物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『響 HIBIKI』ネタバレ感想&評価 平手友梨奈最高のデビュー作も原作の欠点は全く隠せていない映画化

 

 

えー、最初に語っておきますが『響』のファンはここでおかえりください

 

自分は原作も全部読んでいるので、結構楽しみなんだよ!

 

 

カエルくん(以下カエル)

「え? 楽しみにしていたの?」

 

「そりゃもちろん!

 あの原作をどう調理するのかなぁって!」

 

カエル「……あ、まあ、そうなんだ。

 過去に原作を一気読みした時はあれだけ好き勝手書いて、今は消したほどなのに……」

主「特に小説家の物語だからね! 

 小説には思い入れがあるし、注目しないと!」

カエル「文学青年崩れみたいなところもあるから、この題材には言いたいことも思うこともたくさんあるよね……

 では、感想記事を始めます……」

 

 

 

作品紹介・あらすじ

 柳本光晴が原作を書き、マンガ大賞2017にて1位を獲得した人気作品『響 小説家になる方法』を実写映画化。

 監督は『センセイ君主』『君の膵臓をたべたい』などの恋愛映画を多く撮ってきた月川翔が務め、脚本は『信長協奏曲』など、実写アニメを問わず様々な作品の脚本を務めてきた西田征史。

 人気アイドルユニット『欅坂46』のセンターを務める平手友梨奈が映画の初主演を務めることが大きな話題を呼んでいる。そのほかアヤカ・ウィルソン、北川景子、高嶋政伸、柳楽優弥、小栗旬が天才に翻弄される文芸界の面々を演じている。

 

 文芸雑誌『木蓮』の編集部に1通の新人賞応募作が届く。本来はネットでの応募のみなのだが、原稿での応募のため落選するはずのところを、偶然手にした花井ふみ(北川景子)が中身を読み、熱中してしまう。

 なんとかその本を新人賞をとらせたいと、鮎喰響という名前以外わからない状況から作者を探し、偶然も絡みなんとかコンタクトをとることに成功する。

 その天才作家、鮎喰響はまだ弱冠15歳の女子高生であり、その性格は破綻していた……

 

 

 

 


映画『響 -HIBIKI-』予告

 

 

 

 

 

感想

 

えー、いつも通りのTwitterの短評からですが、今回はいつも以上に過激です……

 

 

もう、本当に大ッッッッッ嫌いな作品ですよ!

 

カエル「……マンガ大賞を受賞した際に原作を一気読みして、その時にかなり苦言を呈した作品です……」

主「まず、1つ言っておきたいのは響という作品そのものが嫌いなわけであり、平手友梨奈をはじめとしたキャスト、また月川監督などのスタッフや、原作者へのヘイトがあるわけではないです。

 あと、これだけ”嫌い!”と言わせる作品もそうそうないので、一周回って褒めていると思ってください

 

カエル「……それ、通用するのかなぁ?」

主「つまらない物語っていくらでもある。

 でも、嫌いな作品ってそうそう多くないの。

 本作は”嫌い”という言葉を使わせるだけのエネルギーに満ちているし、自分がダメな部分を愛する人も絶対いる。

 多分、賛否がある程度割れるタイプの作品だと思うんだよね。

 原作の持つエネルギーを、映像化した際にこれだけ抱えているという評価も結構しています。

 本作は”嫌いだ!”とはっきりと言えるくらいのエネルギーを兼ね備えていたこともとても嬉しいし、歓喜の意味合いもあると捉えてください

 

カエル「……何、そのヤンデレみたいなこと。

 これも一種の高評価なのかなぁ?」

 

 

 

小説への愛が感じられない作品

 

カエル「えっと、何がそんなに嫌いなんだっけ?」

主「ものすごく簡単に言えば、文壇や小説家に対する愛が一切感じられないところ。

 特に、原作からそうだけれど、まったく小説への愛がないことがはっきりと伝わってくるのが、大嫌いだね」

カエル「……そこまで言い切る?」

 

主「多分、響のような破天荒な小説家のイメージって多くの人が抱えているだろうけれど、自分は何度も語るけれど坂口安吾や太宰治などの無頼派だったり、寺山修司などを愛してきた人間なわけ。そりゃ、行動もいろいろな問題のある部分も多いけれど、でも彼らには圧倒的な才能があった。

 響には才能が一切感じられないわけ

カエル「……え? でも予告にもあるからネタバレにならないだろうけれど、芥川賞と直木賞の同時ノミネートなどを果たしているし……」

 

主「そこいらへんも愛がないよね。

 芥川賞と直木賞の同時ノミネートって、野球で例えれば投手と野手でベストナインに両方ノミネートするようなもので……」

カエル「大谷翔平だね」

主「……じゃあ、映画で言えば映画秘宝と映画芸術の年間ランキングで1位を獲得するようなようもので……」

カエル「『この世界の片隅に』が惜しいところまでいったよね」

 

主「……とにかく!

 確かに過去には同時ノミネートがあったけれど、近年はそれはありえないものなんだよ

 常識をぶち壊すのが響の魅力のように考えられるけれど、じゃあ野球で例えれば25勝0敗するピッチャーが出てきますか? て話でさ」

カエル「……田中将大は24勝0敗1Sですが」

主「だから! 純粋に数字で出てくるようなスポーツとはわけが違うの!」

カエル「自分から言ったくせに……」

 

主「本作の決定的な欠点はネタバレになるから後々語るけれど、まるで芥川賞を文壇最高の賞のように扱っていたりするなど、小説好きにはまっっっっっったく納得できない設定のてんこ盛りなわけ!」

 

 

 

 

本作の鍵を握る平手友梨奈

 

でもさ、うちの評価はともあれ、多くの人に支持されたわけじゃない?

 

本作の成功の鍵を握るのは間違いなく平手友梨奈だよ

 

カエル「結局は、響のキャラクター性ありきの物語だもんね」

主「自分は『響』『累』はセットで鑑賞して欲しいと語っているけれど、その理由はどちらも才能を語った作品だから。

 そして、それと同時に主演女優が最も重要な作品であることは間違いないからだ。

 近年、どうしても若いアイドルのような女の子を売り出すとなると、青春キラキラ映画ばかりになってしまう。だけれど、本当の意味で女優を売り出すならば、本作や累のような重厚な演技が問われる作品の方が向いているはずだと考える」

 

カエル「でもさ、平手友梨奈は今作が初主演でしょ? それでここまで重い役を任せられるというのも、すごい話だよね」

主「アイドルとしての彼女の評価はあまりよく知らないけれど、ここ数年では最も人気が伸びているニューフェイスでしょう。

 自分も彼女の演技を見るのはこれが初めてだけれど、響役に決まったと聞いた時はこれ以上ないベストキャストだと感じたね

 

カエル「原作を読んでいるから、というのもあるだろうけれど……それはなぜ?」

主「前も語ったけれど、現代は陽の気を持つアイドルや若手女優が非常に多い。周りに元気を与えてくれるような存在だ。

 だけれど、響はそんな存在ではないわけ。むしろ隠の気を纏った少女であり、しかも15歳でエキセントリックな行為をやるかもしれないと思わせる10代の若手女優なんて……もう平手友梨奈しか自分は思い浮かばなかった。

 もちろん、初主演という重みはあるし、そのプレッシャーは強いだろうけれど、どのような作品に仕上がるのか? というのは非常に楽しみだったね

 

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本作の全てを握ると言っても過言ではない平手友梨奈の存在

(C)2018 映画「響 HIBIKI」製作委員会 (C)柳本光晴/小学館

 

役者について

 

その役者についてはどうだったの?

 

……文句がある人もいるけれど、概ね満足だよ

 

主「特に平手友梨奈は予想通り最高の響を演じてくれた!

 自分の原作のイメージを一切壊さずに、自分が本当に大嫌いな、エキセントリックな響を演じていたし、これが初主演と考えるとほぼ100点を与えてもいいんじゃないかな?

カエル「お! 大絶賛だね!」

主「響という作品の魅力の半分以上は、響というキャラクターにあるから、ここを見事に演じてくれないと作品全体のエネルギーが一切なくなってしまう。今回はあまり抑揚をつけない喋り方などをしていたけれど、それが響というキャラクターに見事にあっていた。

 特にあの眼ですよ!

 全てを射抜くような鋭い眼光があったからこそ、彼女は響なりえたね」

 

カエル「注目する役者が多い若手女優に、ニューフェイス登場だね」

主「ただし、今回は響という役と平手友梨奈というアイドルのイメージが結構近かったようにも感じられて、真価が問われるのは次だとも思うんだよね。

 明るいキラキラした役を演じるのか、もっとドロドロした執念の女を演じるのかはわからないけれど、とりあえず第1ラウンドは完勝でしょう」

 

カエル「他の役者は?」

主「アヤカ・ウィルソンは悪くないものの、凛夏は原作だと黒く焼いているような子で、可愛らしさもあるけれどもっとギャルギャルしい子なんだよね。

 アヤカだと、その見た目のとっつきにくさ、不良じみた怖さがあまり感じられず、もっと怖いヤンキー的な気質を備えた方が原作には近かったと思う。

 ただ、彼女の演技自体は悪くないです。ほとんど原作と流れが一緒だからこそ、余計に気になったけれど、演技自体は悪くない。

 それと小栗旬なども含めて、ほとんどの役者はいい演技をしていたんじゃないでしょうか

 

カエル「あ、じゃあ役者に関しては絶賛なんだ!」

「う〜ん……でもなぁ、北川景子はかなり思うところがあった。

 序盤の方で頭を抱えてしまうような演技もあったし、初主演の平手友梨奈に完全に負けている印象もあって……演技合戦で一方的に敗北を食らっているの、久々に見た気分。

 後半持ち直す部分もあるけれど、ふみの役もあるかもしれないけれど、自分にはかなり問題が多いように感じられたねぇ」

 

 

以下ネタバレあり

 

 

 

 

作品批判

 

本作最大の欠点とは?

 

ここからはネタバレありですが……さらにキツイ論評になるかもしれません

 

今回は好き放題言わせてもらうと決めているから

 

カエル「えっとさ、ネタバレありで語るということだけれど、本作の最大の欠点って何?」

主「ものすごく単純。

 肝心の小説が一切出て来ないこと

カエル「……え? そういうこと?」

 

主「本作は基本的に響の才能をみんなが褒め称えて、感想を述べて『素晴らしい! 素晴らしい!』と連呼するだけの作品になっているわけ。だけれど、肝心の作品が一切登場しない。出てくるのはタイトルだけ。

 あらすじなどどころか、純文学かエンタメなのかもはっきりとわからない。

 多分純文学っぽいけれどさ。

 全く説得力もなく『天才だ! 100万部だ! 売れるぞこれは!』って、さすがに観客を馬鹿にしすぎでしょう」

 

カエル「……それは原作からもそうじゃない?」

主「だから、この作品は『天才が全ての常識を駆逐する』という作品でありながらも、そんな天才や全てを変える作品なんてこの世のどこにも存在しないということを、証明してしまっているわけ。

 響というキャラクターを現実の世界に降り立たせることが一切出来ていない。だからこそ、よりこの物語が空しく響く。

 自分に言わせて貰えば、多くの作家や作家志望者を小馬鹿にした作品だとすら思うよ。

 だから大嫌いなの」

 

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この2人の会話や最後の決めセリフなど、作家論としてはありな部分も多いだけに、肝心の作品が全くないのが余計に違和感に

(C)2018 映画「響 HIBIKI」製作委員会 (C)柳本光晴/小学館

 

小説の出だしが与える衝撃

 

カエル「でもさ、小説を全て載せるわけにはいかないじゃない?」

主「そりゃ、欲を言えば10ページくらい読みたいけれど、それが不可能なのはわかっている。漫画でも映画でも表現できない。

 だったら、冒頭の数行、あるいは1文だけでもいいから提示すると、どの程度のレベルかってなんとなくわかるんだよ

カエル「……それだけで?」

 

主「おそらく、響のモデルには綿矢りさがいるだろうけれど……平成の天才作家と言えば綿矢りさだしね。その代表作『蹴りたい背中』の出だしはこう始まる」

 

 

さびしさは鳴る。耳が痛くなるほど高く澄んだ鈴の音で鳴り響いて、胸を締めつけるから、せめて周りには聞こえないように、私はプリントを指で千切る。細長く、細長く。紙を裂く耳障りな音は、孤独の音を消してくれる。気怠げに見せてくれたりもするしね。葉緑体? オオカナダモ? ハッ。っていうこのスタンス。あなたたちは微生物を見てはしゃいでいるみたいですけど(苦笑)、私はちょっと遠慮しておく、だってもう高校生だし。ま、あなたたちを横目で見ながらプリントでも千切ってますよ、気怠く。っていうこのスタンス。

 

 

 

主「この冒頭、例えば”さびしさは鳴る”だけでも綿矢りさの天才性がよく出ている。

 普通の作家はこの出だしを”さびしさが募る”などと書きそうなところを、鳴るという言葉を選択している。

 つまり、聴覚という五感を用いた身体的な感覚を持って、孤独感を演出している。

 彼女のこの感覚というのは、学生時代に似たような思いを抱いていた人も多いのではないかな?

 そして、音を中心とした描写を連ねることで孤独感を演出しながらも、彼女が実は痛々しい人間であるということも表現している、まさに天才の出だしです

 

カエル「へぇ……ちゃんと評価されるだけの理由はあるんだね」

主「これでも長いならば、冒頭の1文である”さびしさは鳴る”だけでも、ちょっとはわかるよね。

 小説の紹介であらすじをベラベラ述べる番組や特集などもあるけれど、そんな物語の面白さとはまた違う素晴らしさを持った作品が純文学なわけであって、あらすじやネタバレなんてそんなに意味がないんですよ。

 その上手い下手はもちろん好みはあるけれど、ある程度以上本を読んでいればすぐにわかる。だからこそ、作品を描いて欲しかった」

 

 

 

 

本作の名台詞に叫びたい!

 

そのストレスが溜まった結果が、この酷評というわけね

 

響の名台詞も作品自体が全否定しているからね

 

主「響がいうけれどさ『読んでから文句を言いなさい』っていうのは確かに正論に思えるよ。

 だったら読ませろよ! 作品を!

 作品を提示しないで『天才だ! すごい!』じゃねぇんだよ!

 こっちだって読みたいんだよ、芥川賞と直木賞を両方受賞するような作品を知りたいんだよ!

 なのに出さない、出せない。そんなこと、ただの逃げではないですか?」

 

カエル「落ち着いてね! ゆっくりと話しましょう!」

主「このようなクリエイターの物語を見せるとき、作中作って本当に大事なわけ。

 何度もあげている『累』は土屋太鳳のあるシーンで、彼女の天才性が示されて鳥肌ものであり、作中の累が天才であることが証明されている。

 他にも『桐島、部活やめるってよ』では、作中作の映画がとても大事な働きを示す。

 漫画家の話だけれど『バクマン』では、主人公たちが描いた魅力的な漫画を、プロジェクトマッピングなどを用いて工夫して映像として表現していた。

 それを描くことで彼らの本気が伝わってくるし”虚構が現実を圧倒する瞬間”を楽しませてもらうことができる。

 でも、本作にはそんな工夫は一切なかった」

 

カエル「結局は響の……作者のお話で終わってしまったよね」

主「自分は確かに小説や無頼派が大好きだけれど、彼らの破天荒な生き方があるから好きなんじゃない。

 とてもつもない魅力に溢れた文章があり、その文章が伝えてくる情熱や思想が大好きなんだ。

 作者が人を殴るのではなく、文章で人を殴る。

 さらに言えば、生きるも殺すも自由自在の文章を書く。 

 これが映画ならば、人生に深く影響を与えるような重い映像を撮る。

 それが表現だろうがって話。

 作者なんてどうでもいいと言ったら語弊はあるけれど、作品があってこその作者なんだからさ!

 

カエル「……クリエイター論は刺さる時はとても高く評価するけれど、特に小説家だからこその違和感なのかもね」

 

 

 

 

まとめ

 

この記事のまとめです

 

  • 好き嫌いが別れるだろうけれど、エネルギーに満ち溢れた作品!
  • 平手友梨奈の最高のデビュー作になったのでは?
  • 原作通りだからこそ、原作と同じ欠点を抱えてしまった印象も……

 

もともと原作嫌いだけれど、でもエネルギーの強さはあるよね

 

カエル「何度も語りますが”つまらない”ではなくて”嫌い”と、ここまではっきりと言わせる作品はそうそうないので、それだけの魅力がある作品かもしれません」

主「一番最悪なのは”興味ない”だからね。

 嫌われる作品というのは、好きな作品と紙一重であり、それだけ思うところがあったからこそ。だからこそ、これだけ激しく非難した部分もある。

 多分、いろいろこの記事に思うところもあるでしょうが……好きな人と嫌いな人がはっきりと分かれる作品はいい作品だと思うので、本作もまたいい作品だと思います!」

 

 

 

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