物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『ハンズ・オブ・ラブ 手のひらの勇気』感想 今年トップクラスの洋画! 二人の愛と戦いに心打たれる!

カエルくん(以下カエル)

「今回は『ハンズ・オブ・ラブ』の感想かぁ……同性愛とはいえ恋愛ものだし、しかも感動の実話系で病気ものでしょ……主が一番嫌うタイプの映画じゃん……なんでそういう映画を好んで観に行くのかなぁ」

 

ブログ主(以下主)

「う……うう……ぐす……」

 

カエル「あーはいはい。どうせ花粉かゴミが目に入ったから涙目なんでしょ? で、ここから先は『泣ける要素がどこにあるの?』っていうわけだ」

 

主「……感動した

 

カエル「え?」

 

主「この映画は素晴らしいよ! 

 今年は邦画やアニメ映画が大豊作で、洋画はお馴染みの大規模シリーズ以外はあまり話題にならない年だけど、洋画だけなら今年トップクラスの映画だと思う!

カエル「……え? どうしちゃったの? いつもはこのタイプの映画って、酷評する流れじゃなかったっけ?」

主「その理由はこれから話すけれど、この映画は見ておいたほうがいいよ! 

 詳しくはこの後の感想記事で!」

 

 

 

 


「ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気」予告編 (90秒)

 

 

あらすじ

 ベテランの熱血女性刑事でああるローレル(ジュリアン・ムーア)は毎日仕事に追われる生活を送っていた。そんな彼女は命を預ける相棒や署内の仲間にも自身が同性愛者であることを隠していた。

 バレーボールにてステイシー(エレン・ペイジ)という若い女性と出会い、年齢、性別、世間からの偏見などを乗り越えて惹かれ合い、やがて一軒家で一緒に生活することにする。

 そんなふたりの幸せな日々は長く続かず、病の影が静かに忍び寄っていた。死を覚悟したローレルは、愛するステイシーのために遺族年金の受け取り人に指名するが……

 

 2002年にあった事実を基にした映画。

 

1 ネタバレ抜きの感想

 

カエル「えっと……このブログだとこう言う病気ものはあまりいい評価がもらえないという傾向にあるけれど、今回は違うんだね」

主「この映画は全然違うよ。いつもの『衝撃の実話!』とか『襲いかかる病!』とかいう話はあまり好きじゃないし、どうかとも思う作品もあるけれど、この作品はいいね!

 冒頭でも言った通り、今年は洋画がそこまで伸びなかったけれど……今年の洋画では『キャロル 』と並ぶ傑作だった!

カエル「どちらも同性愛を扱った作品だよね……そういう作品が好きなの?」

 

主「それはあるかもしれないけれど……恋愛における壁が明確だからさ、ハマりやすいんだと思うよ。例えば普通の男女の恋愛の場合、社会が反対するということは基本的にないじゃない。

 二人が結ばれない理由というと、例えば配偶者がいるとか、親が反対しているとかでさ……現代では恋愛物って結構作りづらいのよ。壁がないから。詳しくは以下の記事を読んでね」 

 

blog.monogatarukame.net

 

カエル「だけど同性愛は数少ない『社会が認めない恋愛』というわけだね」

主「現代では少しずつ認められてきたけれど、それでも男女の恋愛に比べるとまだまだなわけだ。まあ、仕方ないことだけどさ」

 

リベラルが好きなハリウッド

 

カエル「トランプ騒動の時も思ったけれど、ハリウッドって結構リベラルな思想が幅を利かせる場所だよね。民主党支持者が9割というし、明確な共和党支持者って……イーストウッドくらいしか思い浮かばないかも……」

主「元々文化人や知識人ってリベラルになりやすいんだよ。なぜなら、表現というのはある種の規制と対立することだから。

 同性愛に関することならば、男女の結婚を疑問視する人は世間ではほとんどいない。だけど、それが絶対的な価値観として存在しているからこそ、それに反する同性愛は非難をされやすいわけだ。

 この場合、強者であったり世間的に認められている方につくというのは……表現として、単純に『面白くない』んだよね

 

カエル「強い方が勝ちました、って物語はあんまり面白くないもんね。弱者が工夫を凝らして勝利するから、物語は面白いのであってさ」

主「そう。それに、社会が肯定する思想や考えを『本当にそれが正しいのか?』と疑問を投げかけるのもメディアや表現者の重要な役割でさ。だからメディアっていうのは、基本的に反権力になりやすい。

 あとは基本的に物語というのは理想を追いかけるという側面もあるからね」

 

カエル「ハリウッドも同性愛者などを演じるとアカデミー賞を取りやすいって言うもんね。それだけ難しい役というのもあるけれど、それが選考委員の思考に合いやすいというのもあるだろうし」

主「そう考えると数少ない共和党支持者であるイーストウッドがあれだけバランスのとれた映画を撮れるというのが、驚異的でもあるんだけどね……」

 

 

役者について

 

カエル「主って外国人の役者についてはよくわからない人だよね」

主「ただでさえ見分けがつきにくいのに、演技されちゃうと髪型とか体型もガラリと変わるからなぁ。ある程度個性的な体型だったりするとわかりやすいけれど……

 ただ、今作はそんな人間でもはっきりとわかる。

 この映画の主演であるジュリアン・ムーアは素晴らしい!

 

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カエル「びっくりするよね。色々な演技が求められる役だけど、ここまでやるか……ってさ」

主「最初は現役バリバリの熱血刑事、しかも男社会で暮らすカッコイイ女なわけだ。それが恋に翻弄されたり、また容疑者を諭す場面では優しく母性を出すし……圧巻なのは病気になった後だよ! 日本の役者だと病気でも血色が良かったりするけれど、彼女の場合はそれが説得力を持った演技をしている!」

 

カエル「女性が髪を丸刈りにするとかさ、多分ノーメイクだと思うけれど、それで映画に出るのはすごいよね……

主「病気で衰えていく様がはっきりとこちらに伝わってくるんだよね。他の病気ものは血色が良かったり、明らかに作り物風だったりするけれど、今回はそうじゃない。

 個人的に今年見た映画の中で、洋画で主演女優賞ものだなぁ、と思っていたのは『キャロル』のケイト・ブランシェットだけど、今作のジュリアン・ムーアもそのレベルじゃないかな?

 

カエル「相方のエレン・ペイジも良かったよね。女性だけど、すごくカッコよくてさ」

主「この子って『JUNO/ジュノ』で主演をやっていた子でしょ? 結構あっちも気が強い役だったけれど、こちらもそれがマッチしていてさ。腕の太さもあって、男性らしい女性という役を見事に演じていたよね。

 結構男性的でかっこいい役なんだよ。車の修理工なんてしちゃってさ。

 しかもさ、エレン・ペイジ自体が同性愛者であり、LGBT支援にも熱心だというから、そりゃ熱がこもるよなぁ……

 今作はさすが、みんないい演技をしていたよ。警察内部も色々いいキャラクターがいたしね」

 

 

この可愛らしい子が

JUNO/ジュノ (字幕版)

 

       ↓

 こうなります(ちょっとわかりにくいけれど、かなりカッコイイ)

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以下ネタバレあり

 

 

 

2 二人の間にある壁

 

カエル「今作はどうしても同性愛という部分をクローズアップしがちだけど……」

主「実はこの二人というのは同性愛だけが問題ではないんだよね。もちろん、同性愛という社会的に認められずらい恋愛関係であることも大きいけれど、そもそも年齢の差がすごく大きい。

 それこそ親子ほどに年齢が離れているからさ。男女の恋愛だとしても、結構難しい話になってくる」

 

カエル「確かにね。それから、仕事の壁もあるよね」

主「男性社会でバリバリとやってきた女性であるローレルは、その中でも出世することが難しいわけだ。マッチョであることが求められるからね。

 頑張ってきた甲斐があって、この郡では女性で初の警部補に昇進がかかっているし、そもそも仕事が大好きで正義感が強いタイプだから、自身の恋愛は二の次なんだよね。だからよくある『もっと私を見てよ!』という類の……まあ、そこまで幼稚じゃないけれど、すれ違いもあるわけだ」

  

キャラクター性の丁寧な深掘り

 

カエル「二人はそういった壁を乗り越えてしっかりと愛を育んでいくんだよね。この描写も感動ものだよ……」

主「この映画の素晴らしいところは、この二人の関係性だけではなくて、そのキャラクター性もしっかりと深掘りしていくところだよね。

 だからこの二人の苦悩や幸福、安心感や不安というものがこの映画を通してビシビシと伝わってくる。この序盤の『同性愛者が恋愛をする大変さ』というテーマがしっかりと観客に伝わってくる」

 

カエル「それがあるから、この後の病気ものとしてのパートも生きるわけだね」

主「そう。あれだけ強気で、銃を持った男に果敢に立ち向かい、車にしがみついて重要参考人を逃さないように、顔に擦り傷まで作るような女性が弱っていく様をしっかりと見せつけられる。

 だからこそ、切実な感覚などがしっかりと伝わってくるんだよね。ようやく色々な壁を乗り越えて、ここまで来たのに……それを無慈悲にも奪っていく病。

 だけど、この映画の主題はその『病で弱っていくローレル』を哀れんだり、悲しんだりすることではないんだよね

 

カエル「ここから先は『平等な権利』のために戦うわけだもんね」

主「そう。もちろん、少しでも長く生きるために色々と治療して戦うわけだけど……この映画の後半の主題は『同性愛者と世間の偏見』に話は移るわけだ。

 だからさ、映画中ではもちろん、ローレルが苦しむ姿もたくさん出てくるけれど、それはタイムリミットとしてであって、その姿に同情したり、悲しんだりするというのは、この映画の本分ではないのね。

 この映画を見て思ったのは、病気ものにありがちな『死にゆく病人への憐憫の情』というものがあまりないこと。そこは主題じゃないから、強調するような演出というのは、少なかったんじゃないかな? もちろん、0とは言わないけれどね」

 

 

同性愛映画といえば今年はこの映画。洋画で屈指の名作ではないでしょうか。 

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3 バランスのとれた主張

 

カエル「映画では群の規定を変えるために、色々な人が色々な立場で話すわけだよね

主「警察の同僚、同性愛者の支援者、群の政治家……そのどれの意見もわからないではないんだよ。確かにさ、群の政治家は悪者のように描かれていることもある。だけど、あの地域自体が保守派層が多く、その人たちの信任を受けているわけだ。

 それを考えると、非常に繊細な問題である同性愛の、しかも税金から支払われる年金を認めていいのか、ということは議論があって然るべきだと思うし」

 

カエル「そしてそれに反対する同性愛者の支援者もまた……日本で言ったらプロ市民のような過激とも言えるパフォーマンスをするわけだ。それに対して、主人公サイドはあまりいい思いをしていない」

主「そうなんだよね。この問題は『同性愛を認めてくれ』ということではないんだよ。なぜなら『パートナー』としては公式に認められているわけだから。

 彼女たちの望みは何度も語られたように『平等』であるだけでさ、それ以外の何物でもないんだよね。

 だからあれだけの強い抗議活動は逆効果になる、という判断は実際にその通りだし、観客も反感を持つと思う。そこを考慮しての、バランスのとれた采配だよね」

 

カエル「警察内部でも色々と意見が分かれるわけだよね。休暇は分けてあげるけれど、この運動には賛成しないとかさ。そりゃ、まあ意見としてはそういう意見があってもおかしくないよ」

主「本当に難しい問題だから、同性愛者の同僚も支援を渋るというか、公的に応援していると言えないわけだけど、その気持ちが誰よりも分かるのがローレルであり、その相棒のデーンなわけだ。

 だってさ、ローレル自身もその苦しみを抱えてきたわけだから。すべてを打ち明けてくれた人や、信頼する仲間をも……結果的に騙していたわけだしね」

 

 

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同性愛者という繊細な問題

 

カエル「そうだよね。『なんで隠すんだ!』とデーンは怒ったけれど、簡単に言えることではないし……」

主「でもさ、考えてみれば秘密を抱えている方も辛いんだよ。

 途中で重要参考人を諭す時も語ったけれど『一生秘密を持って生きるのは辛い』というのは、まさしくその気持ちの表れだったよね。

 よく隠し事をしていると、黙っていた方が悪いと言われがちだけど……必ずしもそうじゃない。言いたいけれど言えないことってたくさんあるし、言わない方が幸せだったり、それまでの関係が続くことってたくさんある

 

カエル「同性愛だったり、犯罪歴とか、あとは浮気や不倫とかもそうかもね。お互い黙っていた方がうまくいくわけだ」

主「だから教会というものがあって、匿名性を保たれながら罪の告白をするわけだ。一生抱えて生きるのは辛いことでしょ?

 それを神の前で、教会で懺悔をすることで、ある程度解放される気持ちがある。日本人が思うよりもアメリカ人などの西洋諸国、特にキリスト教などの一神教では、隠し事の罪の意識は大きいと思うよ

 

宗教、性別を超えるもの

 

カエル「あとは、この映画で最大の仲間である相棒のデーンと、同性愛者支援者のスティーブンのやり取りも印象的だったよね」

主「向こうでは同性愛って、ある種の宗教問題なんだよね。イエスは同性愛について何も語っていない、だからこそ揉めるわけでさ。

 で、スティーブンはユダヤ人の同性愛者なわけだ。一方でデーンの方は無神論者でストレート……つまり女性を愛する、異性愛者なわけだよね。多分、一般的な日本人と同じ。

 この違いって相当に大きい」

 

カエル「日本では宗教問題として扱われない問題だもんね。どちらかというと『家族の形』とか、そういう論理じゃ解決されないものとして処理される気がする」

主「そう。だからさ、この映画で重要なところでもあるけれど……『この問題は宗教の問題ではない』ということが、逆にわかりやすいんじゃないかな?

 もっと大きな『愛』『家族』に関するお話であり、それはストレートとか、ゲイとか、人種、宗教、年齢、そんなことは関係ないというメッセージが届くやすいと思う。むしろ、当たり前の事と思いすぎてメッセージとして届かないかもしれないね」

 

 

 

4 素晴らしい演説

 

カエル「この映画の感動するポイントしては、やはりパートナーのステイシーの演説もあるよね」

主「基本的に映画は予告編以上のことを調べないで見に行くから、見終わった後に公式サイトをのぞいたけれど……多分、あの演説ってさ、台本じゃない気がする。

 いや、台本かもしれないけれど、そこに込められた思いというのが……同性愛者である、エレン・ペイジが発言するということで、特別な意味を生じている

 

カエル「もしかしたらこの台詞もエレン・ペイジが考えたのかもね。制作指揮にも名前があるらしいし」

主「だからこの映画って、単純な病気ものとか、同性愛とかとはまた違うものだと思うよ。

 基本的に病気ものってどうしても暗くなりがちな部分をピックアップして涙を流すけれど、この映画はその死の間際に『勝ち取る』映画だからさ。だから、その涙の意味が全然違うよね」

 

カエル「……でもさ、この手の演説って、映画としてはどうか? っていつも言っていない?」

主「まあね。言葉が力を持ちすぎると、単なるプロパガンダになると思うからさ。使い所は難しいよね。

 今回は感動している一方で、少しどうかな? と個人的に信条からくる違和感だけど、そう思う部分もあったかな。でも、本当に伝えたいことが詰まった、いいスピーチだよ」

 

 

 

最後に

 

カエル「今回は絶賛評だったね」

主「まあ、細かい事いいだすと少しあるけれどね。

 序盤の麻薬取引の話だったり、殺人事件の話が後半に絡んでくるともっといいなぁとかさ。あの助けた重要参考人の少女が証言台に立つ、とかね。だけど、これは事実を基にしているから、ある程度は仕方ないか」

 

カエル「事実を基にしているだけあって、ラストの写真も良かったよね」

主「最後の写真もさ、どれも楽しそうな写真ばかりなんだよね。病気で辛そうだったり、苦しい表情の写真はなかったんじゃないかな?

 だから病気ものって『如何にして死ぬか』という物語が多いるけれど、この映画のように『如何にして生きたか、残したか』ということの方が重要だと思う。

 死にゆくあなたが愛おしい、も悪くはないけれどさ、その一歩先が欲しいね」

 

カエル「日本じゃ難しいだろうね……」

主「いまだに同性婚に関しては国民レベルの議論もされていないような状況だからなぁ。まあ、しばらくは難しいんじゃないかな?

 だからこそ、物語であったり、表現が果たすべき役割は大きいと思うけれどね」

 

 

今作は主題歌も非常にいいです!

ハンズ・オブ・ラヴ

ハンズ・オブ・ラヴ