物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『リチャード・ジュエル』ネタバレ感想&評価! イーストウッドの政治的偏向も垣間見える問題作!

 

今回はクリント・イーストウッド監督の最新作『リチャード・ジュエル』の感想記事です! 

 

 

 

これは語りたいことが山盛りだわ……

 

カエルくん(以下カエル)

「現代を生きる伝説ということもありうちのブログではおそらく最も語っている監督です」

 

「自分は……アニメ映画を抜けばイーストウッド監督作品を1番観ているのかもしれないな。作品数が多くて、今でも早撮りということも鑑賞しているし」

 

カエル「生ける伝説は今回はどのような作品を撮ったのでしょうか?

 それでは、記事のスタートです!」

 

 

この記事の概要をまとめると

  • 日本でも経験のある、メディアリンチの恐ろしさを描いた問題作
  • イーストウッドの政治的スタンスがよくでた作品に
  • 現代のハリウッドの流れに中指を立てる作品
  • ただし、偏向しているために、疑った方がいい映画かも…

 

 

 

 

 

映画チラシ『リチャード・ジュエル』5枚セット+おまけ最新映画チラシ3枚

 

作品紹介・あらすじ

 

 現代のアメリカを代表する巨匠、クリント・イーストウッドが1996年のアトランタ爆破テロを題材にした作品であり、イーストウッドは監督を務めている。

 脚本は『シークレット・アイズ』の監督や『ターミネーター ニューフェイト』

などの脚本を務めたビリー・レイが担当する。

 主人公リチャード・ジュエルをポール・ウォルター・ハウザー、母ボビをキャシー・ベイツ、弁護士ブライアントサム・ロックウェルが魅力的に演じている。

 

 アトランタ五輪が開催中の最中、音楽イベントにて不審なバッグを発見した警備員のリチャード・ジュエル。彼の融通が利かないほど真面目な勤務態度から、周囲から過剰な反応だと笑われながらも警察官に報告すると、中身は釘の仕込まれたパイプ爆弾だった。 多くの人々を救ったジュエルは一躍時の人となったのだが、マスメディアやFBIの捜査の魔の手は彼に忍び寄ってきており…… 

 


映画『リチャード・ジュエル』30秒予告 2020年1月17日(金)公開

 

 

 

 

感想

 

それでは、Twitterの短評からスタートです!

 

 

さすがはイーストウッド、と言わざるを得ない作品だね

 

カエル「うちはイーストウッドが好きなので、元々贔屓目で鑑賞することが多いですが、今回も高い評価をしているということだね」

主「自分は”ハリウッドの悪童”と称したけれど、独特の立ち位置にいる大巨匠らしい作品になっている。

 この映画は露骨なまでにハリウッドに中指を立てている。

 それが許されるのは、もしかしたら今となってはイーストウッドだけかもしれない。その姿勢もあり、アメリカでは毎回どの作品も激論が交わされるようだけれど、今作も例外ではない」

 

カエル「今作では実名の女性記者の尊厳を貶めるような描写もあり、批判もされている作品です」

主「そういうことを鑑みて、モヤモヤするのもわかるけれど自分は評価したい。

 だけれど……人様の感想にケチをつけるのも変だけど、この映画が絶賛の嵐になるようだったら自分はそのほうが怖いかな。

 もしかしたら、この映画を批判する人の方が信用できるかもしれない。そんな映画に仕上がっているけれど……この理由も後述します」

 

【映画パンフレット】リチャード・ジュエル 監督 クリント・イーストウッド 出演 サム・ロックウェル、キャシー・ベイツ、

 

メディアの暴走を考える~日本も人ごとでいられない事件~

 

この事件を”アメリカの出来事だ”とは絶対に考えてはいけないよね……

 

この映画を観ている最中、一定以上の世代の人は松本サリン事件を連想するのではないだろうか?

 

カエル「オウム真理教はいくつも大きな事件を起こしましたが、結果的にメディアがその犯罪を手助けしてしまった部分があります。

 特に松本サリン事件ではメディアが被害者の方を犯人扱いした事件として、多くの人が記憶している事件でしょう

主「自分は世代的に松本サリン事件の記憶はないのだけれど、その時の話は学校の先生に聞いている。

 本作でも大量の銃や中身を抜いた手榴弾の書類押さえが登場するけれど、それで犯人と決めつけるような描写があった。松本サリン事件の時も同じで、疑われた方の家から20種類の薬が出てきたことにより、多くの報道が”一般家庭で20種類は多い、なんらかの怪しいことをしていたのでは?”と疑い深めてしまった。

 もちろん、サリンの製造は一般家庭にある薬や農薬を混ぜ合わせることでできるものではない。

 なのに、無知からそのような一方的に疑いを持ち、犯人扱いしてしまったわけだ

 

坂本弁護士一家殺人事件でもメディアがオウム教団に批判的な言動をリークしたことにより、事件が起きてしまったとみる風潮もあります

 

リークは事件に関係ないとしても、間違いなく言えるのは、麻原彰晃を時代のスターのように扱いオウム教団を育てる役割を果たした責任はメディア側にもある

 

カエル「今回のような事件とはちょっと違うけれど、でもメディアのいうことを鵜呑みにすると痛い目を見る可能性もあるし、メディア側も慎重に報道をしなければいけないというだね」

主「特に日本人は一度相手を”悪”と見ると、見境なしに批判する傾向がある。

 メディアの問題以上にSNSの扱い方の問題が今は大きい。SNSで一般人がデマや極端な言説を拡散し、『メディアが報道しない』と怒ったりしている場合もあるから、そういうことをしないように気をつけないといけないね。

 自戒を込めて語っています」

 

カエル「このあたりのメディアの問題に興味がある方は森達也監督作品であったり、あるいは現在公開中の『さよならテレビ』の鑑賞をオススメします」

 

FAKE

 

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メディアの問題を考える上で上記2作は特にオススメです 

  

個人的に人ごとではないポール・ウォルター・ハウザーの名演技

 

今回の役者陣で語らなければいけないのは、まずはポール・ウォルター・ハウザーの名演技だね!

 

………彼がこの役を演じたことは自分も注目したい

 

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カエル「あまり知らないという方に簡単に説明しますと、ール・ウォルター・ハウザーは主役を多く演じているような俳優ではありません。

 日本では『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』見ると、その怪演が特に強い印象に残ること間違いなしです!」

 

 

アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル(字幕版) 

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2018年の映画の中でも屈指のクソ野郎を熱演していたな

 

カエル「他にも『ブラック・クランズマン』でも似たような演技を披露していました」

 

ブラック・クランズマン (字幕版) 

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今作最大の成功はポール・ウォルター・ハウザーを起用したことだよね

 

主「今作は元の事件があるし、実在の人物がいるから、その人の風貌に合わせることを重要視していることもあるだろう。特にあれだけ体が大きい人となると、なかなか見つかるものではない。風貌も確かに似ていたし『アイ.トーニャ』もそうだったけれど、実在の人に合わせることが上手い役者だ」

カエル「……あれって合わせにいっているのか、それとも結果的に似ているのかなぁ?」

 

主「……そこいらへんって微妙で、あれだけ大きいと結構顔の造形などが似てくるというのもあるかもしれないね。

 ルの風貌……つまり『オタクっぽい太った白人の中年』(若者ではない年齢)ってそういう犯罪をしそうな風貌なわけ。

 上記の作品を見ている映画ファンであれば、ポールが主演で疑われる役という時点で『なんとなくこいつはやりそうだな』という印象を懐くのではないだろうか?」

 

映画の性質上、ポールが真犯人役にはならないということはわかるけれどね

 

日本でも『オタク』というのは偏見の目で見られることが未だにある

 

カエル「大きな事件や児童誘拐事件があると、宮崎勤の影響だろうけれど”漫画・アニメ・ゲームなどの趣味が好きかどうか”ということも報道されるよね。まるでオタクは犯罪者予備軍のように報道されているように感じる時も、一時期よりは減ったけれど、未だに感じる時はあるのかなぁ……」

主「自分なんかは戦々恐々ですよ。

 白人ではないけれど、彼が演じる役と似たような部分があるしさ。

 結局”偏見や差別は許さない!”と言いながらも、上記の作品にように、デブやオタクのブルーカラーの定職につきにくい白人男性っていうのは、犯罪者予備軍みたいなイメージがあるんだよ。

 そういう役をやるとすんなりはまるというか。

 未だに、多様性を叫び続けるハリウッドでもそう。まあ、ポールの場合は実際にいた人に合わせていっているという事情もあるけれどさ。

 そこをイーストウッドは計算しているのかもね」

 

以下ネタバレあり

 

 

 

 

イーストウッドの過去作と傾向について

 

”白人の歴史”を体現してきたイーストウッド

 

うちは何度もイーストウッド作品に言及しているけれど、その都度語るのは”白人の歴史を体現してきた男”という評価だよね

 

それは今作も変わらないんだ

 

カエル「『ダーティハリー』などでマッチョで誰もが憧れる白人男性を演じたのち、『許されざる者』ではマッチョな男性が一線を退く姿を、そして『グラントリノ』ではあのラストを描くことでマッチョな白人男性像であった自身に終止符を打ち俳優業は引退を示唆していました。

 その後、2018年は『運び屋』にて衰えた老齢の白人男性の姿を演じました」

 

主「イーストウッドが活躍した時代から、衰退していく様はアメリカの白人男性たちがかつての隆盛を失っていく姿と重なる。

 そして今作では”ブルーカラーの白人男性”を主役とした。しかも、上記のような風貌で偏見をもたれかれない男性像だ。

 ここがとても大きな挑戦である。近年、ご存知の方のも多いようにハリウッドは多様性を重視しており、賞レースにて白人中心にしようものならば”白いオスカー”のように大批判を浴びる。

 非白人にもチャンスを与えるのはもちろん大事だし、そこに反対をするはずもない。だけれど、ポールが演じたリチャード・ジュエルのような存在は黙殺されているのではないか? と感じる時がある。

 そんな白人の声を取り入れた映画ということができるだろう」

 

運び屋(吹替版)

 

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リバタリアンとしての側面が強く出た作品

 

イーストウッドはリバタリアンとしても知られています

 

今作はそんなイーストウッドの思想が如実に現れている……出過ぎなほどにね

 

  • リバタリアン………経済的自由と個人的な自由を重要視し、国家や公権力の介入を最小に抑えようとする考え方を持つ人

 

カエル「つまり、今作は”権力(FBIなど)に反感を持ち、個人の自由を尊重しようとする映画”ということができるんだね」

主「作中の描写ではリチャードは警察官などに憧れており、FBIにも敬意を抱いている。そしてそれを序盤から映画の文脈としては否定的に描いているんだ」

 

本作においてイーストウッドの思想が最大限に発揮されたのが、リチャードの成長の描写でさ。

 

主「今作は FBIに背を向ける彼の姿が、大きな成長となっている。自分があれだけ憧れたモノの正体を知り、そこから決別をはたす。

 つまり”公権力の否定”が最大の成長だよね。

 それは演出でも補強されており、後半にFBIの審問会に行った時、最初はリチャード・ジュエルとワトソンの2人をFBI捜査官と対立するようにカメラは捉えていた。だけれど、話が進むとリチャード1人だけとなり、”2人の無実を訴える戦い”から”個人の戦い”へと変化していく。

 1人で戦うこと、自由に話すことを重要視し、それを成長としてとらえているわけだ。

 もう、露骨なまでにリバタリアンの思想そのものが出ている」

 

カエル「イーストウッドって出世作の『ダーティハリー』”法が捌けぬ悪を撃つ”というものだし、近年でも『J.エドガー』でFBI長官だったジョン・エドガー・フーバーを賛否が割れそうな形で描いているし、あるいは『アメリカンスナイパー』でも政府によって戦争に向かった兵士の悲哀を描いているよね」

主「だから、やっぱり公権力に対して批判的な目があるのだろう。

 共和党支持者ではあるけれどイラク戦争に反対していたのは、そのような個人の自由を尊重する考え方だからかもね」

 

 

ハドソン川の奇跡(吹替版)

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近年の作品の集大成?

 

この作品をどういう作品と観ているの?

 

近年描いてきたことの、1つの集大成みたいな意味合いはあるのではないか?

 

カエル「え、それは『運び屋』じゃなくて?」

主「『運び屋』よりも、もっと短いスパンの話。それこそ、ここ5年くらいかなぁ。

 つまり”日常の中にいる英雄””公権力や自由を阻害するものへの反抗”を交えた作品。『ハドソン川の奇跡』『15時17分、パリ行き』あれば、爆弾処理を果たした段階でイーストウッドは終わりにしたかもしれない。だけれど、本当のドラマはその先にあるわけだ」

 

カエル「ふむふむ…」

主「そこに『運び屋』で描いた反ポリコレの思想や、トランプに対して聞かれたことに答えた『軟弱な時代になった』という発言が重なってくる。

 そして911以降混迷するアメリカの中で”現代の正義”を模索し続けている。

 その試みに関しては……自分はある程度成功していると思う。少なくとも、あの超大作よりは……」

 

カエル「はい、それ以上は色々とめんどくさいことになるからストップで!」

主「とにかく、ここ数年描き続けてきたことを1つにまとめて集大成的に描いているのは間違い無いのではないか?

 だからこそ、自分には刺激的な作品であり……同時に、もっと賛否が荒れるべき作品だと思っている

 

 

 

 

ハリウッドの現在に喧嘩を売るイーストウッド

 

近年のハリウッドの”暴走”

 

ここに関してはうちがずっと言い続けているけれど、近年のハリウッドはポリコレの嵐だってことだよね……

 

自分には暴走にも見えてくるけれどね

 

カエル「ハリウッドは民主党が強い風潮があり、特にトランプ誕生以後はさらに強くなっています。トランプに反感するように、反差別やジェンダーフリー、女性の活躍する作品を多く生み出しています」

主「勘違いしないで欲しいのは、自分はその流れそのものには賛成だよ。

 同性愛も女性が活躍する社会も、人種などに囚われないこともとても大事。それは推進していかなければいけない。

 ただし、その風潮が強すぎる。

 アカデミー賞は優れた映画を選ぶ賞ではなく『ハリウッドのメッセージとして政治的にふさわしい作品を選ぶ賞』になっているようにも見えてしまう」

 

2019年は特にディズニーを中心にその流れの限界が見えた、という話だったね

 

過去の作品と現代のポリコレの価値観の食い合わせが悪いんだよ

 

主「特にディズニーが顕著でさ、過去作のディプートや続編の映画が多かった。だけれど、その多くが”既存の場所からの脱出”だったり、”女性が活躍する社会”などを描いている。

 だけれどさ『アラジン』”女性が活躍する社会を!”ってメッセージを求めているのか? って話。しかもピクサーではあるけれど『トイストーリー4』”既存の場所からの脱出”という、その政治的メッセージが先行しすぎて、激しい賛否を巻き起こした。

 極め付けはSW9だよね。過去の物語……特にスカイウォーカー家の物語を否定しながらも、過去作のオマージュ満載というチグハグな作品になってしまった。

 社会的なメッセージを重視するのは大事なんだけれど、何でもかんでもそうすることによって、すべて同じ物語のように見えるし、元々持っているシリーズの物語を否定することになりかねないんだ

 

 

 

本作の最大の敵”マスコミ”

 

この映画がすごいのは”新聞記者などのマスコミ”を敵に設定したことだよね

 

近年『スポットライト 世紀のスクープ』『ペンタゴンペーパーズ 最高機密文書』などがあれだけ褒め称えられたあとでこの映画を撮るか……

 

ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書 (字幕版)

 

スポットライト 世紀のスクープ (字幕版)

 

カエル「公権力を監視したりするのがマスコミの役割でもあります。トランプ大統領のような強権的に見える為政者が生まれたからこそ、そのカウンターとして記者を称える作品が多く生まれていましたが、今作の敵はその”マスコミ”です

主「いやー、よくやりますよ。

 この映画がすごく面白いのはさ」

 

  • 主人公=”銃が好き””中年に近い”年齢の”太った白人男性”
  • 今作の敵=意欲的な”女性””新聞記者”や FBI

 

普通、逆だと思わない?

 

主「言うなればさ、『ペンタゴンペーパーズでメディアすげぇ? お前ら大チョンボしているじゃねぇか!』って激怒しているんだよ。

 今作で象徴的なシーンはワトソンに対して『お前、もっと怒れよ!』っていうシーンだと思う。あそこでは現代では無視されがちなブルーカラーの白人男性が声を上げない現状に対して”お前らもっと声出せよ!”という意味に見えてくる。

 そして公権力であるFBIに対して自分で思うことを、怒りを伝える。そういう映画なんです

 

カエル「そう捉えるならば、確かに今の映画の流れとは全く違うかも……」

 

 

 

危険な映画である『リチャード・ジュエル』

 

キャシー・スラッグス記者への誹謗中傷〜過剰な演出の意図を考える〜

 

本作で論争を巻き起こしている要因の1つがキャシー・スラッグス記者が性的魅力でネタを取っていたとする描写です

 

悪い言葉で言えば、イーストウッドの”老害”な部分が出ちゃったね

 

カエル「老害って……」

主「ここに関しては批判されるべきだし、その批判に自分も同調する。

 ただね……自分はここの描写が気になる

カエル「小タイトルにある”過剰な演出”という意味だね」

 

主「イーストウッドの演出は基本的にはそこまで派手なものを、特に最近は用いない。

 例えば今作で最も優れた演出はFBIに徴収された荷物が帰ってくるところ。

 あれで”荷物が戻る=日常が戻る”という描写を視覚的に描いている。

 だけれどキャシー記者の一連のシーンはそのレベルではない。BARで悪巧みをするシーンはわざわざ青い光を使い、悪魔的な表情に見えるようにしている。また、会社でスクープを上司に報告するシーンではブラインドの光で白と黒の模様に顔を照らしており、彼女が悪巧みをしていることを強調している。

 これって、近年のイーストウッドの映画でもここまで露骨な演出ってなかった気がするんだよね。

 それこそ……世論を誘導しているようにも思える」

 

……もしかして、この描写も意図的かもしれないの?

 

自分はそう思うんだよ

 

主「イーストウッドって、バランス感覚に優れた監督なんだ。

 だけれど、今作ではそのバランス感覚を失い、逸脱していると言わざるを得ない。

 では、なぜそんなことをしたのか?

 それは”世論を誘導すること、印象操作をすること”を意図的に描こうとしていたのではないか? という思いがある」

 

カエル「え、それってなんのために?」

主「1つは物語としてキャシー記者を悪役として引き立たせるため。

 さらには……これは完全に憶測だけれど、いくつか挙げるとするならば、論争を呼ぶためでもあり、自身の思想が偏っていることを理解しているからではないだろうか。

 メディアの印象操作を告発する映画で”印象操作ってこんなに簡単にできるんだぜ?”って語っているような気がしてくる。

  もしかしたら、昔から追い回されているから単純にメディアが嫌いなのかもしれないけれどさ、『この映画も問題があるし、あんまりこの映画を信用しすぎるなよ』って意味合いがある気がしてくる。そうじゃないと、あそこだけ強烈に浮くんだよ。

 ここはかなり意図的な過剰演出だし、絶対イーストウッドは気づいているけれど、あえてそうしている理由を考えると……自分にはあえて傷をつけて、傷をわかりやすくした……

 そんな理由すら浮かんで来るんだよ」

 

15時17分、パリ行き(字幕版)

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賛否が別れなければおかしな映画

 

……え、それって映画としてどうなの?

 

だから、最初に述べたように今作は賛否が割れてしかるべきだし、そうならないとダメなんだ

 

カエル「そう言えばある映画評論家さんは『日本人はイーストウッドを無条件に受け入れすぎる』と語っているよね。その方は普段、多様性を尊重するディズニー作品などを高く評価しているので、そのハリウッドの流れに喧嘩を売るようなイーストウッドに反感を抱くのは当然というか……」

主「自分は本作が好きだけれど、それはハリウッドの今のポリコレ重視だったりする流れに違和感があるから。

 元々自分がひねくれているのもあるけれどさ、今のハリウッドの流れは一面的すぎて怖い。

 だから今作のような描き方を支持しているわけ」

 

え、今のハリウッドのメッセージは間違っているの?

 

いや、正しいから怖いんだよ

 

主「これはどこもそうだろうけれど、価値観が暴走する時って、多くの人は”間違った価値観”とは思わないんだよ。

 むしろその逆で、自分たちが正義だと思うからこそ暴走し”善意の攻撃”を加えていく」

カエル「何度も語るけれど、ハリウッドはかつて赤狩りをして共産主義者や疑わしい人物は排斥しているよね……」

主「その当時、赤狩りを押し進めたニクソンやレーガンも、その支持者も正しいと思っていたのではないか。

 日本だって今もそうじゃない。誰かがなんらかの罪や、問題となる行為をしたときにその人物を糾弾する。そしてメディアやSNSで全力で叩きまくる。

 自分はそれが怖い。

 純粋な正義感ほど怖いものはない

 

カエル「ヒーロー映画が苦手な理由だよねぇ。

 だからハリウッドの今のメッセージに逆らうようなこの作品を支持すると」

主「カウンターが出てくるのは当然だよ。

 その意味では自分は今作を評価する。だけれど、単純に”メディアって怖い!”とかで、簡単に支持していい映画とは……自分は思えない。

 だからこそ、最初に述べたように僕は『この映画は偏っていると違和感を覚えたり、批判する人』の方が……この映画のレビューとしてはスッキリするし、疑ってくれている方が納得する、という意見かな」

 

 

 

まとめ

 

では、この記事はここまでとなります!

  

いろいろな意見が生まれて欲しい映画だな