今月の大作邦画でも大注目作品といってみるか
本作がダメだったらしばらく立ち直れないかも……
亀爺(以下亀)
「と言っても、主演が役所広司であり、相棒が松坂桃李と実力のある役者であり、しかも近年話題作を多く発表している白石和彌監督じゃから、基本的に外れはないじゃろうがの」
主
「正直、白石監督とは相性が悪いからなぁ……どうなるだろう?」
亀「しかし、おじいちゃんばかりの劇場じゃったな。あれはあれでなかなか見る機会も少ないの」
主「高齢化社会にふさわしい映画といえるのかもしれないね。
後々説明するけれど、本作はどれだけヒットするかはとても重要な作品なので……そちらもいつも以上に注目してみていきたい。
では、感想記事のスタートです!」
作品紹介・あらすじ
柚月裕子の同名原作小説を基に『凶悪』『彼女がその名を知らない鳥たち』など多くのバイオレンスな作品を精力的に発表している白石和彌監督のメガホンで映画化。
かつて東映の代名詞でもあった東映実録路線の復活を目指した作品でもある。
脚本は『日本で1番悪い奴ら』でも白石監督とタッグを組んだ池上純哉。
キャストには日本アカデミー賞などで高く評価される役所広司が破天荒な刑事大上を、若手随一の実力派の呼び声も高い松坂桃李が異動してきた刑事、日岡を演じるほか真木よう子、ピエール瀧、江口洋介など実力派の役者たちが脇を固める。
広島県、呉原市では尾谷組と十子会傘下の加古村組にによる抗争の火種が燻っているような状況だった。
加古村組系の金融会社の社員が失踪し、その捜索にあたるベテラン刑事大上と、異動したての刑事・日岡。しかし大上は地元の暴力団員との癒着、不適切な関係や問題のある取り調べなどを繰り返す不良刑事だった。
この捜査を行っているうちに尾谷組と加古村組の血で血を洗う抗争が始まるのだった……
1 感想
では、いつものようにTwitterの短評から始めるかの
#孤狼の血
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年5月12日
個人的な好き嫌いは別にして、今年の主役の映画であることは間違いない
ちはやふると孤狼の血が頭1つ2つ抜けている
本作がコケたら多分日本でヤクザ映画はしばらく流行らないでしょう
東映の意地を見た pic.twitter.com/3ofD6mUee0
東映のヤクザ映画がここに復活! と高らかに宣言する作品だった
主「もちろん、個人の好き嫌いはあるし、意見は分かれるという大前提はある。
だけれど、1つだけ間違いなく言えるとしたら、今は下火となってしまいほぼ公開されることもなくなった『ヤクザ映画』というジャンルに対して、最先端の作品を作り上げたという自負はスタッフ・キャスト全員にあるだろう。
本作が興行的にこけたとしたら……日本でヤクザ映画はもうしばらくは流行らないし、多分Vシネマ以外で作りずらくなる。
それくらいの作品である」
亀「わしなどは本作を否定する言葉が全く思い浮かばないの。
これはヤクザ映画を観る機会が少ない上に、思い入れもない者の意見かもしれんが……これほど完璧なヤクザ映画が過去に存在したのだろうか? というほどのレベルである」
主「まあ、過去にはたくさん存在したとは思うよ?
ただ、当時の状況と現在の状況を簡単に比べることはできないわけで……任侠と呼ばれ、男を上げるということで、ちょっとは憧れの目線もあった昭和の時代と、暴力団とのコンプライアンスの問題で接触することもできず、社会からも厳しい目を向けられている今の時代では状況が全然違う。
単純に暴力団員を美化することも憚られるしね。
その中でも、ベストな形で観客に届けられて、しかも社会的に問題のないメッセージを内包したヤクザ映画に仕上がっているのだから……本当に、見事な作品というほかんないだろうな」
白石和彌監督について
亀「今回は白石監督作品ということじゃが……これで近年の作品を中心に4作くらい鑑賞していることになるが、正直なところこれまでの過去作は個人的には合わない作品が多かった印象ではあるの。
しかし、世間評価も非常に高く、その実力も全く疑っておらん。
今、最も旬な映画監督の1人であり、注目しておかないといけない人物であることは間違いないの」
主「相性の良し悪しは個人の問題だし、白石監督が多く手がけるバイオレンスな要素がそこまで得意じゃないところがあって、個人的には苦手な監督だけれどね。
本作も持ち味であるバイオレンスな描写は発揮されているし、むしろこういう映画だということでノンストップのノリノリで映像を捉えている。
結構グロいです。
でも、そのグロも目を背けたくなるようなグロではなくて……いや、目を背けたくなるシーンもあるけれど、でも結構抑制されているように感じた。
もっとえげつなく、煽る取り方もあるとは思うけれど、比較的見やすいシーンが続いているかな」
亀「それこそ『アウトレイジ』の1作目などは残虐描写のオンパレードであるが、そちらとは違い、まだ直視できるシーンの連続じゃからな。ある程度のこの手の映画に見慣れている大人であれば、トラウマになるようなシーンもないのではないかの?」
主「1つ1つの絵の撮り方が非常にうまい監督だし、多くの工夫を感じられた監督である。
しかも多作! 今年もまだ1作公開予定があって、2018年は3作、2017年も2作と次々監督作品を発表している、とてつもないエネルギーを持った監督である。
この手の映画を映画賞はどう扱うかはわからないけれど……間違いなく今年の邦画の中心になる作品、監督であることは間違いないだろうな」
脚本について
亀「次に脚本について語っていくとするが……これはこの手の映画ではしょうがないかもしれんが、少しゴチャゴチャしている印象があったの」
主「基本的にはうまいです!
この手映画はどうしても登場人物が多くなりすぎて、しかも組織がゴチャゴチャしてしまいがちだ。今作も警察と尾谷組、五十子会の傘下である加古村組という組織が登場するし、一般の人もいる。
言ってしまえば組織同士の三角関係プラス一般人という構図で、どうしてもゴチャゴチャしてしまう部分はあるかな」
亀「非常にうまく整理されており、わかりやすくなるようになってはおるが、この手の映画ではしょうがない部分もあるの……」
主「でも、それこそ『アウトレイジ』だったり『仁義なき戦い』などよりもわかりやすいかもね。
組織の中でもさらに分裂していて……とかが始まると、もう収集がつかなくなる。だけれど、本作は基本的に1つの組織は1つの方向性しかなく、一枚岩な部分が多いからこそ理解がしやすい物語だった。
ちょっとテンプレート通りすぎるかな? と思う部分もあったけれど、それも含めて物語をわかりやすく魅せる工夫に満ちている作品だったね」
近年ヒットしたヤクザ映画はアウトレイジのみ?
たけし名前がないとどうなったかわからないしなぁ……
役者について
今作の役者は一切文句なしじゃな
邦画の賞レースは役所広司の主演男優賞で決定かなぁ
亀「もともと演技力が高く評価されており、名優の評価を欲しいままにしておるが、本作においてまた1つ格が上がったことが間違いないと言えるの。
もう、今や日本で1番演技がうまい俳優といっても過言ではないレベルではないかの?」
主「インタビューでも語っているけれど、今作は役所広司がハイテンションでノリノリの演技を披露しています。
今作はみんな派手なタイプの演技……典型的なチンピラのような、恫喝する演技をしているんだけれど、その中でも役所広司はその奥に何を考えているのかわからないような、深さを内包している。
変な話だけれど……役所広司は賞レースから殿堂入りで除外しないと、毎年男優賞を獲得するんじゃないの? というレベルに達しているね」
役所広司の魅力が爆発した昨年の話題作といえばやはり本作!
亀「そして相棒の新人である松坂桃李であるが……こちらも圧巻の演技じゃの」
主「実は今年初桃李だったんだけれど、やはり素晴らしい。
今年で30歳になるけれど、いよいよ若手のイケメン俳優という殻を脱却して、一流の役者として『こんな演技もやっちゃろか!』という気迫に溢れていた。
日本のイケメン・美女な役者さんはお上品な演技をして違和感があることも多いけれど、桃李はきちんとゲロを吐きます。画面の外に顔を背けて『おえ〜』ねんて声だけでごまかさない。だからこそ、映画がちゃんと落ち着く」
松坂桃李×白石監督作品。こちらも役者の演技があまりにも見事!
亀「他にも真木よう子のその美貌もさることながら、持ち前の巨乳をしっかりと使った色仕掛けもしておるし、その他の俳優たちもそれぞれの味を見事に発揮しておる。
江口洋介などもよかったが……何と言ってもピエール瀧の存在感は素晴らしいの。
『アウトレイジ最終章』もそうじゃったが、いかつい顔でありながらどこか情けない男を演じさせると、天下一品の演技を披露するの。
演技だけで見ても今作は頭1つ2つ抜けているのは間違いないじゃろうな」
以下ネタバレあり
2 作り込まれた映像美
昭和63年の風景を再現
今作の見所の1つが30年ほど前の風景じゃの
ここまでよく作り込んだよ……
亀「なんだかんだ言っても昭和63年といえばもう30年も前になる。もちろん、当時のことを覚えている人も多いじゃろうが、現代は小物や町並みも含めて全くの様変わりをしている。
その中でも警察署やビルなどの物語の舞台であったり、ポケベルなどの小物に至るまでよく見つけてきたな、と感心するものばかりじゃったの」
主「この作品が2018年に公開されたということを信じられない人もいるかもしれないね。
カメラも今回はデジタルで撮影されているらしいけれど、少し古いフィルムのように色がくすんでいたりして、そこが却って昭和の時代を連想させるようにできている。役者の衣装なども含めて、1つ1つの美術や小物に一切妥協しない姿勢が伺えて、とても良かったね」
街の様子も古くてとてもいい!
(C)2018「孤狼の血」製作委員会
1対1の真剣勝負
亀「今作で特に多かったのが、1対1で向かい合うカメラワークじゃな。名優である役所広司と松坂桃李が1シーンに収まる演出も多かったが、それも見応えがあったの」
主「まさしく役者と役者の真剣勝負、少したりとも気をぬくことができないシーンの連続で……見ている側もハラハラしてくる。
特に長回しでいうと後半、行きつけのクラブで役所広司と松坂桃李が今後についてじっくりを会話をする話がある。
そのシーンの目線のやりとりなどの演技合戦は圧巻の一言!
さらに後ろでクラブのママである真木よう子がたまに見つめながらも、そっと去って行ったりして、この会話を気にしているけれど、あまり中には突っ込んでこない……そんな様子がはっきりち伺うことができる。
エキストラなどの1人1人の配置や、少し賑やかな店内なども含めて、監督のこだわりが多く感じられるシーンだったと言えるのではないかな?」
相変わらず色気あふれる真木よう子……今回は巨乳も披露!
(C)2018「孤狼の血」製作委員会
対になる2つのシーン
亀「ふむ……ここではどのシーンを上げるのかの?」
主「冒頭に注目してほしい。
取調室で今回の発端となる事件の、金融会社に勤める男の失踪事件の話を聞いているのだけれど、そのシーンは少し暗めになっているんだよね。ここで役所広司演じる大上の警察官ながらも暗い一面が強調されているし、不安を抱える女性と、有らぬ思いを抱く大上を暗喩した心理描写としても見応えのある演出となっている。
もう1つが松坂桃李演じる日岡が覚醒するシーンで……上司に向かって反感を抱く場面がある。
そこは一転して強烈なまでに光を取り入れていて、日岡が日岡なりの正義に目覚めたことを強くアピールしているんだよね」
亀「光と影の演出じゃな。
これで登場人物の心理と、観客に端的に説明を果たしているの」
主「細かい技巧が多くて、凝っている。
だからこそこれだけの物語になったのだろうし、高く評価されるべき作品に仕上がっているのだろう」
個人的な思いとして……
……ここまで大絶賛しておきながら?
う〜ん、自分にはノレない部分もあったかなぁ
主「最初にも書いたけれど『好き嫌いは別として……』というのは、やはりそこで……本作はとても上手いとは思うし、高く評価されるべきであり、それなりに売れるべきでもある。
ただ、やはり個人の思いとしては違和感がある部分もあるんだよね」
亀「これだけの傑作を前にして!」
主「う〜ん……やっぱりさ、個人的には大上がキレイすぎると思うんだよね。
もちろん、ダークヒーロー映画であり、彼には彼なりの信念ややり方があり、守りたいもののために何でもやる男なのはわかる。警察としての正義もある。
たださ……やっぱり、後半はどうしても言い訳のように見えてしまったとこともあって『実は大上はこんなことを考えていました!』という描写が多すぎるようにも思ったんだよね」
亀「それまでの無茶苦茶ぶりを考えたら、それくらいのことは当然かもしれんがの」
主「そこは言い訳して欲しくなかったんだよねぇ。大上だってさ、堅気の人に多大な迷惑をかけているわけだよ。あのボヤ騒動とか、消防が来たら調査が入って色々と面倒なことになる。最悪、営業停止だってありうるわけだ。
あの宿だってヤクザに絡んでいるとはいえ、堅気なんでしょ? そういった危ない行為も全て『守るためだった……』というのは、自分は納得はできない」
亀「では、どうあって欲しかった?」
主「やりすぎたところもある、でもそれに対して言い訳しないで良かったんじゃない?
自分は本作を観ていて連想したのが、福山雅治主演の『SCOOP!』だったんだよ。こちらは大絶賛、今でも大好きな作品だけれど、あちらは最後まで自分のエゴを貫き通すんだよね。
自分としては『これがワシのエゴじゃ! 正義じゃ! 文句あるんかい!』というところまで行って欲しかったかなぁ……最後の最後で、バランスをとる描写が余計なことに見えてしまった部分があるかも」
倫理の問題や継承など、似ている部分も多い作品
白石監督作品として
亀「白石監督作品として、本作はどのように考えておる?」
主「過去作を拝見していると、基本的には社会における弱者の映画を撮る人だよね。
白石監督は弱者や、社会の中でも無視されてしまうような人に対する映画を撮り続けている。
例えば『牝猫たち』はそれぞれの事情を抱える風俗嬢だったし『彼女がその名を知らない鳥たち』では、特殊な恋愛関係を描いている。
マイノリティというとちょっと違うかもしれないけれど、世間では光のあたらない人や、問題行為を抱えながらも己の理屈で生きる人を撮り続けている監督と言えるのだろう」
亀「ふむ……そう考えると、本作もまた間違いなく白石監督らしい作品だったというkとじゃな」
主「たぶん、今後は本作が代表作と言われるだろう。
自分はバイオレンスが苦手で、女と金の世界に全く興味がないから白石作品は苦手な部分もあるけれど……今後、日本を代表する監督になるのは間違いない。
韓国ノワール映画に対抗できる数少ない監督の1人だろうし、世界にも評価されてほしいね」
まとめ
ではこの記事のまとめといくかの
- 2018年を代表する役者陣の圧倒的な演技を見よ!
- 脚本、演出、美術など細部にまでこだわった作り込み!
- 白石監督らしい作品であり、韓国ノワール映画にも対抗できる作品!
最初に語ったけれど、本作の興行収入は非常に大事になる
主「かつては日本映画の得意とするところだったヤクザ映画、ノワール作品が近年影を見せており、韓国映画に大きく離されている。これは暴力団がらみの映画を撮ることが難しい状況であることが原因だけれど、その代わりになったのが若者向けのヤンキー絵映画だ。
そのせいで若干マイルドになってしまったこともあって……正直、ノワール作品の灯は消えようとしている」
亀「……しかし、本作がヒットするかはわからんの。
劇場に行っても初日の土曜日、朝一ということもあるじゃろうが、いたのはおじいちゃんと言いたくなるほど年配の男性ばかりで……主が1番若い観客じゃった。
若い人や女性にはこの手の『ヤクザ映画』は……もう届かない時代になったのかもしれん」
主「だからこそ、今作には注目している。
クオリティは文句なし、300館越えの上映館数、これでどこまで興行収入を伸ばせるのか?
今作が万が一コケたら……もう二度と、と言ってもいいくらいしばらくの間はヤクザ映画は撮られることはないだろうな」
亀「そこも含めて注目していきたい作品じゃな」