カエルくん(以下カエル)
「9月度の個人的1番の注目作! ユーフォの映画が公開したよ!」
ブログ主(以下主)
「今回は2期の総集編となるわけだな。
できれば記憶を抹消してから見たかった……」
カエル「でもさ、結局は総集編映画なんでしょ? だったらテレビでもいい訳だけれれど、何がそこまで楽しみだったの?」
主「甘い! それは綿菓子にハチミツをかけて2日間置くくらい甘い発想だよ!」
カエル「……それ、ただハチミツに砂糖を足しただけじゃ……?」
主「これはアニメファンには常識的なことだけれど、京アニ作品は今のアニメ界でもトップクラスのクオリティをテレビシリーズでも披露している。しかも爆発などの派手な作画が素晴らしいわけではなくて、日常的な、時には見逃してしまうような描写が素晴らしいんだけれど……劇場で公開するに足るクオリティをテレビシリーズでも発揮して得るわけだ。
しかも前作『劇場版 響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ』を見てもらえばわかるけれど、単なる総集編映画とはわけが違う」
カエル「本当はそのあたりも記事にしようと思っていたんだけれどね」
主「簡単に言ってしまえば声優陣の演技プランの変更などもあって細かな味わいが違うし、カットされたシーンに注目すると総集編を作る上で何を重視し、何を除いたのか? ということについて考えると見えてくるものがある。
例えば前作では葵や葉月、秀一の物語は省略されている。それによって『久美子と麗奈の物語』としてより純化されている。
確かに総集編らしく走っているシーンもあるけれど……アニメ映画激戦区の2016年でも他に引けを取らない名作になっている」
カエル「では、2になってそれがどのような変化を遂げているのか? というのも楽しみなところだね。
では感想記事のスタートです!
あ、あとテレビシリーズも放映していたので基本的にネタバレありになります」
1 大きくいじってきた構成
カエル「では、まずはTwitterでの短評はこちらです」
#anime_eupho
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2017年9月30日
劇場版ユーフォ
この構成は見事! 総集編だけど構成を大きく弄ることで久美子とあすかの物語として純化している!
あと圧倒的な音ですよ!
音楽作品としての楽曲の素晴らしさはもちろん、絵も相変わらず素晴らしい上にでも加えられている
圧巻の一言!
主「これだけ大きく構成をいじってきたのは正直驚いた。
このあとに山田尚子監督でみぞれと希美の物語を公開するのは公表されていたけれど、まさかここまで大胆に構成してくるとは全く思わなかった」
カエル「実際、映画としてこの構成についてはどう思う?」
主「う〜ん……実は評価が難しいところもある。もちろん、本作は続編であるからさ、ここから見ます! というのは順番として間違えているというのそのとおり。
前作の場合は入学から府大会突破までを一貫して描いているから、起承転結のしっかりとした1作の物語に仕上がっていた。合間合間でに4曲も差し込むことによって、終始だれないように強く意識していたところもある。
だけれど本作ではより純化したことによって、入り口が唐突な印象を受けてしまうかもしれない。ぶっちゃけて言えば、2期の前半ほぼカットだからね」
カエル「前作の映画を見ただけの人が鑑賞したら『え? この人だれ?』ってなりかねないし……」
主「まあ、それは前作も同じだったかもしれないけれど……入り口と出口をきっちりと意識をして1作の映画として、物語としてという評価であれば、本作は前作ほどの完成度はないと言わざるをえない。ファン向けになってしまったかもしれない。
でもさ、この構成にすること自体はむしろ英断だと言えるからこそ評価に困るんだよ。
総集編映画にあるように走った展開、ナレーションでの説明は一切なかった。1作の映画として成立するように構成されていた。
本作は総集編映画における1つの答えを突きつけた作品といってもいいのではないかな?」
本作のもう一人の主人公であるあすかの物語
(C)武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会
久美子とあすかの物語
カエル「前作の劇場版は『久美子と麗奈の物語』として純化しているという話だったじゃない? で、今作は『久美子とあすかの物語』になっているんだよね?」
主「あとはお姉ちゃんと久美子の物語でもある。この2つの視点って絶対大事でカットすることができない。
テレビシリーズからカットされた描写を考えればそれは顕著で……今作は麗奈や葉月はほとんど出てこない!
一応メインキャラクターなのに!
それからあすか達3年生の物語の側面もほぼカット」
カエル「まあ、前作からして部長関連はカットされていたから仕方ないところもあるけれど……」
主「テレビシリーズも部長とあすかの関係性の変化があって、1期ではあすかに頼りっぱなしだった3年組が成長し、2期は部長としてみんな引っ張っていく姿もあったわけだ。でも本作ではそれがカットされているから、多分劇場版しか見ませんよ、という人は宝島のシーンでの部長のソロがなぜフューチャーされるのかわからないかもしれない。
むしろ低音パートとの絆の方が深いのではないか? という印象が強く残る結果となった。
そこまでして削って何を表現したかったのか? というのは……もちろん久美子とあすかの関係性であり、そしてその関係性の先にあるものである」
久美子が見つめる視線の先にある『憧れ』
(C)武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会
圧倒的な楽曲
カエル「今作はまず楽曲が素晴らしくて!
テレビシリーズでも圧倒的なクオリティと京アニらしい『演奏と音が一致する作り』が話題になっていたけれど、劇場版になってそれがさらに増したというか!」
主「もう最初から度肝を抜かれてしまったなぁ……
2期の5話において1つの伝説を作り上げたユーフォだけれど、今作も伝説を作り上げてしまった。
まさかプロヴァンスの風もフルで演奏するなんて!
まあ、演奏シーンではなくて引きの映像なども多かったけれど、約3分半の演奏シーンを過去のカットも用いながらとはいえ、すべて描いてしまうというのは素晴らしい」
カエル「アニメ映画の強みとしてOPがある作品が多いというのは、このブログの持論なんだけれど……つまりOPを入れることによって、絵と音を融合させて観客を物語の世界に一気に引き込んでしまうという手法だね。
そして本作はそれが見事に発揮されていて……」
主「音楽映画であり、基本は現代風にアレンジされているとはいえクラシック音楽で魅せなければいけないわけだ。そこを歌なしの楽曲で音と絵だけで引き込みんでしまった。
それから宝島もそうだよね。テレビシリーズでは途中で終わったけれど、本作では最後まできっちりと演奏して見せた」
カエル「トライアングルが強く印象に残ったよねぇ……あ、これ新規カットだ! ってなって……」
主「前作の場合はほぼ1/4ずつ、適度な間隔で演奏シーンが挟まれていたんだよね。でも今作は……まあ4回くらいかなぁ、どうカウントするかにもよるけれど……大体前半と後半にまとまってしまった。それこそ中盤は宝島くらいになってしまったから、そこは前作との最大の違いかなぁ。
ただ、その分最初のと最後のカタルシスはかなり素晴らしいものになっているけれどね。余韻も素晴らしいし……」
2 細かな演出について
カエル「でもさ、こうやって一気に見せてもらえると細かい演出についてあれこれと気がついていいよね。テレビシリーズだと見逃してしまうところも多かったなぁって今回気が付いた気がする」
主「前回の記事で熱く語ったのは細かい演出の一環として靴下のリアリティなんだよ。フェチ的に聞こえるかもしれないけれど、モブも含めて京アニは登場人物1人1人の個性を身につける小物で表現している。
山田尚子理論で言うところの『足は口ほどにものをいう』ということだね」
カエル「……で、今回はどんな発見があったの?」
主「ユーフォって白いソックスのメンバーが多いんだよね。特に低音組はほぼ白ソックス。これは彼女たちの純真な心であったり、ひたむきな努力家気質を表しているのかしれない。
一方であすかだけ黒タイツなんだよ。肌を一切露出させない、深い色の黒タイツ。さて、この意味はなんですか? ということなんだけれど……」
カエル「……え? 単なるファッションじゃなくて?」
主「いや、意味はあるよ。ここであすかは肌を一切露出させておらず、すべてを黒タイツで隠している。先ほど語ったように『足は口ほどに物をいう』理論で言うと、これは肌を見せていない=本音を見せてないということだ。
おそらく低音組が白ソックスなのもその対比ということになるのだろう。純真な生徒たちに対して、本心を見せないあすか、というね」
カエル「う〜ん……それだけじゃ弱くない?」
主「それを補完するのが久美子があすかの家に行ったシーンであって、ここであすかは当然のように裸足になっている。そして裸足の時のあすかは本心から過去について話しているんだよ。
そのあと河原で2人きりの時、あすかが演奏するシーンも裸足なの。ここで足のカットがあったのはこのタイツを履いていない足を見せるため。そして河原で本心からの演奏を示すわけだ」
宝島も全部描いてくれた……
自分が1番好きな楽曲なのですごく嬉しかったです
(C)武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会
田中あすかという少女について
カエル「あすか先輩って不思議な人だよね……本当にどうでもいいと思わせておいて、でも誰よりも真面目で真摯であって手助けもしてくれるけれど、自分は助けて欲しいと思っていないという……」
主「ある種のアダルトチルドレンに近いものがあるのかもしれないね。そこまで重いものではないにしろ、母子家庭ということで大人にならざるを得なかった少女というか……あの気持ち、わからないでもないんだけれどね。
あすかについて語るのに重要なのが合宿の描写だ」
カエル「あの朝もやの中のユーフォニアムのシーンだね」
主「あのシーンは高台で1人演奏するあすか先輩を目撃するわけだけれど、おそらくここは1期における名シーン、久美子と麗奈のあがた祭りの演奏と対になっている。
たった2人だけの祭りの夜の中、ユーフォとトランペットのハーモニーが織りなす圧倒的なメロディーだったことと正反対に、朝の明るい中で1人でユーフォを吹いているわけだ。ここであすかは麗奈とはまた違う、孤独な存在として描かれている。
あすか先輩は麗奈の要素も多く抱えているんだよ。父親が有名な演奏家であることであったり、部内でも随一のうまさを誇っていたり、孤高の存在であったり……でも最大の違いは隣に久美子がいるかいないか。
そして久美子は同じユーフォ奏者だからこそ、年齢の違いもあるけれど麗奈と久美子のような関係にはなれないわけだ。
だけれど、その継承はできる……思いをぶつけ合うことはできるんだよね」
3 より純化された物語
カエル「じゃあさ、この映画で何がそこまで純化されたということになるの?」
主「本作には2つの物語の軸がある。それは久美子とあすかの関係、そして姉である麻美子と久美子の関係だ。
この2つは複雑に交差していて、久美子にとって姉はかつての憧れの存在であり、そしてあすかは今の憧れの先輩である。つまり、あすかと久美子は同じ理想の存在でもあるわけだ。
そして麻美子というのはあすかが将来なるかもしれない未来の姿でもあるわけ」
カエル「親の勧めというか、言いなりになって人生を決めてきて、やりたいこともやらずに必死に勉強を続けていたという意味では同じだもんね」
主「ここも演出が素晴らしくて、姉の言葉を聞いて鍋が吹きこぼれそうになるのは、久美子の色々な思いが溢れそうなことを表している。そしてそれが熱い、ということは、今の久美子の気持ちもすごく熱いことを表しているわけだ。
そんな麻美子の姿を見ることによってあすかに対して色々と思うところがあり、最後の爆発につながってく」
カエル「ふむふむ……」
主「ユーフォのテーマの1つが『好きなことをやり続けるということ』なんだろうね。
例えば、映画ではちょっとしか出てこないけれど、久美子の幼馴染の3年生である葵は受験を理由に吹奏楽を退部している。そして本作でも『勉強と部活の両立』が何度も描かれている。
好きだから、好きなものだけを精一杯やっていればいいわけではない。だけれど、だからと言って勉強に集中して好きなものを諦めても後悔するよ、というメッセージがある」
カエル「『ちはやふる』で言うところの『やりたいことを精一杯やるために、やりたくないこともちゃんとやる』ってことだね……」
主「ユーフォが好きなのか?
本当にやりたいのか?
久美子やあすかが、好きという気持ちを追い求める物語でもあるんだよ。だからこそ、最後にあの言葉を持ってきたんだろね」
映画で見るとさらに圧巻な三日月の舞の演奏シーン
ここだけでも映画料金の価値はあります
(C)武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会
親の気持ち
カエル「でもさ、やっぱりこうやってみるとあすかの母親ってひどい人だよね……」
主「……そうなのかなぁ? やっぱりそうやってみる人の方が多いのかなぁ?」
カエル「え? 主は違うの?」
主「なんかさ、何回か観ているとあの母親にも共感しちゃうところはあるんだよね。
あすかの母親からしたら、進藤正和は娘と自分を捨てて逃げた男だよ。責任を放棄して……あんな立派な家に暮らしているから、多分母親の実家なんだろうけれど、でもその生活は楽なものだとは思えない。
そりゃ、母親からしたら父親に会わせたくないって気持ちはわかるよ。しかもさ……ユーフォとはいえ、バンドマンみたいなものだとしたら、ねぇ……」
カエル「まあ、バンドマンとは違うかもしれないけれど、いいお父さんやまともな男とは言いにくいよね」
主「手塩をかけて大事に育ててきた娘がさ、いつの間に父親の送ってきたユーフォニアムを演奏していて、しかも吹奏楽にのめり込んでいる……これって母親からしたら相当面白くない話だよね。
しかも全国大会の審査員だよ? お母さんが調べたかはわからないけれど、それを知ったら全力で阻止したくなる気持ちも理解できる。
なんだか、それを考えるとお母さんの気持ちも否定できない気がしてくる」
カエル「……でもあすか先輩の気持ちもあるわけだし……」
主「自分の実感だけれど、母子家庭って……片親家庭って複雑なんだよ。好きとか嫌いとかで割り切れるものじゃない。いや、家族ってそういうものかもしれないけれど、欠点を抱えた親も背負って生きていかなければいけないって思いが子どもにもどこかである気がする。
小規模公開の短編映画だけれど『わさび』という映画が正しくそれで……ダメな親だからといって簡単に喧嘩もできないし、切り捨てることはできない。そのあたりがあすかと母親の、ある種の歪な関係に繋がっているんだろうな。
自分にはすごくリアルで切実な問題として伝わってきたよ」
サントラの表紙も美しい……
演出について色々と
カエル「では、最後に演出についてもう少し色々と話していこうか」
主「特にいいなぁ、と思ったのは夏紀があすか先輩について話しているシーンで……ユーフォはあすかが出るべきだ、というシーンなんだけれど、そこで『私はいいの』と答えている。
だけれどその表情は窓ガラスで映っているだけで、実際の表情は見えないんだよね。これが『虚像の表情』つまり嘘であるということが透けて見える」
カエル「夏紀だってメンバーに入りたくて必死に練習をしてきたわけだしね……」
主「本作において出番が多かった夏紀だけれど、彼女が名アシストを何度も繰り返していて……例えば、最初にあすかの親子ゲンカシーンを目撃した次の日、あすかが部室に来た時に低音パートがみんな駆け寄る。
そして戻っていく時に足のカットになるけれど、1番最後に部室に戻ろうとするのが夏紀なんだよね。これを顔の演技でやると相当あざとくなってしまう。けれど、足だけでそこを表現することによって、間と想像する余地を与えているわけだ」
カエル「本作でアシストが素晴らしいというと、やっぱり秀一もそうだよね。
劇場版では久美子との描写もちょっと減ってしまって、少しだけ疎遠になってしまった印象があるけれど、彼もいい味を出していて!」
主「今作の……京アニの演出のにくいところはあざとすぎない演出にあるね。派手に描写するわけではなくて、さらりと描く。そこがカッコイイ!」
最後に
カエル「今回もフォトセッションがあったりして、京アニも儲ける気満々だなぁって笑っちゃったよ。でも、確かにファンとなると毎週見たくなってくるもんね。特に来週は2年生組で、優子ということは夏紀なども入ってくるだろうし!」
主「中吉川コンビ、いいよなぁ。
しかも終演後には次回作の予告もあったりして……全然イメージと違ったから最初は『ユーフォじゃなくて完全オリジナルやるの?』って思ってしまったほどだけれど」
カエル「あれが今回描かれなかった希美とみぞれの物語なんだろうね。完全新作ということだけれど……あれ? 今回描かれなかった前半部分はどうすんだろう?」
主「再構成するのか、それともカット……?
しかもユーフォの演奏シーンは全部使ったからな。使い回しをしないとなったら……どうするんだろう?」
カエル「来年の4月まで楽しみがまた増えたね。
しかもそのあとにも新作が公開されるし……これはしばらくユーフォ熱が続きそうだな!」
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