物語る亀

物語る亀

物語愛好者の雑文

漫画『ちはやふる』38巻感想&考察 〜ちはやふるはなぜ面白いのか?〜

 

 

 

ちはやふるの実写映画も名作の評価を下す人も多く、大成功しているね!

 

 

大ヒットの1つの基準である15億円を超えて、過去シリーズ最高収益だから、ファンとしてもホッとしています……

 

 

 

カエルくん(以下カエル)

「あれだけの内容だからね。

 『ちはやふる-結び-』は2010年代を代表する傑作映画シリーズであり、青春映画の金字塔であり、そして漫画原作映画の完成系の1つとして語り継がれる作品です!

 もう劇場は終わっているけれど……是非鑑賞しに向かってください!」

 

 

「今回は最新刊である38巻の感想と、ちはやふるが面白い理由の考察をしていきます」

 

カエル「物語としては王道ではあるものの、題材はニッチなものだけれど……競技かるたが漫画になるって連載前は誰も思っていなかったろうし、これだけ人気になったのはどんな理由があるのだろう?

 ということを考えてみようか」

主「もちろん、末次由紀の画力や漫画力のうまさもあるけれど、それだけじゃないだろうからね。様々な角度から考えてみましょうか。

 なお、この記事を書いている時の最新刊である38巻の感想は後半になります。

 では、記事のスタート!」

 

 

 

 

 

 

 

 1 少女漫画内少年漫画

 

では、まずは最初によく言われるよに、ちはやふるは『少年漫画内少女漫画である』ということについて考えていく、ということだけれど……

 

 

 

極端なことを言えば、ちはやふるは『少女漫画』ではないんだよ

 

 

主「近年は少女漫画を男性が読むことも以前に比べたら決して珍しいことではなくなってきてている。昔は少女漫画を男が読むのは少し恥ずかしい思いがあったけれど、今ではちはやふる以外でも『俺物語』だったり、『のだめカンタービレ』などは男性でも普通に読んでいたりする。

 その中でもちはやふるは男子人気は断然高いと思う。

 明確に調査結果があるわけではないけれどね」

 

カエル「映画版もアニメも女性向けの描写もあるけれど、男性も受けれ入れやすいからね」

主「ではなぜちはやふるは男性人気が高いのか?

 れは単純にちはやふるの内容が少年漫画そのものであるからだ 。

 『友情』『努力』『勝利』は日本で一番有名な少年マンガ誌の代名詞であるが、それを正しく体現している漫画が、実はこの少女漫画なのかもしれない

 作中に込められた熱意、友情というのは男性読者が読みなれなたものであり、そこにはかるたを題材として熱いバトルがあり、そこに男性読者は熱中する」

 

カエル「でもさ、ちはやふる自体はBE LOVEという女性向け雑誌で連載されている、明らかな少女向けの漫画でもあって……

 例えば多くの巻の表紙では男性キャラクターの表紙であってもその周辺に花が咲いているし、その顔つきなどの絵柄は正しく少女漫画ぽいものだよね」

 

主「まあ、でも男性読者にも配慮しているのか、ガチガチの少女漫画のように背景に花を咲かせたり、ごちゃごちゃしたコマ割りはそこまで多くないけれどね。 

 似たような形で人気を集めているのが羽海野チカの『三月のライオン』だろう。

 この作品も少年(青年)漫画とするか、少女漫画とするか意見は割れるところがあって、この漫画がすごいなどのランキング雑誌や漫画評論雑誌においても、男の子編、女の子編のどちらに分けるかは、雑誌媒体によって使い分けられているような状況がある。

 こちらはちはやふるの逆で、ヤングアニマルという代表作がふたりエッチ、ベルセルク、自殺島、当て屋の椿などお色気と暴力てんこ盛りのガチガチの青年誌に連載されているのに、その絵柄が少女漫画的だからというのもあるのだろうな」

 

blog.monogatarukame.net

 

少年漫画と少女漫画の違い

 

カエル「じゃあさ、少年漫画と少女漫画の違いはどこにあるの?

 もちろん一概にこれだ! といえるものはないだろうけれど……一番多い回答は男性向けに作られているか、女性向けに作られているか、というものだと思うけれど……でも、今では少女漫画を男性が読み、少年漫画を女性が読むということも珍しくなくなっているし。

 明確な区別なんてないだろうけれどさ」

 

主「自分が思うのは以下のことで……

 

  • 少年漫画とは『明確な勝利条件』
  • 少女漫画は『曖昧な目標』 

 

があるということじゃないかな?

 

カエル「……えっと、どういうこと?」

主「例えば、少年漫画の例を挙げると『ドラゴンボール』『北斗の拳』『ワンピース』などは明確な敵がいて、その敵を倒すという『勝利条件』が明確に表記されている。その先に、ユリアやワンピースなどの、大きな目標を掴むことにつながっている。

 一方、少女漫画は恋愛ものが多く、その心理描写を非常に重要視している。

 すると『誰々くんが好き、告白!』なんて単純な話ではなく、まず自分の気持ちを確かめたり、相手の状況を考えたり、他の友達のことも考えたりなどという、様々な内面描写を行わなければならない。

 これにより最終目標は『憧れの彼と付き合う』になるのだろうけれども、そのために何をすべきか、ということの明確な答えというものを探すことから始まるんだよ」

 

カエル「……う〜ん、わかるようなわからないような」

主「 もっと簡単に言えば少年漫画は単純で、少女漫画は複雑ということだ。

 これは良し悪しがあって、少年漫画の単純さは多くの人にわかりやすく、物事を伝えられる(共感性が高い)代わりに、あまりに単純すぎると話の深みがなくなってしまう(真理が浅い)。

 少女漫画は心理描写などの深さはあるが、目的がわかりづらくて多くの人にはわかりづらい(真理が深いが共感性が低い)。

  さらに少女漫画の場合は『女性に向けた心理描写の共感性』に頼っているところがあるので、男性にはわかりづらい部分が出てきてしまうんじゃないかな?」

 

 

 

 

2 かるたという『漫画向き』な題材

 

 

う〜ん……わかったようなわからないような……

 

 

あとは、この競技かるたという題材も非常に漫画向きなものだと思う。

 

 

第一 ルールが簡単。

 

 読まれた札を取る、先に自分の陣地の札がなくなった方が勝ちというルールは非常に単純明快で特別な勉強など何もしていなくてもわかりやすい。

 だがそこで浅い競技かというと、そこに至るまでの努力や戦略も深く、読み応えもある。

 

第二 高い知名度

 

 競技かるたや百人一首を経験したことがない人であっても、学校で基礎教育の一環として習うようになったているために、その存在を知らないという人は非常に少ないだろう。

 その地味ながらも知名度の高さも、全く知らない競技と比べれば受け入れるハードルは低くなる。(クリケットやカバディなどよりも手に取りやすい)

 

第三 明確で納得感の高い目標

 

 競技かるたは優勝や名人が決められるスポーツである。

 千早はクイーンになるために努力をしているのだが、このクイーンになる(1番になる)という目標は非常に明確だし、誰にでも理解しやすい。

 例えば究極の絵画を描く、などでは抽象的すぎて読者は『一体それはなんだろう?』と疑問に思い、共感性は減ってしまう。

 

第四 明確な実力のランク付け

 

主「これは鳥山明がドラゴンボールでやった手法であり、フリーザ編でいう『私の戦闘力は53万です』みたいなものでさ。

 その時点における主人公などの戦闘力を数字で表し、それを開示することによって相手との戦力差がどれほど絶望的なのか分からせる簡単でいい方法である

カエル「ワンピースにおける懸賞金制度も同じような効果があるよね。尾田栄一郎は単純な強さを表すものではない、と言っても、やはり懸賞金が高い=強いの図式になっているし」

 

主「だけど、これには問題があって例えば『幽☆遊☆白書』において戸愚呂弟がB級妖怪だとわかった時に、これから先の敵はあれ以上なのか! と期待するとともに『過小評価だよな』という声が上がることもありうる。絵以外の部分で説明しているから、よほどレベルの違う戦いを演出しなければ読者も納得してくれない。

 さらに、敵を強くしすぎてどうしようもなくなってしまう。シャーマンキングのハオなどは、その典型だろう」

カエル「インフレの犠牲者だ……」

 

主「一方、ちはやふるは元々かるた界に階級分けがあったこともあり、あいつはA級、あいつはB級という明確なランク付けがされている。

 級が劣る相手に対しては格下感が出てくるものの、同じA級であればその実力差はあまりないということがわかる。

 さらに名人、クイーンという最終目標がはっきりしているため、強さがインフレ化することを防いでいる。(インフレするような漫画でもないけれど)

 

 この4点において競技かるたは漫画向きな題材といえるだろう。

 

 

 

 

3 無双しない千早

 

カエル「ここは何回か答えているところでもあるけれど、ちはやふるの最大の魅力についてだね」

主「ちはやふるという漫画の最大の魅力を聞かれたら『負けることにある』と答える。

 これはどういうことかというと、勝利というのはスカッとした爽快感があるものの、それが続いてしまうと『結局主人公が勝つんでしょ?』とダレてきてしまう。

 だが、敗北を挟むことでそのお話に深さが出てくるし、そこからの巻き返しという点においてまた違う面白さが浮かび上がる。

 例えばワンピースのアラバスタ編におけるルフィとクロコダイルの戦闘がそうで、あの戦いにおいてルフィは2度負けているものの、最後に大逆転勝利をする。この2度の敗北が物語に深みを与え、敵をより強大なものにしてくれていた。そのために、勝利の瞬間は非常に爽快感の強いものになっている」

 

カエル「強いと思われていた主人公やキャラクター、味方サイドが負けることによって、より敵も強大に、力強く輝くということだね」

 

blog.monogatarukame.net

blog.monogatarukame.net

 

 

敗北の深み

 

主「敗北というのは物語の深みや爽快感を増すために必要なものだと思うんだよ。

 勝利ばかりに徹してしまうと一本調子になってしまうけれど、ちはやふるの場合、千早もそうであるし、太一、新も負けるときは負ける。

 そして挫折なども経験して、それでも諦めない部分において、我々読者は非常に強い勇気を与えてもらうわけだ

 

カエル「最近は最強主人公の作品も人気を集めているけれど、ちはやふるはそういう構造ではない、ということかぁ」

主「この作品においては他の登場人物もあまり使い捨てにせず、どのキャラクターも独自の魅力に溢れたまさに生きているキャラクター達だけれど、それもその人がどのように暮らしてきて、かるたに向き合い、成長したきたかというバックボーンを魅せることを意識しているからなのだろうな」

 

 

 

 

好きなものを続けられなくなる、という絶望感

 

カエル「……ここは触れていいのかどうか、微妙なところでもあるけれど……大事なことというので、あえて触れていきます」

主「これはあまり作者にとっては聞きたくない話でもあるんだろうけれど、私が思うに末次由紀は好きなものが出来なくなるという絶望感を知っているからこそ、この作品を描くことができるんじゃないかな?

 自身のミスにより一時は表現の舞台を降りかけた身だけれども、それでも再び戻ってきた時の感激というものは、おそらく誰よりも末次由紀が知っているだろう。

 だからかるたが好きで、クイーンになりたい千早というのは、漫画が好きで漫画を描いていたい末次由紀その人だとも思えるんだよね

 

カエル「それだけ大きな出来事が全く影響を与えていない、と言うことはありえないもんね」

主「受け手がそう思っているからかもしれないけれど……これは『ハイスコアガール』の押切蓮介もそうだけれど、そのような絶望感を味わった人の漫画や表現は一層深くなるんじゃないかな?

 それこそ『青春全部、一生かけてきた』ものができなくなる……そのことに対する思いが、この漫画には込められているような気がする」

 

 

 

 

4 38巻の感想(ネタバレあり)

 

名人戦の行方は?

 

 

では、最新刊である38巻の感想です!

 

 

ここまで描いてきたものが全て結実していくね

 

 

カエル「過去のエピソード、特に1巻の小学生編のエピソードを交えながら対戦していくのはいいよね。ここまで38巻、ずっと追いかけてきたファンにとっては、たまらないものがあるよ」

主「1つ1つの演出やエピソードが『もうラストスパートなんだな』という気分にさせてくれるな

 

カエル「……ちなみに、名人戦はどっちが勝つと思う? もちろん、全く予想できないのが面白い作品だけれど……」

主「最初は『天才でありヒーロー役の新』 VS『努力家でヒールとなった太一』の物語だと思った。ヒーローであり、圧倒的な才能があるからこそ内側から崩されてしまい、新が負けるのかな? とも思っていたけれど……

 何がすごいってさ、2人のわだかまりが徐々に消えていっているんだよね

 

カエル「それを試合の最後まで引っ張ってドラマを作るのかなぁ、と思ったら、3試合中の1試合でその話を終えてしまったもんね」

主「雪の降る中での試合など、1巻2巻を連想させる要素がとても多くて見所がある。

 あとさ……多分、あの『運命戦を〜』の会話の流れって、映画版に触発されているようんだと思う。

 映画版の1番いいシーンを連想させるように作っているし、それだけ作者にも影響を与えたのではないかな?」

 

カエル「『3月のライオン』もそうだったけれど、見事な実写版が制作されるとそれに触発されて……という漫画家も多いよね」

主「このわだかまりがなくなり、童心へと戻っていく2人の気持ちがどのように触れ合っていくのか……この先がとても楽しみになってきたな」

 

 

 

一方、クイーン戦では……

 

カエル「そして千早たちのクイーン戦だけれど……こちらははっきり言ってしまえば先がわかっているわけじゃない?

 ここで千早が負けてクイーン戦に挑戦しないということはほぼありえないわけで……その中で、どのような試合を描くのか? という難しいバランスが求められていると思うけれど……」

 

主「今回、自分が驚愕したコマが2つあって……

 1つはP51の千早がかるたを取りに行くところ。

 ちはやふるって文字が多い漫画でもあって、会話や擬音が全く入らないページというのは、38巻全体でも3ページくらいしかないんだよね。

 その中の1つがこのページ」

 

カエル「漫画家って1番ノリにのっているいるときは文字を書かなくなるというけれど、これもその中の1シーンだね。

 それまで会話が多くて、そこで目線が止まっていたから、すっと目線が流れることで千早の速さを表現しているのかな?

主「あとは黒く千早を描くことで残像と、その速さを表現している部分も素晴らしい。

 これで対戦相手の結川桃がいかにスピードで戸惑っているのか、よく伝わってくるよね」

 

カエル「……ちなみに、もう2Pの文字がないところはどこなの?」

主「原田先生が千早にかるたの札を渡すシーン。ここもこの巻の見せ場の1つだけれど、それだけ計算して緩急をつけているのが伝わってくるよ。

 もう1つの驚愕したシーンがP145の『奥山に〜』の札を桃が取るシーン。

 ここは先ほどのP51のシーンと対になっているようで、P51は空振りだったこと黒塗りで表現し、P145では光を当ててしっかりと取りに行っていることを表現している。

 この差が見事に働き、試合を魅力的なものにしているね」

 

 

 

 

まとめ

 

これから先もまだまだ見逃すことができない物語が続くね

 

  

ちはやふるは漫画もアニメも全部傑作だからね

 

 

主「この物語をどのように締めるのか? というのは、とても難しいと思う。

 だけれど、ここまでの伏線の構築などもうまくいっているし……とてもこの先もきになるように作られていると感じたなぁ。

 本当に『どっちも頑張れ!』と言いたくなる作品ってそうそうないし……名人戦もクイーン戦も目が離せない作品になっていると思うよ」

カエル「というわけで、ちはやふる最新38巻の感想でした!」

 

 

blog.monogatarukame.net

blog.monogatarukame.net

 

 

 広がり続けるちはやふるワールド

 

 

カエル「そしてちはやふるワールドはさらに広がり続けます!

 まずは3月に公開する実写映画版の完結編が公開! 前作では広瀬すずや松岡茉優が魅力的な対決を披露していて、こちらも非常に楽しみな作品になっています!」

主「特にちはやふるの上の句は絶賛の声も相次いで、自分も近年の若者向け学園映画ではかなりレベルが高いと思った。

 多分原作を読んでいれば完結編を急に見に行っても問題はそこまでないかもしれないけれど……でも是非ともこの上下編を見てから鑑賞してほしいね。

 ちなみに、映画版、アニメ版もU-nextで配信中。今ならば無料期間もあります」

 

 

カエル「そして番外編もたくさん発売されています!

 同日発売の『中学生編』に加えて、小説版、ちはやふるで覚える百人一首などもたくさん発売中!」