今回は本屋大賞も受賞した『羊と鋼の森』の記事です!
本屋大賞くらいは読んでおいたほうがいいのかなぁ
カエルくん(以下カエル)
「映像化率もとても高いから、チャックしておいて損はないでしょうね」
主
「面白い作品が多いのも事実だしねぇ」
カエル「最近はあまり小説を読まなくなってきたけれど、ここいらで久々に本を買ってみたら?」
主「置く場所がないしなぁ……電子書籍で小説を読むのは、まだ抵抗が少しある。
まあ、慣れなんだろうけれど……」
カエル「そんなこと言っていると時代に遅れていくよ。しかも記事は電子で書いているのに……」
主「確かにねぇ……
とりあえず、映画の感想記事を始めます!」
作品紹介・あらすじ
2016年に本屋大賞も受賞した宮下奈緒の同名小説を『orenge オレンジ』の監督を務めた橋本光二郎が映画化した作品。脚本は『となりの怪物くん』などの金子ありさ。
『orenge オレンジ』でも監督とタッグを組んだ山崎賢人がピアノの調律師の青年を演じる。また、上白石萌音と上白石萌歌の姉妹が、作中でも姉妹で演じることも話題に。
その他三浦友和、鈴木亮平、堀内敬子などが脇を固める。
高校で暗い日常を送っていた外村は学校に訪れたピアノの調律師、板鳥の仕事に惹かれて調律の世界を志す。専門学校に通い2年で早朝したのに、調律師として板鳥の元で働くことに。
先輩である柳の指導のもと、少しずつ調律を学んでいく外村。そんな中、ピアノが好きな高校生の姉妹、和音と由仁らと知り合い、時には挫折を経験しながらも成長をしていくのだった。
感想
では、いつものようにTwitterの感想からスタートです!
#羊と鋼の森
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年6月8日
まさか邦画からこんな傑作音楽映画が生まれるとは
今年は邦画大豊作な印象もありますが今作も素晴らしい作品
特に音楽が最高!
登場人物の心情を絵と音楽で全て説明しており、映画の快楽に包まれるひと時は至福の一言
ぜひ映画館で! pic.twitter.com/v8nn9PLjss
ずっと感動していたよ……
カエル「なんだか、鑑賞中思わず涙が出てしまう部分もあって……上映時間が2時間超えだから、ちょっとだけ長いかな? と思う部分もあるけれど、それぐらいしかケチのつけようがない作品だったかなぁ」
主「もう、観ている最中に涙が出てきてさ。
この作品は、もちろんピアノの調律師とピアニスト(プロアマ問わず)を描いているんだけれど、それと同時に
『仕事とは何か?』
『生涯かけてやる価値のものとは何か?』
などを語りかけてくるんだよね。そして1つの表現者としての心意気も感じられて……とても一言では表せない、見事な作品だった!」
主役を務めた山崎賢人
(C)2018「羊と鋼の森」製作委員会
役者について
カエル「今作の主演は山崎賢人で、数ヶ月おきに何かの映画の主演を張っているのでは? と思うほどの大人気俳優だね。その分、ヘイトも多い印象があるけれど……」
主「正直さ、今まで山崎賢人はそこまで評価してこなかった部分もある。
それは出ている作品の演出が特徴的なものもあって……『氷菓』とか『斉木楠雄』とかは、かなり独特な面もある作品だから、必ずしも役者が悪いわけではないけれど……でも、これは! と思う役がなかったような印象がある。
今作はかなり良かった!
いや、確かに『これは2018年ベストアクトだ!』というほどではないかもしれないけれど……自分の中の評価を改めるほどの演技だったね」
カエル「少しナヨナヨしたような、ナイーブで真面目な好青年が見事に板についていたね。そんなに多くの面を見せるような役ではないけれど……それが味になっていたし」
主「今回は上白石萌音と上白石萌歌の姉妹が共演しているけれど、こちらもすごくよくてさ……純朴で本当にピアノが大好き! というのが伝わってきた。
そしてそれぞれの性格の違いもはっきりあるけれど、心底仲の良い姉妹であることも伝わってきて、ベストキャスティングでしょう!」
カエル「他にも鈴木亮平、三浦友和などの演技も落ち着いていて、でも魅力のある大人ですごくよかったよね」
主「今作は飛び抜けてよかった役者はいない印象で、MVPは選べません。
ただ、全員の演技がとてもいい!
だからこそ、物語として魅力のあるものになっているんじゃないかな?」
中のいい姉妹の姿は役を超えて語りかけるものがある
特に連弾のシーンが良かった!
(C)2018「羊と鋼の森」製作委員会
音楽の魅力!
何と言っても見所は音楽!
実写邦画でここまで音楽に力を入れる作品が出てくるとは……
主「ぶっちゃけさ、実写邦画の最大の欠点は音楽だと思っている。
ハリウッド映画やアニメに比べると、BGMも何もかも、音がそこまで良くない印象があった。劇場でもいい音響のスクリーンは洋画やアニメに当てられていて、実写邦画はそこまで注目されていない印象がある」
カエル「制作費を抑えるために音響はそこまでこだわっていません、という話も聞くかなぁ」
主「それは一般的な映画であれば仕方ないかもしれないけれど……本作はそんなことをしてしまったら、もう元も子もない。
だって、本作は音楽映画なんだからさ。
その点、今作はとても素晴らしいです!
今年は『グレイテスト・ショーマン』と『リズと青い鳥』が抜けているかな? と思ったけれど……まさかまさかの実写邦画がこの2作品と並ぶほど、見事な音楽を披露してくれました!」
カエル「その2作に並ぶほど、というのは音楽映画として今年最高峰の評価と言っても過言ではありません」
主「2018年は邦画もいい作品が多い印象だけれど、音楽に関してはもう実写邦画では今年1番確定なんじゃないの?
それくらい飛び抜けている。
もちろん、いい音楽を発揮している作品も他にもあるけれど……『モリのいる場所』とかね。
ただ、音楽と映画が密接に関係していて、これほどの相乗効果を生む作品は他にないのでは?」
以下ネタバレあり
作品考察
説明台詞の少なさ
では、ここからはネタバレありで語っていきましょう!
本作は『映像』と『音楽』で多くを語る作品なんだ
カエル「もちろん、序盤では色々と説明的なセリフが出てくるけれど、それもあまり気にならないようになっているよね。
主人公が通っているピアノの調律学校の先生の授業によって、調律とは何か? ということを教えてもらっている描写をそのまま見せることで、説明セリフが気にならないようにしていたり……」
主「それから、最低限の情報は主人公が新人だから、周囲の先輩たちが教えてあげる、という形で会話を進めていく。そして、先輩社員である柳(鈴木亮平)が色々と教えてくれることによって、外村(山崎賢人)がいかに未熟な存在なのかも観客に説得力を持って説明してくれている。
でも、大事なのはそんなことじゃない」
カエル「特に今作の音楽が素晴らしいのは、その時の状況や登場人物の心情を音楽で表現しているからなんだよね。
佐倉姉妹が登場した時に、2人とも調律した直後のピアノを楽しそうに弾く。だけど、その曲調が全く違うことによって、その2人の性格の違いが本当によくわかるようにできていて!」
主「姉の和音(上白石萌音)が穏やかでゆっくりとした曲調を好み、妹の由仁(上白石萌歌)は明るく、跳ねるような曲調で弾く。
演奏だけでどのような姉妹なのか、はっきりとわかる。
そしてその直後のやり取りの真意が明かされる時、この姉妹がどれほど仲がいいのかはっきりわかるようになっている」
鈴木亮平の先輩も見事!
大好きなキャラクターの1人です
(C)2018「羊と鋼の森」製作委員会
雄弁に語る音楽、語らないセリフ
主「今作が素晴らしいのは、音楽に対してとても真摯に作り込んでいるからだろう」
カエル「あれだよね、下手な邦画って音楽シーンで『……なんて素晴らしいんだ!』とか『悲しい気持ちが伝わって来る……』なんてナレーションやセリフが入ってしまうことが多い。
それが最大の見せ場なのに、セリフで見せてしまっては、全く意味がないじゃない?」
主「これは自分が『リズと青い鳥』を絶賛した理由の1つだけれど、このような作品は音楽の力を信じていないと絶対に作ることができない。
例えば『固い音』のイメージを表現するシーンがあり、そこでは実際に音の違いを表しているけれど、はっきりいってしまえば、自分にはほとんどわからなかった。言われてみれば『まあ、そうなのかな?』というレベルのものである。
だけれど、それを演出と音で表現して『確かに固い音だ!』などと言わなかったこと……
それはこのシーンだけじゃない、全体的に言葉が少ない作品なんだよね」
カエル「でもそういうセリフもゼロではないんだよね。そこが少しだけ惜しいけれど、これだけやりきったらもうそれで十分でもあるかなぁ」
主「だからこそ、本作は音楽映画としてかなり高いレベルにあると感じている。
例えば姉妹の仲がぎくしゃくした時に『最近仲が……』とか喧嘩のシーンを作るのではなく、演奏でそれを表現する。
音楽映画って、ただいい楽曲を用意すればいいわけじゃない。
その楽曲を支える演出が必要であり、そして最大限生かせるように努力しなければいけないわけだ。
それができるかできないかによって、大きく完成度が左右される作品であり、本作はその意味でもずば抜けているんだよ」
やはり光と影の演出がとても澄み渡る……
(C)2018「羊と鋼の森」製作委員会
演出で補完するもの
続いては演出のお話です!
スタートから映像がとても素晴らしい作品だね
カエル「本作のスタートは普通の学生である外村が、学校のピアノの調律に訪れた板鳥と出会うシーンから始まるけれど……外は雪が積もっていて、非常に寒そうなんだよね」
主「このシーンがとても美しくてさ。
体育館のピアノを調律してもらうけれど、すごく暗いんだよ。外にある雪の光だけがピアノを照らしているような、そんな部屋だ。役者の顔もわからないくらい暗いからこそ、雪の明るさを良い対比になっている。
それだけで外村がどれほど暗い毎日を送っていたのか、それがピアノの調律に出会って救われたのか、すごく伝わって来る」
カエル「それでいうと、中盤のエピソードもまた印象的で……ゴミ屋敷のような荒れた家の中にあるピアノの調律をするけれど、調律前後で意図的に光が明るくなっている。調律がどれほど彼の心に響いたのか、それが大事なことだったのか、よく伝わるいい演出だったなぁ」
主「今作は全体的に光と影の演出が優れていた印象だな。
そのコントラストと、音の演出……この2つがより作品を強く魅力的なものにしている。
ピアノは白と黒の鍵盤で構成されているから、より強く意識したのかもね。
強い感動を引き起こす物語に仕上がっているたね」
境界と場所
カエル「まずは……この2つの画像をご覧ください」
(C)2018「羊と鋼の森」製作委員会
(C)2018「羊と鋼の森」製作委員会
主「今作では登場人物の境界線をどのように作り出していのか? と言うと、このピアノの蓋を支える棒で表現している。
この2種類のシーンを比べるとよくわかるけれど、ここで境界線を生み出しているんだ。
つまり、上の場面と下の場面を比べると
- 外村と柳の技術的な壁
- 壁がなく2人で仲よさそうに弾く」
という境界線を作っている」
カエル「ふむふむ……次はこの場面になります」
(C)2018「羊と鋼の森」製作委員会
主「このシーンでは外村は調律している板鳥を舞台の外、客席のしかも遠くからじっと見つめている。つまり、この世界にはまだまだ辿り着くことができないことを示している。
その場面を憧れを持って見つめているわけだ。
だけれど、その前には『コンサートの調律師には興味がないです』とまで語っていた彼が見つめる先にいる板鳥の地味ながらも、華々しい晴れ舞台、真剣な仕事ぶり、そしてその後にあるピアノのコンサートでの拍手……あれはピアニストにのみ与えられたものではないんだ。
調律師だってその拍手を受ける資格がある。
それによって、外村は目標を新たにしていく……
その様子をしっかりと描きながらも、言葉で説明しない、映像と音楽で描写しているからこそ、本作は高い評価を獲得している作品だよ」
表現論として
「言葉を信じず、イメージを信じ、言葉を信じる」
ここからは今作が示した『表現論』についてということだけれど……
中盤は特に涙が出てきたんだよ
カエル「夢を追う若者の物語だから?」
主「それもあるけれど……柳が迷う外村に送るアドバイスがある。
『言葉を信じずに、イメージを信じ、そして言葉を信じる』というもので……これが特にガツンと響いた」
カエル「……言葉だけを聞くと意味がわからないかもしれないけれど……」
主「いや、でも確かにそうなんだよ。自分は言葉人間であり、言葉で伝える表現を選んだ人間だけれど、ピアニスト……他には絵かきなどは、言葉の表現では伝わらないものを伝えようとする人たちなんだよね。その人たちは、言葉を使うことがあまり得意ではないかもしれない。
でも、明確にピアノの音のイメージはある。
その……伝えられない音をどのように伝えるのか、それが大事なわけだ」
カエル「それはわかるけれど、同時に『言葉を信じる』ということだよね?」
主「簡単に言えば『自信を持て』という意味だと思う。
なんていうのかなぁ……イメージを掴まないで言葉を信じるのと、イメージをつかんだ上で言葉を信じるのでは、同じ言葉でも意味合いが全く違う。
まずは大事にするのは『音のイメージ』だけれど、それはあやふやなものだから、言葉の裏付けを信じる。
それって、別に調律の仕事だけではなくて……例えばさ、マニュアル仕事があったとしても、その言葉だけを信じるのではなく、なぜそうなっているのか、そのマニュアルが伝えたいことを知らないと、却ってわからなくなるかもしれない。
そのマニュアルの意味を知った上で、マニュアルの言葉を信じると、仕事の結果が全く違うものになると思うんだよね」
カエル「ふむふむ……」
文体論
主「自分は言葉の表現を目指す人間だからさ、あの文体の話もよくわかるんだよ。
文体って、とても微妙なもので……それこそ言葉の問題だけれど、言葉にするのは難しいところがある。で
も、だからこそ面白いんだよね。ちょっとした言葉の使い方、単語の選び方、構成……それらを変えるだけで受ける印象が全く違うものになっていく。
その感覚がとても強く伝わってきたんだよ」
カエル「プロの作家だとちょっと文章を読んだだけで『あ、この文体は誰々だな』ってわかる人もいるよね」
主「それってちょっとした違いだけれど、間違いなく名刺代わりになるものなんだ。もちろん、調律師はピアニストあっての調律だろうけれど、それでも目指す音があり、そのピアニストをより引き立たせる音があるはずだ。
その彼らが目指す微妙なニュアンスをいかに伝えるのか……これって多くのクリエイターが悩むことだろう。
だから、単純に『お仕事で一人前になります!』という作品ではない。
クリエイターとして、何をゴールと設定するのか……もちろん、そのゴールにたどり着くことはそうそうできないだろうけれど、目標を定めるのか。より深く、遠いお話を目指しているんだよね。
そのもがきが……とても力強く伝わってきた」
好きなこととの向き合い方
今作の1つの特徴だけれど、色々な『好き』の向き合い方があるんだよね
好きなことに関わる可能性はいくらでもあるんだよ
カエル「それこそ、秋野(光石研)の選んだ道もあるわけだもんね……」
主「どうしても『好きなことで食べていく』か、もしくは『好きなことを諦めてしまう』の2択を選んでしまう人もいるかもしれない。
だけれど、人生というのはそんな簡単に2択で決められるものではないし、もっと色々な可能性がある。
ピアニストだけがピアノで食べていくわけではなく、調律師やコンサートホールで働くことだって、音楽界には重要なことだ」
カエル「そういう人がいないと必ず回らないよね。縁の下の力もちというか……」
主「じゃあ、そのために必要なのは何か? と言うと、別に知識や技術だけじゃない。もちろん、それもそうなんだけれど……もっと大切なものが『感性』だと思う。
例えば、森の中のいるようなイメージであったり、木々や花を知ること。他にも音楽の歴史を知ること、ピアニストの気持ちを知ること……その全てが『イメージ』としてつながってくる。
結局はさ、それまで蓄えた知識をどう生かすか、ということなんだよね。
技術や知識という手持ちのカードがなければ、それを作らなければいけないけれど……でも、それ以外のカードで生きるものが必ずある。
無駄なものなんてないんだよ」
カエル「それを象徴するセリフが『才能っていうのは、ものすごく好きって気持ちなんじゃないか?』というものだね」
主「何かを好きであり続けることは難しい。
そのために努力を重ねることはもっと難しい。
だけれど、好きであれば……色々な道を選ぶことができる。だからこそ、好きでい続ける努力が必要だし、そして自分の体験してきたこと、人生の全てを活かすだけの感性が求められるのではないかな?」
本作が好きな方に是非オススメしたい作品!
ピアノの調律=映画の監督
カエル「えっと……この項目は何?」
主「本作ってピアノの調律師のお話だけれど、鑑賞中に自分は『これって映画の監督みたいだな』って思う部分もあった。
ピアノという脚本や音楽があって、ピアニストという役者がいる。そういった要素をどのようにすれば最大限魅力を発揮できるのか、そのバランスを考えて多くの人に響くように考える仕事なわけだ。
必ずしもコンクールのような静寂な場ではない。小さな音楽バーの調律もあるし、家庭用のピアノの調律もあり、それは状況が……映画でいえば予算や公開規模が全然違うこともある。
それを、うまくバランスをとりながら、多くの人に届ける仕事という意味では、同じだと思うんだよね」
カエル「……まあ、そういう風にもできるのかな?」
主「それぞれの目標、それぞれの夢があり、それぞれどのように向き合っていくのか……ピアノ以外の仕事においても示した作品だと感じたかな」
まとめ
では、今作のまとめになります!
- 音楽映画として屈指の作品!
- 役者陣の抑えた演技とセリフも見所の1つ
- 仕事とは? 夢とは? いろいろ考えさせられる1作!
いやー……舐めてました
カエル「さすがは本屋大賞原作! と言いたくなるほど、レベルの高い実写映画作品だったね」
主「本当にびっくりするほど素晴らしい作品です。
是非是非音響の良い劇場で鑑賞してください!」