今回は『無職転生 〜異世界行ったら本気だす〜』の1期、全23話の感想レビューになります!
今年のテレビアニメでも注目度は高いのではないかの
カエルくん(以下カエル)
「2021年って誰もが認める覇権アニメ! ってなかった印象だけれど、今作はそれでも主役の1つであるのは間違いないんじゃないかな」
亀爺(以下亀)
「こればっかりはわからんが、話題性もあったし、いいリターンは獲得できたのではないかの。
是非とも2期を希望したいところじゃな」
カエル「話によるとじっくりと最後まで制作したいからアニメスタジオを作ったほどの入れ込みようだからね。
とても面白いことになりそうだなぁ……
てなわけで、今回はテレビアニメシリーズのネタバレありでレビューのスタートです!」
感想
それでは、Twitterの短評からスタートです!
#無職転生
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2021年12月19日
異世界転生モノは苦手な部類だったが今作は世界の
作り方や魅せ方がかなり分厚く、天才主人公設定も等身大のキャラクターの成長を描きつつ、彼が関わってきた人々が変化していく様を見せていく。現代的なニートが転生という点でもわかりやすく感情移入もしやすかったしこの続きを熱望したい pic.twitter.com/0ctyBSivcO
これはなかなかの良作だったのではないじゃろうか
カエル「原作未読で、正直1クール目が放送された時には『また異世界転生モノかぁ』と思ったのも事実なんだよね。それくらい、異世界転生系、そしてオレツエー系が溢れかえっていて、正直に言えばもう胃もたれするくらいで……
でも、1話を見たときにすでにこの作品はよくある異世界転生モノとは違う印象があったんだよね」
亀「単純に映像クオリティだけで言っても、かなり高いモノであったからの。
作画的にも安定している回も多かったし、何よりバトル・魔法描写が派手で見応えがあった。それらを考えても、今年のテレビアニメではなかなか上位の作品だったと言えるのではないじゃろうか。
少なくとも……わしは異世界転生系やなろう小説などは全く通ってきていないが、今作に関してはその源流と呼ばれるのにふさわしい……少なくともアニメ版に関しては、それだけ高く評価されるのも納得の作品であったかの」
一方で、エッチな部分が多かったりと少し厳しい意見も散見されるようではあるけれど……
まあ、そこも含めてこの作品の味なのではないかの
カエル「中世のヨーロッパをベースとしたファンタジーという、ある意味では王道な世界観だったけれど、その時の性事情を下敷きにしているのか、やっぱり今の流れで見ると少し気になる性描写も多かったのかな?
少なくとも女性には勧めづらい作品ではあるよね」
亀「じゃが、そこも含めて重要なのじゃろう。
これは後にも語るが、今作は世界観の表現がはっきりとしておる。何よりも原作が完結しているからなのか、伏線も多く引かれているようじゃな。その中で、この性描写というのは重要なアクセントをもたらしておるし、この世界が決して綺麗事で成立しているわけではないことを表現しておる。
まあ、日本アニメらしい性描写だったのは眉を顰める意見があるかもしれんが……それでも性に関してしっかりと向き合っていこうという意識は感じられたかの。
減点する気持ちもわからないではないが、ここも重要な説明であったのではないかの」
今作が成し遂げた”大河ドラマ”
今作の魅力ってどういうところにあると思う?
やはり、”大河ドラマ”であるということではないじゃろうか
カエル「大河ドラマってNHKとかで流れている、日曜夜8時のドラマのあれ?」
亀「goo辞書では『テレビなどで長期間連続して放送される、スケールの大きなドラマ。歴史上の人物や事件などを題材にするものが多い。』と書かれておるの。
わしがこの単語を解説するならば……そうじゃな、『ある特定の時代や世界の流れや事件を特定の人物を中心に描き出そうとするドラマ』のことというかの。
つまり、本作というのは確かに架空のヨーロッパ風のファンタジー世界を舞台としているわけじゃな。当然のように、現実に魔法は存在しないし、魔族も存在しないし、なんならこの話は史実ではない。だけれど、その世界観の作り込みが圧巻だったわけじゃ。
わしに言わせて貰えば、確かに本作は”架空のファンタジー世界の物語”であるけれど、その描写は決して絵空事ではない。
むしろ、その世界が実際に存在するということを前提として、文化・価値観・美術などを様々なものを構築しているわけじゃな」
確かに背景にある美術資料を見ても、現実にあるものを参照しながら、まるで現実の世界のように多種多様だったよね
国や大陸が変わればその様式も変わるなども普通に描かれていたの
カエル「ブエナ村での簡素な生活、グレイラッド家での豪華な貴族の生活、それに魔大陸などの様々な村や町での生活でも、細かく文化や生活様式が変わることで、その種族や文化の違いを描いていたのも特徴的だよね」
亀「その中でも言葉が異なることもまた、印象的かもしれんな。アニメであれば全て日本語であっても問題がないわけであろうが、ルーデウスがわからない言語なんかは、きちんとこちらにも意味がわからない言語として描かれておる。
他にもロキシーの村では念話をして話すなどの独特の会話形態が描かれておるが、これらは設定ではあるものの、それを積み重ねることによって世界をより深く描くことに成功している。
これは当然、アニメに限らず様々な作品でこだわり過ぎると面倒なことになるので統一された描写が多かったりもするのじゃが、そこも妥協することがなかったためにより奥深い世界が描かれておった。
大河ドラマというと史実に基づく歴史的な物語が多い印象もあるかもしれんが、同じように”現代ではほとんど現存しない世界を構築する”という意味では、今作も似たようなところがある。
それがかつて存在した歴史なのか、それとも存在しない架空の世界なのか、という違いがあるくらいじゃな。
その点において特に卓越しており……現代劇では小物にもこだわった作品はたくさんあるが、架空のハイファンタジーな世界観でここまで小物類にもこだわった、しかもテレビアニメという点ではなかなかこの作品に匹敵するものはないのではないかの」
人間の悪意と下世話な文化に踏み込んだ描写たち
その世界観の作り込みだけが魅力だった、というわけでもないもんね
きちんとした血肉の通った人間描写が魅力的だったの
カエル「その世界観の作り込みって背景や美術に関する部分だけではなくって……人間社会の醜さや、生死、性社会をきっちりと作り上げてきたからこそ生まれてきたものというか……」
亀「先ほどあげた歴史的な大河ドラマもまた、現実には血生臭い闘争を描いているわけではあるが、放送時にはそこはオミットされておる。まあ、全国的に放送されるもので生首をドン! と表現されても、それはそれで恐ろしいし問題があるものじゃしの。
戦国時代、あるいは幕末などを舞台にした際に、当然ながら死や性に関する悲劇はいくらでもあるはずなのじゃが、そこはあえてリアルには描かないことが多い。それは”かつてあった歴史”ということで、描かなくてもわかることが多い、という理由もあるじゃろう」
カエル「でも、今作ではそこも生々しく描いていたよね。
例えば5話の『お嬢様と暴力』では誘拐されたエリスへの暴行描写、あるいは斃されて転がった遺体の描写などが、これでもかと生生しく描かれていて……。そこで初めて人の生の暴力や死に触れたルディの感覚が、視聴者にも通じるようになっていたよね」
亀「つまり、そこにおいても”嘘がない”というか……よりリアルな物語を追求したわけじゃな。
性描写に関しても親の性を覗き見する、そんなシーンがあるのも、アニメ的なムフフ表現であるといえば、それだけで理解できる。これはある種、ラッキースケベ的な意味合いでこの手の作品には必要なムフフ表現じゃろう。
しかし、例えば7話の『努力の先にあるもの』のラスト付近で描かれていた、サウロスが獣人のメイドに手を出しているシーンなどは、本来なくてもいい描写じゃろう。しかしそこを挟んできたのは、単なるラッキースケベというよりも、そういう行為が普通に存在する世界であることを描いているわけじゃな。
これらの表現が他のアニメなどにもあるような単に見応えがあるだけの作品ではなく、その時代の価値観を表すことにもつながっておるわけじゃな」
前世の男とルディの変化
1人の少年(中年)の成長譚
そして何よりも1人の少年(中年)の成長譚としても魅力的だよね
これは異世界に転生するという設定の意味がある作品じゃからな
カエル「あえて過去の……前世の生き方を何度も描くことによって、このお話はルディの成長と共に前世の男が変化していくものだ、という表現になるわけだね」
亀「さらにいえば、完全なるファンタジーとして表現するよりも現実の視聴者に対してリンクしやすいように工夫されていると感じた。つまり……これはおそらく異世界転生モノのキモであろうが、『転生前のクソな人生=現実のモヤモヤする日常』という方程式を視聴者に根付かせて、それを改変することによってよりカタルシスと親近感をもたらすというものじゃな。
それが学校のイジメと引きこもりという問題を引用することによって、ルディの成長をより劇的に見せることに成功する。
単に幼児期の恐怖心というよりも、何年も積み重なった恐怖心の方が、現実的であり視聴者にもわかりやすいからの」
カエル「その点でいうと今作ってすごくわかりやすくて
引きこもりの男が天才少年として生まれ変わる
↓
初めて外に出て引きこもりを卒業する
↓
外の世界で多くの人と出会い”強制的に”旅に出る
↓
旅を終えた後で”(消極的ぎみだけど)自発的に”旅に出る
というような変化を描いているね」
全体としての構成がとてもうまかった印象じゃな
亀「メインの物語はルディの冒険譚かもしれんが、その内実は”失敗した男のやり直し人生”だったわけじゃな。
ルディはいつも他者によって大きな世界へ行動するように導かれていたけれど、最後は自分の意志で外の世界へと旅をする決意をする。引きこもりで外に出ることができなかった男の成長としては、これは間違いなく大きな成長じゃ。
だからこそ、最終話のあのラストの足踏みというのは、本人は失意の中であろうがとても大きな意義がある一歩であった。
また忘れてはいけないのは杉田智和の名演技じゃろう。
パブリックイメージとしてもオタク的な印象が強く、良い人だけれど変わった人というものが多いじゃろうが、実に演技力のある良い声優であるのは間違いない。この役が杉田智和以外であれば、それはそれで違和感につながっていたのではないじゃろうか。
誰とも交わらなかった男が、誰かと交わり、誰かが変化し、人生が変わっていく……それを大きなスケールで描いた大河ドラマじゃと、わしは思うがの」
性描写について
一方で、今作の問題的な描写とも言っていた性描写についてはどう思うの?
これはとても難しいが、わしは日本アニメ風にとても良いバランスだったと思うがの
カエル「近年はポリコレ的っていうのかなぁ……例えば少年漫画的なラッキースケベ展開すらも、眉をひそめられるようになっていて……いや、まあ、それは実はずっと昔からなんだけれど、今はその叩く棒がより強力なものになっている印象もあるかな。
それでいうと今作の性表現というのは、その観点からすると万人に向けられたものではない、というのは理解してもらえるのではないかな」
亀「まず、1つ語っておかねばならないのは、あくまでも本作は”男性視点の男性的な性描写であり物語”という点じゃ。少女漫画よりも少年漫画寄りの性描写であり、その点では今作はあまりにも男性的に目線が……無意識的にも強すぎる。
そこを問題視する意見もあるじゃろうし、わしも女性にはなかなか勧めづらいものがある。『男の妄想を具現化した作品』などの言われても、それはそれで仕方ないじゃろう。
ただ、わしはこの性描写も良かったと思う。
- 前世の男のダメさ=ルディのわかりやすい欠点の明示
- 視聴者に嬉しいムフフ展開
- この世界の性文化の提示
- 性の神秘性の演出
これらが同居する演出であった。
1、2、3に関しては上記のようにわかりやすいじゃろう。少年漫画的なラッキースケベでありつつも、この世界の性を提示することで大河ドラマとしてこの世界に根付く文化を見せつけてきた」
性の神秘性って、この作品にはそぐわない言葉だよね?
いやいやいや、わしはかなりこの言葉が合うと思うがの
カエル「今作ってエリスとのベットシーンなんかもあるけれど……」
亀「まさにその描写じゃな。
それまでのおちゃらけたような性とは違い、ここはとても神妙に描いていたように思う。このシーンの意味合いは2つあって
- 少年期の終わりと青年期への成長
- それまで誰にも受け入れられなかった男が自分で手に入れた愛
というわけじゃな。
今作の第1期はまさにルディの少年期編と言える。性行為が少年期の終わりであり、その成長という観点は少しどうかと思うという意見もあるじゃろうが……しかし、とてもわかりやすいじゃろう。実際、現実でも同じような感覚を抱く人というのもあるのではないかの?」
カエル「少年から青年への変化って、男性は女性と違って初潮とかの体の変化がないからよくわからないって言われるよね。その変化を描くための儀式でもあるんだね」
カエル「うむ。だからここはあえてエロを重視せず……それこそエヴァではないが、もっとエロエロしく描くこともできたが、そうではなく静かに、煽らず描き抜いた。
同時に”誰にも愛されたことがない”という前世の男のトラウマを克服し、自分の力で関係性が最悪だったエリスと結ばれることで、その精神的充足も描き出した。
まあ、女性関係が男の精神的充足という描き方も、これはこれで批判がありそうじゃが……それ以外にいい方法はあまりないかもしれん」
カエル「ここが先にあげた”徹底して男性目線の物語”みたいなことなんだね」
亀「わかりやすく成長・充足・獲得……そしてその後の展開も含めて喪失(失恋)を描いているからの。これらは青年期に起こりやすいドラマであり、とてもわかりやすいものじゃ。
そう言った意味でも、わしは今作を評価したいかの」
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