亀爺(以下亀)
「今回は名作文学とゾンビが組み合わさった、異色の作品である『高慢と偏見とゾンビ』であるが……主はホラー映画は苦手ではなかったかの」
ブログ主(以下主)
「ホラーは苦手だよ。できれば……というか、頼まれても見に行きたくはない」
亀「じゃあ、なぜこの映画を選択したのか? 10月に鑑賞する予定の映画一覧にも入っていなかったように思うが……」
主「ファーストディだから安かったのもあるけれど……この名作文学とホラーの組み合わせが気になったからかなぁ。あとさ、勝手なイメージだけど、ゾンビものってホラーの中ではそんなに怖くない印象なんだよねぇ」
亀「バイオハザードなどは初期は怖いが、その後はモブとして駆逐される存在になっていくからの」
主「そうそう。後は最近だと『甲鉄城のカバネリ』などもあったし」
亀「……海外の実写映画と日本アニメの違いもあるがの。そこはほら、予告編を見て、とか他にも理由があるじゃろ?」
主「予告編も見ないで行ったんだよね……今思い返すと、これでガチガチのホラーだったらヤバかったなぁ……更新が止まったかもしれん」
亀「……なかなか綱渡りなことをしておるの」
1 ネタバレなしの感想
『高慢と偏見』の知名度
亀「まずはこの『高慢と偏見』という名作文学をモチーフに、ゾンビを交えて作劇したということがこの作品の特長であり、先進性だと思うがの……
やはり高慢と偏見は読んでおいたほうがいいのかの?」
主「……別にいいんじゃないかなぁ?」
亀「……わしも主も読まないで映画を鑑賞したしのぉ」
主「そりゃイギリスではどれほどの知名度があって、どれだけの人が読んでいるのかは知らないけれど……1813年発表された作品だから今から200年前の小説であって、日本で言えば江戸時代なわけだ。夏目漱石も触れているみたいだし。
イギリスでは長編小説の最高傑作と言われることも多いらしいから相当の人があらすじは知っているよ予想できるけれど……じゃあ、日本においてどれだけの人が読んだのか? と聞かれるとねぇ」
亀「ある文学部の教授が明かしておったが、大学の講義で何十人も学生がおっても、村上春樹の著作を1作でも読んだことがある人は5人ほど居れば多い方という話もあるの」
主「文学を専門で研究する学部に行く学生でもそんなものでしょ? 特に、上流の、俗に言ういい大学だと入学することが大事であって、文学に興味があるから文学科に入るというわけでもないだろうしね。
そんな専門家見習いでも……まだ19,20歳と若いとしても、村上春樹レベルでもそこまで読んでいないのに、じゃあ200年前の小説を読んだことがある人ってどれくらいいるんだって話でさ」
亀「名作古典文学とは『誰もが名前を知るが、誰も読んだことのない小説』なんて皮肉もあるからの」
主「そう。芥川賞と同じくらい知名度の高い直木賞の『直木』とは誰か言える人は果たしてどれだけいるのか? そしてその著作を知る人は? 読んだことがある人なんて、多分、全人口の1%もいない。
それを考えたら『高慢と偏見』という作品を知る人でも日本の……1割2割くらいしかいないと思うし、読了した人なんて1%もいないんじゃないかなぁ?」
亀「その意味ではこの作品は日本では不利な要素が多いかもしれんの……」
原作を意識しているけれど……
亀「わしも読んだことはないのじゃが、調べたところによると原作に忠実な部分も多いらしいの」
主「そうだろうね。200年前の作品をこういう形でリメイクするとなると、相当なバッシングが予想されるわけだよ。人によっては面白おかしくやりすぎて、名作を汚していると怒る人もいるかもしれないし」
亀「それを考えたら相当原作に忠実にしながらも、丁寧に改変を加えていくしかないの。
その意味では中々バランスに優れた作品だったのではないか?」
主「原作とゾンビの融合はまあまあ上手くいっているよ。すごく面白いシーンも多いし、クスリとする場面も多い。コメディとしても良い作品だし、ホラーとしても背筋がゾクリとするような場面こそないけれど、ゾンビものとしては十分合格点なんじゃない?
少なくとも、ゾンビ映画に見慣れない人間でも十分楽しめる作品に仕上がっていたよ」
亀「ただ、それだけに……難しいと思わせる部分もあったの」
主「そうね。じゃあ、これからはそこについてネタバレありで話していこうか」
以下ネタバレあり
2 ゾンビが加わることにより……
亀「この作品は基本的に5姉妹の結婚話を軸に、ゾンビを交えながら話が展開していくが……まずはその世界観の説明などが面白かったの」
主「紙芝居調というか、ある種のまどマギ的なファンタジーとホラーが融合されたいい説明だったよね。
前にも書いたけれど、ゾンビものって勝利条件の確立こそが一番の難点なんだよね」
亀「ゾンビの1体1体はそこまで強くはないが、それがいくらでも数を増すという恐怖感が最大の特徴だからの。一般大衆や弱者の象徴とする作品もあるが、誰かリーダーを倒してお終いというわけではない。
これが他の怪物であれば……強力でも1体であれば、その怪物を倒しておしまいなのじゃが、ゾンビに関してはそういうわけにもいかんからの」
主「結局ゾンビものはどこかに閉じ込めて一網打尽にするか、隔離しない限りは勝利することができないんだよね。いつまでたっても相手は無限に湧いてくるから、最初のうちに対処しなければいけない。それこそ、ウイルスや感染症と同じ。
この作品のスタートのように孤立した場所に閉じ込めているというのは、ゾンビものの設定しては正しいと思うけれど……それが大きな謎になってしまうんだよねぇ」
亀「簡単に言うと……なぜ彼らはあそこに住んでいるんじゃろうな?」
主「そうそう。そういうところがよく理由がわからない。領地が固定されているのか、そこでしか取れない資源があるとかならわかるけれど、そうでもなさそうだし……」
亀「まあ、そこいら辺は突っ込むだけ野暮ということなのかもしれんがの」
主「B級らしいといえばらしいけれど……どうなんだろうね? この作品ってB級なのかな?」
亀「その基準なんてないから、各々の好きに考えてもいいのではないかの?」
キャラクターの描きかた
主「その原作準拠は他にも大きな欠点を産んでしまっているんだよね。キャラクター数が多すぎるんだよ」
亀「原作も相当長いものじゃが、それを2時間に収めるのは不可能じゃろう。さらにゾンビというプラスaが入ることによって、分量は増えてしまったから、原作部分はカットする必要があるが……」
主「それを原作をリスペクトすることによって、改変することが難しくなってしまっている。だから、多くが原作のままである故に、色々と無駄が多くなっているんだよね。
それが一番出てしまっているのが5姉妹の描きかた。つまりさ、ここって5姉妹である必要がないんだよ」
亀「そうじゃな、もちろん主人公は必要じゃが、あとは……結婚する姉と、もう1人くらいで十分だったの。5人では姉と主人公以外の特徴というのが中々発揮されなかった印象があるの」
主「そうねぇ……少しはミスリードさせようとした表現もあったけれど、あそこまで露骨だと騙される人は少ないよねぇ……ギャグとしては成立しているシーンは多いよ?
姉妹喧嘩が男顔負けのバトルであったりさ、確かにそういう場面では機能していた。だけど、観客としては……というか、日本人からしたら似たように見えてしまうから『この娘は何女だっけ? どういう娘だっけ?』という整理が難しくなってしまった印象があるかな。主人公だけは明らかに見た目からして違うように描かれているから、そこを分かったと上での配置かもしれないけどね」
亀「先ほど挙げたあの場所に住むことだったり、引っ越してくることだったりという違和感などがどうしても付きまとって来るからの。
登場人物も多い上に、その必要性を感じるところは少なかったかもしれんの……」
3 前半と後半の差
主「ここもなぁ……色々と思うことがあるからなぁ」
亀「これはこの作品に関わらず、どの作品にも共通することかもしれんが、前半と後半では作風が違ってしまっているからの」
主「この作品の前半の持ち味って、あのバカバカしいアクションだったり、ギャグだったりするわけじゃない? 恋愛描写もほどほどに、痴話喧嘩中に殴り合ったりさ、中国と日本をすごく意識していたり……
この辺りは大人の事情も垣間見えるけれどね。非英語圏で大きな市場である中国と日本の要素を取り入れることで、ゾンビのバカバカしさとそれと戦う異質さを取り込むと同時に、その市場に向けてアピールしていたりさ」
亀「そうじゃの。あの中国語や日本語で話す場面というのは、過剰とも思えるサービスだったの。何を言っているかまっっっっったくわからんかったが!」
主「まあ、それはいいんだよ。
そういうギャグも挟みながら、面白おかしく、時にビックリさせながら作品を描いてきたのに、後半は少し……なんというかな、重みが出てしまった印象だな」
亀「シリアスにしすぎたの」
主「別に前半ギャグで、後半シリアスな作品もたくさんあるからいいっちゃいいけれどさ、シリアスに至るまでの伏線というか、準備が……個人的には足りなぁって思っていたのよ。
前半のコメディから後半のシリアスへと……というのが、なんというか、作品全体のテイストからは外れてしまったような印象なんだよねぇ。そこが勿体無いかなって。
前半にバカバカしさを出しつつ伏線を張ったりとか、雰囲気作りをして、ある瞬間から一気に変えてきたらまた別の面白さがあったと思うけれど……」
亀「この作品がB級なのか迷う要因でもあるの」
主「そう。馬鹿映画なら馬鹿映画で吹っ切れて欲しいという思いもあるし、そうじゃないなら、もっと他の描き方もあったと思う。前半はノリノリで作っているけれど、後半は苦労しているような気がしてさ……
そこが勿体ないなぁって印象」
亀「決してつまらないわけではないんじゃがな」
主「これも名作文学をエンタメ化する問題点かもね」
最後に
亀「ただ、この試みは非常に面白いの」
主「そうね。名作を汚す! という批判を浴びる可能性はあるけれど、やる価値はあると思うよ。日本でいうと森見登美彦が『新釈 走れメロス 他四篇』とか書いているし、あとは『日本以外全部沈没』なんてあったねぇ」
亀「主なら何と何を組み合わせるかの?」
主「う〜ん……パッと思いついたのが走れメロスと江戸時代でさ、早く帰らないと藩の取り潰しになるとか……」
亀「……それは『超高速!参勤交代』では?」
主「じゃあ高瀬舟にゾンビも入れて……」
亀「……船の上で2人だけなのに、そこにゾンビを?」
主「じゃあさ、親子の確執を描いた……例えば志賀直哉の作品とSFを足して……」
亀「『スター・ウォーズ』になりそうじゃの」
主「……こう考えると難しいもんだな。今見たら、この作品の評価が変わる気がする」
亀「……そうじゃの。かなり苦心した結果なのはこの数行でわかったの」
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