今回はSNSを中心に話題を呼んでいる漫画『さよならミニスカート』についての書評です
ちょっと言葉を選ぶ必要はあるだろうな
カエルくん(以下カエル)
「本作は帯に『このまんがに無関心な女子はいても無関係な女子はいない』というキャッチコピーが付いていて、かなり社会的なメッセージ性が強い作品というのも伺えます」
主
「本来は自分みたいなオタク人間があーだこうだということはないんだろうけれど、ちょっと気になったので」
カエル「年々”女性の解放運動”は注目度を増しているし、アメリカの映画ではその要素があるのとないのとでは、興行収入が大きく変わってくるというのもあるし……
日本では政治や運動としての盛り上がりはありつつも、物語として盛り上がっているとは思いづらい面もある分野だからこそ、注目していきたいね」
主「もちろん、りぼんで連載されている少女漫画であるというのは前提として理解しつつも、ちょっと色々と思うところもあるのかな。
あまりネタバレしない方向性でいきたいけれど、それも難しいかもしれません」
カエル「まだ1巻ですので、もしかしたらズレた論調になるかもしれませんが、ご理解ください。
では、記事のスタートです!」
作品紹介
りぼんにて2018年9月より連載が開始されている牧野あおいの連載作品。
連載開始より大きな注目を集め、相田聡一編集長の『異例。この連載は、何があろうと、続けていきます。あなたに届けるために』というコメントなども発表されるなどの対応が注目を集めているほか、最上もが、竹達彩奈などの著名人がコメントを寄せる。
本作の主人公、高校1年生の神山仁那は学校でも数少ないスラックスを履いた女子生徒。そのため、ほかの女子からも浮いた存在となってしまっていた。
そんな仁那をきにするのは柔道部に所属する堀内光。彼だけは仁那に秘められた秘密を見抜いていた……
感想
では、まずはどんな感想を抱いたの?
何よりもこの作品がりぼんという少女向け雑誌で掲載されたことは、大変意味があるよ
カエル「とても社会性の強い作品だよね。これが少女漫画として発表されていることが驚きなくらいで!」
主「この作品がどうこうと語る以前に、これだけ重い、そして女性向けとして重要なテーマを選んだという点において高い評価をするべきだと考える。
編集長である相田聡一の……というか、相田さんって今編集長なんだね。バクマンでもおなじみだったけれど、なんだか時代を感じるなぁ」
カエル「はい、早速話が逸れてきたので戻してください」
主「少女漫画というと『可愛らしい女の子とイケメン男子が出てきて、恋愛するだけの漫画』という思いを抱いている人もいるだろう。
それが大間違いとまでは言わないけれど……そういう作品もあるけれど、その奥底にある人間の心理描写なども相当に深い作品だって多い。
なぜ少女漫画に恋愛作品が多いのかというと、いつも語るけれど”恋愛こそが女性の解放だ”という時代があって、その名残とも言える」
カエル「お家主義で親が決めた相手との結婚を……押し付けられるというか、結婚する相手すら自分では選べない時代からしたら、自由恋愛というのは女性解放として大きなポイントだったということだね」
主「基本的には少女漫画、あるいは女性向けの作品の大きな役割は”女性の社会進出の応援”あるいは”女性の解放運動”にあると思っている。
これは賛否こそあるけれど、アメリカをはじめとして欧米も同じで、今は”女性は恋愛が大好き! 男のことばかり気にしている!”なんて描写をしたら、それだけで大炎上する可能性があるほどだ。
それが良いか悪いかは別としても、女性の解放という意味では新しい動きとして受け止めるべきだろう」
女子が女子である大変さ
確かに女子は色々と男子に比べれば大変な印象もあるかなぁ
気を使わなければいけないポイントも多いしね
カエル「幼児や小学生時代は子供を狙う変態による犯罪の被害者になる確率は男女同じくらいかもしれないけれど、成長するにつれて体ががっしりしていく男性に比べると、危険性は格段に上がるもんね……」
主「”女である”ことが男の好色的な視線を浴びせられる可能性はとても高い。
多分、中学生くらいの時だと『誰それは胸がデカい』などのわい談を男子ならば誰でもするだろうけれど、そういう目に対して嫌悪感を抱く女性もいるだろう。
それから、何と言っても容姿への求められるレベルが高い!
ダイエットをしなければいけない、化粧をしなければいけない、ムダ毛を処理しなければいけない……そういったことをしていて”当たり前”と思われる風潮すらある。
部活動にのめり込むと一部の競技では筋肉がつきすぎたりするけれど、それで見た目で損する風潮もある」
カエル「一部の女性トップアスリートは『私は女捨ててますから!』なんて言い方をすることもあるけれど、男子は『男捨ててますんで!』なんて聞いたことがないんだよねぇ。
もちろん、男子もモテたい人などは見た目やムダ毛処理なども気をつかうポイントではあるけれど……”ブサイクな女性は男性よりも人生ハードモード”という言葉もネットではよく聞くし、容姿に対して求められるレベルは女性の方が高いかも」
主「その上、さらに生理やらの身体的な変化までもあって、当然のことながら進路や勉強もやらなければいけなくて……ともう大変。
正直、今の、特に若い女性を取り巻くある種の風潮であったり、無言の圧力は行き過ぎているという感もあるよ。
ももクロとかもよくいうけれど、アイドルグループが20歳を超えたらおばさん扱いになるんだよ? 歳を重ねると『劣化した』と呼ばれることもある。
本来ならばいくらでも若く、ありえない存在を描ける漫画、アニメも10代の若い男女を描いた作品も多くて、20代、30代以上が活躍する作品も割合として決して多いとは言えない。
アイドルなどのオタクカルチャーは若者文化とはいえ、この”若さこそ正義”な風潮も含めて、やはり今の日本が若い人、とりわけ女性に向ける視線は実はかなり厳しいものでもあるんだ」
一方で本作に対する違和感も
それだけ意義のあるテーマを選んでいるんだね
ただし、だからと言って手放しで称賛はできない部分もある
カエル「え? そうなの?」
主「本作ほそのようなテーマを持つがゆえに、どうしても”政治的な側面”を強く持ってしまう。いわゆるポリコレ要素が強い作品だ。
だけれど、それは描いていることに細心の注意が必要だ。
例えば近年ではうちはピクサーの作品である『リメンバーミー』を大批判したけれど、その理由は”家族は大切に”というテーマを内包していながらも、作中で『僕の家族が殺人犯でなくてよかった』という発言を主人公でしてしまっている。
それは家族を大切にと言いながらも、あまりにも無神経な発言であり、家族に犯罪者がいた場合は全くの無実の少年や他の家族もその罪を負わなければいけないのか? という疑問もある」
カエル「普通の作品ならば特に問題がなくても、政治的な主張を含むからこその違和感につながってしまうわけだね」
主「それいうと、本作も物語としての面白さの他に倫理的な高いハードルを超える必要はある。
もちろん、どんな描き方をしても叩く人は出てくる。
そして今作の話をすると……3点がどうしても気になってしまった」
- 光が中性的な顔立ちの男の子
- 女性だけの問題なのか?
- 光と仲が深くなっていく描写
カエル「1つ1つは他の作品ならば気にならないかもしれないけれど、政治的な、あるいは社会的なメッセージ性を内包しているからこそ気になってしまうポイントかぁ」
気になるポイント
〜男女の描き方〜
では、1つ1つ気になるポイントについて語っていこうか
1と2はほぼ同じような問題だね
カエル「光が中性的だとなんでダメなの?」
主「う〜ん……本作って”女性の性に対する世間の目”などのジェンダーに対する問題を扱っているわけだけれど、その相手役である光が中性的であるとことが、果たして退避行為になるのだろうか? という疑念かなぁ。
例えば、これがもっと……『俺物語』ほどではないにしろ、男性的な顔立ちならば、男子と女子の対比としてもっと生きてくる。
変な話だけれど『結局現代で人気の中性的なイケメンならばなんでもOKなんでしょ?』という思いだって抱かれかねないわけだ」
カエル「『アニメや映画の主人公が美男美女だからこの物語は成立するんでしょ?』と似たようなものかなぁ」
主「普通の作品ならば野暮なツッコミなんだけれどね。
そして2番も似たような問題で……女子だけの問題に限定しているけれど、実は男子だって似たような問題は抱えている。
”男なんだからこうあらねばならない”という世間の思いは同じように抱えているし……考えようによっては男子の方が圧力は強いかもしれない」
カエル「男子の方が?」
主「例えば、女性がスラックスであることは何の違和感もないけれど、男性がスカートを履くと奇異の目を向けられることも多い。
女性的な行動、あるいはファッションを男性がしていると、ゲイっぽいなどという目を向けられることもある。他にもピンクをオシャレなアイテムで男性が身につけるケースは増えているけれど、ゲイっぽいと意見だって同様にある。
このように”らしさの問題は女の子特有の問題”ではない、というのはちょっと主張したくなる」
カエル「まあ、でも少女向けの雑誌で連載されている作品だから、当然といえば当然の描きからではあるんだけれどね。
じゃあ男性側の問題も描ければ十分なんですか? と言うと、それはそれで違う気もするし。
やっぱり、このテーマだからこその突っ込みどころかなぁ」
〜光との関係性〜
そして1番の懸念がこのポイントだけれど……
ここは大きな問題だと捉えている
主「本作では仁那がある事件に巻き込まれているけれど、それは誰が読んでも『AKB握手会の事件』を連想するだろう。
川栄李奈は今でこそ若手女優として大きな注目を集める存在になったけれど、あの事件で人生が大きく変わったことが間違いないわけだし」
カエル「一応、編集長は『実在の事件や人物を直接モデルにはしていません。』という回答をしているけれど、ちょっと苦しいかなぁ。あの描写を見て、誰もがあの事件を思い浮かべるだろうし」
主「そして1巻ではその犯人が捕まっていないこと、さらに光がその犯人”かもしれない”可能性を示唆している。
さらには犯人に対してフラッシュバックを引き起こすほどの恐怖心を抱いているのにもかかわらず、その犯人の可能性が有る光に対する接し方……特に1巻ラストの描写に関しては、正直無神経だと言わざるをえない」
カエル「ちょっとだけ議論を巻き起こした『幸色のワンルーム』を連想したよね」
主「もちろん、幸色のワンルーム騒動のように、表現規制までいけば自分は大反対する。だけれど、その描き方が問題無いとは思わない。
例えば似たような事件の被害者が同じような状況になったとき、どのような心境になるだろうか? ということを想像すると、今の描き方はかなり性急であり、もっと慎重で丁寧な描写が必要になってくると思われる」
カエル「……少女漫画から恋愛描写も必要と考えるか、それともって話かなぁ」
主「どうしても政治的なメッセージ性を内包するからこその問題かもね。
もちろん、自分が過敏になっている可能性は十分あるけれど……それでも、ちょっと思うところはあるかなぁ」