TRICKではドラマ版も手掛けています。近年では『ATARU』など多くのテレビドラマやミステリー作品を監督しています。
2019年公開した『任侠学園』も気軽に楽しめるコメディ映画として、オススメです!
脚本の蒔田光治もミステリーを得意としており、TRICKにも参加したことがある方なので、今作にはうってつけの方ないでしょうか?。」
主「一部では『TRICK』っぽいという意見もあるんですけれど、それは当然とも言えるだろうね。おそらく、そのような話題になるのは狙い通りなんじゃないかな?」
今作の主演の神木隆之介とかも良かったよねぇ
役者陣は全体的に満足度が高いです!
カエル「今作はキャラミス要素があるから、人間を描くというよりもキャラクターを演じることが大事だけれど、その塩梅がうまかった印象かな」
主「今作の探偵役である剣崎と明智は、やはりキャラクターがめちゃくちゃ強い。だからこそキャラクター演技になっているけれど、それでも魅力が抜群だった。
一方で、神木隆之介はそこまでアクが強いタイプではないけれど、容疑者や被害者のように一面的でもない、絶妙な”ワトソン”としての立ち位置を維持している。
今作の探偵役を引き立たせ、観客に感情移入をさせる立場として、見事な演技だった。
あと、今作は神木隆之介じゃないと意味がない理由もあったと思うんだけれど……それは後述です」
カエル「次に、浜辺美波はどうだった? 正直、うちでは世間評価ほど好きな女優さんってわけではないんだけれど……」
主「浜辺美波は今作がベストアクトかな。
最近面白いのは、正統派美少女女優……例えば橋本環奈とかも変顔などでそのイメージを崩そうとしている。浜辺美波も出世作の1つが『君の膵臓を食べたい』だから、そういうイメージが強いんだけれど……
『センセイ君主』くらいからかな? そのコメディエンヌもいけるようになろうとしている感がある。
その意味では、今作では純白の美少女的なイメージが強すぎる部分もあったけれど、全体的にはベストです。
今作は浜辺美波のアイドル映画としての側面もあるしね」
そしてもう1人の探偵である明智役の中村倫也ですが……
彼が今作のMVPだと思います!
カエル「絶対に強いインパクトを残す役だよね。超重要な役回りだったし!」
主「今作の演技は美味しい部分もあるんだけれど、一方で難しさがあるわけだ。キャラクター演技を求められるしね。
でも、その難しさを難なくこなし、そして剣崎にも負けないインパクトを残すことができたので……いやー、彼の演技がなければ今作はまた違った評価になったでしょう」
カエル「他のキャストさんも基本的に良かったよね」
主「先ほどから語るように”人間を描く”という意図はないし、キャラクタームービーだから、その意味では物足りなく思うかもしれないけれど、それぞれの魅力をしっかりと演じることができていた。
あんまり言っちゃうと、容疑者への言及になってミステリー的にはヒントになるかもしれないけれど……今作の中でもある人は、やっぱりこの手の演技がうまくて、今後も追いかけて行きたいな、と思いました」
以下 微ネタバレあり
ミステリーとしての分類
じゃあ、ちょっとだけネタバレになる可能性がある話をしましょうか
ミステリーファンでは鉄板のノックスの10戒ってあるじゃない
カエル「ロナルド・ノックスが提唱したミステリー小説を書く際のルールだよね。特別守らなくてはいけないというものではなくて、近年ではそれを破った作品もあるんだけれど、でも今でもミステリーを語る際は大きな影響力を持つ10個のルールです」
主「端的に言えば”フェアなミステリーを作りましょう”ということもできるんだけれど、詳しくはWikipediaでも読んでください。
結構、納得のいく普通のことを書いているんだけれど、中には”東洋人を出してはいけない”というものもある。
これは差別的な意識などでははなく、当時は”東洋人は魔法のような奇術を使うため”とされていたからだ」
カエル「言ってしまえば”ちゃんとミステリーとして論理的な帰結ができるようにしろよ”ってことだよね。魔法や東洋の神秘で解決しました! はやめてくれ、というかさ」
主「で、そのルールに則っていたけれど、ぶっちゃけもうミステリーのトリックなんて飽和状態のわけ。
今作は館ものと呼ばれるミステリーのジャンルで、クローズドサークルものとも呼ばれるんだけれど、探偵と容疑者達が洋館に閉じ込められて……というよくあるやつ。
でも、その閉じ込められるきっかけはもう出尽くしている」
その点、今作は画期的な部分があったね
ただし、そこが評価割れるのも分かる!
カエル「人によってはノックスの十戒に反している! と思ってしまうかも……」
主「でも自分はそこが面白かったし、批評性があったんですよ。
そしてミステリーの常識に風穴を開けた。とは言っても、全くの画期的ではないんだろうけれど……今作はそのネタが最大限発揮された。
映画のルックとしては、そこまで大したものではにと思うかもしれないけれど……いやいや、これだけ考え抜かれた作品はそうそうないですよ!」
自分のミステリーの見方だからこその発見?
あれ、でもさ……その批評性って誰にでも気付けるものなの?
どうだろう? 世間の反応を見るとそうでもないかもしれない
カエル「まあ、いつも通りうちの妄想の可能性は大いにあるけれどさ、そこまで熱狂させるものがあったんだ。
そう言えば、この話の犯人が誰かわかった?」
主「わかったけれど、ほぼ終盤だからわからなかったのと同じかな。
……自分のミステリーの読み方って邪道なんですよ。
これは映画に限らず物語の全部に言えるけれど、基本的に”裏目よみ”なのね。
作者や監督が何を思いそのシーンを入れたか、この描写やアイテムの意味は何か? ということを考えながら、メタファーや演出意図、メッセージなどを模索しながら見ていく」
カエル「……真正面から推理はしないんだ」
主「しないことはないkれど……やっていることは『新聞のテレビ欄の3番目のキャストが犯人』に近いものがある。
だから、今作も”その描写がなぜ入るのか?”ということを考えて行って、それがミステリーの答え合わせパートで、自分の疑問や今作のテーマと思った箇所にバシバシとハマっていくんですよ。
その快感はやばかったね!
自分からすると、今作ほど考えられていて映画としての意義があるミステリーも少ないよな、って印象。単なる謎解きに終始しない物語だからこそ、これだけ絶賛しています!」
以下、大きなネタバレあり!
犯人・トリック以外については基本的にネタバレしていきます!
作品考察
今作の参考作品
ここからはかなり突っ込んでお話ししていきますので、あとは自己責任でお願いします
とは言っても、奥歯にものが挟まったような言い方が増えるけれどさ……
カエル「まずは今作を見ながら連想した参考作品は以下の3点です」
『桐島、部活やめるってよ』『ひぐらしのなく頃に』『夜長姫と耳男』の3作品です
カエル「……あれ、ひぐらしはミステリーだけれど、他はミステリーですらない……」
主「まあ、言ってしまえばこの作品は”ゾンビもの”なわけじゃないですか。
となると邦画で近年ゾンビを扱いヒットしたのは……いや『カメラを止めるな!』とかもあったけれど、今作の場合は『桐島』の文脈を使うと解釈が容易になると思う。
また、ひぐらしはわかるよね……あの状況下などミステリーとホラーの組み合わせをしている作品では、大ヒットしているし。
夜長姫は最後に説明するけれど、後半はちょっとゾンビものっぽい部分もあるかな」
どれもうちが大好きな作品じゃない?
そうなんだよ! だから一層悔しいんだよ!
主「この映画はどちらかというとラノベやアニメ的なもので、自分は鑑賞中に『これ、アニメだったら相当合うだろうな』って思いながら見ていたんだよ。
というか、予告編の時からボブカット? の浜辺美波が悠木碧にしか見えてなかったし」
カエル「……本当に碧大好きなファンなんだね。もう病気の意気だよ……」
主「物語において全く新しいものが生まれることってほとんどなくて、基本的にはA+Bという考え方で新しいものができていく。例えば……今作ならばミステリー+ゾンビ、とかね。
で、それ自体は別に新しくないんだけれど、これだけ高いレベルにまとめたのが驚異的。
だって、このジャンルというか、この映画でないと絶対にできないモノが詰まっているからさ。
この可能性を発見できなかった自分の不明を恥じると共に、作者である今村昌弘には嫉妬がメラメラ燃え上がりますよ!」
衝撃が多かったあの展開……
(C)2019「屍人荘の殺人」製作委員会
あの展開はアリなのか?
でもさ、ゾンビが出てくるっていうのはアリなの?
自分は納得いく
カエル「え、でもさ。あんなウイルス巻き散らかすのは『超常現象を出さない』というノックスの十戒に反しているし……」
主「ノックスからは外れるかもね。でもさ、ハリガネムシっているじゃない?
カマキリの中に寄生して、脳を操る。そして時期が来たら水辺に連れて行き、カマキリは溺れ死に、ハリガネムシは自然に帰り繁殖する。
つまり、人間の脳を寄生する生物やウイルスの存在というのは、決してファンタジーというわけではないわけです。
それこそインフルエンザウイルスによる脳炎なども、考え方によればウイルスによる脳の疾患と言えるだろう」
う〜ん……まあ、そういう解釈もできるってことなんだろうけれど……
でさ、今作って騙し討ちのバランスがとてもいいわけですよ
カエル「元々原作が有名だから知っているよ! という人も多いのだろうけれど、この映画で初めて知った! という人も多いよね。
中には”ゾンビがチープ”とか、逆に”ゾンビが出てくるなんて聞いてない!”っていう意見もあるけれど……」
主「その点は『がっこうぐらし!』のヒットと被るよね。で、映画は騙し討ちに来ているんだけれど、でも苦手な人が見ても大丈夫なようにチープ感もあり、またR指定などがつかないように配慮されている。
ゾンビも笑いと恐怖の両立ができるし、大まかな設定はよくある話だから特に説明もいらない。
多くの人に向けられた、ちょうどいい塩梅のゾンビ描写だったと思うけれどね」
この手の映画の精神
ここでいうのは”ゾンビ映画”の精神なんだよね?
ここで神木隆之介が主演である意義が出てくる
カエル「つまり『桐島、部活辞めるてよ』を引用するということだね」
主「桐島という作品はスクールカーストを扱った作品で、神木くんはゾンビ映画を愛する映画少年の役なんだよ。
ちなみにいうと、自分はこの映画の影響って他にもあると思っていて、浜辺美波演じる剣崎の髪型って、あの頃の橋本愛に似ていると思わない?」
カエル「その辺りは色々な理由があるだろうし、よくある髪型だからなんとも言えないけれどね」
主「ゾンビ映画において重要なのは”ゾンビは何を意味しているか?”ということだ。
それこそゾンビ映画の巨匠、ロメロはゾンビに社会問題を内包させた。そして本作は……スクールカーストのようなものを入れているのではないか? というのが自分の見立て。
言うなれば……この映画のゾンビって”恋愛という病に狂った人たち”と言える」
ああ、だから最初に名前がある登場人物でゾンビになるのがあの人なのかな……
もちろん、例外が何人かいるよ
主「そのうち、3人……名前を直接言えないけれど、序盤で退場する重要人物と、終盤で退場する重要人物はドラマを作るために必要な例外。そして中盤ちょっと前で退場する人は、トリックを説明するために必要な伏線。
でもそれ以外は……言うなれば”パリピの陽キャ”の象徴がゾンビだったのではないか?
だから、今回は原作と違いロックフェスティバルというパリピがよく行きそうな場所を設定しているのではないだろうか? という見立て」
カエル「……かなり偏見があるね」
主「そう考えると、中盤のエレベーターの中で剣崎とイチャコラするシーンで噛まれかけるというものがあるけれど”そのような行為をしようとすると、ゾンビになる”というルールがあるのではないだろうか?
そう考えると、主な事件の3人は愛や欲によってああいう結果を招いてしまったと言える。
そして……ここが物語に重要な意味をもたらす」
なぜゾンビに立ち向かうのか?
(C)2019「屍人荘の殺人」製作委員会
戦う者と守る者
重要な意味って……先述した”作者の意図”に関係するの?
今作では”ゾンビと戦う者”と”ゾンビから逃げる者”に大別される
カエル「……はあ? 確かに、基本的にはゾンビから逃げ回る話でもあるのかな」
主「ここで戦うことができる人、というのは限られている。
実際にゾンビがきたら……って言ったら変な仮定だけれど、人を傷つけることができる人ってそんなにいないと思うんだよね。特に愛する人なら尚更さ。だけれど、己の欲や思いのためならば躊躇なくそれができる人もいる。
それはナチュラルに誰かを傷つけることにも繋がるわけだ」
カエル「それができるのが、あの人達なんだ……」
武器に囲まれた部屋も意図的なものを感じる
(C)2019「屍人荘の殺人」製作委員会
その点、象徴的なのは葉村の盾です。
主「彼は短剣もあるけれど、盾しがメインとなっている。そして剣崎は大きな青龍刀を自分のメイン武器として披露している。
つまり、葉村は何があっても、相手がゾンビであっても人を傷つけることができない存在である。
作中で語られる”優しい”に該当するけれど、だからこそ主人公でいられるわけであり、2人の探偵が欲しがる。
一方で剣崎はずっと大きな青龍刀を武器としており、その存在を誇示している。それがラストに繋がってくる」
この先はラストについて言及しています!
本作のメインテーマは……
青龍刀……そう言えば、剣崎は最後にああいうことができるんだもんね
自分はそこが痺れたんですよ……それこそ『夜長姫と耳男』ですよ
カエル「……どういうこと?」
主「今作のテーマって”愛”なんです。
だけれどキラキラした愛ではなく、欲とか、ある種の身勝手さが込みの愛。
それは被害者2人が殺された理由、あるいは犯人がなぜそうしたのか、その部分も関係してくる。
1つの事件は偶然じみたところはあるけれど、やっぱり愛が原因で生き残る判断ができなかった。やっぱり、あの場に連れてきてしまった時点で運命は決まっていたのかもしれない。
つまり、本作の描いた愛というのは夜長姫の名言を引用すると
『好きなものは呪うか殺すか争うかしなければならないものよ』
ということです」
え、じゃあ、あのラストは……
完璧だよね……痺れちゃった。恍惚で動けないくらい見事なセンスだよ
主「剣崎ってヤンデレなんですよ。
そこまでは恋心を抱いていなかったけれど、あの事件を経て明確な恋を抱いた。
そしてだからこそ、あの人に対して強い嫉妬を抱いた。
ここは原作とは大きな改変が行われていて、原作では追ってくるゾンビの中であの人がいて、剣崎が突き刺したことになっている。だけれど、本作では……確かに不自然な部分はあるんだけれど、直接1対1で対峙することにより”3人の物語”であることを強調しているわけだ。
そこでも剣を握れない者と、剣を握り高々に宣言する者。
その差、揺るぎない愛の業の見せ方に、自分は震え上がったね……」
矛を構える剣崎の思いとは……
(C)2019「屍人荘の殺人」製作委員会
キャラクタームービーとしての本作
ではでは最後になるけれど、この後の続編は作られるのかな?
わからないけれど、作らないとダメだとすら思うよ
カエル「それだけハマったんだ……
キャラクター性もいいし、トリックや今後のやりたい方向性さえ決まれば量産できるのかな?」
主「中にはあの人の出番が少ないことを不満に思う人もいるかもしれないけれど、とんでもない!
むしろ、あの人が演じたこともそうだし、あれだけ魅力的なキャラクターをあのように使えることにびっくりした。
この思いっきりの良さが、今作を衝撃の傑作にすることに成功している」
カエル「キャラミスで1番大事なキャラクター性の濃い部分を、ここで使い捨てているわけだもんね……」
主「正直にいうと、浜辺美波はちょっと合っていない印象もあって……あのラストを演じるには、彼女は純真に見える。もっと愛の狂気を感じさせる人であったほうがいいんだけれど、今の若手女優では難しいかなぁ。
それこそ、かつての橋本愛とかがベストかもしれない」
カエル「単なる橋本愛ファンの戯言じゃない……」
主「でも、純真無垢な女の子ってイメージが崩れ落ちる瞬間は本当に良かった。
震えたよ、本当に。
もっと深く情念を抱いて欲しいという思いもあるけれど……これでも十二分に満足させていただきました」
最後に
というわけで、この記事も終わりになりますが、最後にちょっとまとめをしましょう
この映画の魅力を簡単にあげると、以下のようになります
- ゾンビ映画ならではの語り口
- ミステリーとしての語り口
- キャラミスとしての語り口
- 人間の業を描く物語の語り口
これらの要素がしっかりと組み合わさっているからこそのカタルシスがあり、最高のエンタメミステリーだったと思います
カエル「ここまで熱く語れるんだから、本当に好きなんだね」
主「全体としても自分の好みの語り口だったし、あのラストは完璧だと思う。惚れ惚れしたよ、ヤンデレ大好きだから。
いやー……いい作品だった。
まあ、弱い部分があるのも事実だけれど、僕は大満足です!」
カエル「……ほぼフェティッシュの世界の話になっているんじゃないかなぁ」