今回は障害と恋愛を描いた作品の感想です
このテーマで300館超えは意義が大きいよね
カエルくん(以下カエル)
「うちは障害をテーマにした作品は高く評価する一方で、描き方次第では全く納得できずに酷評してしまうという、賛否がはっきりと分かれる傾向にあります」
主
「それだけセンシティブな問題だからこそ、描き方とバランス感覚が問われる作品だろうな」
カエル「また杉作花ちゃんがどのような演技を披露するのかも含めて注目です!
それは感想記事のスタート!」
映画『パーフェクトワールド 君といる奇跡』ミュージックトレーラー
感想
では、Twitterの短評からスタートです
#パーフェクトワールド
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年10月5日
難しいバランスが求められる障害という題材を選択し、描き切ったスタッフ、キャストに賛辞を
真摯な視点から作られていたが、しかし真摯すぎるきらいもある
本作が障害に対する視線を変える力があるのか? と問われると自分は弱いと言わざるを得ない
悪くないがもう少し欲しい pic.twitter.com/hsnUdiUFKc
悪くはないし、この題材に誠意を持って向かい合っている
主「まずは、映画の出来について語る前にこの題材を選んだこと、それに対して誠実に描ききったことに対して、賞賛を送りたい。
特に現代の日本ではSNSの発達もあり、1つの発言や表現が大きな議論を巻き起こす時代だ。LGBTなども重大な問題であるが、炎上するリスクを抱えていると、なかなか攻めた内容の作品は制作しにくくなってしまう。
障害はその中でもよりセンシティブなものであり、描き方は細心の注意を払う必要があるけれど、今作はとても配慮されていることが伝わってきた」
カエル「先に言っておきますが、今作は障害をテーマにしていますが、その描き方も差別的、あるいは不快になるような描写はほとんどありません。
0ではないし、やはり障害者の恋愛を描く以上、どうしても避けられない世間の偏見などの目を表す描写はあるものの、そちらも過剰に煽るようなことはしていません」
主「例えば、この記事に限らず、うちでは”障害”と表記しています。これも下手すれば炎上する可能性があり、今では”障がい””障碍”表記を行う方が多いかもしれない。
だけれど、NHKも未だに”障害”表記を続けていること、また実態にはほとんど関係のない言葉を変更することだけの配慮には反対します。
言葉の変更は健常者がハンデに対して向き合っているという満足感を味わうだけの結果にしかならないと考え、そんな言葉狩りのようなことは関係ないと考えるため、”障害”表記をとおしています」
カエル「個人の思いが大きいけれど、これだって下手すれば炎上する可能性だってあるわけだしね……」
主「さらに社会的意義がこの作品は大きい。
炎上するリスクなどを抱えながらも、全国300館以上という大規模な公開に踏み切ったという事実、これだけでも賞賛に値する大きな意義のある作品である、というのは先に伝えておきます」
バランスが難しい題材
じゃあ、作品としてはどうだったの?
悪くはないけれど、疑問は残るかなぁ
カエル「素直に大絶賛はできないんだ……」
主「障害を描くことは非常に難しくて、自分も年間トップクラスに評価する作品の中には、何らかの身体障害が絡む作品も多い。
例えば2016年であれば話題になったアニメ映画の『聲の形』は当然入るし、2017年は河瀬直美監督が撮った視覚障害を抱える男性も描いた『光』だったり、あるいは今作と同じような設定の『パーフェクト・レボリューション』も当然入る。
ただし、下手をすると潜在的な差別意識が出てしまい、それがかえってノイズになってしまうこともありうるのがこのジャンルだ」
カエル「あんまりきれいに撮りすぎても、それはそれで障害者の方々の実態に沿ったものにはできず、単なる理想論になってしまうもんね……」
主「これは後々に語るけれど、本作はあまりにも綺麗すぎるという懸念がある。
多くの障害を描いた近年の作品……社会的に意義が大きい作品だけでなく、エンタメ要素の強い作品と比べても、本作が画期的だと思う部分はあまりなかったというのが個人的な思いかな」
カエル「以前から語っているけれど、現代は恋愛作品を作ることが非常に難しくて、2人の恋人が結ばれない理由となるハードルが以前ならば家格や身分の差などがあったけれど、現代はそれがあまりないんだよね。
だからこそ”病気””障害””同性愛””不倫”などのテーマに集中してしまうという現状があって……」
主「これはオタクの恋愛を描いた映画もそうだけれど、そのテーマを選ぶということは逆説的に、その属性を持つ人は恋愛をしにくいという印象が社会にあるということだ。
例えばオタクは気持ち悪いから恋愛しづらい、障害者は将来的な不安などもあり恋愛しづらい、などね。
だけれど、映画化する際はその恋のハードルをきれいに描きすぎて、ハードル自体が低くなりすぎている場合があって……美女と野獣なのに美女とイケメンの恋愛物語なんて日常茶飯事だし。
その意味では、本作はかなりキレイすぎるのかな」
役者について
キャストはどうだった?
もちろん、この難しい役に挑んだだけで賞賛に値するけれど……
カエル「けれど、がつくんだね」
主「演技力云々ではなくて、役者のイメージと役の問題かな。
例えば杉咲花はアクションや叫ぶ役が多くて、彼女の穏やかな演技が見たいと思っていたから、今作のような演技は比較的満足度が高かった。あんまり相性の良い女優さんではないけれど、彼女の魅力は伝わってきたよ。
ただし、やはり彼女は非常に真面目で、役にも真摯に向き合う人柄なのだということが伝わってきてしまい、それが障害者のパートナーとなると1つの問題がある」
カエル「問題?」
主「これは岩田剛典もそうなんだけれど、あれだけイケメンで努力をする男の子ならば誰も障害者に対して偏見なんて抱かないよ。
実際の障害者への偏見を生む理由なんていくらでもあるけれど、例えば突然叫び出したり、あるいは動きに制限があるために日常的な動作が醜いように見えてしまったりする。
さらには……急いでいる時にバスや電車に車椅子の方が乗ってきて、時間がかかってイライラするとかさ、そういうところもあるわけじゃない?」
カエル「でも、それは社会が受け入れるべき課題であって、その人たちが問題を抱えているわけではないし、それを問題だと語ってしまうと、それこそバリアフリー社会が遠くなるわけだし……」
主「もちろんそれもそうだよ。
だけれど、そんなどうしようもないことを、どれだけ受け入れていくのか? という社会の問題がある。
本作はそこが描けたか? というと非常に弱い印象はある。
イケメンが努力していく姿が、障害者像の実情にどこまで近いのか? と言われるとかなりの違和感もある。
アイドル映画の側面の方が強くなってしまい、せっかくの難役を100パーセント生かした作品に仕上がっていたか? というと、疑問はあるかな。
これは演出や方向性の問題なので、役者がどうこうという問題ではないけれどね」
以下ネタバレあり
障害の描き方について
障害を自虐的なギャグとする
ここで少し話をずらして、障害を描いた他作品との比較を行います
自分がここで語りたい作品は3つあるんだ
カエル「もちろん、障害を描いた傑作、名作は古今東西たくさんありますが、比較的最近の作品の中からその描き方について考えていきます」
主「まずはこの作品だ」
カエル「……『血界戦線』とは……これは意外な作品と思われるかもしれないね。
『トライガン』などで有名な内藤泰弘の作品であり、内容自体はアメコミを意識したドタバタバトル漫画です。テレビアニメも2期放送されており、大きな話題を呼んだのでご存知の方も多いのではないでしょうか?」
主「もちろん内藤泰弘が描くのは、エンタメ色の強い漫画だけれど『トライガン』の頃から骨の太い、理想論ではない現実を見据えながらも、それでも理想を追いかける表現を行っている。
この作品の障害の描き方で面白いのは、主人公の妹が車椅子に乗っているんだ」
カエル「主人公が舞台であるニューヨークをモチーフとした街に来るきっかけになったになったのも、妹の存在が大きくて……出番自体は決して多くはないけれど、非常に重要なキャラクターだね」
主「自分が素晴らしいと思ったのは、足が動かないどころか、目も不自由でありながらもその状態を一切不幸だと思わず、明るい人間性を描いているところ。
動かない自分の足を指して『何しろ足がこれなもんで!(山などの険しい場所には一緒に行けない)』ということをギャグとして描いている。周囲はそのギャグが笑えないと不評だけれど、彼女はあくまでも和ませよう、笑わせようという意図でそのような言動をする。
それが素晴らしい」
カエル「これだけだとなんてことがないようだけれど……」
主「もちろん、人の身体的特徴を笑うというのは許されないことだ。
近年では女性お笑い芸人への”デブ、ブス”などの言動も問題視され始めている。
だけれど、一方でバイキングの小峠やトレンディエンジェルなどのように、ハゲという身体的特徴を使って笑いを取りに行くスタイルの芸人もいる。
本来、ハゲ、デブ、ブス、障害などの身体的特徴は笑いにしてはいけないという良識があるけれど、それを自虐することで笑いにしている。
これは”個性”を生かした笑いの取り方だと言える。
乙武洋匡などは顕著だけれど、障害を自虐的に扱うことえ笑いに変えることだって、本当に個性だと思うのならばアリなんじゃないか? というのが個人的な意見。もちろん、周囲の罵倒ではなく、あくまでも自虐の範囲内だけれどさ」
障害者を悪役として描く作品
続いてはこちらの作品となります
ご存知、ハリウッドのアクション映画である『キングスマン』です
カエル「簡単に紹介すると、イギリスの古典的な紳士たちが実はスパイであり、キングスマンという組織に所属しながら世界を守るというというお話です」
主「個人的には悪趣味な描写もあり、そこまで好きな作品ではないかな。
でも、実はとても面白い試みをしている作品でもあって、本作は古典的な白人のイギリス紳士たちを主人公としている。そして、対する悪役は黒人と障害を抱える女性である。
つまり、本作は徹底的にポリコレを批判していて、その配慮が必要とされるシーンでことごとく無視しているんだ」
カエル「白人の古典的な紳士が、黒人や障害者の女性を叩きのめし、さらにトロフィーヒロインも用意するとなったらそれは大問題だよね……」
主「この作品の障害者の描き方はとても面白くて、ソフィア・ブテラの足には刃のついた義足が付いており、それで戦い相手を細切れにするというものだ。
もともとソフィアがダンサーだからこそ、美しくも恐ろしい戦い方になっている。
そのハンデに対して悲観するのではなく、むしろ1つの武器として戦う描写を入れることで、より魅力的にしている作品だろう。
もちろん、バカバカしいエンタメ描写かもしれないけれど、障害者だと悪役にすらなれない状況下で、この描き方はとても大事なものだと考えている」
本作と比較したい障害と恋愛の映画
そして、タイトルや設定からどうしても比較してしまうのはこの作品です
2017年に公開し、自分は大絶賛して2017年の年間ランキング5位に選んだ『パーフェクトレボリューション』だね
カエル「簡単に説明すると、脳性麻痺を患い、重度の障害を抱える熊篠慶彦(通称クマ)が企画した、障害と恋愛に関する物語です。
実話ベースの物語を、クマ役に熊篠の友人であるリリーフランキーが演じ、相手役の精神疾患を抱える女性を清野菜名が演じています」
主「この作品が素晴らしいのは”重度の身体障害者”と”精神疾患を抱える患者”の恋愛作品だということだ。
身体障害者の生死を握るパートナーが、精神疾患を抱えていると考えると、それは非常に恐ろしいことだと思う人もいるかもしれない。
だけれど、そのハードルを飛び越えていく愛が見どころの作品だ」
カエル「もともと熊篠さんは”障害者と性”に関して啓蒙する活動を行っていて、それは映画の中でも出てきます。
決して障害者は立派な存在ではなく、当たり前に性浴もあり、場合によっては眉をひそめるような行為もする普通の存在であるということを、しっかりと描いています」
主「例えば本屋さんで本棚の上の方にある書籍を、スカートの短い店員さんにとってもらおうとする。車椅子に乗っているから、そのパンツが見えそうなんだよね。そこを楽しみにしているという、言うなればギリギリ犯罪ではないけれど、しょうもない描写だ。
障害者だって性欲もある。
そこを描かないのはおかしいという意見はまっとうなものだ」
カエル「この作品では少しばかり汚い描写もあって、食事シーンなどは思わず観客も『うっ……』と思ってしまう部分もきちんと描いているよね」
主「障害者に対する偏見の目はどうしてもあるし、それはご飯を食べる時にボロボロとこぼしてしまうとか、犬食いに近い食べ方をするなどで、気持ち悪いと感じる部分はある。
そこから逃げずに描写し、障害というハードルを鮮やかに乗り越えていく恋愛を描いたからこそ、自分は高く評価したい作品でもあります」
パーフェクトワールドが描く障害の懸念
お話はいよいよパーフェクトワールドに戻ります
本作は真摯な分、懸念もある作品かな
カエル「その懸念とは?」
主「やはり、24時間テレビのドラマと大差がないかな、と思う部分はある。
感動ポルノというレベルではないし、それなりにきっちりと作り込んでいると評価する一方で、本作の描い方は若干の危うさは隠せていない。
なぜならば、障害者もそれを介護する側のパートナーも綺麗すぎるからだ」
カエル「障害を抱えながら、手術をした後も一生懸命頑張ってコンペに向けて努力したり、倒れるまで手助けしたり……という描写だね」
主「日本の障害者の描き方は、あまり差別的にならないようにという配慮がいきすぎて、まるでパーフェクトヒューマンのように描いてしまいがちだ。そして、それを支えるパートナーもまた、穏やかで何があってもへこたれない強い精神を持つ。
ただし、それが映画としていいのか? と言われると非常に困る部分がある」
カエル「一部では完璧すぎる障害者像を描きすぎて、それがイメージとして定着してしまうのは困る、という意見もあるよね……」
主「当たり前だけれど、岩田剛典が障害者であったならば、みんなそこまで偏見を抱かないよ。
あれだけ筋肉もあって、イケメンで、しかも好青年。しっかりと分別もある。
だけれど、実際はそうじゃない。障害による様々な弊害があり、それは社会生活を送る上で問題にもなる。作中でもあったけれど、排泄障害などね。あれをセリフで説明するのではなく、実際にパーティや飲み会の最中に排泄障害になってしまい、周囲も自分も困ってしまうという描写があったら、また印象は違っただろう」
カエル「障害の負の側面は直接的には描けなかったということだね」
主「本作は確かに『パーフェクトワールド』というタイトルにふさわしい、完璧な世界の映画である。
だけれど、それは障害の抱える人の苦悩や、それを支えるパートナー、家族の苦悩を表面的にしか描けていないからではないか? という印象がある。
例えばセックスや収入、介護のお金の問題など、描くべきことは非常に多いのではないか?
もっともっと苦難を描かないとなる絵空事になってしまうのではないか?
とてもいい題材だし、真摯に障害を描くということを強く意識している分、大きな違和感につながってしまった……そんな印象はどうしても拭えないかな」
まとめ
ではこの記事のまとめです!
- 障害というテーマに真摯に向き合った作品!
- 演技が悪いわけではないが、少々綺麗すぎる印象も……
- もっと突っ込んだことを描いて欲しかったという思いも……
全国300館以上で上映だから仕方ないのかな
カエル「難しいテーマだからこそ、このような描き方になったのはよくわかるしねぇ」
主「悪い作品ではないと思うよ。
言葉は悪いけれど、役者を見に行く若い観客相手だったら、このレベルがいいのかもしれない。
もせっかくの骨太なテーマだから、もっと突っ込んで欲しかったという思いはどうしてもある。
でも、罵倒される作品ではないでしょう!」