カエルくん(以下カエル)
「今回はちょうど1年前くらいに公開された、アニメ映画の『同級生』について語っていくけれど……こう言う作品を語るのって、少し珍しいかもね」
ブログ主(以下主)
「明らかに女性向け……というかBL作品だったから劇場公開時にためらった部分もあるんだよね。今だったら間違い無く見に行くけれど、当時はそこまで映画記事に力を入れていない頃だし」
カエル「でもキャロルみたいな女性同士の同性愛ものだったら、特に躊躇せずに観に行くわけでしょ? それはそれで不思議な話だけど……」
主「これは自分が何となく思うことだけど『異性同士はOKだけど、同性はNG』って意見が多い気がする。もちろん、百合好き女子や薔薇好き男子もいるから何とも言えない部分はあるけれどさ」
カエル「それこそ女性だけ演じる宝塚歌劇団とか、あとは『マリア様が見てる』などの本も女性向けだし……歌舞伎における女形なんかも男性が女性を演じているけれど、特に嫌悪感を持たないよね?
時代を遡ればお稚児なんて言われる……今では結構タブーだけど、少年愛のような文化があったわけだし」
主「やっぱり明治以降のキリスト教を始めとした西洋の価値観って、100年以上も過ぎれば常識になるんだなぁ……
現代ではだいぶ偏見もなくなってきたとはいえ、心情的なハードルってあるような気がする。多分、それも1度超えてしまうとなんてことなくなるんだろうけれどね」
カエル「じゃあ、感想記事を始めましょうか」
1 丁寧に紡がれた作品
カエル「じゃあまずはザックリとした感想だけど、すごく丁寧な作品だったよね。淡い色使いとか、音の使い方とか……うまく言葉にできないんだけど、青春の甘酸っぱさがうまく絵になっていてさ」
主「やっぱりセンセーショナルな『男子同士の同性愛』にばかりに注目が集まるけれど、この作品って単純な恋愛作品としても魅力が溢れている。さすがはA-1制作だわ! って印象。イメージとしては『放浪息子』に近いかなぁ、
音楽も押尾コータローが見事に作品世界を叙情的に演出していたし、素晴らしいよね。
自分なんかは脳内変換してこの作品を見ていたから」
カエル「脳内変換?
何、メガネの佐条を女子にしていたの?」
主「いや、逆。草壁を女子にしていた」
カエル「……それってどういう物語になるの?」
主「典型的なヤンキーちゃんとガリ勉くんの物語だよね。
バンドもやって、色々な男の子にモテて、だけど実はそんなに恋愛をしたことがない積極的な女子と草食系男子の恋愛劇。そう考えるとこの物語って、すごくわかりやすい形になると思うわない?」
カエル「え〜? それでいいの?」
主「自分の脳内では『アイドルマスター シンデレラガールズ』の人気キャラクター、速水奏で再生されていたから。キス魔で、年齢以上に大人びて見えて、しかも小悪魔的な面もあるという……」
カエル「……ファンから反感を買いそうだね」
『型』のしっかりとした物語
主「あるいは草壁を女とするじゃない? そうなると典型的な少女漫画だよね。ガリ勉で少し地味な女の子が、派手なバンドもやっちゃうような男の子に言い寄られて……っていうさ。女の子にモテモテなんだけど、実は本気の恋って初めてで結構戸惑っているような……そんな作品。
『同性愛』というキャッチーな部分ばかりに注目を集めがちだけど、本作は恋愛作品としての『型』とでもいうのかな? そういうものがしっかりとした作品でもあるよ」
カエル「この作品の面白いところって、恋愛に対して積極的というか、経験はあるような草壁もまた戸惑っているというところかもね」
主「じゃあ草壁は女に興味がないのか? と問われると、多分そういうわけでもなさそうなんだよね。
『佐条は童貞だろうし』って発言があるけれど、これって裏を読めば草壁は童貞ではないってことでしょ? そこそこファンのいるバンドをやっていて、ファンの女の子にアドレスを簡単に教えるような男が童貞なわけがないけれど……
だから、まあゲイというよりはバイなんだろう。その辺りも面白いなぁと思いながら鑑賞していたかな」
カエル「三角関係もあるし、恋の障害もきっちとあるし、起承転結もあるしでしっかりとしている作品だよねぇ」
2 同性愛という『恋愛の形』
主「恋愛ものになるといつも語ることがあるけれど、それは『現代における恋愛作品の難しさ』なんだよね。
詳しくはこの記事を読んで欲しいけれど……
簡単に言えば現代社会は恋愛に対するハードルが低い。もちろんそれは現実で考えるといいことなんだけど、物語を作る上では難しくて……」
カエル「年の差や身分違いの恋、というのがこれまでの恋愛作品の障害として存在していたけれど、それが現代では通用しないってことだよね」
主「そうそう。
同性愛というのはやはり依然として『タブー』であり続けるわけだ。タブーな恋愛には『タブーだとわかっていても相手を求めてしまう』というある種の純粋性が宿る。
それはこの恋愛でもそうだよね。しかも、こういうとなんだけど……タブーとして丁度いい恋愛でもある」
カエル「丁度いい?」
主「例えば、最近論じた中だと映画で『ワイルド わたしの中の獣』という映画があった。これもある種の恋愛映画なんだけれど、その恋愛の相手が野生の狼なんだよ。結構エゲツない描写も多い映画でさ、恋をするということはどういうことか考えさせられる映画でもある。
だけど、この映画を見終わった後にロビーにいた女の子が言ったのが『意味がわからない!』なんだよ」
カエル「まあ、そりゃそうだよねぇ」
主「人間と獣の恋愛というのはその子には理解できなかったんだろうね。で、そう考えるとさ、同性愛というのはまだタブーとして機能しながらも、多くの人に一般性があると受け止められやすいということだね」
タブーゆえの純粋性
カエル「そしてタブーだからこそ純粋な気持ちがより際立つ、と」
主「例えばこの作品では佐条はともかく、草壁は女の子に困っていないわけだ。選ぶこともできるし、いくらでも寄ってくる。
この手の作品を……というか女性向けの作品を見ていていつも面白いなぁと思うのが、貞操観念に対する男女の意識の違いでさ。
男向けの恋愛作品って、特に漫画やアニメだと処女性をすごく重要視するわけじゃない? 絶対遊んでいるような女の子が、実は恋愛には純粋で男を知りませんという作品が非常に多い。
逆の女性向け作品だと、もちろんモノにもよるという注釈はつくけれど、結構王子様キャラが女性経験豊富みたいなのも多い印象なんだよね。
この差って男女の意識の違いとして非常に面白い」
カエル「……モテ学とかでやったら?」
主「だけど、この作品はそういう描写もした上でだけど佐条との関係性を悩むし、体の関係に行きたいけれどどうすればいいのかわからないというプラトニックな悩みも抱えている。このギャップがいいんだろうね」
カエル「ギャップ萌えかぁ」
主「純粋性によるプラトニックな悩みに加えて、ギャップも完備、さらに青春期の進路という別れもあって、成長もあって、三角関係もあって……という意味では色々な要素が詰め込まれている。
だけどそれが1つ1つ破綻することなく、60分という尺の中に見事に収まっている。これは中々素晴らしい作品だね」
最後に
カエル「自分の守備範囲でない作品もたまにには手を出しておいたほうがいいという好例かもねぇ」
主「だから自分はファン映画のようなアニメ映画も、原作もアニメ版も見ていないで、予習0で鑑賞しに行くわけだ。絶対劇場アニメ化するような作品は何らかの見所があるはずだから」
カエル「……それって明日公開の『ソードアート・オンライン』の新作を見に行くけれど、原作は読んでいない言い訳のつもり?」
主「……さて? どうでしょうかね。
でも丁寧に作られた佳作だから、是非とも見て欲しいね。」
訂正
すみません。
草壁と佐条を逆に表記していました。
ここに訂正してお詫びします。