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物語る亀

ネタバレありの物語批評

映画『リリーのすべて』感想 私はトム・ハーバーとは相性が悪いかも……

映画 洋画

 リリーのすべてを見たのでその感想を上げていく。

 しかし最近はキャロルといい、見てはいないが人生は小説よりも奇なりといい、性同一性障害や同性愛などがネタの映画が非常に多い気がしている。これも時代の流れなのか、世界的なブームを迎えたネタなのだろうか。 

 

 1 男性から女性になる

 一般的に性同一性障害というと男性から女性、女性から男性の2パターンあるわけだが、そのイメージとしては子供の頃から異性とばかり遊んで……などというように、小さな頃からその兆候はあったように考える人も多いと思うが、この映画のリリーのように結婚後に性の目覚めを迎えるという例は実は少なくない。

 特に男性から女性の場合は、目覚めが遅い傾向がある。

 これは女性は体の成長する過程において、胸が膨らんだり生理が来たりと、体の変化が非常に多く、子供の体から大人の体へと大きく変わっていくことに対して、男性は毛が生える、筋肉が増えるなどという女性に比べれば比較的小さな変化であることが理由に挙げられる。

 

 そのため、実は子供が誕生してある程度大きくなってから、「あれ、俺って女なんじゃね?」となるケースは非常に多い。

 なのでこの映画を見て「へぇ、こんなことってあるんだ……」なんて呟いている呑気な男性諸君も、いつこのように目覚めるかは全くわからない。

 リリーとて結婚して異性を愛しており、性行為までしていたにもかかわらず、目覚めて女性として生活を始めてしまったのだから、実は全くの他人事ではない。

 

 

2 エディのなりきりがすごい

 今作の主演を務めるエディ・レッドメインの演技や仕草というものは圧巻の一言であり、確かにその所作の一つ一つが女性にしか見えない部分も多かった。

 元々日本では女形文化のように男性が女性を演じることで、男性から見た女性の美しさというのを熟知しているからこそ、とてもその美を女性以上に演出することができるというものがあるが、今回のエディもまた同じように女性らしい所作とは何か非常に研究して磨き上げて行ったことがわかる。

 

 特に化粧をして女物のかつらを被り、そのような服装をした時などは少しガタイのいい女にしか見えず、男性陣が惚れてしまうのもわかるような美しさだった。初めのストッキングを履くシーンでも、少しドキリとするものがある。

 

 アリシア・ヴィカンダーもそんな彼を支える少し気が強く、男たちを翻弄してきた小悪魔な魅力に溢れており、非常に好感がもてる。所々ローラに似ているような気がして(特に序盤)こういった顔立ちの魅力というものに日本人は弱いのかもなぁ、なんて思ったり。

 

3 重要なシーンが抜けている?

 私は今作で強く不満に思った点が、どうにもこの作品からシーンとシーンの間にあるはずの、重要なシークエンスというものが欠けているような気がして仕方がなかった。これはトム・フーバーの別作品である英国王のスピーチでも感じたことなのだが、もう少しドラマ性に富んでいたり、何らかのシーンや演出があってもいいはずの場面で、それがないように思われて仕方がない。

 例えば一番重要な性転換手術をする際にも、妻と別れて病院へ行く、そこの患者と触れ合うなどというシーンはいいのだが、そこから性転換手術を受ける、奥さんがやってくるなどというシーンの盛り上がり具合が均一すぎて、どうにも平坦な物語の運び方をしているように感じられる。

 

 これは別に全てを開示しろ、という意味ではなく、何らかの方法で(例えば音楽や演出、台詞でもいい)ここから盛り上がるよ、ここからが私の映画の見所ですよというポイントが欲しいのだ。

 この映画のスタート時は(それこそストッキングを履くシーンなど)メリハリの効いた絵になっていたように感じるのだが、そのあとはあまりにも平坦に行きすぎて映画館で隣にいた人は寝ていたぐらいだ。

 

 それから『愛の形』を感想にあげている人もいるが、私には疑問符しかなかった。これが妻と別れて女として生きるか、妻と別れず男として生きるか苦悩する話であれば、愛の悩みとして納得もいくのだが、今作のリリーは妻のことをあまり気にもせず、自分が女であることを突き通す。

 もちろんその選択が悪いというつもりはないが、それが愛かと言われると私には『自己愛』以外の何物にも見えなかった。

 また妻の方もどちらかというと愛よりは、私の軽はずみな行動で彼をここまで追い詰めてしまったという罪悪感からの献身に見えてしまって、何だか見てて痛々しい関係に思えてしまった。あと、これは決定的には描かれてないが奥さん、浮気してるよね。

 

 

 どうにもトム・ハーバーという監督と私の相性は悪いらしく、前作のレ・ミゼラブルも非常に歌が精錬されていて面白いものであったのだが、シーンとシーンの間が抜けているように思えて仕方なかった。レ・ミゼラブルのあれほどの大長編を2時間にまとめようとするならば、カットせざるを得ない部分も多々あるためだろうな、と納得したが、リリーのすべてはその編集をする必要もあまりなく、尺におさめる努力をする必要もあるとは思えずに疑問符ばかりが付きまとう。

 ここまでカットするとなると、何らかの意図はあるのだろうが、その意図がよく分からないからこそ歯切れの悪い映画となってしまったような印象。

 

 2回見ればまた印象が変わるのだろうが、2回見たい映画でもない。悪い映画ではないのだが、キャロルがあまりにも良かったために、どうしても比べてしまう部分があり、そこからは劣るような気がしている。

 これは原作を読んだ方がいいのかなぁ……

 

リリーのすべて (ハヤカワ文庫NV)

リリーのすべて (ハヤカワ文庫NV)

 

 

 

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