物語る亀

ネタバレありの物語批評

映画『キャロル(CAROL)』感想 すごく『男性的』な映画だった

 ヘイトフル・エイトを見ようかなと思いつつ映画館に行ったら、まさかの2時間を大幅に超えていたので敢え無く断念。さすがに160分も映画館でじっとしてるなんて大変で、大脱走、映画ハルヒでもうコリゴリだわ……

 そんなわけでちょうど時間が合ったキャロルを見てきたのでその感想を。

 元々私はLGBT問題に関心がある方で、漫画家の志村貴子作品(代表作は青い花、放浪息子など)なども非常に好きなで、あまり偏見等はなく見ることができる方だと思う。

 

(追記、指摘されて気がついたが、自分で偏見がないというのはどうかと思う。ただ、 LGBTは興味深いと思っているのは本当)

 

 以下ネタバレあり。

 

 それでは恒例の一言感想を。

 完成度の高い『男らしい』映画

 

 

 

 1 圧巻の脚本構成能力

 

 本作は脚本構成能力の高さが際立つ。

 

 例えば二人の出会いの場面をあげよう。

 映画に限らず恋愛物語において、出会いの場面=話の出だしというのは非常に大切な要素であり、そこだけで作品の評価がある程度決まるといっても過言ではない。

 

 例えば普通の恋愛のように、友達の紹介でとか、合コンで会いました、でもおかしくはないけれども、これから描き出すのは誰もが憧れる、もしくはその悲恋に涙するようなドラマチックな恋愛物語であり、その始まりが在り来たりなものでは100年の恋も冷めてしまう。それで物語に酔えと言われても非常に難しいものだ。

 

 さて、ここで考えてみたい

 あなたならば、デパートの店員さんをどうやって食事に誘いますか?

 

 ここで直接携帯番号でも渡して、シフト聞いて食事に誘ってみなさい。よほどのイケメン、美女でもない限り単なる不審者になってしまう。それでは物語のスタートとして非常に弱い。

 この作品ではその部分を『娘の誕生日プレゼントを郵送してもらい、その住所を書く。そこに手袋を忘れていって、郵送してもらう。そのお礼にランチに誘う』という手段をとっている。

 回りくどい? いいんだよ、映画なんだから!

 

 そんな冗談は置いておくとしても、この始まり方は非常にロマンチックな始まり方で、二人が運命的な出会いのように印象つけながらも、主人公であるキャロルがやり手のナンパ師の如き強引さなどのキャラクター性も出ていて中々上手い出会い方だろう。

 

 構成の巧さでいうとやはり冒頭の場面にラスト付近で戻るというのもあって、これは簡単なようで結構難しい。まず時系列がごっちゃになるから頭の理解が追いつかないし、そのシーンの回収が効果的に行われないと快感にもならないが、その伏線もしっかりと回収されている。

 また伏線張りというと旅行中に出会った男もそうで、単なる気の弱いナンパかな、と思いきや、きちんとその目的があって、しかもかなり話の展開を決定つける重要人物だった。

 伏線張りと回収が小さなものも含めてきっちりとされている。

 

 それからラストの二人の視線とカメラのブレだけでお互いの気持ちを理解させるというのも、非常に映画的で巧妙ないい演出だった。一つ一つのシーンが丁寧に作られていると感じさせてくれる。

   

2 ケイト・ブランシェットのイケメン力

 

 本作はアカデミー賞主演女優賞にもノミネートされた、キャロル(ケイト・ブランシェット)の演技が話題を呼んでいるが、確かにあまりにカッコ良すぎて女性に見えなくなってきていた。

 

 例えば相手役のテレーズ(ルーニー・マーラ)を誘う冒頭のシーンでは

「手袋ありがとう、お礼にランチがしたいの」

「はあ……いつですか?」

「明日。お店は○○よ、知ってるわね。じゃあ待ってるわ」

「え? あ、はい……」

 と云う会話が繰り広げられている。この有無を言わさぬ誘い方はまさしくナンパ師のそれであり、相手に断る選択肢を与えていない。非常に強引なものだが、その分効果的だろう。

 

 またタバコを吸うシーンが非常に多いのだが、私からすると男性的に思える仕草であり、人によっては嫌悪感を催す可能性のあるシーンを貫禄のある大人の女としてセクシーに演じきっていた。

 途中、テレーズもタバコを吸うのだが、それはどちらかというと幼い外見もあってか小娘がちょっと悪いことしてみたいように見えてしまって、可愛らしくもあるのだが、さすがにキャロルはそれがカッコよく見えてくる。

(このタバコの吸い方に見る印象の違いも面白い)

 

 それでありながら初めてのランチのシーンなど、テレーズを目の前にして楽しく会話をしながら、そのシーンのラストでそれまで自信に溢れていたのにも関わらず、一瞬の揺らぎ、戸惑いを見せる部分などは思わず膝を打ってしまう。

 二人の出会いも女性的な人形ではなく、男性的な電車のおもちゃというのも男性的な面のアピールをしているのではないだろうか。

 

 演技でいうと体当たりの濡場もすごいもので、子供には見せられない。濡場さえあればすごい女優というわけでもないが、本当に官能的で美しさすら感じさせる。魅せるということを強く意識したシーンだ。

 

 

blog.monogatarukame.net

 


 

 

3 男性陣の気持ちもわからなくないけれど……

 

 今作でキャロルの敵となる存在は『世間』と夫であるハージ(カイル・チャンドラー)である。

 だが敵と言ってもハージは別にキャロルを嫌っているわけではない。むしろ非常に愛しており、子供のことも考えれば一緒に暮らしたいのだ。だが当のキャロルにその気が無く、心が旦那に向いていない。同性愛であることを離婚の理由の一つにしているが、その本当の理由は「もっと旦那である俺を愛してくれよ!というものだ。

 もちろんその世間から反する行動を取ることを容認しているわけではないが、キャロルの心が自分にないことを一番危惧している。

 だから出来ればやり直したいけれども、その女々しさが余計にキャロルを苛立たせている。キャロルからしたら子供だけが離婚しない理由で、旦那に未練など一切ない。

 

 そしてテレーズの方も誘ってくる男性は二人いる。恋人のリチャードとその弟だ。リチャードは典型的なプレイボーイで少々強引な手法でスキンシップを語るが、弟は違う。すごく理性的に接してくるし、優しくて色々と助けてくれる『いい男』ではあるのだが、それは『カッコイイ男』ではなく『都合のいい』男でしかない。

 

 私は弟の方を応援するが、きっと彼はモテないだろうなぁと思いながら見てしまった。テレーズが求めているのは男性的に引っ張っていってくれる相手であり、それはキャロルであり、かつてはリチャードだった。だから本当にテレーズを手にしたいのならば、キスもスマートかつ強引に行くべきなのに、そこで引いてしまう優しさというか、弱さがテレーズをいまいち酔わせることができない要因なのだろう。

 女性のいう『優しい男が好き』というのは『誰にでも優しい男』ではなく、『自分にだけ優しい男』というのはよく聞く話である。

 の二人の『弱さ』こそが、キャロルとテレーズを引きとめられない最大の要因なのだろう。

 

 なんでヤンキーがモテるのか、という話があるが、そんなの当たり前の話で自分から積極的に行動する人間である上に、少し悪い奴くらいの方がモテるもんだ。男からしても地味ないい子より、少し小悪魔系の女の子の方が魅力的という人も多いのと同じではないだろうか。

 

 リチャードは……別にどうでもいいや。彼はテレーズがいなくなっても(むしろいない方が)色々うまくいくだろうし。

   

 

4 キャロルが男性だったら王道なのに……

 

 この作品は同性愛がまだまだ世間に浸透しておらず、強い偏見を持たれていた時代の話だ。その行為には心療内科による治療が必要で、明らかな『病気』として扱われている描写がある。

 

 だが、この話は仮にキャロルが男性であったら何の変哲もないものに見える。『昼下りの情事 』のような作品であり、イケメンなプレイボーイが可愛い女の子を見つけて口説きましたよ、と言う何の変哲もない浮気のお話になる。

 むしろキャロルの描写や仕草からすると、キャロルが男性の方が納得するような作り方をしているように見える。

 それを女性同士の恋愛にすることで、様々な壁と複雑な思いを演出することができている。

 

 恋愛作品はその愛を阻む壁が必要だが、現代社会では壁というのがあまりない。結局親が反対しても駆け落ちすればいいし、心中しなければいけないほどの理由はもう存在しない。精々言うならば同性愛だが、それすらも今や受け入れることになっているから、恋愛ものは作りづらい世の中になってしまった。

 それを過去の時代の恋愛ものにするというのは、目新しいものではないだろうが手法として十分練られた良い手だろう。

 私はこの映画は理性的に計算して作られているようで非常に好感がもてる

 

 なんで二人がここまで惹かれあったの? という疑問があるが、それはもう魔法の言葉「恋愛ってそんなもんじゃん」といってしまえば全て解決。配偶者や子供がいても身を焦がすのが恋愛であって、そこに理由を求めるものではないだろう。

 

追記

 この作品を『男性的』と称することに違和感があるという意見があったので、少しだけ追記する。

 私はこの映画を『レズビアン同士の恋愛を描いた』ということよりも

(もちろんそれもあるが、私はキャロルは意識していないが性同一障害の気もあるのでは? と疑っている)

主題としては男性的、ないしは女性的であるということを押し付けてくる世間との対比を描いた映画だと思っているので、そういう目線で見るとこのような感想になったとは言っておきたい。

 

 

 

 というわけで、中々良い映画でした。

 アカデミー賞は逃したけれど、ケイト・ブランシェットは非常にうまい女優さんなのは変わらないだろう。もうすでにアカデミー賞は持ってるし(しかも二つ)本人もそこまで気にしてないんじゃないかな?

 

 トッド・ヘインズ監督

 フィリス・ナジー脚本

 

 他の方の評論でいいものがあったので貼ります。

www.ishiyuri.com

 

 

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  • アーティスト: サントラ,ジョージア・ギブス,レス・ポール&メアリー・フォード,ジョー・スタッフォード,ヘレン・フォスター&ザ・ローヴァーズ,ザ・クローヴァーズ,ビリー・ホリデイ,Lester Allen,ネッド・ワシントン,ポール・ウェストン,ピー・ウィー・キング
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック
  • 発売日: 2016/02/10
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