今回は障害者の性などを扱った話題の映画『37セカンズ』の感想記事です!
Twitterなどを中心に映画好きに話題の作品だね
カエルくん(以下カエル)
「なお、この記事では”障害”と表記させていただきますので、ご了承ください」
主
「うちの記事は、全て”障害”で統一させていただいてます。
これはNHKなど公共放送機関、あるいは政府の公式文書でも障害表記が続いており、言葉を変えるだけで”我々は障害者に配慮しています”という態度に違和感を覚えているためです」
カエル「この辺りは色々と議論がある部分なのですが、決して差別的なものではなく、意図的な言語表記だということはご理解ください」
主「まあ、このあたりはメディアでもない以上、ブログは個々人で決めることだと思います。
というわけで、早速感想記事のスタートです」
感想
では、Twitterの短評からスタートです
#37セカンズ
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2020年2月15日
話題になるのも納得、2020年の主役邦画の1つに間違いない
序盤は年間ベスト級の感動があったものの…うーん、路線やテーマがブレた印象があるんだよなぁ
いい映画なのは当然ながら、後半の主人公の描き方はホントにこれでよかったのかなぁと疑問になる点もある pic.twitter.com/UH9d38Spfe
間違いなく、2020年を代表する邦画の1つになるでしょうね
カエル「お、これはとても高い評価だね!」
主「……この映画を見にいく前にさ、R18の『囀る鳥は羽ばたかない』というボーイズラブのアニメ映画を見に行ったんですよ。そしたら、朝一の回に車椅子に乗った女性がいてね。
その時はなんも考えずに素通りしたけれど、改めて考えてみると、色々と思うところがある場面でもあったのかなぁって」
カエル「その人のお年や事情などもわかりませんが、障害を抱えていても性欲はあるし、BLなどが好きというのも当たり前の趣向だと、この映画を通じて改めて思ったね」
まあ、これから自分はグダグダ語るんだけれどさ、そんな意見は聞くことないから、さっさと劇場にいくことをオススメします。
主「なんかここ最近『邦画って外国映画に劣るよね〜』みたいな話があったけれど、本作を見るとどこが? って言える。
本作を見てもそんなこと言えますか? むしろ、障害をテーマにした作品で今作以上に攻めた作品って、海外でもそんなにたくさんありますか? って聞きたい。
まあ、あるんだろうけれどさ……だけれど、この映画は間違いなく世界で戦えるテーマ性を獲得しているし、邦画が海外の賞レースを狙うのであれば、こういう作品により注目を集めるべきだ。
邦画のレベルを全体的に上げるためにも、また映画文化活性化のためにも、こういった作品は映画ファンが総出で、全力を挙げて推す必要があるとすら思う」
……あれ、なんかゴチャゴチャいうと宣言する割には大絶賛じゃん
そりゃ、これだけ覚悟が決まった作品は他にありませんから
カエル「障害をテーマにすると、それこそ24時間テレビのような作品が多くなると思うけれど、今作はそういった流れとは一線を画す作品だしね。
NHKも後押ししているようだし、日本ではまだまだ一般化したとは言い難い、障害者の方への目、特に性に対する悩みをもっと扱っていく作品があってもいいのかな?」
主「HIKARI監督の長編デビュー作でこれだけの作品を作り上げたのは、もう素晴らしいの一言でしかない。それだけ映像演出、音楽の使い方、何よりも覚悟が決まっていると感じた。
物語に関してはちょっと言いたいこともあるけれど、十二分に傑作だし、今後の邦画界で注目しなければいけないスター監督候補が現れたのも間違いない。
日本では売れる作風ではないものの、映画好きを中心に話題を集め、この映画が海外でも評価されているように、もっと大きな舞台で世界と競うこととができる存在になるのではないでしょうか」
序盤に現れた覚悟
今作は脳性麻痺を抱える女性について迫った映画となっています
序盤にも、この映画にかける覚悟に思わず涙が出るほどだった
カエル「ちょっとだけネタバレになってしまいますが、冒頭5分くらいの描写ということでご勘弁ください。
何と言っても着目すべきは、徹底した”低い視点”の絵作りだよね。
普通の映画はやはり大人の頭くらいの高さにカメラを合わせるのが一般的でしょうが、今作の場合はそのほとんどが低い視点にカメラをおいています」
主「その視点も素晴らしいけれど、同時に恐れ入ったのが序盤。
ここまで描くのか……と度肝を抜かれたし、それはある意味では女優としてもとても覚悟がいるものでもある。
障害をテーマにした脳性麻痺の女性の描写としては、もしかしたら批判の声も出るかもしれない。
だけれど、それを考えただろうけれど、冒頭とも言える序盤で描き出したという部分に監督・役者の思いが籠っている。
この”覚悟”というのは、大作になればなるほど難しいものになる。そこだけでも絶対に評価しなければいけないし、最も重要なものだろう」
(C)37Seconds filmpartners
映像表現そのものも美しかったよねぇ
ユマの見ている世界を美しく描く必要があるからね
カエル「もしもここで、ユマの世界を美しく描くことができなかったら……それはこの映画としては敗北だよね……」
主「”きっと世界は美しい”という感覚が非常に重要な映画だからね。
また1つ1つの映像演出も主張を重ねながらも、それがキツくない。
しっかりと抑制されたものにもなっている。
さらに漫画家志望……という言葉が適切かは難しいけれど、その想像力を使った表現もあり、自分は大好きなものだった。音楽の使い方もいい。
また後半には半分ドキュメンタリーのような描写もあって、これが広がりゆく世界を表している。
このように、映像表現としても一級品だっと思うね」
役者について
今作では何よりも目を引くのが主演を務めた佳山明だよね!
これ以上ないリアルな姿を披露していたな
カエル「実際に脳性麻痺を抱える方を主人公にしたからこそ、他の映画とは違った姿を描き出したのではないでしょうか?
また、か細い声などもありながらも、徐々に女優として魅力を発揮していくのも注目です」
主「この手の映画はキワモノのように一瞬でも見えてしまったら、全てが崩壊してしまう。
その意味でも細心の注意が必要とされるけれど、今作はその点においても完璧。
途中からきちんと、化粧っ気がないだけで美しくなっていくし、魅力がしっかりと伝わってきた。
多分、観客の中には障害者である以前に、女性としての魅力の方が印象に残る人も多いのではないでしょうか?」
カエル「そして今作では忘れてはいけないのが、もう1人の脳性麻痺を抱えながらも”障害者と性”をテーマに活動を続けている熊篠慶彦でしょう!
2017年に公開され、うちでも大絶賛した『パーフェクト・レボリューション』の題材になった方です」
リリーフランキーの熱演も良かった作品だね
主「『パーフェクト・レボリューション』の前からリリーフランキーとは親交があったようだけれど、それも納得。トークイベントの様子やラジオ出演などは拝見したことがあったけれど、実際に姿を見たのは今作が初めてなんだよね。
だけれど『あ、確かにリリーフランキーの友達だわ』というのが伝わってきた。
いい意味で無茶苦茶だからこそ、魅力がある。
今作では2つの障害者像が描かれていて、佳山明のような女性の障害者像と熊篠慶彦のような男性の障害者像だ。
その両者を描き出すことで、障害というものをまた違ったやり方で見せようという意図が感じられたね」
以下ネタバレあり
いくつかの疑問点
物語の構成について
では、ここからはネタバレありとなりますが……これだけ褒めたのに、やっぱり違和感があるんだ
う〜ん……自分が考えすぎな部分もあるだろうけれどね
カエル「まずは、今作は3幕構成となっており、大雑把に以下のように分類されると考えられます」
- 第1幕→障害者の性の問題と仕事の搾取
- 第2幕→障害者を取り巻く環境
- 第3幕→自分探しの旅へ
主「まず、全体を通した時の違和感としてあったのが……なんだか、各幕ごとに話が微妙にずれていくような感覚がしたのね。
最初に描かれたのは障害者の性・仕事に関する問題。ここは圧巻だったと言っていい。透明なガラス越しにきらびやかなサイン会を見つめるしかない姿など、映像表現としても際立っており、見事だと感じられた。
この路線で最後まで突っ走ってくれたら、もしかしたら年間1位もありえたかもしれない。
それくらいの衝撃だった」
カエル「特に”創作論”とか、あるいは”創作を邪魔する社会や文化の偏見”みたいなテーマって、うちとしては刺さりやすいものだし……何よりも漫画というオタク文化を扱っていることも良かったね」
主「だけれど、そのテーマが途中からずれていく。
性の話も、仕事の話も途中からスパッと切れる。
そして特に解決しないままに、次の母との対立の話になる。そして、最後には自分探しの冒険への旅となるけれど……全体として見た時に、じゃあこの話の一貫したテーマってなんだったんだろう? という気分がある」
それは、もちろん障害者に対する偏見を除くというものじゃない?
だとしても、各セクションで描かれたことが中途半端すぎるように感じるんだよね
主「それと、これはもう個人の趣味でもあるけれど……このテーマを描くのであれば、あのラスト付近の描き方は本当に正解だったのだろうか? という思いもある。
自分が解釈違いをしていて齟齬があるだけ、とも言えるけれどね。
また、物語としての軸を貫こうとした結果、色々と疑問に思うところが出てきてしまった。その細かいポイントが澱のように積み重なった結果、首を傾げてしまったのかもしれないかな」
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第1幕の疑問
大絶賛の第1幕でも疑問があるの?
描写そのものは素晴らしいと感じるんだけれどね
カエル「この第1幕の、特に漫画家の仕事の部分は佐村河内問題の逆を描いているよね。能力のある障害者を、健常者が搾取するという形で……」
主「まあ、自分は『FAKE』 なども大好きで、あの問題を単純に佐村河内守の詐欺と断罪はしないし、その風潮にも疑問がある。
ただ、社会問題としてこのような描き方をした点において、上記のような”覚悟”も含めて、とても高く評価する。
障害を抱えていても漫画を描くことはできるし、その想像力の翼には貴賎はないわけだ」
カエル「この”障害とお仕事・創作”のテーマで突っ走っていったら、それこそ年間ペスト級だったろうね」
主「だけれどさ……いくつかの描写が気になったんだよね」
- オタク描写の古さ
- エロ漫画業界の描き方
- ユマの生きづらさの原因
”障害者の偏見を打破する”という映画なのに、オタク描写はなんでこんなに古くて偏見混じりなんだろう? ってね
主「今となっては漫画・アニメが好きな人なんて一般的な存在だし、たくさんいる。オフ会とかならともかく、初めて会う人の前でオタTを着てくるオタクというはかなり減っている。
オタク系の婚活とかいけば、ああいうオタク像がかなり古いものだとわかると思うんだよね。
それでも滲み出る気持ち悪さ……それは話し方、態度などで出てくるとは思うけれど……まるで宅八郎の時代から何も更新されていない描写が気になった」
カエル「オタクだからこその違和感だよね。特に、最近の若いオタクはファッションにも気を遣っている人も多いし……」
主「それはまあどうでもいいのかもしれないけれど……2つ目は漫画業界の描き方。
今時、持ち込みOKの出版社は多いし、なんならば郵送も受け付けている。講評もしてくれるわけだ。だったら、わざわざアダルト漫画にする必要ってあるの?
しかも漫画業界にいる人で、ネットも普通に使えるのにそれを知らないの?」
カエル「それは……障害者と性のテーマに持っていくために必要なんじゃない?」
エロ漫画ってバカにされがちな部分もあるけれど、実はレベルがすごく高いんだよ
主「もちろん、この映画がエロ漫画をバカにしているとまでは言わない。だけれど、まるで……自分も経験があるけれど、”小説を書いてます”というと、官能小説? ってニヤニヤ笑いながら聞かれることがあるんだよ。
いや、官能小説ってすごく難しいからな?
エロ分野ってどうしても悪く思われがちだし、一般的な批評がなされにくい分野でもある。だけれど、実は1話、あるいは数話完結でエッチなシーンを描きながらも、人間性やドラマをきちんと磨き上げていく分野でもあり、高い技術が必要とされるんだ。
具体的には、いくに瑞貴の描写力とか、牡丹もちとのエロコメ力とかは絶賛に値するよ。
さらに言えば、編集部の人が『セックスを知らないといい作品は書けない』とか……いうかなぁ。
まあ、そういう人もいるんだろうけれど……なんか、漫画分野に関する描き方が、ちょっと引っかかるんだよなぁ……」
そこは個人の趣味ということで……
で、さらにいうとこの子の生きづらさって障害だけじゃない気がするんだよね
主「わりかし序盤からさ『あ、この子は多分こっち側の人間だ』ってわかるのよ。オタクの習性を濃く受けているというかさ。
ユマの悩みって、別に障害ばかりが問題じゃない。
なんなら、非モテのオタクであればあるほど、あの娘の気持ちってわかるよ。いつまでも親に依存しちゃっていたり、あるいは外に積極的に関われないとか……普通だよ。
作中でも10年間引きこもっていたオタクが出てきたけれど、そこは障害関係ないんだよね。
だからこそ希望を感じた。
『あ、オタク語りの要素もあるから、障害は関係ないって描くのかなぁ』と思ったら、ガッツリ障害の話にシフトしていく……まあ、それはいいんだけれど、そこがモヤモヤポイントだったかな」
後半の物語の違和感
それが結構続いちゃったわけか……
特に後半は違和感があったんよねぇ
カエル「色々あって、ユマが外の世界を知っていく描写だね」
主「なんかさ、急に飛び出していった割には飛行機のパスポート持っていたり、割とご都合感があるなぁ……という疑問もあった。
あとは、介護士の俊哉があまりにもいい人すぎたりとか……物語の都合とはいえ、そんな細かいポイントが1つ1つ積み重なる。
多分、家出の期間そのものはそこまで長くない設定だと思う。だけれど、働いている介護士と一緒にタイまで行くのは……流石に無理があるんじゃない? って。
あとは、終盤は別に障害とか関係ないよなぁ……って」
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カエル「でもさ、そこは”障害なんて関係なく、自分のルーツを探す旅に出る”という話になったと解釈もできるんじゃない?」
主「だとしたら……2つのシーンが違和感がある。
1つはタイでのある人との出会い。
そしてもう1つがラストの母親との対峙。
タイのある人が、ユマと対になる存在なのはわかる。だけれど、彼女に最後にああいう行動を取らせるのか……と愕然としたし、ラストの母親との対峙もちょっとどうかと思った」
結局、自分の違和感って”オタク描写”と”ユマがいい子すぎる”という点に尽きるんだろうね
主「なんでみんなユマに謝るのかなぁって。
別にタイのあの人はなんも悪くないし、なんならほぼ他人みたいなものだし。
ユマだって勝手に抜け出して、いろんな人に迷惑かけて、彼女なりに悪い部分がある。だけれど、みんなユマに許されようとして、謝っている。そこを感動のように描く。
でもさ、それって何か違う気がする。
まるでユマが人々を許す側の……まるで聖人のように描かれているけれど、そういう描写が問題なんじゃないかなぁって。
もっと普通の人のように……欠点のある人のように描くことが大事なんじゃないの?
なんか、この映画のユマはいい子すぎて、聖人のようで、健常者が障害者にあって欲しい姿を見ているようで、ちょっと息苦しいんだよね」
自分が愛した障害者を描いた映画たち
でもさ『パーフェクト・レボリューション』は大絶賛したじゃない
だって、熊ってどうしようもないおじさんじゃん
主「女性が大好きでさ、人前でイチャイチャして……結構いい年しているのにさ。
しかも『パーフェクト・レボリューション』では、低い視線をいいことにパンチラしようとしているんだよ。いってしまえば、俗なおじさんだよね。
だけれど、俗っぽいからいいじゃん。
そこに”障害者は特別なんだよ”って視線はない。普通のだらしない部分もあるおじさんだからこそ、自分が抱える障害者像をぶち壊してくれた」
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カエル「あとは……オールタイムベストクラスに好きな『聲の形』とかは?」
主「確かにあれも障害者を聖人のように描いている部分もあると言われているけれど、きちんと人間としての弱さも描く。そして健常者と障害者が『一緒に生きよう』というシーンがあり、徹底的に同一化して描いているんだよね。
で……この映画の問題点もそこなんだよ」
なんで、あの漫画家の友達は排除されちゃったのかなぁ
カエル「え、だって障害者搾取するような酷い人だったし、全くユマのことを見ていなかったし……」
主「それは描写の問題だよね。
最初はどんな関係だったんだろう?
普通に友達だった時もあるんじゃないかな?
作品を作ることも大変だけれど、売るのも大変なんだよ。そしてその売る方を担当していた部分もあるわけで……確かに、騙したのは悪い。搾取するのは許せない。
だけどさ、だけど……”だけど”ってことがあるんじゃないの?
その”だけど”っていうのが、人間の弱さだったり、あるいは偏見を打破する鍵になるんじゃないの?」
結局、自分が言うことっていつも一緒なんですよ
主「”悪とされる人に思いやりを持ちなさい”ということ。
また、障害者を上げるために、健常者を下げちゃダメ。その両者の融和が大事なわけでさ……なんならば、何回もいうようだけれど自分は漫画家コンビ2人の物語を見たかった。
手紙を渡して、それだけで”はい、おしまい”ってのは……ちょっと、違和感があるかなぁ。
結局は、一部分がすごく表面的に感じられてしまう映画だったかなぁ」
まとめ
では、この記事のまとめです!
- 紛れもなく2020年を代表する邦画作品
- この映画を作るにあたり”覚悟”の強さに恐れ入る
- ただし、一部シーンに違和感が……
- 監督・キャストの今後の活躍に期待
ケチをつけたようですが、全体的には良作だと思います
カエル「障害者を扱った物語の中でも、特別な作品になったという方も多いのではないでしょうか?」
主「やっぱり、語りたくなる映画でもあるしね。
多分、まだ若い監督だと思うけれど……世界に通用するであろう才能だし、頑張って欲しいです」
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