物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』ネタバレ感想&評価 悪くはないけれどもっとコメディに徹して欲しかった!

障害をテーマにする邦画も少しずつ増えてきた印象もあるかなぁ

 

本当に社会的に重要なテーマだしまだまだ足りないと思うけれどね

 

 

カエルくん(以下カエル)

「うちは障害と物語の関係性について、結構重視している部分もあるので辛口になってしまうかもしれません」

 

「ただ、ハマれば今年ベスト級の評価をするのがこのジャンルでもある」

 

カエル「とても難しいテーマを予告ではコメディ風に撮るようだけれど、どのような作品になっているのか楽しみだね」

主「すでにお気づきかもしれませんが、うちでは”障害”表記で統一しています。

 これも言葉狩りのような方法で障害について向き合っている”気”にさせないためです。

 それでは”こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話”の記事スタートです!

 ……この”愛しき実話”っていらないよなぁ……」

カエル「はい、始めますよ!」

 

 

 

 


大泉洋『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話 』予告編

 

 

 

感想

 

それでは、Twitterの短評からスタートです!

 

 

悪くはないけれど疑問はあるかな

 

カエル「まずは、これは最初に語っておかなければいけないけれど、障害を抱える人をテーマとしているけれど、決して大きな描写に差別的な問題がある、というわけではありません!

主「予告でも使われているけれど『障害者だからって幸せになっちゃいけないってのかよ』という台詞は今の日本では非常に重い言葉であって、バリアフリーも完備しているとは到底言えない状況だ。

 いつも語るけれど、この国の物語は障害者はいないかのように無視するような作品もある。

 障害者は物語の主人公やヒロインになれたとしても、モブ役や悪役にはなりづらいし、その描き方も一面的である。

 だからこそ、映画などの物語はもっともっとたくさん障害などを描く必要があるんだよ

 

カエル「その意味では、本作もすごく社会的な意義がある作品だよね」

主「もちろん配慮もされているし、モデルになった鹿野さんはすでに亡くなっているので描き方がある程度限定されてしまう部分があるだろう。どうしても美化せざるをえない部分もあるだろうしね。

 意義のある作品なのは間違いないです

 

 

 

一方で欠点も

 

だけれど、注釈付きになってしまっているのは……?

 

日本の物語作品の限界を感じるなぁ

 

カエル「つまり、お涙頂戴の映画になっているのではないか? という懸念だね」

主「日本はさ、障害者をテーマにするとほぼ同じような切り口になってしまう。

 いい例が今作も日テレが関与しているけれど24時間テレビだよね。

 ”障害があっても頑張る!”という描き方。それが悪いとは言わない……けれど、自分はそういう物語が本当に好きじゃない。

 それは物語の可能性を否定しているし、同時に障害者を馬鹿にしている行為だとも思うからだ

 

カエル「この辺りは賛否が分かれるだろうけれど”ハンデを抱えても頑張る!”という人の奮闘を見て涙するって、どこかしらで見下すというか、ちょっと特別視しないとできない感動だからね……

主「今の日本の恋愛映画業界では猫も杓子も病気ものが多いけれど、これも同じだよね。病気というハンデを抱えて、残りの人生が少ない中で恋愛をする! という心情に涙する。

 だけれど、それってどこかしらで病気や障害を下に見ていないと成立しない部分があって、そこは物語の難しさや残酷な部分でもあるけれど、日本の場合はそれがあまりにも一面的過ぎるきらいがある」

 

カエル「もっともっと多様性があるべきだ、という考えだね」

 

主「その意味では本作にはとても期待をしていた部分があって、予告からも”コメディ映画ですよ”というアピールに感じられた。

 でも、蓋を開けてみれば中盤以降は単なるお涙頂戴映画になってしまった。

 作中では『障害者って本当に不幸だと思ったからボランティア活動に参加したけれど、鹿野さんは幸せそうだからなんか違うと思った』という理由で勝手に電話でボランティアをやめてしまう若者が出てくる。もちろん、これは社会批判でもあり、重要な描写だ。

 だけれど、同時に作中では病気によって苦しみ、亡くなりそうになりながらも、その危機を必死で乗り越えていく姿を感動的に、お涙頂戴で描く。

 これってさっきの若者の意見とどこが違うの?

”障害者や病気を持つ人が苦しんで、それを乗り越えていく姿に感動させる”という物語形式自体が本作には全くそぐわない。

 それこそ作中で批判した姿そのものなんだよ。

 障害者だって自由だ、幸せに暮らすんだ、もっと色々な人生があるんだって言うならば、物語自体がよくある障害者モノから解放されなければ、全く意味がなくなってしまう

 

 

 

 

障害者と性の問題

 

今作では障害者と性に関する問題がたくさん出てきたね

 

これは重要な視点だよ

 

カエル「近年では乙武洋匡の不倫報道が出た時の雰囲気って、ちょっと気持ち悪い者があったよね……」

主「手足がないからセックスできない、もしくはモテるはずがない、という偏見だよ。むしろ、あれだけ積極的で色々と活動しているし、顔立ちだって普通以上に整っているのだからモテない理由がないと思うけれどね。

 もちろん、不倫自体を擁護するわけではないけれど、障害者だって普通の人間であり、性欲もあるよ

 

カエル「まあ、乙武さんは障害者としての自分を売りにしていて、そのイメージを使っていた部分もあるし、教師などもしていたから色々とクリーンなイメージを大事にしなければいけない人であって、単なる障害者とは違うというのもわかるんだけれどね」

主「”体が動かせないから性欲はない”などの思いがある人だっているかもしれない。普通の恋愛映画であれば存在するセックスシーンも、障害者が絡むと全く出てこない。

 その偏見や思いを打破しようというのはとてもいいし、本作を評価したい理由でもある。

 ……まあ、その描き方がうまいか? と問われると、そこまで上手くないから手放しに絶賛はできないんだけれど……」

 

カエル「実際にあったことだし、まだ親御さんなどの家族の方がご存命だから、あまり突っ込んだことはやりづらいのはあるだろうけれどね」

主「本作はそこも期待したんだけれどね……」

 

 

 

”障害”を描くとは?

 

では、障害をテーマにした傑作映画のお話をしようか

 

今作と比べてほしいのが”パーフェクト・レボリューション”だよ

 

 

 

 

blog.monogatarukame.net

 

カエル「2017年公開の映画であり、うちでは年間ランキングで5位になったリリーフランキー主演の邦画です」

主「身体障害者のセクシュアリティーに関する支援を行う特定非営利活動法人ノアールの理事長を務める、熊篠慶彦の実話を基にした映画だ。

 この映画の中では健常者にはドキッとするような描写やシーンがとても多く、かなり踏み込んだ作品となっている。

 どうしても本作のような障害者と性について語った作品の場合、比較してしまうけれど……ここまで踏み込めば本当に素晴らしいと思える作品だよ」

 

カエル「そしてもう1つはうちの看板記事の1つでもある、2016年を代表する『聲の形』です」

 

 

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主「なぜ聲の形をそれほど評価するのか? と問われると、もちろん映画としての出来の良さも当然あるけれど、それ以上にこのテーマは素晴らしいから。

 ”聴覚障害を抱える女の子”を普通の女の子として描き、そしていじめの加害者と被害者という枠を超えて、生きる道を模索する……という物語は現代でも重要な視点だ。

 聲の形は障害者、健常者という枠組みを超えていく。それも、そうあることが当たり前かのようにナチュラルに超えていく。

 残念ながら『こんな夜更けにバナナかよ』の方は、最後まで”障害を抱える鹿野”を超えることはできなかった。

 ここが自分の評価が辛口になってしまった最大のポイントだね」

 

 

 

 

うまい演出も冴える

 

でも、全部が全部ダメだったわけではないでしょ?

 

もちろん! 映画としていい演出もたくさんあったよ

 

主「それはもう冒頭から発揮されていたよね。

 この映画はスタート直後に鹿野が暮らす家を映すけれど、そこでは車椅子に乗るおばあちゃんや子供が走り回る。それが日常として描かれるわけだ。

 これは社会として普通に障害者と健常者が接しているし、どこにでも鹿野のような人はいる、という意味にもなっている

カエル「物語を振り返ると、この描写も意味があるよね。

 鹿野さんは子供の頃は普通に走り回れていたけれど、小学生くらいの頃に発病が発覚し、成長するにつれて症状が重くなっていきます。

 そう思うと、子供の頃は走り回れていたのに……という意味にも思えてくる」

 

主「それと同時に、筋ジストロフィと聞くと特殊な病気に思えるかもしれないけれど、老化すると自分の足で歩くのが難しくなる。そして、筋肉も衰えて介護が必要になってくる。

 そう考えるとこの映画が描いたことって、別に特殊なことではないんだよ。誰にだって起こり得るし、これからの社会ではさらに重要性を増してくることだ

カエル「親や子供などに頼らない福祉の形かぁ……」

 

主「それから、中盤かなぁ……少しづつ仲良くなる鹿野と美咲だけれど、彼氏と喧嘩したあたりから美咲が屈んで目線が同じになる。

(予告にあるグッとくる描写は敵意があるので除外)

 それまでは立ったままで、どこから見下すような見下ろす視点だったけれど、それが対等になっていったりという映像の構図で見せる工夫もある映画に仕上がっている

 

カエル「映画としても工夫を感じるよね」

主「ただし、テンポが悪いし物語がのっぺりとして……波ができていない印象もした。これは多くの配慮を行った結果、フックの効いた表現ができていないとも言えるだろうな。

 でも悪い映画ではないし、それだけ社会的な意義があったからこそ……先に語ったポイントが残念だよなぁ

 

 

 

 

まとめ

 

ではこの記事のまとめです

 

  • 障害や病気について配慮された作品!
  • 一方で配慮が行き過ぎているのでは? と思う描写もチラホラ……
  • 映画的な工夫もあるが物語は配慮のせいかメリハリに欠ける?

 

社会的な意義がある作品です!

 

カエル「願わくば、学校などで見るような作品のレベルを超えてほしいというのが本音かなぁ」

主「難しいのは重々承知、だからこそ挑んでほしいと切に願うよ」