今回は公開からしばらく経ちましたが『ひとよ』の感想記事になります!
こういう傑作はきちんと記事にしないとね
カエルくん(以下カエル)
「ここ最近はサボりがちなところがあったからねぇ……記事自体が消えてしまった『羅小黒戦記』は仕方ないにしろ、書きかけで止まっている『蜜蜂と遠雷』などはきちんと書き上げたいね」
主
「そういう確かな傑作を後回しにしている今の状況はいかんよなぁ……と思いつつ、書きたい作品の案はまた出てきてしまうし、色々と忙しいしで大変なんだよ」
カエル「はい、そういう言い訳は置いておいて、記事のスタートです!」
感想
では、Twitterの短評からスタートです
#ひとよ
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2019年12月1日
白石監督は今の日本で1番の名監督と言いたくなるほどの傑作
過去や家族関係に翻弄しボロボロになる家族に心をかき乱され、たどり着いた結論に涙が出てくる
映画的な演出も細かく考えられており豊かな表現を堪能した
見逃さないで良かった pic.twitter.com/7OEsd5QvfV
見逃さないでよかった……白石監督が絶好調であることがわかる作品だな
主「やっぱりさ、映画監督に限らず創作者には好調・不調の波とか、あるいは作り手としてのピークがあると思うんだよ。こんな言い方をするとまるで白石監督が今作がピークでその先落ちていく、という風に受け止められてしまうかもしれないけれどそうじゃなくてさ、今最も勢いがあってノリに乗っている監督なんじゃないか? ってこと。
その力を強く感じさせる作品だった」
カエル「大雑把に言うと、どういうところがいい作品なの?」
主「これから細かく言及するけれど、物語上の視点の良さと映画的な細かい演出たち、そして”これを撮ったら勝ち”と言えるカット・ショットが多いことかな。
それと白石節が炸裂していることもいい!
世間的には高評価が相次いでいる作品を生み出しているけれど、個人的に本当にハマったと言えるのは実は『凪待ち』からなんだよね。それ以前はいい監督という意見に賛同はするけれど、でも年間ランキング10位以内にどうしても入れたい! というほど好きになるタイプではなかった。
2019年に制作された『凪待ち』と今作はどちらも愛おしく感じる作品たちで、自分としては2019年の邦画でもトップクラスの評価を下したい」
白石和彌監督作品の傾向について
じゃあ、ここで一度白石作品について考えていきましょうか
もしかしたら、うちで1番作品について言及している監督かもしれないかな?
カエル「このブログは2016年に開始していますが、白石監督が本格的に長編映画を撮り始めたのも、そのちょっと前くらいなんだよね。そして非常に早撮りの監督でもあることから、年間2〜3本の公開を続けています。
そのため、2016年以降に監督した映画を全て見たわけでもないのですが、結果的に1番監督作について言及している監督になると思います」
主「『牝猫たち』『彼女がその名を知らない鳥たち』『サニー32』『孤狼の血』『凪待ち』だから……今作で6作目か。
多いなぁ。
これで2016年以降の作品を全部見ているわけではないんだから、どれほど精力的に活動されているか、よくわかるな」
カエル「その特徴ってどこにあると思う?」
主「基本としては”罪人たちの話”だよね。後ろ暗いものを抱えている人たちであったり、世間から後ろ指されるような人たちの悲喜こもごもを描いた作品を、バイオレンス混じりに描いている。
その中で『牝猫たち』『彼女がその名を知らない鳥たち』であったら恋愛と男女の業を描いており、似たテーマということもできるだろう」
じゃあ、本作は白石監督作品としてはどのような立ち位置になると思う?
『凪待ち』とセットで語ることが多くなるんじゃないかな?
主「自分は『凪待ち』以降で白石監督作品の真価を理解したと思っているけれど、それ以前はあまりピンとこない部分もあった。『孤狼の血』とかは東映任侠映画に興味がある人ならばともかく、自分はそこまで思い入れもないので『面白い映画だなぁ……』レベルで終わってしまった。
でも、この2019年公開の2作は……テーマがそれまでと若干違うよね。
つまり”家族の業”が描かれている。
『凪待ち』では血に頼らない家族や人間たちの縁を描き、今作では血によって縛られる家族の業を描いた。自分は家族を描いた映画って特に興味があるんだけれど……だからこそ、単なる暴力だったり、あるいは恋愛よりもさらに深い人間の宿命を描いた本作に強く惹かれたのかもしれないな」
役者陣について
じゃあ、役者についてはどうだった?
基本的には満点だよ
カエル「そもそも佐藤健をはじめたとしたこの役者陣で、しかも白石監督ときたら不安に思うわけはないか……」
主「自分にとってはアクションができるイケメン俳優のイメージが強かっただけに、今回の役所は意外な一面を見せたかな。また一人若手イケメン俳優の枠に留まらない役者になったと思う。
さらに鈴木亮平も実直な中に葛藤が見えたし、とても良かった。基本的には誰を上げても良かったという評価になる」
カエル「その中にはもちろん松岡茉優も入るだろうしね」
主「もう文句の付けようがない天才だよねぇ。
2019年は『蜂蜜と遠雷』と込みで、主演と助演の両方で最優秀賞に輝いても何も文句がない存在。
それくらい、抜けている縁者だよ。
あと、2019年で1番印象が変わったのはMEGUMIでさ『台風家族』もそうだったけれど、彼女の存在感が際立っていた。
良い感じで歳をとってきて、悩めるアラフォーくらいの年頃の女性を熱演できているし、2019年ベスト助演女優賞レベルだと思う。自分としては台風家族と合わせ技一本で年間ランキングベスト女優賞に選出しようか考えるレベルだね」
というわけで、概ね満足度は高いんだけれど……1つだけ文句があるらしいけれど……
文句と言うと言葉が悪いなぁ
主「いや、もうこれは誰が悪いって話でもなくて、演じた本人も悪くないんだけれど……大悟がさ、ちょっとどうにかならなかったかなぁって……」
カエル「演技自体が悪いの?」
主「いや、なんと言うかさ……急に大悟が出てきた瞬間に、完全にコントになっちゃったんだよね……いつもの大悟の漫才のような役所だし、イメージもぴったりだったし。ノブが出てこないのが不思議に思うほどで……
シリアスなシーンだからこそ、余計に違和感を抱いてしまったかなぁ。
まあ、でもこれは作品に致命的な問題を与えるほどではないから、良いんだけれどね。誰が悪いってわけでもないし、監督かプロデューサーかは知らないけれど、キャスティングした人の意図は納得する。
だからこそ……誰も責める気はないんだけれど、でもなんだかなぁ、と言う思いがあったねって、単なる愚痴です」
以下ネタバレあり
演出解説
日本家屋の良さ
ここからはネタバレありで語っていきます!
今回は明確に演出論を語っていこうと思います
カエル「まあ、うちでは多い語り口ですが、今回はここに力を入れて語っていきます!」
主「やっぱりさ……日本家屋って良いよね」
カエル「……日本家屋?」
主「今作って明確に日本家屋の良さを最大限に活かした演出が多いんだよ。
その中の1つが引き戸。
今作は古い建物のタクシー事務所が舞台となっているけれど、その味が出すために使われている。
例えば、初めてお母さんであるこはるが家に帰ってきたシーンを挙げると、ここで1度お母さんに驚いて引き戸を閉めてしまう。
それも勢いよく、ピシャと。そうなるとどうなるかと言うと、より強く追い出した感が出るわけだ」
カエル「それって一般家屋のような扉じゃダメなの?」
主「だめとまでは言わないけれど、絵としては弱いよね。
- カーテンの奥の誰かがいる(母の幻影)
- 開けたら母がいる(実態のある母)
と言う演出も引き戸ならではだし、なんならば兄妹がいる家の中=日常、母のいる外=非日常を強烈に演出し、それを扉1つ隔てて入ったり、あるいは出たりと言うので物語を動きで構築している。
また、そのあとで母が抱きしめるの2人だけと言うのもこの後の物語を示唆しているわけだ。
このように、本作では”このカット(シーン)を撮ったら勝ち”と言う部分が非常に多いんだよ」
いつ兄弟は母を許したのか?
次に語るのはどの部分?
もう肝の肝だけれど、このシーンだね
カエル「雄二がこはると初めてと言っていいくらいの時に向き合ったシーンだね」
主「このシーンが最もこの映画を象徴しているかもしれない。
それくらいうまくいっているカットでもある。
ここで2人の対比がはっきりしているじゃない。
雄二が黒い服を着て、髪も黒くて彼が複雑な思いを抱えていることがはっきりと伝わってくる。一方でこはるは髪も真っ白になり、光が差し込む中でゆっくりと座っている。
過去のこはるは髪も黒かったけれど、今は白い。これは歳を重ねたこともあるけれど、もうすでに罪を償い、過去を吹っ切ったと言うこともできるわけだ。
ここで視線を同じくする……同じ視点で物事を見つめているようやくお互いがはっきりと向き合ったと言うことだよね」
カエル「ふむふむ……」
主「こういった部分を積み重ねることによって、映画というのは出来上がっていく。
さらに園子がスナック? で『夢を諦めないで』を歌うところなんて最もわかりやすく象徴的じゃない。彼女は何1つとして諦めきれていないというのが、はっきりと伝わってくる。
その他にも観客の視点の変更があったり……これは雄二が顕著だけれど、彼が最低の息子だと思いきや彼なりのけじめの付け方だったと理解できるシーンがあったりさ、人に対する印象がガラリと変わったりする。
そういうのが本当にうまいし、罪人やダメな人への愛に溢れているよね」
今作で最も痺れたシーン
じゃあ、それだけ褒めている中でも最も痺れたシーンってどこなの?
やっぱり屋外のタバコですよ
カエル「兄妹3人が揃ってタバコを吸う、長回しのシーンだね」
主「ここは『リズと青い鳥』風にいうならば、3人を物陰から覗き込む視点であるわけだ。
3人の姿をじっくりと、邪魔することなく見守ろうという視点になっている。また、このタバコ場というのは”煙を吐き出す”つまり”思いの丈を吐き出す”という場所にもなっている。
そこで3人の和やかな会話と、さらにわざわざ座らせた上で目線や頭の高さを同一になるように撮っている。3人の思いが一致したことを描いているわけじゃない。
このシーンを見たときは痺れたねぇ……これが映画であり、映像演出の積み重ねの結果にある面白さだと感じた」
カエル「やっぱり、うまく練られた作品なんだね」
主「物語としては中盤若干だれた部分もあったけれど、父との幻影である堂下との対決であったり、家族の思いの丈がはっきりとぶつけられていたのは好印象。
最後のさ『でも、自分にとって特別ならばそれでいいじゃない』という決めセリフには痺れた。ここのラストに向けて逆算して物語が作られていったんだなぁ……と感慨深いし、家族のどうしようもなさと救いの両方を描いたこと……これが偉大だったと言えるのではないでしょうか?」