亀爺(以下亀)
「今年も桜桃忌の季節がやってきたかぁ……」
カエル君(以下カエル)
「桜桃忌って何?」
亀「まずはこの記事を見て欲しいのだが……」
亀「まあ、簡単に言えば太宰治の誕生日であり、命日の事じゃよ。こんな日だから、太宰治のファンがたくさん集まるのじゃ」
カエル「へえ……結構濃いファンがたくさんいそうで行きづらいなぁ……」
亀「そんな事ないぞ。そりゃ、すでに亡くなってから60年以上経つ作家のお墓にまで行こうというファンばかりだから熱心な事には違いないが、三鷹市を上げて街おこしの一環としているからな。それ、カエルも行ってみるか」
カエル「……太宰治ってあんまり読んだ事ないけど、じゃあ行ってみよう!」
亀「おや? 主は来ないのか?」
カエル「何だか『デレステのイベントで鷺沢文香が来たから走るのに忙しくて無理』とか言ってたよ」
亀「……放っておくか」
三鷹駅へ
亀「まずは三鷹駅の南口に降りたら、ほれ、そこに本屋があるじゃろ? ではまずそこに入ってみよう」
カエル「うわぁ、三鷹駅前のビルで太宰治の紹介してるよ!」
カエル「へえ、青森から出てきて作家になったんだぁ」
亀「わしの中では雪深い場所や東北地方出身の作家は、独特の寂しさや孤独感がある印象が強いな。太宰の盟友である坂口安吾は新潟出身と雪深いところだし、宮沢賢治、石川啄木、時代は下って寺山修司なども東北出身じゃ」
カエル「あ、太宰さんの写真がある!」
カエル「かっこいい人だね」
亀「太宰のもてっぷりはすごくてな、回数自体は諸説あるものの、少なくとも4回は自殺しようとしたのじゃが、一緒に心中してくれる相手が3回おった。しかもそのうち1回は先に亡くなって、自分だけ生き残っておる。話によると、太宰の方から積極的にロマンチックに口説いたことはないらしく、最期に心中した山崎富栄には一緒に心中しようと言ったらついてきたようじゃ」
カエル「うわー……(現代なら炎上、謝罪じゃすまないなぁ……)あ、こっちには誰でも太宰になれる顔ハメパネルもあるよ!」
亀「生まれてきてすみません……太宰治の名台詞じゃな」
いざ、禅林寺へ
カエル「デパートを抜けて、この商店街を抜けると太宰のお墓があるお寺に着くんだね。それにしても、今日は曇りでよかったね」
亀「そうじゃな。前日は真夏日になる程に、気温が上がったから甲羅が乾かないか心配じゃったが、この曇り空では安心じゃな。
実はな、太宰の桜桃忌が特別人気なのは時期がいいのもあるとわしは思っておる。例えば坂口安吾の『安吾忌』などは2月の新潟で行われるのだが、その時期に行く人なんて熱心なファン以外おらんじゃろ? だが、桜桃忌のように六月の都心に近い三鷹であれば、ライトなファン層も気軽に行くことができるからのぉ」
カエル「なるほどねぇ。カエル的には雨が降ってくれた方が嬉しいなぁ……と言っていたら小雨になったね」
亀「これは天も惜しんでいるのかもしれんのぉ」
禅林寺へ到着
カエル「大体駅から10分から15分くらい歩いたね……少し疲れてきたかなぁ……」
亀「ほれ、そこに禅林寺が見えるじゃろ?」
カエル「へえ……思っていたよりこじんまりとしたお寺だね」
亀「まあ、本来は町の普通のお寺じゃからの。京都とかにある大きなお寺とは訳がちがうからのお」
カエル「あれ、そこにいる人たちは?」
亀「あれは無料で三鷹の街を案内してくれるガイドさんたちじゃ。太宰についての知識も豊富だし、何も知らずに来ても丁寧に教えてくれるから安心じゃぞ」
亀「さて、これから太宰のお墓に行く訳じゃが、ここから先は写真はないぞ。さすがに亡くなった方が眠る場所を撮るのは気がひけるからの。なので、写真が見たい人は三鷹市の公式サイトを見て欲しい」
カエル(本当は幽霊でも写っていたら怖いだけじゃないの?)
太宰のお墓へ
カエル「わあ、人が多いね」
亀「……今年は日曜日じゃから、人が多いかもしれないと思っておったが、まさかここまで多いとは……こりゃ並ぶだけで何十分かかるかわからんぞ……」
カエル「いつもこんなに多いの?」
亀「いや、前回来た時はせいぜい五分も並べばお線香をあげられたものじゃが、今年は特に多いの……」
カエル「思ったよりも若い人も多いね……あ、白人さんもいる!」
亀「そうじゃな、今の若い人にも外国人にも支持される、それが太宰治の素晴らしいところであり、驚愕するポイントじゃ……しかしこれは舞浜ランドの下手なアトラクションよりも並ぶかもしれんの。今日が曇りでよかったわい……」
森鴎外のお墓
亀「ほれ、太宰の墓は人ごみの奥に見えるじゃろうが、その斜めむかいを見てみい」
カエル「斜め向かい……? あれ、何か書いてあるお墓?」
亀「そりゃ墓石じゃからの、森林太郎、つまり森鴎外のお墓じゃ。太宰は熱心な鴎外のファンだったようでな、実家の青森に埋葬されるのが普通じゃろうが、わざわざこちらにお墓を移してもらったのじゃ」
カエル「へえ……でも太宰のお墓に比べたらお供え物が少なくて寂しいね」
亀「そりゃ、今日のメインは太宰じゃからの。ちなみに、鴎外を悼む鴎外忌というものもあっての、こちらも時期が近くて七月九日に行われるぞ」
太宰の墓標
カエル「あれが太宰のお墓か……なんでサクランボが多いの?」
亀「そりゃ、桜桃忌の桜桃は、サクランボの意味じゃからな。晩年の作品である桜桃という作品にちなんで名付けられたんじゃが、ほれ、あのように墓標の名前が彫られたところにサクランボが……なんというか、はめ込まれておるじゃろ?」
カエル「本当だ、タバコを備える人もいるんだね」
亀「悼み方は人それぞれということなのかの……」
カエル「それにしても時間がかかったね!」
亀「今年は特に人が多いの……結局三十分かかったわ。これが曇り空だったから良かったものの、晴れてたら甲羅も乾いてしまうの……しかし、今年は日曜日だと言っても人が多い。そうか、太宰の次女で作家の津島佑子が亡くなって、初めての桜桃忌だからそれも影響しているのかもしれんの」
カエル「あとは『文豪ストレイドックス』やピースの又吉フィーバーの余波が来ているかもしれないね。どちらも若い人に人気の作品や芸人だし」
お土産コーナーへ
カエル「あ、太宰Tシャツとか売ってるよ!」
亀「三鷹市の特産物らしいものもあるの。しっかりと街おこしに活用しているようじゃ」
三鷹市内を散策
カエル「これだけ広いとどこに行けばいいかわからなくなりそうだね」
亀「無料ガイドについていくのもいいが、三鷹市が作ったこのサイトを見れば、どこに何があるかわかりやすくて楽でいいぞ」
亀「回るところは沢山あるんじゃが、今では多くの場所が跡地になったり、普通の一般住宅で太宰と一切関係ない人が住んでいたりするため、あまり騒がないようにな。わしも今回、写真撮影は控えたのでここから先も写真はないぞ」
カエル(ただ単に忘れただけじゃないの?)
太宰の魅力
カエル「ねえ、亀爺からすると太宰の魅力って何?」
亀「そうじゃなぁ……やはり何と言っても『共感性の強い文章』じゃろうな。人間失格などが代表例じゃが、太宰の作品は読んでいるうちにまるで読者である自分のことを語っているかのような錯覚に陥る時があるんじゃ。それだけ共感性が強いということじゃな
わしはあの時代の他の作家と比較して、太宰が特別文章が上手いとは思っておらん。もちろん一定以上のレベルにはあるがあの時代には志賀直哉、谷崎潤一郎、川端康成、井伏鱒二などもおったし、時代の流れに埋もれてしまった作家の中にも上手い作家はたくさんおったじゃろう。
じゃが、太宰には上手い下手を超えた魅力に溢れておる」
カエル「へえ……じゃあ僕でも理解できるかな?」
亀「どうじゃろうなぁ……こればっかりは相性としか言いようがない。別に理解できないからおかしいという話でもないからの。ただ、太宰というと暗い話ばかりを連想させるが、コメディタッチの明るい話も数多く書いておるから、カエルはまずそっちを読んだ方がいいかもしれんの」
玉川上水へ
亀「ついたぞ。諸説あるがここが太宰が入水自殺をした言われる場所じゃ」
カエル「え? 特に何か石碑があるわけでもないんだ……しかも川もだいぶ浅いね」
亀「当時とは状況が違うからの。川の流れもだいぶ穏やかになったんじゃろうな。太宰が入水したのが十三日、発見されたのが十九日じゃから、相当痛んでおったらしい。警察もマスコミも太宰ばかりに注目するから、心中相手の山崎豊栄はぞんざいの扱いを受けたと、ガイドさんが語っていたの……
実は太宰は死ぬつもりがなく、すべて狂言自殺だったという人も中にはおるが、今となっては確かめようがないの。じゃが、わしからすると『自殺の失敗に失敗した』という一見言葉遊びのような行動もまた、太宰らしさを感じさせてくれて、好きじゃなぁ」
カエル(亀爺、遠い目をしている……)
太宰文学サロンへ
カエル「わあ、太宰の相関図やいろいろな資料が沢山あるよ! お土産もある!」
亀「ここは太宰の人間関係や、どんな人と交流したか一目でわかる施設じゃ。もちろん中におる人も太宰に通じている人が多いから、ちょっとした疑問でもここの人に聞けば色々わかるかもしれんの」
カエル「本当だ! 太宰治の血液型の話をしてる!」
亀「ほれ、ここに太宰が関わった人の相関図があるじゃろ? もちろん太宰を語る際に重要なのは井伏鱒二などもおるが、わしは何と言っても同じ無頼派として活躍した坂口安吾、織田作之助の存在を忘れてはならんと思っておる。
特にブログ主が坂口安吾ファンだから、その贔屓目もあるかもしれんが、太宰の死後に書かれた不良少年とキリストという随筆は太宰を語る上では欠かせないものじゃ。やはり親友だからこそ、太宰治という人間の本質が見えておったのかもしれんな。
その意味ではこの文学サロンも三鷹市もよく太宰について調べてあるが、安吾や織田作に関する言及が少ない気がするのぉ……」
カエル(いや、そりゃそうだろう……趣旨変わっちゃうし)
最後に
亀「今日は一日太宰について学んだ日だったのぉ……さて帰るとしようか」
カエル「あ、ちょっと待って! 主から写真をお願いされているんだ!」
亀「ほう……三鷹駅北口? はて、北口に何か太宰に関するものがあったかの? さては主、わしも知らないような太宰にまつわる何か大事な話を……」
カエル「あったあった! 『三鷹の森美術館』と同じ駅にあって、しかも文豪ストレイドックスの制作会社でもあるプロダクションIGがこんな近くにあるなんてすごいよね! 何だか運命も感じちゃうなぁ……って亀爺? どうしたの?」
亀「……結局最後はアニメの話か」