今回は福田雄一監督作品でもある『オタクに恋は難しい』の感想記事になります!
……果たしてオタクが見たらどう思うのかの
カエルくん(以下カエル)
「一般層からはわりかし好意的? な印象もありますが、映画ファンからは結構いろいろ言われがちの監督だからね……オタク云々、原作既読未読以前の問題な気もしましが……」
亀爺(以下亀)
「独特な映画になるのは間違いないの」
カエル「ちなみに、オタクだからこそオタク表現には厳しい、みたいなことになるかもしれませんので、悪しからず……」
亀「だいたい、あのようにグッズに溢れたいかにもなオタ部屋ばかりではないからの。
むしろ、主の家には漫画や資料はあれども、グッズ関連やポスター、タペストリーなどは一切ない。
まあ、汚宅であることは認めるがの!」
カエル「……オタ部屋よりもダメなやつじゃん。
というわけで、記事のスタートです!」
映画『ヲタクに恋は難しい』 ヲタクワールドPV【2月7日(金)公開】
感想
それでは、Twitterの短評からスタートですが……
#ヲタクに恋は難しい
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2020年2月7日
…………地獄 pic.twitter.com/nA4lpqnoK4
かつてない、短い感想じゃな
カエル「……ぶっちゃけ、鑑賞前から『色々と文句を言うんだろうなぁ』という予感はしていたんですよ。
- オタク描写が違和感がある
- オタクの恋愛しづらさはこんなレベルではない
- 物語と笑いがうまく噛み合ってない
過去作の傾向を考えると、大体こんなところが文句として出てくるんだろうなぁ……と思っていましたが……正直、そのレベルではない作品が出てきて、びっくりしています。
これはこれで、歴史的な作品なのかもしれません」
亀「この作品の良いところを頑張って探してみたものの……本当に『みんな頑張ったね!』と言う、小学校の先生が何とかひねり出した褒め方しか出てこなかったからの。
ちなみに、誤解して欲しくないのは……この映画に関しては原作が悪いとか、あるいは役者の誰それが悪いということは一切ない。
ほぼ間違いなく、福田雄一監督・脚本担当が悪いと断言できる作品となっておる」
カエル「すごいよね、ミュージカル映画だとは聞いていたけれど……こんな作品は前代未聞というか……1月に『キャッツ』で大喜利をしていたけれど、それってかなり幸せなことだったんだなぁ……と思い知ったというか……」
亀「鑑賞中に”映画とは何か?”とずっと考えておったからの。
よく『実写版デビルマンがひどい』などと言われているが、わしからすると今作の方がはるかに酷い。
何せ、物語を語る気も何もないからの。
その意味でも、様々なことを改めて見つめ直す機会になるかもしれん」
チグハグで無理の多い映画に
物語として成立していない作品
じゃあ、何がそんなに悪いの? と言われると……もう全部としか言えない部分はあるんだけれど……
物語の作り方がどうこう言う段階になく、そもそも成立すらしていないからの
カエル「よく『脚本がおもしろい、つまらない』って話があるけれど、この映画の場合はそんなレベルではないんだよね……
確かに近年の映画脚本ってある程度型が決まりきっていて、それを打破することはできないかなぁ? と考えることがあるけれど、その型が一切ないとこんなメチャクチャな作品になるんだって勉強になりました。
多分、観客の多くは『自分が書いたほうがまだ成立する気がする』って思うんじゃないかな?」
亀「福田監督作品の場合、物語の組み方などで勝負するわけではないのはわかりきっておる。それでも、それこそ『銀魂。』などは物語を作ろう、原作をそのまま描いていこうという意思は感じておった。
しかし、今作はその意志すら感じ取ることはできんの」
ミュージカル映画でもあるんだけれど、それが全く噛み合っていないというか……実は1つ1つのミュージカルは面白いものを出してやろう! という気概を感じなくはないんだけれど、ただ絶望的に物語に絡まないというか……
変な話ではあるが『ミッション;インポッシブル』シリーズを連想したの
亀「ミッション;インポッシブルの作り方は独特で、トムクルーズのアクションが先に作られる。そしてそのアクション描写を生かすために、物語を構築しておるわけじゃな。つまりアクション>ドラマということになっておる。
なので、実はうちのようにドラマ(物語)を重視する人間には苦手な部分も多い作品ではあるのじゃが……しかしトム・クルーズが製作に携わっておるからこそできる迫力のあるアクション、そしてトムのイケメンを楽しむ映画としても評価が高い」
カエル「つまり、この映画で語れば『ドラマ(物語)を活かすためにミュージカルがある』というわけではなくて『ミュージカルを作ってから物語を作った』という印象がすごく強いんだよね……」
亀「しかし、それが絶望的に物語に噛み合わん。
基本的に福田監督の映画の作り方で違和感があるのが、あの独特の福田ワールドとも称されるお笑い描写を、物語と一切噛み合わないで別々に作ってしまうことじゃ。
例えば『銀魂。』は顕著であって……物語パートとコメディパートがはっきりと分かれておる。本筋の物語を止めてコメディを開始するために、テンポが全て止まってしまう」
本来は次の展開に対する”タメ”にならなければいけないのに、福田作品は流れを止める”トメ”になってしまっているんだね
物語とお笑いパートはセットであることが望ましいが、それができない監督なんじゃな
カエル「だから、ぶっちゃけて言えばお笑いパートは一切見なくても、物語を理解する上ではそこまで問題がないというね……」
亀「そして本作の場合は
- 2人の恋愛物語
- 福田作品らしいコメディパート
- 本作の特徴であるミュージカルパート
この3つが混じり合うことなく、作品が展開していく。
しかし、この3つが全くの別物として動き出してしまうために、一切物語として機能してこない。当然のことながら、メインの物語は薄いものとなってしまうために、中身が何もないすっからかんなものになってしまうの。
また、コメディパートも……特にスタートが非常に長いこともあり、1つの作品としてみた場合にケチがついてしまうものじゃな」
さすがに原作者の方が可哀想な映画です……
ミュージカルパートの問題点
じゃあさ、この作品のミュージカルパートは盛り上がるんじゃないの? と思ったけれど……
……ここまでダメなミュージカルは初めて見たの
カエル「……なんていうんだろうなぁ。ミュージカルっていってしまえば”物語の途中で急に踊り出す”ってことがあるわけじゃない。それが違和感がないようにすることも大事だけれど、今作の場合はそこいらへんの人が急に踊って急に歌い始めるって印象しかないような……」
亀「これは難しいポイントじゃが、ミュージカルパートというのが何のためにあるのか? ということじゃな。
例えばキャラクターの心情をより深く、さらに観客に伝えるための手法でもある。
しかし、今作の場合はそれが全くと言っていいほど伝わってこない。
簡単にいってしまえば……キラキラしてないんじゃよ」
カエル「現実の延長線上で歌って踊って……となると、違和感が強いよねぇ。
ましてや、普通の池袋? の路上で歌い始めるけれど、それが日常感が強すぎるから、違和感ばっかり強くて……
ただ、全部が全部ダメなわけでもない、というのが残念な部分というか……」
亀「明らかに作品としては『ラ・ラ・ランド』を踏襲している部分もある。特に冒頭のミュージカルシーンと、その次の路上のミュージカルなどはそうじゃな。もしかしたら、酒場のシーンは『グレイテスト・ショーマン』のつもりかもしれん。
しかし、本家と比べてみるまでもなく、ここまでダメダメになるのか……と驚愕した。
ただし、ミュージカルそのもの……つまりダンス・音楽などが悪いというよりは、先ほども言ったように”物語から分離している=全くの無駄で意味のわからないシーン”ということに加えて、物語にメリハリがないのも問題じゃな」
もっと”ミュージカルが始まるよ!”って感じだったらいいのにね……
唯一褒めるとすれば、菜々緒がメインで歌いおどるホテルのワンカット風ミュージカルじゃな
カエル「今作の場合、菜々緒のスタイルが強調されている衣装なこともあるけれど、そこは良かったのかなぁ。
ただし、物語にはほとんど関係しないどころか、オタク要素も感じられないというのが残念なところですが!」
亀「ダンサーの方々の動きなどは確かに面白かったものの、一部シーンでは演者の動きがバタついている印象もあった。
しかも、音楽そのものの善し悪しというよりも、曲と映像がマッチしていないというのも問題じゃし……
福田監督が描いた歌詞も酷い。
まるで島田紳助が『ワンピース』を読まないで書いた曲のように、薄い言葉が並んでおる。”多様性が〜”と語っておるが、この映画がオタクの多様性を全く描く気が無く、テンプレばかりじゃから、何も響かない。
悪い点ばかりが浮かんでしまう作品じゃな」
15年前と見紛うオタク描写
そして致命的なのはオタク描写があまりにも古いことなんだよね……
残念ながらオタクやアニメへの愛が感じられないの
カエル「ちょうど最近のテレビ番組でマツコがコスプレ旅館に対して『今はこういう趣味が普通になっている。メディアはまるで珍しいもののように扱うけれど、普通の人が普通の趣味としてコスプレなどのオタク趣味を楽しんでいる時代になっている』と発言していてさ。
残念ながら、この作品って15年くらい前の『電車男』の価値観のままオタクを語ろうとして大失敗しているんだよね……」
亀「正直、ワシは見る前は”『げんしけん』くらいのリアリティを望む!”ぐらいに考えておったが……そういうレベルですらない。
作中ではニコニコ動画のコメント欄のような演出が多く見られるが、今の時代にそぐわない印象じゃな。
また、冒頭のコスプレも……悪いとは言わんが、少し時代が古いものが多く入っている印象でもあった。
ましてや……これは原作もあるので簡単には言えんが、今時オタク趣味とはそこまで隠すようなことなのか? という思いもある」
かつてのオタクブーム以降、”オタク”が蔑称だった時代は終わったもんね……
まあ、それで隠したいという人もいるとは思うので、そこはあまり突っ込まないほうがいいのかもしれんが……
カエル「全体的にオタクの描写が一面的&古いという致命的な欠点を抱えているのがなぁ。最近のオタク文化を知らないって、結構わかっちゃうのが痛いというか。
ドラクエのゲーム画面のような演出やATフィールドをはじめとしたEVA演出、コミケも全く人が少なくとコミケ感もない……
唯一ちょっと納得したのは、内田真礼のライブの後に山崎賢人が着るシャツがデレマスの神崎蘭子(CV内田真礼)だったことくらいかなぁ。あ、そこはちゃんと合わせに行くんだって……」
亀「結局オタクに対する愛もない、アニメも漫画もゲームもそんなに詳しくない、EVAの音楽を流しながらモンハンのプレイ画面を流す意味のわからなさ……
こういった部分が作品の足を引っ張っていた印象じゃな」
本作に感じた可能性
唯一、批評性が宿る可能性があった部分について
じゃあ、これだけボロボロでダメダメなんだけれど、それでも唯一見所があるかもしれないってところはないの?
……結局は失敗しているが”女のオタクは男オタクを恋人にしたがらない”という部分かもしれんの
カエル「もちろん、人によるとは思いますが……
よく言われるのは”男オタクは女オタクを恋人にしたい、女オタクは男オタクを嫌がる”というものです。また、街コンなどでもオタク街コンの場合、大抵男性8000円、女性1000円とかに設定されていたりします」
亀「……これは男オタクが身なりを気にしないなどの事情もあるかもしれんがの。
山崎賢人だったら、誰もがキャーキャーと付き合いたいと大行列を作るじゃろう」
カエル「それを言ったら当然のことではあるけれどね」
亀「ただ、この”オタクであること”が恋愛の障害になるというのは面白い部分でもある。近年は死別や同性愛が恋愛の障害としてよく用いられておるが、結局、人と人のやることだと……例えば食事の好みとか、あるいは生活習慣の違いなどの方が別れる原因になりやすい。
ドラマにはなりにくいかもしれんが、日常的な恋愛を描く上では、むしろ病気などのよりも一般的なことをテーマに扱う可能性を感じていたんじゃがな」
カエル「結局、そこは深堀しなかったしねぇ……
というかさ、恋愛ドラマとして見所がなさすぎる印象だし……」
亀「何も起きとらんからの。
普通に2人が付き合いだし、普通にすれ違い、普通に仲直りする……それだけの物語じゃ。
これで何かを感じ取れ、というのも難しい。
それでも面白いと思う人が多いとするならば……福田雄一作品が途切れない理由じゃろうな。逆に、福田監督が可哀想とすら思えてくる。
何を作っても”福田雄一作品”ってだけで面白がられるならば、これほどやりがいのない仕事はないんじゃないかの」