亀爺(以下亀)
「今週はクリント・イーストウッドの新作が公開されたの。映画界最後の巨匠と呼ばれるイーストウッドの新作ということもあり、中々注目度は高いようじゃ」
ブログ主(以下主)
「イーストウッドの新作ってだけで、映画ファンがこぞって映画館へ押し寄せるからね。自分もその1人だし」
亀「主はイーストウッドが大好きだと公言しておるからの」
主「特別な監督の1人だよ。クリント・イーストウッド、黒澤明、チャップリン、ビリー・ワイルダーは特に好きな監督でさ、みんな作品数が膨大だけど、全作品視聴はもちろん、全作品をブログに感想記事としてあげてみたいね」
亀「なんでその4人なのかの?」
主「まず、第一に娯楽に徹している監督だよね。映画として未知の領域を切り開くような新しい試みをたくさんしているけれど、基本は娯楽。そして娯楽として満足できる面白さがある。
そして内容の深さだよね。娯楽映画というと、こう……『あー、面白かった』で終わる作品も多いし、それが悪いわけではないけれど、この4人はその根底にすごく深いものが潜んでいる。でも、それに気がつかなくても面白く鑑賞できてしまうのが、すごくいなぁって」
亀「あの監督はどうなのか? と問われることはあるとしても、この4人は否定のしようもない監督じゃな」
主「そうね。こうしてみると自分は基本的には娯楽の人間だなって思うよ。映画も小説も面白いことが第一条件だと思う。だけど、その中に深みがあれば、さらに最高だよね」
亀「では、そんな主が大好きなクリント・イーストウッドの新作の感想を始めていくかの」
1 『アメリカン・スナイパー』と今作のつながり
亀「イーストウッドを追いかけている人であれば誰でも気がつくことではあるかもしれんが、この作品は『アメリカン・スナイパー』の姉妹編と言ってもいい内容となっておるな」
主「そうね。イーストウッドっで時々、こうして作品と作品を絡めて作ることがあるじゃない。例えばわかりやすいところでいうと『父親たちの星条旗』と『硫黄島からの手紙』なんて間違いなく2作で1つと言っていい作品だけど、あとは『ダーティハリー』から続く、イーストウッドの『アメリカの強い男』というイメージを持った俳優が演じたことに意義がある『許されざる者』と『グラン・トリノ』もあるわけだ。
語り方は色々あるけれど……もちろん、作品単体で見ても面白いけれど、イーストウッドという映画界のレジェンドの歴史を考えると、より深みがある作品といってもいいかな」
亀「そしてこの作品は先にも挙げた通り『アメリカンスナイパー』の姉妹編となっておるわけじゃな」
主「そうね。英雄たちの知られざる顔を探るとか、英雄の裏側をっていう題材はイーストウッドではお手の物じゃない? ここ最近は特に、歴史上の人物の裏の顔に迫った作品が多いし」
亀「その中でもこの作品は中々……なんというか、見終わった後にすっきりとする映画になっておるの」
主「もしかしたら、イーストウッドの中では存命中の人物に対してはあまり悪のように書かないという信条があるのかもね。
『インビクタス / 負けざる者たち』とかもそういうスタンスだったし。まあ、そこまで暗くなる内容でもないかな?」
亀「あとはバランス感覚がやはり優れておると感じるの」
主「前作の『アメリカン・スナイパー』が鑑賞後にどんよりとする映画だったから、その次は明るい映画にしよう、とかね。
一時期は暗い映画が続いた印象だけど、それこそ『グラン・トリノ』以降は『インビクタス』と、明るい映画が来て『ヒア アフター』とオカルトみたいなものを作り『J・エドガー』でまた重い話を書き『ジャージー・ボーイズ』で明るくして『アメリカン・スナイパー』で落とすという、交互に作品を作っている感があるね」
亀「『ヒアアフター』はその流れじゃと扱いに困るがの」
以下ネタバレあり
2 スタートの描き方
亀「この作品の構成で惹かれたのはどの部分じゃ?」
主「……強いて言うならば、このスタートの描き方かな。いきなり配給会社とかのロゴとともに声が入るシーンは、緊迫感がある。
そして飛行機が……着陸に失敗するわけじゃない? それこそ墜落しちゃってさ。その様を始めに見せつけたのは良かったよね」
亀「ハドソン川という選択肢も、一歩間違えると9,11クラスの大事件になりうるということじゃしな。ましてやNYという街を考えたら、東京の中心部とそう変わらんしの」
主「そうね。この作品を作れと言われたら、どういう構成にするかというと……やっぱり、スタートは機長の日常描写から入って、事故機に乗り込んで、映画開始1時間ぐらいかけて事故シーンをやるのが、時系列からしてもわかりやすいわけじゃない?
さらに言えば……映画的なカタルシスだけを考えれば、公聴会とかは入れないで『助かりました! 良かったね!』でもいいけれど、そうはしなかった。単純なお話にしなかったところに、イーストウッドのうまさと、あとは……いい意味での意地の悪さを感じるね」
亀「ストレートに描かないというのも創作者には大事だからの。嘘のつき方が問われるというか……」
主「そうね。そこがイーストウッドの魅力でもあるわけだし、あとはこの描き方によって、コアなファンならば余計に『どっちに転ぶんだろ?』という思いもある。
もちろん、あの事故のその後を知っていたら、この先の展開もわかるけれど、日本じゃその後の話……例えば容疑者になったことなんてほとんど知られていないしね」
3幕構成
亀「そう考えるとこの作品はこのような3幕構成になっておるの」
スタート
第1幕 事故後の機長の日常と疑惑の日々
第2幕 事故発生時の様子
第3幕 その対応は正しかったのか? という検証
亀「この構成もしっかりとしておるし、なかなかエンタメとしてわかりやすいものになっておるのではないか?」
主「そうね。これを2幕を最初にしてしまうと、疑惑の部分が長くなってダルくなるだろうし。一番ダレルであろうポイントに事故からの脱出を描き、乗員の脱出をこれでもかというくらい感動的なBGMをつけているんだよね。
これだけ演出すれば、ここが一番の見せ場だということがわかる。結局は乗員乗客が全員助かったんだから、たいしたものだよって意味もあるだろうね」
亀「スタートからの疑惑と鬱屈としたものを抱えておったからこそ、この2幕目の感動がまた引き立ち、さらに全てを包括する3幕目の感動にもつながってくるという構成じゃな」
主「結局、さっきも言ったけれどこの話を一番感動的にするには、事故の様子だけを描いて『機長! 大変です!』ってところを長々と撮って、ラストで全員助かった! 良かったねで終わることだと思うんだよね。
だけどそれだと……実際に事故発生から不時着まで200秒くらいしかないし、映画としてダレルから、こういう選択にしたのかな? その意味を考えると練られた構成だよね」
3 個人的な感想
亀「ここまでも個人的な感想ではあるが、それを改めて言うとなると、どういう意味があるのかの?」
主「まず、この事件を見て思ったのが『日本で起きたらどうなったかなぁ』ってことかな」
亀「……日本で?」
主「今回は乗員乗客を救った英雄であることが証明されて、晴れて無罪放免になったからいいけれどさ、でも日本だったらどうだったかな? って。素晴らしい機長だ!! の賛美で終わるよりは、機長の判断の謎を追って生い立ちとかを探って、結論を出さずに次第に飽きられていくんだろうね」
亀「この映画でもマスコミに対して否定的な描写もあったからの」
主「そうそう。それこそ佐村河内問題とか、小保方問題とか……最近だと豊洲新市場問題もそうか、一般人には、部外者にはわかりづらい問題ってあるわけじゃない?
だけど、それを追求するマスコミもその問題のスペシャリストってわけではなくて、素人集団が中心となっているから、結局感情論になる。スペシャリストを素人集団がああでもないって論じるんだよ? それで何が問題なのか、全くわからなくなってくるんだよね」
亀「専門家の意見一つとっても、統一見解ということもないしの」
主「そう。学者だって1人じゃないし、見解は変わる。そんなの当たり前じゃない。みんながみんな同じ意見を持つってことはほとんどありえない。そんな事例であれば、疑惑じゃなくて事件として処理されるわけだし。
だからこの機長は機転によって運良く……まあ能力も素晴らしいけれど、自分の経験と勘を持って『正しい』とされる行動をとり、そして何よりもそれが『証明』されたわけだ。そこがこの話の最大の良かったところだよね」
イーストウッドの映画として
亀「それでは主、最後にイーストウッドの映画としてどうだったか、感想を聞いてみたいの」
主「……これが凡百の映画監督だとしたら『結構いいね』って言えたと思う。だけど、イーストウッドだからある程度いいのは当たり前っていう前提で話すけれど……個人的にはあと一歩かなぁ」
亀「主の趣味からすると『アメリカンスナイパー』のような最後まで観客に委ねるような映画の方が好みかもしれんの」
主「別にそれだから好きってわけでもないけれどさ。例えば『インビクタス』なんて傑作だし、誰にでもお勧めできるすごく面白い作品だし。あとは『ジャージーボーイズ』もそうだね。
なんでも撮れちゃう作家だから、色々なタイプの映画があると思うし、時間も短いからそこまでガッツリと入れ込んで作ったわけではないのかもしれないけれど……『ジャージーボーイス』『アメリカンスナイパー』の後だと、少し落ちるかなぁって印象。省略なんかは相変わらずうまいけれどね。
でもわかりやすいエンタメとして仕上がっているし、感動もするし、最後に本物の機長や乗客と会談するシーンなんかもあるし、いい作品だけどね」
亀「主の考える『イーストウッドらしさ』からは外れた作品じゃったということじゃな」
主「1ファンが勝手に押し付ける『らしさ』だし、ある意味ではすごくイーストウッドらしい映画なんだけどねぇ。もしかしたら数年後み見直したら評価が変わるかもしれないけれどさ」
最後に
亀「しかし、イーストウッドも衰えんの! もう86歳らしいが、ほぼ毎年のように映画を公開しておるのではないか?」
主「そうだよね。この溢れる意欲と、若い奥さんと結婚するバイタリティ……羨ましくはないけれど、やっぱりすごいわ」
亀「これからも続々と撮り続けるのじゃろうなぁ。最近のインタビューを見ても、あと10年は現役を続けそうじゃの」
主「あれだけエネルギーがあるから、名作を取り続けられるのかもねぇ」
亀「わしと同じ爺いじゃが、負けておれんの!!」
主「……いや、亀爺と比べるような相手ではないでしょ……」
亀「なにお!! わしだって相当にハッスルしておるぞ! ほれ、最近だって『ファンディング・ドリー』や『ワンピース フィルムゴールド』や『レッドタートル』にも主演したし……」
主「お前が亀の代表じゃないだろう! もういいわ!」