カエルくん(以下カエル)
「原作漫画やアニメも大ヒットした『四月は君の嘘』の映画版が、いよいよ公開されたね」
ブログ主(以下主)
「いやー、すっごいドキドキしたわ……」
カエル「え!? あの恋愛映画が大嫌いで、いつもゲラゲラ笑いながら見ている主がドキドキを感じたの!?」
主「上映前にさ、外国人の家族連れが前の席に4,5人座ったのね。しかも会話が英語でさ、絶対邦画なんて分かるわけないじゃん? 普通に考えて『スーサイド・スクワッド』目当てじゃん。
だから緊張しながらも『ここは映画が違うよ』って教えてあげたんだよ。いやー、ドキドキしたわぁ」
カエル「そんなの知らんわ!! 映画の話をしろ!!」
主「今回は明らかに地雷臭の漂う邦画だから『酷評記事になるぞ!!』と思いながら見ていたけれど、なかなかそうはいかないもんだね」
カエル「あれ? じゅあ名作なの?」
主「いや、賛否は間違いなく分かれる。それも含めて、これから話していこうか。
ちなみに原作、アニメ共に鑑賞済みの意見になります」
1 漫画原作映画の難しさ
カエル「これは過去記事でも何回か語っているけれど、改めて説明しようか」
主「今年は意外と漫画原作映画でもいい作品があって『ちはやふる -上の句- 』とか、あまり大きな話題にはなっていないかもしれないけれど『ヒメアノ~ル』や、自分は観てはいないけれど評判がいいのが『アイアムアヒーロー』があるわけだ。
もちろん『進撃の巨人』とか『テラフォーマーズ』みたいな酷評映画もあるけれど、もう漫画原作=ダメ映画とは中々言いづらい状況だね」
カエル「だけどさ、成功した作品は現実路線なわけじゃない? 一方、失敗作はSFというかファンタジーというかは微妙だけど、特殊な世界観の作品なわけでさ、そこは一つの指標になるよね」
主「では『四月は君の嘘』はというと、映画化しやすい作品でしょう。何せ、SF要素もファンタジー要素も何一つとしてないから」
カエル「そうだね。じゃあ、今作の難しさって何?」
主「漫画寄りの演出にするのか、リアル寄りの演出にするのかって話になる。どちらかに徹するのが一番で、中途半端だと余計に『物語の嘘』が浮き彫りになってしまって作品自体が浮いてしまうからな」
カエル「本作はどうなの?」
主「……正直言うと中途半端になっちゃった。これは漫画原作映画あるあるだけど、17歳だから高校2年生だろ? その割には制服が綺麗すぎるんだよ。もう新品って一目でわかる。
それだけ綺麗な制服を着てしまっていると、コスプレ感というか、着せられている感が出てしまうんだよね。実際の制服って日焼けとか、ほつれとかがあるわけだしさ、毎日着るものだから型が崩れたり、襟とか汚れたり、そんなにしっかりとしたものは着ていない。そういうところが違和感として出てしまうんだよね」
役者陣について
カエル「そのリアル感のある演技とかって、役者の影響もあるの?」
主「あるよ。今作は若手4人のシーンが非常に多くて、圧倒的にうまい大ベテランと絡むシーンってあんまりない。だから、比較されることがないから結構誤魔化しが効くんだよ。
……正直に言うと相当違和感のあるシーンもあったよ。だけど、それは4人揃って違和感があるから、特別浮かなかった。良いのか悪いのか、わからないけれど」
カエル「……リアル感のある演技って例えば?」
主「例えば、アドリブは当然リアル感があるよ。だから今作でも、スタート直後に有馬と椿が一緒に帰るんだけど、演技に入るまでの会話は凄く自然だった。だけど急にスイッチが入って、台本を『読んで』しまうんだよね。
ちはやふるで広瀬すずのライバルを好演した松岡茉優を例にあげると、映画の『桐島、部活やめるってよ』の演技において『ねぇねぇ』と呼びかけるシーンがあったけれど、それを『ねぇねぇねぇねぇねぇねぇ』と何回も連呼したんだよ。で、どっちがリアルか、キャラクターに合っているかというと、後者なんだよね」
カエル「台本とは違うリアルなセリフってやつだね」
主「その役者の演技力……それは台本の言葉使いも含めてだけど『物語感』が出てしまっているように思った。でもさ、若手俳優って正直、演技力は二の次だと思うのよ」
カエル「え? 演技力は大事だよ」
主「それよりも大事なのはルックスと若さ。すごく高い演技力があっても、おっさんだったりブサイクだったら映画にならない……というか印象が全然違うからさ。若さとルックスがまず前提、演技力は後から経験を積めばついてくるから、とりあえず放っておく。
若い子が経験が浅いって当たり前の話だから。演技力は経験も大事だし」
広瀬すずについて
カエル「じゃあ、役者については最後にすずちゃんについてだけ触れておこうか」
主「……まあ、いつもの広瀬すずだよね。多分、現代の求める『元気で明るい美少女』像にぴったりと当てはまっていると思う。
今回もちはやふるとか『海街diary』と似たようなキャラクターだったから、これでいいんじゃない?
あとは他の引き出しがどうなるか。ドラマを見ないから、他の引き出しが全くわからないんだよね」
カエル「映画では似たような役どころが多いしね」
以下ネタバレあり
2 スタートから1時間ほどについて
カエル「では作品感想について語っていきましょうか。まずは前半部分に関してだけど……」
主「もう、ダメダメ!!
酷評しようって思って見に行って、案の定酷評する流れだった。頑張ったね、ぐらいは言えるし、もっと酷い作品もあるけれど、原作、アニメと評価が高い分これではファンは絶対酷評するよ」
カエル「じゃあ、まずはそこから語っていこうか」
序盤について
カエル「まずは出だしからだけど……」
主「全体的にチャラいよね。公生は草食系男子だから、チャラさがあるとダメなんだけどさ、どうにも隠しきれないチャラさがある。もっとこう……純粋性というか、童貞力を感じさせないとダメよ」
カエル「あとは説明の多さね」
主「そう! お母さんのアップで亡くなってますよアピール、コンクールの観客の『あれって有馬?』というセリフ、その他様々なところで説明が非常に多い! 説明が多ければ多いほど、のめり込めなくなっていくからさ、これはダメ!」
カエル「それから、漫画的な表現も気になったよね」
主「そうそう。水を吹き出す場面で、あんなに吹き出す人って普通はいないよ? 漫画的表現を実写でやるから浮くわけであってさ。それじゃ、漫画的な表現に統一されているのかと思えば、必ずしもそうじゃない。リアルな部分はリアルだし、演出がチグハグな印象を受けたね。
例えば演奏シーンでもっとCGをたくさん使って演出するならば、漫画的になってまだよかったと思うけれど、そこは一部以外はリアルで撮るから、違和感に繋がるんじゃないかな?」
演奏シーン
カエル「ここはねぇ……もう擁護のしようがない」
主「四月は君の嘘における演奏シーンは、時代劇における殺陣、ヒーロー映画におけるアクションのように見せ場なわけじゃない?
ここがダメだと、映画全体がダメになる。
それなのに、ここのシーンが前半ほぼダメなんだよね」
カエル「……公生役の山崎賢人は明らかに弾いていなかったし、カメラワークでごまかしていたよね」
主「自分はバイオリンの弾き方もわからないし、ピアノも弾けないけれど、そんな人間にも嘘だというのがわかってしまうんだよね。これは明らかに冷めるよ、説得力が全て失われてしまっている。
しかもその前に『弾けなかったら、弾けばいいじゃない』って言っているわけじゃない? そこで感銘を受けて公生が弾きに行く話の流れなのに、役者が弾いていなかったら『結局弾かないんかい!!』ってツッコミが入るよ。物語の嘘を積極的に暴きにいっている」
カエル「それでいながら観客がスタンディングオべーションをしてしまうわけでしょ? その理由が観客に全く伝わってこないんだよね」
主「演奏中にモノローグでごちゃごちゃ言うから、音楽に集中できない。それで結果として前半の3回の演奏全て観客が絶賛、それをセリフで説明……もうさ、わからないよ。何も伝わってこない。何がしたかったの? って」
極め付けは……
カエル「そして例のあのシーンね。あの川に飛び込むシーン」
主「そこまでも十分酷かったけれど、ここで大笑いしてしまったよ。高さ……どうだろう5メートルはあるのかな? 下手したら10メートルありそうだったけれど、そんな高さの橋から川に飛び込むだけで大笑いだけど、その落ちるものが明らかに人形でさ。
観客を騙す気がないんじゃないかとすら、思ってしまうよね」
カエル「もっと低い橋とかで十分だったのにね」
主「ロケ現場にいい場所がなかったかもしれないけれど、そこはあの橋を使うべきだったのか、疑問だよ。あの高さから飛び込んだら、それはもう病気云々以前に死んじゃいそう。本当に自殺行為だよ」
カエル「前半部分は酷評だよね」
主「正直、この映画をどう評しようか迷っていた。もうなかったことにすらしようと思っていたけれど……後半で、化けたね」
3 後半について
カエル「化けた? この映画が?」
主「そう。明確にこの部分がっていうと、鎌倉の街を美しく撮ったカットがあったじゃない。あのカットは個人的に謎だったんだよね。シンゴジラなら東京という街が主役だ! って言えるけれど、この作品において鎌倉は単なる舞台に過ぎないじゃない?
じゃあ、このカットって何よ?」
カエル「え? 僕に聞くの?」
主「それをこれから説明するの!」
主人公は誰?
カエル「え? どう考えても有馬くんでしょ?」
主「いや、多分ね、その時点で勘違いしているんだよ。確かに漫画版もアニメ版も主人公は有馬公生だったよ、それは間違いない。でもさ、映画版は違うんだよ」
カエル「じゃあ、かをりちゃん?」
主「そう。この映画版において公生のトラウマとか、なんだかんだっていうのは、あの鎌倉のカットまででおしまい。
そこから先は全く別のストーリーが始まるわけ」
カエル「……それって何?」
主「この作品がやりたかったことは『宮園かをりという人間が、鎌倉という街でいかに生きたか』という、その1点だけだったんじゃないかな?
鎌倉の街のカットは『かをりが生きた街』という意味でのカットなんだよ。そして音楽にのせてデートをするシーンがあるけど、個人的にはここは褒めるよ。ここは広瀬すずの魅力もあって、すごく美しくていいカットになっていたと思う。多分、台本がないカットでさ、本当にデートしているように撮ったと思う。
このシーンにおいてかをりは生き生きしているんだよね」
カエル「そこでかをりちゃんの生きた姿をしっかりと描きたかったってこと?」
主「そう。主人公交代なのよ。だからさ、クレジットロールでも一番初めに名前があがるのは広瀬すずであって、実は有馬くんは交際相手でしかなかった。
途中で『音楽を奏でた私たちのことはみんな忘れない』みたいなセリフがあったけれど、PVのように広瀬すずの天真爛漫な姿を映すことで鎌倉という街で暮らしたかをりという存在を印象つけているんだと思う」
カエル「……その音楽がJPOPなのはちょっといただけないけれどね」
最後の演奏シーン
主「そのあとのシーンっていうのは、個人的にはそれなりに評価するんだよね。例えばさ、演奏シーンひとつとっても、モノローグや説明セリフが極端に減ったの。これによって音楽をしっかりと聴かせてくれた。
個人的には少しのモノローグやセリフもいらなかったくらい。『ラブレターだ』とかさ、言わなくてもわかるのよ」
カエル「ここの演奏は良かったよね。急にかをりちゃんが出てきたりとかの演出もさ」
主「さらにメタ的にいうと、前半の演奏シーンがダメダメだったわけじゃない。多くの観客はそのダメだった演奏シーンを基準に考えているから、ラスト演奏シーンは相対的に特別なものに感じるんだよね。少なくとも、自分は感じた。
『あ、これいいじゃん、やればできるじゃん』って。合計4回の演奏シーンがあるけれど、どれも良くしちゃうとメリハリがないからラストのシーンが生きない。そのための犠牲として、前半の3回は見事に酷い部分にしたのだとすら思った」
カエル「じゃあ、映画としてのカタルシスはあるの?」
主「あるよ。特に自分なんかは先にあげた『鎌倉で生きたかをり』という意味を理解しているからさ、そこから頭が切り替わっているんだよね。
そこで『音楽を聴けば観客は私たちを忘れない』という言葉が、この2人の演奏に詰め込まれているんだよ。この音楽でカタルシスを感じれば、映画を見ている観客は『宮園かをり』という女の子を忘れないでしょ? っていう意味になるから」
全体の評価として
カエル「でもさぁ、その後半部分がそれなりに良かったとして、カバーできるの?」
主「難しいと思うよ。前半は酷いからそこで観る気をなくした観客も多いだろうし、カバーできるほど圧倒的な感動はしない。
ましてや原作ファンだとしたら、公生の扱いが軽くなっているし……
だけど、後半のかをりに感情移入をしていれば、そしてそこで頭を切り替えていれば感動することができる。自分も例の鎌倉のカットから頭が切り替わっていたから、少しだけ感動したし」
カエル「雰囲気作りはできているんだね」
主「後半の雰囲気に騙されるような人には向いていると思う。だけど酷評する気持ちもわかるしさ、なんとも言えないなぁ」
ラストについて
カエル「じゃあ最後に、あのラストについてはどうだった? ラストに関することだから、言葉を濁しながらお願いね」
主「……個人的には、原作があのラストを迎えて、アニメはあのラストを迎えたわけじゃない? だったら、映画も同じにする必要はないし、そうじゃないラストでもいいわけじゃない? 自分はそっちを望んでいたかな。
だからあのラストは……あっちに行くかぁって印象が強いかな」
カエル「言葉を濁しながらラストについて語りました」
最後に
カエル「じゃあ最後に。この作品を作った意味はあったのかと問われると?」
主「あったんじゃないの? 確かに展開も早いしさ、酷い場面も多いけれど、かをりをここまでフューチャーしたのもまた新鮮は新鮮だし。
公生の描き方が不足気味だったり、椿との恋愛事情も何も解決していないけれど、新たに『四月は君の嘘』を補完する内容としては、無しではないと思う。
ただ、これを絶対見ろとは言えないよね。四月は君の嘘やキャストが好きで、暇で、少しお金もあるなら観に行けばいいって印象かな。叩かれても仕方ない作品だし」
カエル「……主みたいな人はそれでも見に行くと思うけれど、普通の人はそう言われたら『君の名は。』でも見に行くんじゃない?」
主「……まあ、それはそれ、これはこれだ」
カエル「誤魔化して終わりかい!!」
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