物語る亀

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物語愛好者の雑文

『恋は雨上がりのように』6話感想&演出の考察 この2人の恋をアニメはどのように描くのか?

カエルくん(以下カエル)

「今、最も楽しみにしているテレビアニメである『恋は雨上がりのように』の感想記事になります!

 テレビアニメとしては今年初の記事になるね」

 

「どうしても完結しない作品は語りづらいというのもあるんだけれどね」

 

 

カエル「その中でもこの作品は特に語りたい! と思うことが多くて、5話を録画で見てからずっと色々と考えていたもんね」

主「さすがノイタミナ、恋愛描写がとてもいい。

 フジテレビもさ、せっかくだからノイタミナ枠をゴールデンに持ってきてもいいんじゃないの?

 過去作も含めたらストックも結構あるし、これだけの作品が多く作られる枠が深夜で放送する必要もないと思うんだけれどね」

 

カエル「現代ではアニメは視聴率が稼ぎにくいと言われているからねぇ。

 ちなみに、今回は原作未読の意見となりますので、この先のネタバレなどは一切ありません」

主「原作が優れているのかアニメ版が優れているのかわからない部分もあるけれど、それも含めてこの作品の魅力ということで語っていきます。

 では記事のスタートです」

 

 

 

 

 

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1 演出力の高い作品

 

カエル「まずはこの作品の注目ポイントを説明するとなると、どこを推すの?」

主「やはり『演出力の高さ』を推したい。

 もちろんキャラクターもいいし、物語も魅力的なんだけれど……作品の面白さを牽引しているのは作画も含めた演出の魅力だろう。

 物語としてはそんなに突飛な展開は少なくて、次の週でどのようになるのかわからない波乱万丈な刺激的な作品ではない。この恋がどのように発展していくのか、あきらが次はどんな行動に出るのかヤキモキしながら見ているというのはあるんだけれど……」

 

カエル「恋愛ものの1つの難しさだけれど、くっついたらそこでお話が終わってしまうというのもあるしね。

 くっついた後を描く作品もあるにはあるけれど、それだと物語の味が大きく変わってしまうし……」

主「そんな物語をより魅力的にしているのが演出である。

 そこまで派手なものではないけれど、でも静かに意味を持っていて……毎週毎週ため息を零すような作品だね。

  もちろん、声優陣の演技も含めて素晴らしくて、平田広明の枯れた演技もいい味を出しているし、渡部紗弓はアニメ中心の声優ではなくてナレーションを多く担当しているということもあって自分は初めましてだけれど、そこまで過剰ではない演技があきらの素の可愛らしさを大きく引き出している」

 

カエル「声優の演技の方向性ではでいうと結構自然な演技だよね。多分、アニメっぽい演技をしているのは、バイト先のユイちゃん役の福原遥くらいじゃないかな?

 この子の役割もどちらかというと賑やかしであり、一般的な女の子代表だからこの演技でいいんだろうけれど」

主「この演技プランの方向性もバチッとハマっていて、これもまた1つの演出の完成度の高さを物語っているね

 

恋は雨上がりのように アクリルスタンド 橘あきら

この頭身はスタイル良すぎでは?

でも可愛いから万事OK!

 

本作をどのように鑑賞するか?

 

カエル「えっと……これはどういうこと?」

主「この作品は2つの見方があると思うんだよ。

 

  1. あきらの初めてのキラキラする恋を応援するように観る
  2. 店長の戸惑いや変化に共感しながら観る

 

 もちろん、この2つは相反するものではないし、どちらが正しいとか間違いというものでもない。どちらも楽しんでいるよ、という人も結構多いと思う。

 じゃあ、自分はというと後者の『店長の戸惑いや変化』の方に注目しながら鑑賞しているんだ」

カエル「5話の時の感想でこんなTweetもしているけれど……」

 

 

主「あの5話を見た時に、店長の気持ちがぐっと自分の中に流れ込んできた。

 確かに小説を書いて、まるで夢を追っているようにも見えるし、あきらからするとそれはかっこいい大人像でもあるのだろう。だけれど、店長の言葉で『夢も希望も何にもない』というものがある。

 ということは、店長は小説家になることが夢で書き続けている人ではない、ということだ

カエル「勇斗という可愛い息子もいるけれど、それでもどこかで諦めているんだよね……離婚して毎日会うことができないというのも大きいだろうけれどさ」

 

主「店長にとっては小説は好きだけれど、未来に向かって突き進むような希望あふれるものではない。だけど、それでも小説を書き続ける……この2つの矛盾するような思いってとてもよくわかる。

 Twitterでは『諦念』と書いたけれど、これはマイナスな意味ばかりではない。例えば……20歳を超えた初心者が『今から野球選手になるぞ!』と思っても、それは不可能なことである。これも一種の諦念なんだけれど、でもこの状況下で『野球選手になれないんだ!』って絶望感を覚える人はいないでしょ?

 なんていうか……変わらない日常に安心感を覚えながらも、諦めているという……相反する2つの感情が入り混じっている、それが店長の抱える諦念だと思うわけよ

 

カエル「今時の言葉ならば『枯れた』というべきなのかもしれないね」

主「『無理だから挑戦しない』ではなく『できると思うから挑戦する』でもない……ただ何となく書き続ける。多分、店長が小説を書き続ける理由ってそれだけなんじゃないかな?

 何も変わらないと思っている日々を生きる45歳のおじさんと、恋を知って変わっていく17歳の少女が出会う物語、それがこの作品なんだよね」

 

 

 

 

2 演出力の高さについて

 

靴の演出

 

カエル「では、ここから本題である演出力の高さについて語っていこうと思いますが……まずはどこから語っていこうか?」

主「本作品で最も特徴的な演出、それは『靴(足)』『雨』の2つである。

 雨はもちろんこの作品のタイトルにも使われているし、2人がくっついたりちょっと離れたりする時に雨が降っていたりと、かなり効果的な印象を与える。もちろんそこも注目したいんだけれど、今回は『靴』の演出が優れているので、そこに関して考えていこう

 

カエル「足の長さが特に印象に残るよね。OPを見た時、すごく可愛らしいけれど『足長すぎじゃない?』と思うところもあって、でもそれがとても魅力的で! 癖はあるかもしれないけれど、あきらの良さを表すいいOPだよね」

主「この作品全体を通してだけれど、靴や足に対するこだわりが非常に強いものになっている。大体は靴を見ることによって、この時の状況がわかるようになっているんだ。

 まずは……ちょっと前後するけれど、3話の演出を見てみよう」

 

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その涸れた視線で何を思う?

© 眉月じゅん・小学館/アニメ「恋雨」製作委員会

 

3話の靴の演出

 

カエル「3話を簡単におさらいすると、アキラが陸上部の後輩の薦めでちょっとだけ顔を出して、降りしきる雨の中で店長に告白をする、という回だったよね」

主「ここで注目して欲しいのは、後輩や陸上部の子たちは当たり前だけれど運動靴を履いているわけだ。

 一方であきらは走れなくなってからローファーを履いている。

 この2人の間には大きな差があるんだよね。

 もう走ることができなくなったあきらと、走り続けている運動部員という格差がここだけでも表現されている。

 一方で、その後に目を向けると店長は当然のように革靴なんだよ。色や形こそ違うけれど、あきらと店長は同じような靴を履いている。つまり、この2人は同じような状況や心境にある、という解釈もできる」

 

カエル「走るという好きなことができなくなったあきらと、諦念を抱え続ける店長かぁ」

主「そこから2話に戻るけれど、あきらはローファーで走ってしまい足を痛めてしまう。これは運動できる体ではないことを示すのと同時に『今の靴には合っていない行動を取ってしまった』ということもできる。

 だけれど、やはりその姿はキラキラしているんだよね。

 そこからは『好きな走ることができることに喜びを感じている』という解釈もできるし、また『新しい靴で走る快感を覚えた=恋を覚えた』という解釈もできる。

 共通して言えるのはそれまでの自分との違いを靴で表現している、ということだ

 

 

 

靴から見える心境描写

 

カエル「その靴から見る心境というのは4話と5話がより顕著かもしれないね。

 あきらが2人の男性となりゆきでデートすることになるけれど、加瀬くんの場合は気の抜けたサンダルで来ている一方で、店長の場合は張り切ってオシャレをして綺麗な靴を履いているわけじゃない?」

主「ここでは男性側にも注目したいけれど、加瀬はとんがり靴を履いているんだよね。オシャレな男性のマストアイテムでもあり、一部では女性受けの悪い靴とも言われている。

 一方で店長は普通の革靴であり、特にオシャレも何もしていない。

 この2人があきら(女性)に対してどのような感情を抱いているのか、また今回のデートに対してどのような気持ちで挑んでいるのか、はっきりとわかる演出になっている

 

カエル「それから5話の玄関で靴を揃える時、店長のすぐ隣においたりね」

主「靴の演出は1話の段階から既に注目されていて、勇斗と相手をしていたあきらが店長と入れ替わりでお店に入るシーンでは店長とあきらの靴は真逆の方向を向いている。つまり、2人の気持ちは全く違う方を向いている、という演出だよね。

 このように細かい心情描写を靴を通して描くことを大事にしている

 

カエル「でもさ、なんで靴なわけ?」

主「足を強烈に印象づけようとしているためだ。

 あきらは走ることができなくなってしまった少女であり、青春映画の王道だけれど『走る』という行為には特別な意味がある。それこそ、未来に向かってがむしゃらに走ったり、見せ場では走るシーンを使うことも多い。

 だけれど、走ることができなくった少女ということを強調するために足の傷やそれを連想させる靴を中心とした演出をしているのだろう

 

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恋を知る前と知った後の世界の変化をどう表現しているのか?

© 眉月じゅん・小学館/アニメ「恋雨」製作委員会

 

それ以外の演出として

 

カエル「じゃあ、靴以外の演出で目に付いたのは?」

主「まず欠かせないのが1話のあきらが店長に恋に落ちるシーン。

 ここでは店長はブラックコーヒーを差し入れしている。

 この時の色合いは少し暗めであり、どんよりした印象を与えるようになっている。そこでブラックコーヒーというのは、この時のあきらの心情であり、また店長の状況を表しているんじゃなかな? と思うわけですよ。

 そこに白いミルクを入れる……ここで雨が一気に晴れて、明るい色彩になっている。つまり、暗かった日常に対する変化が生まれたこと=恋が生まれたこと、をここで表現しているんだ

カエル「また足の演出に戻るけれど、この後で店長のシャツを嗅ぎながらあきらは背伸びをするんだよね。これが大人に対して背伸びをしている、というのが伝わってきて面白いよね」

 

主「次に注目するのが5話なんだけれど、ここで店長の趣味である小説を書く部屋を覗いてしまうわけだ。その時のあきらの格好がこのようなもので……これは何に見える?」

 

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© 眉月じゅん・小学館/アニメ「恋雨」製作委員会

 

 

カエル「えっと……カエル?

主「そうだね。これは原作もそうなのかもしれないけれど、このお話はネズミ(ハムスター)とカエルがとても強調されている回だ。

 そしてその両者ともに縁起のいい象徴なんだよ。

 ネズミは十二支の筆頭でもあるけれど多産だから家族や家庭の象徴としてもとても演技がいいし、カエルはその名前のように『家に帰る』などの語呂合わせもある。結構ネズミとカエルって世界的にも幸福のモチーフとなっている。それからセミもそうだね。

 このように5話には『好きな人の家に行く』というお話とともに、家庭を表す幸福の象徴がたくさん出ている。

 ここが演出として見事な部分でもある」

カエル「そういうことを知らなくてもハムスターやカエルが可愛らしく描かれていて和むよね」

 

 

 

3 店長にとってのあきら

 

カエル「そしてそのような演出が意味することってなんだと思う?」

主「あきらにとっての店長が『ブラックコーヒーに対するミルク』のように……暗く、苦い日々に彩りをあたえてくれる存在であるように、店長にとってのあきらもまた同じなんだろう。

 ただし、店長はあきらのように素直には接することができない。それは年齢のこともあるけれど、それ以上に諦念が心の奥底のある人だからね。

 だから、この物語って『あきらがどのように店長と結ばれるのか?』を楽しむ一方で『店長がどのように人生に希望を見出すのか?』という物語にもなっていくんじゃないかな?」

 

カエル「それは恋愛作品としてとてもいいテーマなのかもね」

主「人生に彩りを与える恋愛……まあ、そのフレーズ自体にはちょっと違和感もあるけれど、少なくともこの作品にはジャストフィットしているし、テーマとして王道でとても良いものだな」

 

友情 (岩波文庫)

おそらく6話において店長が手に取っていた作品

 

6話の不穏

 

カエル「では、最新話である6話について語っていくけれど、あの言葉が少ない中でもアニメの絵の力ではっきりと魅了してくれるのはとても作品だよね」

主「同時に不穏でもあるんだよなぁ……

 店長が手に取った作品は『友情』というタイトルが付いていたけれど、日本文学で夏目漱石との繋がりなども考えると、これはほぼ間違いなく武者小路実篤の友情だろう。このお話で友情を選択したこと……これが不穏なの」

 

カエル「えー、知らない方もいると思うので端的に説明すると、武者小路実篤の友情という作品は三角関係のお話で……友情と恋愛について描かれている、ちょっとビターな作品です」

主「この6話の中では友情の描写が非常に多かったけれど、そこでこの作品を選択したことが結構気になるんだよ。

 しかも、この図書館の演出で何度も三角形の螺旋階段が登場していて、これもまた三角関係を思わせる……

 原作を読んでいないからわからないけれど、今後ビターな展開が続くのかな? と予感させるお話になっている。

 全体としてもちょうど中間地点も過ぎて、ここでお話がさらに違う方向に動き始めたというのは、これから先も楽しめそうな一方で恐ろしくもあるね……」

 

 

言の葉の庭

 

連想するあの作品

 

カエル「じゃあ、最後に雑感としてということだけれど……」

主「なんかさ、この作品を見ていると新海誠作品を思い出すんだよね。

 いや、雨と靴と歳の差の恋愛というと『言の葉の庭』を連想するというのもあるんだけれど、それと同じように『秒速5センチメートル』の要素もあるような気がする」

カエル「店長目線からすると過去の恋愛=奥さんに未練があるとすれば、それは秒速にも繋がってくるのかな?」

 

映画『言の葉の庭』感想

映画『秒速5センチメートル』感想

 

 

主「それもそうなんだけれど、何よりもあの店長の諦念って秒速のタカキの諦念にも似ているような気がして……タカキの場合はまだ若いということもあって、絶望に近い諦念だけれど、もっと歳をとると店長のような感じになると思うんだよね。

 詩的なモノローグの多さとか、読書家なども含めて共通する部分はあるような気がしている

カエル「もしからした作者が好きとか、影響を受けたものが近いのかもしれないね」

 

 

 

最後に

 

カエル「というわけでテレビアニメ版の『恋は雨上がりのように』の感想だけれど、この映画かも決まっているんだよね。もちろん、見に行くつもりだけれど、この作品を見た後だとハードルがとても上がってしまうなぁ」 

主「同じ漫画を原作にした作品だから別作品なのはわかるけれど、これだけいい映像化作品があるとどうしても比べてしまうところがあるからな。

 面白いことを期待してはいるけれど……さて、どうなるかな?」

 

カエル「まだまだ後半に入ったばかりで、これから一層盛り上がるだろうし、その不穏な予感は当たるのか? そして恋の行方はどうなるのか、注目していきたいね!

 というわけで『恋は雨上がりのように』の6話までの感想記事でした」

 

 

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