この冬でも注目を集める『アリー/スター誕生』の感想です
公開前から映画好きの中では話題になっていた作品じゃな
カエルくん(以下カエル)
「何と言っても監督が『アメリカン・スナイパー』など、多くの作品に出演する人気俳優のブラットリー・クーパーだからね!
しかもアメリカでの評判も高く、アカデミー賞候補は間違いなし、受賞だって可能性はあると言われているし!」
亀爺(以下亀)
「それだけに年末に年間映画ランキングをつける人は本作を鑑賞してから、という方も多いのではないかの?」
カエル「ここ最近は音楽映画にも傑作が続いているし、この作品もヒットしそうだなぁ……
難点は2時間16分と少しだけ長いけれど、ライブシーンがたくさんあれば気にならないしね。
今は『ボヘミアン・ラプソディ』が異例の大ヒットを記録しているけれど、この作品も応援上映などが増えれば異例の大ヒットの可能性があるかも!」
亀「最近流行し始めた”体験する映画”という意味では音楽映画をライブ感覚で聞くというのは、これ以上ない物であるからの。
では、早速映画の感想を始めるとするかの」
映画『アリー/ スター誕生』予告【HD】2018年12月21日(金)公開
感想
では、まずはTwitterの短評からです
#アリースター誕生
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年12月21日
悪くはないが正直期待はずれな感も…楽曲の良さでカバーしているけれど映画として特別うまいか? と問われると疑問も
特に終盤の展開は個人的に気分が悪くなった
役者陣の熱演など見所があるが単純に好きじゃない作品です
https://t.co/uP5DSwgFBk via @eigacom
ふむ……ちょっと厳しい評価じゃな
カエル「本人は『冷静に考えるとさらにイライラしてきた』とか言い始めたので、今回は退場してもらっています。
でも、そこまで言うほど悪い映画だったかなぁ?」
亀「個人的に信条にそぐわなかった、というのが本音かもしれんな。
アメリカでは映画としての評価が高く、アカデミー賞候補になるであろうと言われておるのも納得の出来映えではある。
ブラットリー・クーパーの演技がいいのは当然として、ガガも中々いい演技をしておったわ」
カエル「今作はかなりエロティックな表現も散見されるんだけれど、レディ・ガガは肌を惜しげなもなくされしているし、シーンによってはきわどい姿も見れるほど……劇場では一瞬だけれど、ソフト化されたらコマ送りで見るような男性も出てくるんじゃ? と思うほどのセクシーな姿を披露しているよね」
亀「今作に本気で挑んでいることが伺えるの。
元々スタア誕生というシリーズではそのようなシーンもあるようじゃが、それを理解した上で今作に挑んでおったわい。
また、この役をガガが演じるということで色々な意味が生まれてくる。
少しだけネタバレになってしまうかもしれんが、冒頭でガガが演じるアリーのことを『商売女は黙っていろ』という男を、暴力で返すシーンがある。
この辺りはガガ自身が10代の頃に周囲に『売女』などと呼ばれ、馬鹿にされていた頃とリンクするものがあるの」
カエル「僕なんかはレディガガって奇抜な格好して『アーアーアアアーア』と歌う人という印象が強いけれど、結構波乱万丈な人生を送っていて、だからこそリベラルな考えをする人でもあるんだよね」
亀「その目線で見るからこそ、アメリカでは評価が高くなるのかもしれんの」
本作は音楽が本当に素晴らしい!
是非ともサントラの購入をお勧めします!
圧倒的な音楽描写!
今作のウリは何と言っても音楽描写です!
予告の段階で思わず涙が出てきてしまったほどの楽曲たちじゃな
カエル「もうどの楽曲もよくて、絶対サントラが欲しくなる!
特にガガ様が歌がうまいのはもう当然だとしても、ブラットリー・クーパーも心に染みるカントリー調の音楽だったね」
亀「わしは楽器のうまい下手はあまりよく分からない部分があるが、ギターを弾いている姿も様になっておったし、きっと本人が弾いていたのじゃろうな。
この音楽を聴くだけでも映画館に向かう価値がある作品じゃな」
カエル「特にいい音響の映画館で聞いてほしいよね。
ただ『ボヘミアン・ラプソディ』のような観客をアゲアゲにのせていくような音楽というよりも、じっくりと聴かせる楽曲も多いから応援上映向きとは言い難いのかな?
でも思わず拍手したくなったり、劇場内では体を無意識に揺らしている人もいて、その気持ちもよくわかるなぁ……」
亀「本作に対して思うところがあるうちでも、この楽曲の良さは両手を上げて絶賛する。
ただし、この音楽が”良すぎた”こともまた、このモヤモヤ感の原因かもしれんの……」
カエル「……良すぎるとダメなの?」
亀「音楽映画というのはもちろん音楽も見せ場じゃが、わしは基本的に”物語(映像)”が基本だと思っておる。
しかし、本作は少しばかり音楽が良すぎるあまりか、特に序盤から中盤にかけて演奏シーンを多用している印象があった。
あくまでも物語>音楽でなければいけないのにもかかわらず、逆転していた印象もあるかの」
少し退屈なシーンも?
じゃあ、ドラマパートに関してはどうだった?
残念ながら退屈に感じてしまう部分もあるにはあった
カエル「ここは大元が1937年に公開した作品だし、物語としては王道といえば聞こえはいいけれど、ちょっと古臭いような……退屈な印象もあったかなぁ」
亀「これは個人的な趣味もあるが、今作はかなりの割合を恋愛ドラマが占めておるからの。
こう言ってはなんじゃが、退屈にも思える恋愛ドラマを2時間見せられても……という思いはどうしても拭えん」
カエル「……まあ、趣味の問題だからね。好きな人にはビンビン刺さるだろうけれど……」
亀「もっと表現論などに行けば評価もしやすいのじゃが、いかんせん『好きだの嫌いだの』という物語に終始してしまう。
また役者陣も色々な含みのある演技をしており、映像表現では色などを効果的に使うことによって、補完していたりもするんじゃが……残念ながら退屈なドラマとしか思えない部分はある」
カエル「特に終盤以外は劇的な展開もないからね」
亀「この辺りは難しいポイントであるが、わしは本作がアカデミー賞候補作レベルと言われておるから、近年の……『ララランド』や『シェイプ・オブ・ウォーター』クラスを期待していったが、その点でも少し肩透かしを食らってしまった。
この2作は映像がはっきり主張してくるタイプの演出であったが、今作は静かに語りかけてくるタイプの演出である。
そこを考えると、特に若い人などは退屈な映画、と捉えてもしかたない部分はあるかもしれんの」
以下ネタバレあり
作品考察
ハリウッドの依存症問題
ではここからはネタバレありで語っていきます
まずは本作のテーマの1つであるハリウッドの依存症問題について考えていこうかの
カエル「本作がアメリカで高い評価を受けるのは、ハリウッドセレブを中心に飲酒やドラックによる依存症の問題があるからでないか? というのがうちの見立てでもあります。
あとは、映画について語った作品って当然映画の都であるハリウッドでは高い評価を受けやすいよね」
亀「まずはアルコール依存症であるが、これは今でも大きな問題となっておる。
日本でも2018年、大物アイドルがアルコール依存によって事件を起こしてしまい、引退する事態になったの。
日本人ならばハリウッドセレブでアルコール依存と聞くとジョニー・デップが強く印象に残っておるかもしれん。
本作でも出てきたように、晴れ舞台で奇行をしてしまうというのはジョニーデップも過去にやらかしており、それを連想させる描写でもある。
他にもベン・アフレックなども深刻なアルコール依存に悩んでおり、さらにドラック依存によって亡くなったハリウッドの有名人となるとヒース・ロジャー、ホイットニー・ヒューストンなども挙がるじゃろう。
アメリカプロレス好きであれば、過度なステロイド摂取によって若くして亡くなるレスラーも多いというのは知っているじゃろうが、ハリウッドセレブも心身をコントロールできずに薬などに頼ることも多くなる、ということじゃろうな」
カエル「そもそもブラットリー・クーパー自体がアルコール依存を克服していて、今はお酒を絶っているんだよね」
亀「日本ではアルコールに関しては一部では甘いところがあり、街中で泥酔しておっても『迷惑だがしょうがない』くらいで受け止められるかもしれん。
しかし、欧米では自分をコントロールできないくらいまでに痛飲することは恥とされておる。
1930年前後には禁酒法があったように宗教的に酒をタブーとする風潮も日本よりも強い。
これに関しては日本が世界でも例外的に緩すぎるくらいではあるが……」
カエル「社会的にも問題になっているし、さらに言えばガガ様だってドラック依存の陥っていた過去があるという告白もしているもんね……」
亀「そう考えると本作は『酒とドラッグに汚染されており、せっかくの才能を台無しにしてしまう』という物語にも思えてくる。
その脚本、監督をかつてアルコール依存に苦しんだブラットリー・クーパーが担当し、主演をレディガガが演じるわけであるから、そりゃアメリカの評価は高くなるの」
ジャクソンの苦悩
本作の主人公であるジャクソンは色々と大きな悩みを抱えているね……
彼の飲む酒がジンのストレート、あるいはロックというのが注目ポイントじゃな
カエル「ジンをストレートで飲むって、相当すごいよね……銘柄まではわからなかったけれど、度数は何十度もあるお酒だろうし……」
亀「基本的にジンは安くてアルコール度数が高く、そして癖もそこまで強くないために手軽に酔うことができる労働者の酒じゃ。
ということは、ジャクソンは楽しみたいからアルコールを飲んでいるのではない、むしろのその逆で、楽しくないけれどお酒を飲まなければいけない状況というのが伝わって来る」
カエル「だから手がるに酔うことができるジンを愛飲しているんだ……
なんか、とてもかわいそうな人だね」
亀「彼は色々な罪の意識の上に成り立っている人間でもある。
例えば、自分自身が父親の非倫理的な行為の末に生まれてしまった存在である。しかも母親は出産の際に亡くなっており、兄以外の家族はすでにこの世にない。
その兄ですらも……よく事情はわからんが、どうやら諍いがある模様。兄の夢を奪ったのはジャクソンという話があるからの」
カエル「すごくお父さんや農場にこだわっていたのも、罪の意識があったのかなぁ?」
亀「おそらくそうじゃろう。
兄は『親父は碌でもない男だ』と言い、ジャクソンは『爪の先まで才能に溢れた男だった』と真逆のことを言っておる。しかし、その本音としては……ジャクソンも壊れたファンについて語っておったが、兄のいうことに同意することもあるのじゃろう。
音楽で才能を発揮し、大成功を収めておるが……それでも何か物足りない。
しかも唯一の拠り所である音楽も耳の病気で奪われていくという苦しい事態に発展してくしの」
カエル「ちなみに、社会的な成功者(高収入、高学歴な人)の方が過剰な飲酒を行ってしまうリスクが高いという研究データもあります」
亀「十分な金もあり、暇もあり、しかも逃げたい事もある……その結果、お酒やドラッグに溺れていく。
これがセレブ層がアルコール依存へ至る理由じゃな」
ラストの問題
そこまで評価しながらも、なんでこの映画は嫌いなんだろうね?
……これも個人の趣味嗜好じゃな
カエル「えっと……ラストに直結するお話になるので少し濁しますが、大きな試練を迎えたジャクソンは大きな決断を下します」
亀「この決断に対して違和感が大きかったということじゃな。
その前でも語っていたように、二人の恋愛話にはそこまで興味が惹かれんかった。
歌は素晴らしいものの、物語としての退屈さにも色々と思うところがあった後に、あの展開が来たことによって、興が覚めたというところかの」
カエル「……あの決断、理解はできるんだけれど納得はしないってところかな?」
亀「そもそもうちは何度も語るようであるが、文豪であれば坂口安吾であったり、また少し前の映画であれば『レスラー』を偏愛していると公言しておる。
これらの安吾やレスラーは”酒やドラッグに溺れようとも、家族に捨てられるような人間のクズになったとしても、最後までリングに立ち続ける”ということを選択し高らかに宣言した作品でもある」
カエル「例え命がかかっていても、最後まで戦い続ける意思のお話かぁ……
漫画でいうと『あしたのジョー』にもつながってくるなぁ。
だからこそ、あのラストは理解はしても納得はできないと?」
亀「結局は逃げただけじゃからの。
もちろん、あれをジャクソンの弱さだというと少し厳しすぎるかもしれん。
同じ状況になったら、わしも同じ選択をする可能性は十分にある。
しかし、アリーはまだ彼を支援してくれた。ジャクソンの決断は彼女のためを思っての行動ではあるが、あれはアリーを更に追い詰める単なる自己満足でしかないようにも感じられてしまった。
その選択もジャクソンの人生じゃ、好きにすれば良い。
良いが、どうせ自己満足に生きるのであれば、最後まであがき続けて舞台に立ち続けて、その舞台がなくなった後に野に倒れるくらいの方が好みということじゃろう」
カエル「……う〜ん、厳しい話だよなぁ。
物語としてはアルコールやドラック依存症はこんなに恐ろしいよ! という啓蒙もあるとは思うけれど……」
亀「映画に限らず、物語では”ダメな男はかっこいい”というのがあるじゃろう。
愛する女を幸せにできない男はかっこいいという描き方をする作品は、ハードボイルド作品を始め沢山ある。
今作もとても広く言えば”ダメな男に感情移入する”というタイプの作品じゃ。
それだったら……もっと自分勝手に、最後まで自分の舞台にこだわり続けて欲しかったの」
まとめ
ではこの記事のまとめです!
- 音楽描写が圧巻! これを聞くために劇場へ急げ!
- 物語としては退屈な面もあるものの、啓蒙として大事なテーマを描く!
- ラストの描写が個人的に受け入れられず……
話題になるのも納得の作品ではあるぞ
カエル「多分、うちが特別厳しいだけで、世間評では高評価が多くなるんじゃないかな?」
亀「音楽は間違いなく今年でもトップレベルにいいものばかりじゃしの。
是非とも音響にこだわった映画館で、今作で映画終わりとするのもありかもしれんが……少し年末に最後にするには、寂しい内容でもあるかもしれんの」