カエルくん(以下カエル)
「今週もたくさん映画が公開されて忙しい! まずはインフェルノに、デスノートに、湯がたぎるほどに……」
ブログ主(以下主)
「フ〜フフ〜フ〜フ〜フ〜ン♪」
カエル「……主、下手な鼻歌……なんの歌?」
主「え? 『inferno』の歌」
カエル「……歌? そんな歌あったっけ?」
主「知らない? 『時は流れるもの 時代は変わるもの』とかさ『瞳 貴方を見つめるためにある 耳 貴方を聞くためにある』とかさ」
カエル「……アイマス?」
主「そうそう、他に何があるの?」
カエル「9mmのインフェルノとかもある中でそこを選択するんだ……しかも映画に一切関係ないというね……」
主「歌の中で何度も『インフェルノ』って歌うから、もうこの歌しか思い浮かばないんだよねぇ」
カエル「……うわ、まじでどうでもいい出だしから始まった……
さっさと感想記事を始めるよ!!」
1 ネタバレなしの感想記事
カエル「まずはこの作品は『ダ・ヴィンチ・コード』等で有名なダン・ブラウン原作、ロン・ハワード監督のこのシリーズではお馴染みの布陣で挑む、シリーズ最新作だね」
主「……あれだけ話題になったけれど、ダヴィンチ・コードって見たことないんだよね
」
カエル「そうなの? じゃあ、このシリーズのお約束とか、登場人物とかは」
主「一切わからない。だから今回はそういう人間の感想であるということは、あらかじめ明言しておきたい。
ただ『シリーズを見ていないと楽しめないの?』と訊かれたら、全く関係ないと思うよ、とは答えておきたい。もちろん、主役のトム・ハンクスの活躍だのという、お馴染みの話はあると思うけれど、わからなくてもわかるようにできている。
少なくとも、自分は何も疑問がなかったね」
カエル「じゃあ、このシリーズ初見の感想としてはどうだった?」
主「何というか……鑑賞中に『なんか既視感があるなぁ』と思っていたのよ。そしたら、思い出した。
この映画って『アンチャーテッド』に似ているんだね」
カエル「アンチャーテッドって、トレジャーハンターの主人公が世界中の遺跡をめぐり、隠されたお宝や世界の謎を探す、アクションとミステリーが融合したゲームだね。世界的に評価の非常に高い、現代の名作のひとつじゃない」
主「もちろん、パクリだなんだって言うつもりはないよ? そもそもダヴィンチ・コードを考えたら、発表はアンチャーテッドの方が後だろうし。
ただ、この理由を考えたら、ダン・ブラウンのインタビューで『インディ・ジョーンズ』を参考にしているって言っていたのよ。その瞬間に分かった。発想の元が一緒なんだって」
カエル「世界中を飛び回る、考古学ミステリーでアクション多めというと、やっぱりそこが連想されるよね」
主「アクションを多めにすればアンチャーテッドになり、ミステリーを重視したらこのシリーズになるんだね。その意味では親しみやすかったよ。自分もインディ・ジョーンズは大好きなシリーズで、よく見ていたし」
難しいミステリー
カエル「今作はミステリー作品でもあるけれど、その出来はどうなの?」
主「う〜ん……サスペンスミステリーとして考えた場合、ある程度合格点だと思う。しっかりと練られていたし、人気が出るのもわかる。考古学ミステリーという、興味深いジャンルでもあるし。
ただ、ミステリーでありがちな……いわゆる『フーダニット』とかの完全犯罪のトリックだとか、殺人の犯人を探せ! とかのいわゆる論理ゲームとしてのミステリーではなくて、過去の偉人にまつわるものだから……しかも、それがヨーロッパの歴史に関わることだから、日本人には馴染みが薄いかもね」
カエル「今回はダンテだけど、ダヴィンチに比べたら知名度はひとつ落ちるかな?」
主「ダヴィンチに関しては誰もが知っている作品とかもあるけれど、ダンテって明確に何をしたのか? と問われると、よく分からない人も多いかもね。世界中の色々な観光地……遺跡や宮殿などに行くけれど、そこに行っても、その場所の歴史や意味がわからないから『綺麗な場所だな、派手な場所だな』という、いわゆる風景としての美しさには溢れているけれど、ミステリーとして推理するという楽しみは……どうだろう? 結構難しいんじゃないかな?」
カエル「どちらかというとサスペンス風味が強かったかな?」
主「誰と誰がグルだったとか、誰が犯人とか、色々考えられるけれどね。原作との違いとか、各謎に関してとかは他のブログに任せるとして……うちのブログでは『映画としてどうだったか?』というところに注視して、語っていこうかな」
カエル「いつも通りだね」
以下ネタバレあり
2 序盤から中盤にかけて
カエル「じゃあ、ネタバレ開始と行くけれど……スタートは悪い始まり方ではないよね? シリーズ初見だけど、すんなりと入り込めたし」
主「謎の男が黒人に追われている。そして街の高い塔みたいなところから飛び降りるわけだけど……まず、ここで何が起きているか全く分からないけれど、引き込まれるものがあったね。
この飛び降りた男が何者なのか、果たして生きているのか、死んでいるのか……いや、状況からすると死んでいるんだけど、もしかしたら……ということもあるかも? なんて考えながら見ていると面白いよ。いきなり、サスペンス劇場の開幕だから」
カエル「あとはその前の『人類の繁栄の歴史とそのスピード』に関しての説明などもあったけれど、これも良かったよ」
主「なるほどなぁ……って納得した。いや、言っていることではなくて、こうして数字と歴史を交えて語ることによって、彼の言うことに一種の説得力が出ているんだよね。まあ、ぶっちゃけハッタリなんだけど、数字とかを示して具体的に語ることによって、不思議な説得力を与えてくる。
そしてお話自体がスピーディに動くから、こちらに考えさせる余裕を与えない。その人類がどうのこうのと語って、すぐに場面が変換し、そしてまたすぐに場面が変わる。多分、トム・ハンクス登場まで3分とかかっていないと思うけれど、これだけで重要なシーンが2つほど消化しているからさ、理解してツッコム前に次の話に移るんだよね」
記憶喪失と襲い掛かる者
カエル「そして、また話は飛んでトム・ハンクス演じる主人公、ラングドン教授とフェリシティ・ジョーンズが演じるシエナ女医の出会いの場面になるわけだけど……」
主「……う〜ん、正直、ここからもう怪しいんだよね、色々と」
カエル「怪しい? どういうこと?」
主「この場面において、揺れるカメラとフラッシュバックを多用してラングドンの混乱を演出しつつ、観客もそのラングドンとの気持ちを一体化させようとするんだけど……ここまでいくと、単純にカメラワークに酔うよね。
少し気持ち悪くなった。カメラ酔いしやすい体質なんだよ」
カエル「でも、それは明らかに演出意図としてはわかるよ」
主「そう。だからこれでいいのかもしれないけれど……病室で記憶を失い、さらに襲われる場面において、確かに『何が起きているの!?』という意味ではラングドンと観客の一体化はできている。だけど……まあ、これは後々語られるけれどさ、ここでまず大きな違和感があるから、すんなり入り込めないんだよね」
カエル「違和感……ああ、あの病室か」
主「あの病室って色々と便利だなぁ、と思ったのね。鍵は付いているし、裏口はあるし、そこから逃げ出せるし。日本の病室だったらありえない構造をしているじゃない?
しかも、相手は銃を持っているからさ、鍵を銃で撃って壊すとかもあるのに、律儀に素手で扉を壊そうとしているんだよね。まあ、サスペンスの演出かなぁ? なんて思いなが見ていたわけだけど……ね。ラングドンの明らかに重症な中で逃げたりと、少なくとも自分とラングドンの一体化はできなかったんだよ。そもそも、スピードが速すぎて理解が追いつかないし、情報が多すぎるわりに整理していないし」
ハイスピードな展開
カエル「その情報量の多さというのは、作品の性質上仕方ない部分でもあるけれどね」
主「そうね……原作を考えると非常に長いお話を、この2時間に抑えろというのがまず難しい話なわけだ。その意味では監督やスタッフの懸命な工夫と努力を思えばこそ、だけどさ……
でもね、それが観客との一体感を生むかというと、それはまた別の話で。この後も含めてそうだけどさ、情報の整理が一切追いつかないんだよね。
ちなみに言っておくと、このハイスピード感は序盤だけじゃない。中盤や後半にかけても続くわけだ。だから、ミステリーであるけれど、ミステリーとして機能しない原因は、多分ここ。つまり、情報過多すぎて理解できない話になっているから」
カエル「だけど当たり前だけど、肝心の情報は隠しているわけだしね」
主「そうなんだよね。与えられている情報は多い上に整理されていない、さらに息を飲むように状況は変わる、でも核心は中盤から後半まで隠されている。
結局、この映画はサスペンスとして楽しむ以外にないんじゃないかな?」
3 中盤以降にかけて
カエル「そして女医と逃げたラングドンは追っ手から逃げ続けるわけだけど……」
主「もう、この段階で怪しいんだよね。原作と変わっているらしいから、原作を知っている人なら逆にシエナを疑わないだろうから『聡明な女性だな』で終わるかもしれないけれど、この映画から見た観客は……少なくとも自分みたいな穿った観客は『この女が1番怪しいだろ!』ってなるんだよね」
カエル「優秀すぎるよね。しかも、なんでついてきたのかよく分からないし」
主「ここら辺も詰め込みすぎの弊害があると思う。『バイオチューブ!』 なんて言っているけれど、一介の医師がバイオチューブなんて知っているものなの? 確かに聡明で天才みたいな設定があったけれどさ、彼女が興味があったのは考古学であり、あとは医療の知識であって、他のことに関しても有能すぎるという疑念があるんだよ」
カエル「色々知っているから、一般人ではなさそうってなるよね」
主「そしてそのあとにミステリーパートが始まるけれど、ここも置いてけぼりだし。しかも、構造的に理解しづらいものになっているからさ、余計だよね」
登場人物の関係性の構造
カエル「じゃあ、ここで構造の話に入ろうか」
主「まず、主人公を追いかける謎の組織があるわけじゃない? ここが第一の謎。
そしてWHOを自称する組織があるわけじゃない? ここが第二の謎。
さらに最初の自殺した男関連の話がある。ここが第三の謎。
最後に記憶を失ったラングドンたちの持つミステリーの謎がある。これが第四の謎。
謎が多すぎるんだよね。どれを主軸に考えればいいかわからない上に、じゃあ、どの組織とどの組織が敵対していて、ラングドンはどの組織と敵対していて、ということがわからない上に、しかもかなりゴチャゴチャに混じり合ってしまう。
混乱するだけじゃないの? って思うよ」
カエル「まあね……あいつが味方であいつが敵で……みたいな状況がクルクルと変わっていくからね」
主「さらに言えばさ、ラングドンの目的も、シエナの目的も一切開示されていないわけじゃない? 追われているのはわかる、味方がいないのもわかる。でも、なぜそれが『この謎を解こう!』という話になるのかがわからない。だって、記憶がないんでしょ? その上で追われているんでしょ? それどころじゃなくない?
この目的の設定ができていないからこそ、余計な混乱を生じることになるんだろうね」
カエル「結果として、それは後々見ている人にはなんとなく通じるけれど……」
主「この中盤では難しいね。
そして、一枚岩じゃない組織とかさ、ゴチャゴチャしすぎ。さらにミステリーが入ってくるから、頭がこんがらがる一方。
しかも怪しい奴は相変わらず怪しいままだしね」
4 終盤にかけて
カエル「ここで大どんでん返しのあとに、最後の決戦の地へと向かうわけだけど……」
主「ここもさ、まあ展開は読めるわけだよね。
途中で黒幕さんが『人を救うために……』みたいな葛藤を覚えるシーンがあったけれど、その葛藤がどこか行っちゃって、大量虐殺に走るというのも違和感があった。だったら、あの葛藤いらなくない? 原作のようなウイルスだったら……つまり生殖能力の減退であったら、理解はできるんだよ。直接人をどうこうではなく、未来を奪う行為だし。
ここもウイルスの中身を改変したことに伴う、疑問だったかな」
カエル「謎ときに関しては?」
主「まあ『へぇ』レベルだよね。確かにミステリーとしては優れているかもしれないし、どんでん返しもあったけれど、もうさ、謎の主題がそこにあるわけじゃないよ? この犯人の目的も開示されました、どこにウイルスがあるか探しましょうだったら、ダンテである必要性もあまりないし。このミステリーも専門家のラングドンは理解できるかもしれないけれど、専門的すぎて観客には理解できないんだよ。
それってミステリーとしてどうなの? って思わない? 『トリックや謎がどうでもいい、理解できない』というのは、ミステリーとして失敗だと思うけれどな」
ミステリー部分について
カエル「じゃあ、ミステリーに関してだけど……」
主「一定のうまさはあると思う。十分合格点だよ、個人的には。ただ、途中から考古学以外の謎が多すぎて、それが……ダンテの話と組織の話の結びつきが弱かったという欠点はあるけれどね。
でも、ミステリーとしては一定の評価はできるけれど、ストーリーとしては……って感じかな」
カエル「それは……ウイルスとかも足を引っ張ったかね」
主「ミステリーにおける決め事みたいなことで、ノックスの十戒の中に『東洋人を出さない』というタブーがあるんだよね。これは簡単に言うと『魔法使い、奇術使いを出さない』という意味だ。
それはわかるよね。密室殺人のトリックが『魔法使いによる壁のすり抜け』だとしたらそれはもうミステリーじゃない。
だけど……これは難しいところでもあるけれど、これだけ発達した科学はもう魔法と同じなのかもしれないね」
カエル「……というと?」
主「ウイルスにしても記憶をなくす薬にしても、いや、本当にあるのかは知らないよ? どんなウイルスだよ、って思ったけれど、炭疽菌みたいなものかもしれないし、時々パンデミックを引き起こす新型ウイルスもあるしさ。感染率ほぼ100%、致死率が50%ほどって、もう凶悪すぎるけれどね。ボツリヌス菌クラスかよ! それが全世界の人類に拡散って……
それがあまりに超科学すぎるように見えて、魔法にしか見えなかった。だからさ、ミステリーの……肝とまでは言わないかもしれないけれど、重要な部分が魔法だったら、魅力も減るんじゃないかなって」
カエル「う〜ん……記憶喪失とウイルスの存在がないと成り立たない話だしね」
主「だから辛い評価になるよ。
ミステリーとして優秀な作品が、物語として優秀なわけではないから。これは日本でも同じだけど。誰とは言わないけれど、日本の有名作家でも個人的にそう評価している作家もいるし。逆にミステリーは辛いけれど、物語として面白い作家もいるんだよね」
カエル「謎を絞ればよかったんだろうけれど、原作があるからね……」
主「2時間に収めるのは無理だったかもね。頑張ったとは思うよ」
犯人の思想
カエル「最後に犯人の思想に関してだけど……」
主「なんというか……見ていて恥ずかしくなってきたんだよね」
カエル「……恥ずかしいって何が?」
主「個人的な話になるけれど、中学生くらいの時かな? 環境破壊とか、いろいろと考えていた時にさ、全く同じ思考に陥ったことがあるのね。地球を人間に例えると、人間はがん細胞だ。それが地球を殺す前に、人類は減った方がいいんじゃないか? って。
今ではそんなこと思っていないし、いわゆる黒歴史として笑い話だけど……それを大手を振って、これだけ堂々と主張されると『もう許して!!』って気持ちになるんだよね」
カエル「えらい個人的な話だね……」
主「でもある種の先進国クラスの教育を受けた人の何割かは……多分世界中の5億人くらいは同じことを思ったんじゃない? その思想を大手を振って広めるという恥ずかしさといったら、ねぇ……」
カエル「でも、まあ『人類絶滅ウイルスを広めるぞ!』って何十年前のアニメの……恐竜帝国とか妖怪帝王とかがやりそうな手だよね」
主「それをよりリアルにやっているだけかもしれないけれど、程度は変わらないよね。なんか、それもノレなかった原因かな? わかりやすいとは思うけれどね。
個人的には原作の『生殖能力を奪うウイルス』の方がわかりやすかったし、思想性もあって好きだね。染色体異常を起こす物質なんてたくさんあるし」
最後に
カエル「インフェルノの感想記事だったけれど……」
主「今回も長くなったけれど、ほぼツッコミだったかな?
何度も言うようだけど、スタッフやキャストは頑張ったと思う。あの原作の映像化自体が難しいというのも重々承知。だけど、観客に『頑張った』と言われちゃあ、ね」
カエル「そう考えるとミステリーって難しいね」
主「難しいよ! 謎ときとストーリーの面白さと意味を一致させないといけないし、物語において1番難しいのはコメディとミステリーっていう人もいるから。
自分もその意見に賛成だし」
カエル「お話を作るのって難しいね……」
主「特に本作のような長編をまとめた作品はね。どうしてもこんな形になると思うよ。さあ、みんな! 原作を読もう!
おや、下にリンクが貼ってあるぞ!!」
カエル「……ド下手な宣伝だね」
インフェルノ上・下(マーケットプレイスセット) (海外文学)
- 作者: ダン・ブラウン,越前敏弥
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2013/11/28
- メディア: ハードカバー
- この商品を含むブログを見る