カエルくん(以下カエル)
「そういえば、東京国際映画祭もはじまったね」
ブログ主(以下主)
「たぶん日本じゃ1番大きな映画祭でしょ?
興味はあるけれど……たぶん行かないね」
カエル「注目の邦画もアニメもたくさんやっているのに?」
主「……チケット、買えないんよ」
カエル「ああ、人気だもんね。みんな考えることは一緒だろうし、芸能人の舞台挨拶付きだとファンもたくさんくるだろうし……」
主「いや、そうじゃなくて……クレジットカードを持ってないから予約購入ができない」
カエル「え? そういう理由?」
主「現金派だからさ、いくら使ったか財布を確認したいんだよねぇ。いつの間にか引かれているクレジットカードなんて好きじゃないし……使い過ぎが怖いし」
カエル「……そんな子供じゃないんだからさ」
主「いやいやいや、これ大事よ! 多分クレジットカードを作ったらさ、課金ばっかりして気がついたら何万、何十万ととんでいる可能性すらあるから……
手軽だからこそ恐ろしいのがカードであるわけで!」
カエル「まあ、ガチャとかは熱くなるといつまでもやりたくなっちゃうもんねぇ。単なるデータなのはわかっているし、そのお金でソフト1作買ったほうが安上がりなのはわかってはいるけれどね。
ほら、今なら『スーパーマリオ オデッセイ』が人気だよ! あとはゼルダの新作も名作らしいし、大好きなFEの無双ゲームだって評判自体は悪くないし!
あとは洋ゲーとかさ! ストーリー性の素晴らしいラストオブアスとかやってみても……」
主「……ゲームやる時間がない」
カエル「……スマホゲームの最大の魅力は手軽さだもんね。もう何の話をしているのか全くわからなくなってきたから、感想記事に行くよ」
主「はい……」
作品紹介・あらすじ
『ユリゴコロ』など映像化が続く人気作家の沼田まほかるのミステリー小説を映画化した作品。監督は『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』などの監督も務めた白石和彌、脚本は『NANA』『ICHI』など女性を描く作品を手がけることの多い浅尾妙子。主演は蒼井優と阿部サダヲ。
また蒼井優と関係のある男性の役に松坂桃李、竹野内豊などのキャストが脇を固める。
北原十和子(蒼井優)は工事現場で働く15歳年上の男、陣治(阿部サダヲ)と生活を共にしているが、十和子の気持ちはすっかりと離れてしまっていた。しかし特に働きに出ることもなく陣治のお金で生活し、時計販売店にクレームを入れるような無気力な日々を送っていた十和子は、かつての恋人である黒崎の面影を残す水島と出会う……
1 感想
カエル「では、いつものようにTwitterの感想からスタート!」
#彼女がその名を知らない鳥たち
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2017年10月29日
まずは何よりも役者陣の熱演が素晴らしい
情け無い旦那を演じさせたら天下一品の阿部サダオ、現代の迷えるメンヘラ的女子を演じる蒼井優に文句なし
また作品としても白石監督の牝猫たちを思わせるところもあり、沼田まほかるの作家性も感じた、見事な映像化
カエル「まず、この映画も世間の評判が結構いいんだよね。
大手レビューサイトでも映画好きの中でも高評価で、評論家からの受けも良いけれど……」
主「本作はいわゆる『嫌ミス』系の作品なんだけれど……有名どころだと湊かなえの『告白』などのような、いやぁな読後感を味わうタイプのミステリーで、沼田まほかるはそのジャンルで注目を集める女性作家でもある。
最近は小説を刊行していないようだけれど、ミステリー界やエンタメ小説界で注目を集める女性作家であることは間違いないね」
カエル「今作は原作は読んでいないけれど、沼田まほかるの持ついやらしさというか……嫌ミスなだけじゃない作家性も感じることができたという評価なんだよね」
主「そして白石監督の前作である『牝猫たち』という映画がある。こちらが日活ポルノのトリュビュート企画だったんだけれど、過去の名作のリメイクという形で白石監督が担当した。
本作がハマった人はこちらも観てみるといいよ。結構似通ったことを描いていて、なるほどなぁって一人合点がいった。
その監督の作家性も合わさって……しかも役者陣の個性もはっきりと描いている。高評価もうなづける作品には仕上がっているね」
蒼井優と阿部サダヲの名演に注目せよ!
役者について
カエル「まずは何といっても阿部サダヲと蒼井優の主演組!
この2人の存在感がこの映画を支えていたよね!」
主「『アズミハルコは行方不明』などでも色々な思いを持った女性を演じており、等身大の現代の女性の象徴である蒼井優の真骨頂とでも言えるんじゃなかいかな?
清純派の女の子から、コメディのような面白い役、そして本作のような役も演じることができるオールマイティな役者だよね」
カエル「阿部サダヲもいつものように、気弱でオドオドしてもいるんだけれど、でも底知れない不気味なものを抱えていて、それが色々な想像をさせてくれて……」
主「本作のMVPは間違いなく阿部サダヲでしょう!
あの真っ黒い肌に土汚れなどが不快感を増しているし、しかも食事シーンが多いけれど、そのどれもが生理的な嫌悪感を生み出すようになっている。食べ方がメチャクチャ汚いんだよ。クチャクチャ音を立てながら食事をしているし、その時も身体中が真っ黒で……
でもそうじゃないとこの作品の味が出ない。ここまで徹底的に汚れた阿部サダヲは絶賛されてしかるべきだろう」
カエル「だからこそ対比としての存在である松坂桃李や竹野内豊が際立つわけだもんね」
主「そして影のMVPとしては赤沢ムック演じる姉のカヨの存在感が光った!
決して十和子が特別なわけじゃない……家庭や感情に縛られている女性の恐ろしさを熱演している。この辺りが女性原作者や女性脚本家を起用している味になっているだろう」
カエル「役者に関しては文句がないよね!」
主「まあさ、プレイボーイ組の行動が全く理解できないけれど……普通、あんなことするかね? よくもまあ涼しい顔であんなキザなことを……」
カエル「……映画だから以前に、そんなことを言っているから毎週1人で映画館に行くことになるんだろうね」
以下ネタバレあり
2 個人的な思いとして
カエル「そこまで褒めておきながら、個人的な評価としては?」
主「……正直、微妙かなぁ。
『共感度0パーセント!』とかさ『あなたはこれを愛と呼べるか』みたいなことを言っていたから、結構期待していったのね。でもなぁ……なんというか、意外と普通な映画だったなぁという印象」
カエル「……あれが普通なの?」
主「ちょうどこの作品を見る前に『木根さんのひとりでキネマ』という漫画の4巻を読んでいたんだよ。こちらの記事も更新しないとなぁ……というのは置いておくとしても、映画ファンあるあるがつまった漫画なんだけれど『中年の思春期映画』についての話があるのね。
それまでの人生に疑問を持って、会社を辞めたり一念発起するけれど現実はうまくいかなくて……というタイプの映画で、コメディなどに多いよねって話。
そして女性が主人公の場合はほぼ不倫やらの恋愛の話になるんだってことが書いてあって、なるほどなぁと納得したの。もちろん、本作は中年というには若いけれど、いい年した大人が……という意味では同じだよね」
カエル「それまでの自分の人生はなんだったのだろう?
もっといい人生が……好きな人と結ばれていれば……という話だね」
主「最近でいうと角田光代原作の『紙の月』などがそうだよね。まあ、割と良くある話。現実でも何回も聞いたことがある。
で、そのたびに自分は思うわけですよ……『いい年した大人が何言ってんの?』って」
カエル「そんな身も蓋もない……」
主「まぁさ、気持ちはわからなくもないけれど、恋に恋する乙女じゃあるまいし……で、大体物語は一緒なわけ。好きな男ができてそれまでの生活を壊すけれど……てさ。
端的に言ってしまえば個人的には多分この手の話が全く理解できないんだろうなというのが1つ」
カエル「……相性はあるとはいえ、そこまで言い切ってしまうとは……」
等身大の女子を演じる蒼井優
独特な女優です
(C)2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会
変態性が薄い?
カエル「えっと……他には何かあるの?」
主「自分も長いことオタクやっているけれど、この手の作品って10年ちょっと前くらい前には漫画やアニメ、ゲームでたくさんあったような気がするんだよね。アニメなどだから本作ほど歳をとっていなくて、学生の物語なんだけれどね……
セカイ系とか、ちょいグロ系の恋愛作品がちょっと流行った時期があったのよ。全年齢向け、R18問わずに。今でもあるか……」
カエル「アングラな世界だよね。それこそ、オタク文化の負の側面というか、お偉いさん達が規制しようと言い出しているような作品。もちろん、その多くはサスペンスやちょいグロレベルだけれど、中には常軌を逸している作品もあるし……」
主「他にも歴史的な作品と比べてもいいかも知れない。
この手の作風だと坂口安吾『夜長姫と耳男』とかさ、あとは谷崎潤一郎とか、江戸川乱歩とかを連想すると思うけれど、変態的でありながらも美しい愛を描く境地まで行くのかな? と思ったら、意外と普通だなぁというね」
カエル「そんな名作達と比べても……」
主「今でいうヤンデレ、メンヘラと呼ばれる人の中にある美学、あるいはフェチズムを感じさせてくれる作品だったら大好きなんだよ。夜長姫のラストシーンは恋愛作品として究極のものだとも思っている。それだけの力がある。
そのフェチズムをあまり刺激されなかった。十和子に会いたいとも思わなかったし、あんな恋愛をしてみたいとも思わなかった。
これって大事なことなんだよ。なぜ陣治が十和子を愛するのか、その最大の理由になるからさ。
だから、自分としてはカタルシスが弱かったし、意外と普通の作品になってしまったな、という印象だね」
本作でカッコイイ理想の男性(見せかけ)を演じた松坂桃李
(C)2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会
濡れ場の美学
カエル「本作は濡れ場も多かったじゃない。蒼井優たちが頑張って脱いで中々の描写を見せてくれていたけれど……」
主「……これもさ、個人的には不満なんだよ」
カエル「あそこまでの体当たり演技をしていたのに?」
主「もしかしたら蒼井優との相性かもしれないけれど……
監督の前作である『牝猫たち』でも思ったけれど、どうにも濡れ場にムンムンの色気がないわけ。
エロティシズムがそんなに感じない。
もちろん、ねちっこいシーンとかもあるんだけれど……でも『ふ〜ん』で終わっちゃうレベル。
ポルノ映画でもある『牝猫たち』も服を着ている描写の方がエロティシズムを感じたんだよ。おそらく、劣情を煽るように撮っていない」
カエル「前回の時はそこを褒めたよね?」
主「う〜ん……蒼井優が3回? もっとかな、そんなに脱ぐ必要があったのか?
結構変態的な描写もあるんだけれど、その熱が伝わってこない。
多分、この監督って性的にはノーマルなんだろうなって印象しか抱かなかった。
おかしなことに……というと変だけれど、男の撮り方はすごく凝っている。竹野内豊なんかは持ち前のいい声もあって『あ、これなら騙されるかも……むしろ騙されてもいいかも』なんて思っちゃうような撮り方をしていた。色気ムンムンでさ。
そして阿部サダヲも松坂桃李も良い撮り方をしているんだけれど……どうにも女性陣の撮り方がそこまで惹かれなかったかなぁ」
カエル「もちろん好みの問題もあるだろうけれど……」
本作最大の色気を放っていたのはやはり竹野内豊では?
(C)2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会
女性視点の作品
カエル「でもさ、この作品ってそれでいいとも思わない?」
主「……え?」
カエル「だって、本作は明らかに女性視点の物語であるわけじゃない?
先ほども語っているように、男性側の魅力が詰まっていて……蒼井優の撮り方でも足で物を取るなどの日常的な描写はあるにしろ、本当に見るべきは竹野内豊などの魅力なんだと思うんだよ。
それってさ『十和子の目から見た男性像』なわけで……
だから阿部サダヲはすごく汚されていて、生理的嫌悪感が強いようになっているわけでさ……一方で竹野内豊や松坂桃李は王子様なわけじゃない?
そりゃキラキラするよね」
主「ふむ……」
カエル「濡れ場に関しても女性を美しく撮ったり、フェティシズムを刺激する様な撮り方ではないかもしれないけれど……それは多分、セックスというものを日常的に撮ろうという試みなんじゃないかな?
男性的なセックスの……欲を煽る様な撮り方だけではなくて、女性的なちょっと冷めた様な撮り方を目指しているんじゃない?」
主「……なるほどねぇ
確かにそう考えると冒頭でクレームを入れ続けていた意味もわかるな。満たされない自分の思いを辺り構わず吐き散らかすことで、なんとかしてそれを発散する……いわゆる構ってちゃんなわけだ」
カエル「その構ってちゃんの視点の物語になるから、女性の……蒼井優の描き方にはフェチズムが見当たらないんじゃないかな?
自分が自分にフェチズムを抱くっても変な話だし」
3 『牝猫たち』と本作
カエル「記事内で何度も話題に上がっているけれど、この作品と関係あるの?」
主「めちゃくちゃあるよ!
というか、本作を撮るのに辺り、プロトタイプ的に撮ったところもあるんじゃないかな? 少なくとも、その経験はとても生きている。
牝猫たちというのは3人の風俗嬢のお話であって、現代を生きる中で結婚している女性や、シングルマザーなどの色々な事情を抱えた女性たちが、夜の街でお金を稼ぐという物語になっている。
では、本作との共通するところを考えていくと、白石監督は『愛の多様性』を描いているんだ」
カエル「愛の多様性?」
主「一般的な恋愛映画というのは、両思いの男女がいてその2人がくっついたり離れたりする様を描いている。だけれど、この2作品は不倫であったり、もっと違う形の……ある意味ではタブーとされる、倫理的に問題のある愛であったり、セックスを描いている。
そういう綺麗事じゃない愛やセックスの形であったり、あるいはすがりたいと思う気持ちを描こうというのが、白石監督の目的だったのかも知れない」
カエル「それは成功したの?」
主「自分の好みとは離れてしまっているけれど、おそらく成功している。特に女性目線でこのような作品を描くというのは最近結構多いけれど、本作は嫌ミスの味を付け加えながらも、最後には大きな形の愛を提示している。
結構わかりやすいラストにもなっているし、この描き方だからこそできる愛の描き方にもなっているし……高い評価は頷けるんだよね。
だからケチをつけるけれど、それはあくまでの自分がノレなかったからという1点だけであって……賞賛されていることに疑問は特にない作品だね」
最後に
カエル「なんだか最近世間評価は高いけれどノレない作品の話題が続くねぇ」
主「まあ、みんながみんな大好きだって話になったら、それはそれで気持ち悪いし……こうやって色々な意見がある方が健全でしょう」
カエル「苦手なジャンルだったということだね……」
主「『ユリゴコロ』に続いてあまりハマらなかったけれど……嫌ミスが苦手なところもあるけれど、でも沼田まほかるが人気を集めるのもよく分かる。何よりもわかりやすいもの。その魅力が。
キャッチーでありながら、印象に残って、しかも深みもある。やはり映像化した作品を見る限りではそこまで相性はよくなさそうだけれど、でも人気があるのは納得する」
カエル「何で書かないんだろうね? 色々な事情はあるだろうけれど……勿体ないなぁ。もう5年以上は刊行していないという話だけれど……」
主「湊かなえ系の嫌ミスの作品ってやっぱり需要が一定以上あるだろうからね。その中でも中々面白い人だけれど……書いて欲しいなぁ」
カエル「いつになるかわからないけれど、ちゃんと原作も読んでみたいね」
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