カエルくん(以下カエル)
「今月でも特に注目集めるピクサーの最新作、リメンバーミーの感想です!
アメリカアカデミー賞に輝くなど、高い評価を受けているよね」
亀爺(以下亀)
「日本でも大ヒットは間違いなし、劇場も子供を含めてたくさんの人がおったわい」
カエル「今回はピクサー作品ではあるものの、もはや今はディズニー傘下でありその影響も非常に強いために、ディズニー/ピクサー作品として表記します。
あと……あの面倒くさい人が来る前に、さっさと記事を始めて終わらせてしまおうか」
亀「世間では高い評価を連発しておるディズニー/ピクサー作品であるが、このブログではどちらかというと辛口なことも多いからの。
下手なことを言う前にさっさと紹介して、大雑把に思うことを書き連ねた方がいいかもしれんの」
カエル「というわけで、今回はちょっと特殊な形式になりますのでご了承ください!
では感想記事のスタート!」
作品紹介・あらすじ
アメリカアカデミー賞でも長編アニメーション賞、主題歌賞の2冠に輝き、アメリカや中国など世界中で大ヒットしているディズニー/ピクサー作品の最新作。今作ではメキシコの死者の日という文化を題材にしながら、死者と生者の交流を音楽と共に描く。
監督は『トイ・ストーリー3』などを始め、多くのピクサー作品で共同監督や製作総指揮を務めたリー・アンクリッチ。
また劇中歌の『リメンバー・ミー』は『アナと雪の女王』の『レット・イット・ゴー』を手がけたクリステン・アンダーソン=ロペス&ロバート・ロペスが担当する。
メキシコで生まれ育った少年、ミゲルはミュージシャンになりたいという夢を持っているが、家族に猛反対されてしまう。実はひいひいおじいさんの影響により、ミゲルの一家は音楽を奏でることが禁止されているのだった。
憧れである伝説のミュージシャン・デラクルスのようになりたいと一心で街のコンテストに出場を決意するのだが、肝心の楽器がないためにデラクルスのギターを借りようとする。その時、不思議な体験が起きてミゲルは死者の国へと入ることになってしまうのだった……
1 感想の前に
カエル「まず、感想などを語る前に1つ語っておかなければいけないことは、本作は非常に高く評価されている作品だということであり、そしてディズニー/ピクサーの作品であるから、当然のようにクオリティはとても高いということだね」
亀「本作の動画面でのクオリティの高さに関しては文句がつくことはないじゃろうな。
常にヌルヌルと動き回り、しかも動き自体にも快楽性がある。音楽だって抜群に良く、聴いていて飽きることがない。
いつも語るが近年のディズニーの物語というのはある方法論が確立しており、大きく分けて最初に3つのパートがある。
導入から旅たちまでのAパート、数々の出会いと試練、そして最大のピンチを迎えるBパート、最後に悪役と対峙して悪を倒し主人公の望みが叶うCパートである。さらに細かく言うと最大の13個のパートに分けられており、それが順番に登場するようにできておる」
カエル「それでかなりメリハリがつきやすい形になっているし、古典や神話から学んだ方法だから面白くないわけがないということだね」
亀「これはディズニーが主導する映画全てで同じことがあって、マーベルだろうがスターウォーズであろうが同じじゃ。
まあ、元々スターウォーズも同じような構成なのじゃがな。
これは今ではハリウッドにおける物語創作法の基本として、当たり前に使われているらしいの。そしてそれにものすごく忠実なのが、ディズニーであり、ピクサーであるということじゃな」
カエル「会社としての物語創作法の基礎がしっかりしているということだね。
そりゃどんな作品を作り上げても傑作だよねぇ……ちなみに、ディズニーやピクサーの手がけるアニメーション映画はどの作品も一定以上の面白さが保障されている場合が非常に多く、『ディズニーにしては普通』という評価ならば『物語として傑作』ということになります。
本当にディズニー/ピクサー映画の安定感の高さは驚愕であり、現在世界一の物語制作スタジオであると断言してもいいでしょう」
背景なども非常に凝っており、文句のつけようがないほど!
高い評価の弊害として……
カエル「そしてこの作品でアメリカアカデミー賞で長編アニメーション賞を受賞していて、なんというか……もうおなじみの光景になってしまったね」
亀「これはわしはかなりの問題であると思っておる。日本の……特にコアなアニメーション映画好きでも似たようなことが言われるのじゃが、もはや長編アニメーション賞はディズニー/ピクサーの独壇場である。
それ以外の作品が受賞することはほとんどなく、長編アニメーション部門は2001年から創設されておるが『シュレック』『千と千尋の神隠し』『ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!』『ハッピーフィート』『ランゴ』の5作しかない。
しかも、2010年以降はランゴのみであり、今年も本作で6年連続の受賞となっておる」
カエル「もちろん、アメリカの賞だしアニメーション映画に関してはそこまで権威があるわけでないというのは重々承知、歴史も浅いです。ディズニー/ピクサーがそれだけの作品を作っているのも事実。
だけれど、この偏り方はちょっと問題があるような……
これだけ偏っていていいの?」
亀「あまりいいことではないの。今、世界中のアニメーション映画で面白い動きがあり、色々な作品が作られておる。人形を使ったドールアニメーションであったり、絵画を動かしたり、また社会性の抜群にある……例えば児童虐待などをテーマにした作品も傑作が次々と生まれておる。
そしてその国独自のアニメーションというものもあり、歴史や民族性などを強く意識した作品が次々生まれておるが……それらが全て無視されているような気がして仕方ない」
カエル「中にはちょっと問題のある話だと『アニメーション映画はディズニー/ピクサー以外は観ないよ』と発言した投票権を持つアカデミー会員もいるという話も聞くし、今は制作スタジオの名前だけで評価が上がってしまう部分もあるかもしれないね……」
亀「もちろん、わしだってディズニー/ピクサーがとてもレベルが高いことは認める。確かにアカデミー賞に輝いて何も不思議ではないし、アメリカの誇りではあるが……外から見ているとあまりにも偏りすぎているようにも思う。
別に日本の作品を評価しろとか、萌えアニメをもっと入れろという話ではない。
ただ、この一極集中に関して……もっと色々な視点を持って欲しい、という切実なお願いとでもいうかの。
特に今年はモンスター映画の要素もある『シェイプ・オブ・ウォーター』が作品賞を獲得した。わしは……これだけディズニー/ピクサーを非難するようなことを言ってはなんじゃが、2016年のアカデミー脚本賞に『ズートピア』がノミネートしなかったのはおかしいとも思っておる。
もっとアニメーション界全体を盛り上げるためにも……実写と対等に扱ってもらう日が来るように、注目を集める賞だからこそ色々な作品を評価してほしいというところかの」
骨だけでキャラクターを区別させる技術など本当に素晴らしい
吹き替え版について
カエル「今回は吹き替え版で鑑賞したけれど、ここがすごいところでもあって、話題の人は起用しても変な人は起用しないよね。
今回主役の石橋陽彩は2004年生まれだから今年で14歳になるのかな? まだまだ子役の歳なのに、とても歌がうまかった!」
亀「演技も子役らしいのびのびとした部分もあり、若干子役特有の作り込み過ぎな印象もあって少し思うところはあるにはあるが、全体的には高評価じゃの。
どの道を進むにしろこれからの活躍が大いに楽しみな子じゃな」
カエル「それから藤木直人は声質が声優でいうと浪川大輔に近いところもあって、若干頼りない部分もあるんだけれど、でも親近感を抱きやすい声質だったよね」
亀「歌に関しては本当に聴きこむ人からしたら若干違和感があるらしいが、劇場で聴いている分には何の問題もないように感じたかの。
他にも今作に起用されている声優はベテランであったり、お笑い芸人でも渡辺直美のように声優としても一定の評価を得ている人物が多く起用されておる。
今回短編であるが『アナと雪の女王』の神田沙也加のようにミュージカルや舞台の経験も豊富で声で魅了する演技に慣れている人も多く、非常に聞き応えがあったの」
カエル「吹き替え版と字幕版、どちらでも楽しめる作品に仕上がっているんじゃないですかね?」
亀「……と、ここまで語ったところで、いつものあいつの姿が見えてきたの」
カエル「このまま来ないで世間評価と同じように賛美だけ送っておけばよかったのに……本当に今回、感想をつらつら書くつもりなのかな?
炎上しても知らないよ?」
亀「まあ、一応本音であることは間違いないからの、ではここでわしは一時退散とするかの……」
以下ネタバレあり
2 感想
主「いやー、またせたね! ではここからはリメンバーミーの率直な感想と罵詈雑言大会といきましょうか!」
カエル「……うん、来なくてよかったと思うよ。
とりあえず紹介したくもないけれど、Twitterでの短評はこのようになっています……」
#リメンバーミー
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年3月18日
さすがディズニー/ピクサー提供作品としてアニメーションのレベルの高さは文句のつけようもない
安定して一定以上の作品は制作できる能力の高さはさすが
隣に座った女性は泣きそうと言っていたよ
個人的には?
酷いね
ピクサー/ディズニーの悪癖全開で嫌気がさす
主「確かに楽しめるように色々と工夫はされているよ? でもそれが全部見たことがある形なわけ。
しかも最初から答えありきで作っているから、予告の予想通りの展開が続いてハラハラも何もない。
大体予告でわかるじゃない、ミゲルのひいひい爺さん? が誰かって。
そんな謎とも言えない謎をいつまでも引っ張っていくのかい! という気持ちもあった」
カエル「えっと……世界中や世間ではとても高い評価の作品で、感動するシーンでは劇場内で涙をすする音が響き渡り、隣に座った女性は『ヤバい! 泣きそう!』という言葉を発しておりました」
主「これまでのディズニー/ピクサーが表現してきたものがあるけれど、この作品にはディズニー/ピクサーの悪癖が相当詰まっている。ただし、その個人的には悪癖と思われる部分が世間で評価されていることも事実。
だからこれは自分にとってはジレンマであるけれど……今回は突っ込みばかりになります」
アナと雪の女王の短編について
カエル「その前にさ、一応アナ雪の短編について語っておこうよ。こちらは?」
主「今回、なんでこれを短編として発表したのかまるで理解できなかった。
文句ばっかり言っているようだけれど、ピクサーの短編を作る技術はとても高くて自分も好きなの。
例えば『ファインディング・ドリー』の短編であった『ひな鳥の冒険』に関してはもうレベルの高さに飛び上がったほど。全編セリフなしでありながらも、風景とひな鳥たちの動きだけで全てを説明してしまい、そしてそれが面白いという見事な傑作だったね」
カエル「でも本作は……?」
主「なぜこの短編を20分も公開するのか? という問題で、これから2時間にわたる家族と伝統のミュージカルを観せるのに、さらに20分も全く関係のない物語を流しても長くなるだけだよ。
じゃあアニメーションとしてのレベルは? というと、一部だけ本当にレベルが高くて『これは素晴らしい!』と思う表現があったけれど、それ以外はお決まりのディズニー映画だよね。結局のところ、アナとエルサは短編では主人公になりづらいから、だからオラフを主人公にするんだよ。
これって『ライオンキング』の派生が『ティモンとブンバァ』になったのと一緒。コミカルであり、自己の中に葛藤を持たない……成長がほとんど無いキャラクターでは無いと、コミカルな短編にはなりづらい」
カエル「長編のキャラクターをスピンオフに派生させる技術が確立しているということだね」
主「そうとも言える。
今作の場合は、なぜこの話を短編で同時上映してしまったのか?
短編だからこそできる強烈なテーマや表現手法の実験もある中で、この作品を公開する意図が全く見えてこなかった。
これならば長編に組み込めればいいじゃない。それができないから公開したの? それとも本国では11月公開だから時期を合わせて?
長編を見せる前に短編を見せる意図であったり、短編である理由が何も見えてこなかった。ただ単に長くなっただけで……子供向けアニメーションとしても不親切だと思ったね。
あ、神田沙也加と松たか子の歌が聴けたのは嬉しかったけれど」
音楽と動きの快楽性の高さはとてつもなく素晴らしいけれど……
リメンバーミーの欠点
カエル「え〜ではリメンバーミーのお話に戻りますが、まずは何がそこまで気にくわないの?」
主「しっかりとした技術が確立されているがゆえに、お話がお決まりだということもある。
それでも面白い作品もあるから難しい部分ではあるけれど、今作のテーマが大嫌いです」
カエル「え? 家族を大事にしようって?」
主「あの家族は世界中のどこにいもいないよ。
ひいひい爺さんまで遡っても祭壇に写真を置いておきたいと思える家族ばかりの家なんてそんなに多くない。絶対にどこかで迷惑者がいて、酒や金のトラブルを起こす奴がいる。
それが1代2代ならばそんな人がいないなんて幸せな家族だねって言えるかもしれない。だけれど、あそこまで何代も遡って恨みを買う人がほとんどいないというのは、ほぼありえない」
カエル「一応ひいひいお祖父さんが酷いことをしたということだけれど……」
主「あれが酷いことといえば確かにそうだけれど……でもそのレベルがね。
金をせびってきたり、奥さんや子供を殴ったわけでもないじゃない。いい思い出しかないってことは人間の頭の中で美化されているだけであって、普通はそんないい思い出ばかりではない。
あとは、幸せな家族を持った人なら『家族は大切にしようね』というメッセージは通じるかもしれない。
だけれど、じゃあ酒浸りで暴力父さんだったり、ビッチですぐ男を変える母親を持ってしまった子供はどうなるのよ?」
カエル「極端なことのようだけれど……でもそういう人は絶対いるよね。虐待されて育ってしまう子供だって世の中にはいるし……」
主「家族というのはその人間を助ける存在でもあり、苦しめる存在でもある。
家族なんて捨てて自由になりたい! と思う人は老若男女問わず沢山いるよ。家族が大きな事件を起こして人生が大きく変わることだってある。
さらに言えば、家族が居ない人だって……孤児だって沢山いるんだよ。
そこに対するフォローもないし、あの死後の世界のシステムは人によってはただの地獄でしかないと思うけれどね」
安全圏からの表現?
カエル「えっと……これはどういうこと?」
主「つまりさ、最初から答えありきなんだよ。
『家族は大切だよ』ということをテーマにしよう、そして裏テーマでメキシカンを大切にしようという前提がある。
それはもちろん、その通りかもしれない。
だけれど、じゃあなぜトランプが壁を作ろうとしており、それがアメリカ社会で高い支持を集めたのか? そこには色々な意味合いがあるはずじゃない。
例えばメキシコでは凄惨な麻薬戦争の実態があり、そこから逃れてきた人もいる。中には治安の悪化を促すような人もいたり、またアメリカ人の労働機会を奪うような場合もある。
それが現実じゃないの?」
カエル「……死者の日についてちょっと調べてみると、確かに死者を笑って送るという風習でもあるけれど、同時にメキシコの風習で死がとても軽いという面も指摘している記事もあるんだよね」
主「アメリカに渡る麻薬のルートだってメキシコ経由も多いしね。
そんな現実を描いた上で、それでも『メキシコやメキシカンは大切だ!』というならば、それは立派な表現だよ。
自分も尊敬するし、高く評価する。だけれど、そんな現実は一切描かずにこの物語を作ってしまった。
単なるトランプ大統領の壁に対する反感であり、民主党的な考えからくる表現なんだよね。
その政治的意図を持った表現をなんというのか?
プロパガンダっていうのでは?
まあ、プロパガンダが悪いとは言わないけれどね」
カエル「……アメリカ国民だってトランプのいうことはメチャクチャだけれど、でもメチャクチャを実行しなければいけないと思う人が多くいる状況でもあって、それはフィリピン麻薬戦争にも似ているところはあるのかもね」
主「もちろん自分はメキシコ人でもアメリカ人でもない、部外者だ。この作品には理想があるし、物語は理想を語るものであるのは事実だ。それを否定できない。
だけれど、それにしてもあまりにも理想主義的すぎる、一方的な表現じゃないですか? ってことだよ。
それは安全圏からの表現でしかないと思う。
自分には……響かないなぁ」
3 世界のアニメーションの現在
カエル「えー、いろいろとこの記事にも厳しい意見が出てきました。もちろん、それ自体は予想もしていたし、よくわかるけれど……でもなんでそこまで合わなかったの?」
主「元々ディズニーが絡む作品には反感を持ちやすいというのもあるけれどね。
確かに『黒人/メキシコ差別はダメだ!』とか『女性に活躍の機会を!』というのは大事だけれど、それってもう8割の人が思っていることだよなぁ……という思いがあるし、ハリウッド自体が反トランプによって民主党の広報機関のようになっているのも気にかかかる。
じゃあ、難民を多く受け入れた今のドイツのようになるのが理想なんですか? って話でさ……
しかも、アニメーションのメッセージ性もちょっと文句がある」
カエル「多くの人が挙げるけれど、今年トップクラスの大傑作であり、親が亡くなったり犯罪や虐待などによって児童養護施設に入ることになった子供達に愛と救いを描いた『ぼくの名前はズッキーニ』を大絶賛した後だしね」
映画『ぼくの名前はズッキーニ』感想 世界中の子供達に向けられた真摯な思いが胸を熱くする、今年1番の感動作!
主「それだけじゃない。
ブラジルの軍事政権時代の負の遺産と、孤児について描いた社会派でありながらもエンタメ性に優れた傑作ブラジルのアニメーション『父を探して』
映画『父を探して』感想 ブラジル発の隠れた名作アニメ映画をぜひ鑑賞して!
アメリカに捨てられて、日本の根強い影響を受けているのに、現在進行形で中国共産党の介入などの続く台湾の現状と未来への希望を描いた『オンハピネスロード(幸福小道)』
韓国ならば『新感染 ファイナルエクスプレス』という実写映画の前に作られた『ソウル ステーションパンデミック』はゾンビを北朝鮮の侵攻になぞらえて、隣人が急に敵になった恐怖を描いた。
スペインでは老いと認知症についてまっすぐに向き合った『しわ』という作品も登場している」
日本のアニメの社会性
カエル「それって世界の流れだけではないよね。
日本のアニメもそうで、例えば近年大ヒットした『君の名は。』は東日本大震災以後の映画であり、災害によって奪われる命とそれに対する救いと祈りをちゃんと描いていたし……」
主「『聲の形』は日本に根強い障害者差別といじめ問題を加害者と被害者の目線からしっかりと向き合って描く。単なる加害者を糾弾して終わりなんて簡単なことをしていない。
そして『この世界の片隅に』は戦時中の日本の日常と死と隣り合わせの恐怖の両面をしっかりと描いている。
『夜明け告げるルーのうた』はこの作品とよく似ているテーマや構図だけれど、東日本大震災や夢を追いかけられない若者の現状を取り入れながらも、祈りと願いに満ちた作品でもあるわけだ。
映画『夜明け告げるルーのうた』感想&考察 誰よりも『優しい』湯浅作品がここに誕生!
子供向けアニメだって負けていない。
『かいけつゾロリ ZZの秘密』は子供向けアニメだけれど、そこには親のいる子供のみならず、親のいない子供にも『君は愛されて生まれてきたんだよ』というメッセージ性も内包するように作られている。
『映画かいけつゾロリ ZZ(ダブルゼット)のひみつ』感想 本作に込められた子供たちへの願い
昨年のドラえもん映画である『南極カチコチ大冒険』では例え偽物でも、敵でも、危害を加えようとしていてもドラえもんを信じる! という力強いメッセージが存在していた。
上記の作品のメッセージ性に比べると、自分はかなり物足りない!」
カエル「こういうことを言うとまた『オタクはめんどくさいな』とか『マニアが文化をつぶす』って言われるだろうけれどね……」
世界のアニメーションと比べると……
カエル「こうやってみると世界中のアニメーションが決して実写映画に負けていないどころか、もっと力強いメッセージ性を抱えていることがわかってもらえるんじゃないかな?」
主「重要なのは『その国の負の側面、悲しい事情にも目を向ける』ということができていることなんだよ。
独裁政権の悪夢、過去の災害や戦争の悲劇、現在進行中の『国』が失われるかもしれない恐怖……それらから逃げることなく、しっかりと向き合った上で表現している。
言っとくけれど、子供向けだからってというのは言い訳ですよ。
むしろ、子供向けアニメだからこそ表現出来るものがあること、深い感動を呼びことができるのは、ポケモン、クレヨンしんちゃん、ジブリに親しんだ日本人ならよくわかるでしょ?」
カエル「そしてそれがリメンバーミーには足りていないんじゃないのかな? って話だね……」
主「メキシコ文化を取り入れました、調べ上げました、表現しました……確かにそれは素晴らしい。映像的にも魅力的だし、自分が気がついていない深い意味があるのかもしれない。
だけれど、その文化の裏にある歴史や負の遺産……それこそ政府も介入できない麻薬戦争、自分が敬愛するドゥニ・ヴィルヌーブ監督の『ボーダーライン』が描いた世界だよ。パブロ・エスコバルなども麻薬王がいて、今でもカルテルが自治体よりも大きな影響力も持つ現状も負の歴史も描かないでメキシコ万歳! って映画を作ってそれでいいの? って話。
それを描かないなら、日本でも中国でも世界中どこでもいいじゃない。
メキシコじゃないといけない理由て何よ?」
カエル「深い意味合いやメッセージ性を隠してきたのがディズニーであり、ピクサーだもんね……」
主「理想を語るのは大事だ。
だけれど、同時に現実や負の側面にも目を向ける必要がある。
トランプ嫌いは結構、確かに問題の多い大統領ではある。だけれど、それをアメリカ人が選んだわけだし、メキシコとの壁は必要だと考えている人も多いということだ。北朝鮮問題も慎重でリベラルなオバマ時代では一切動かなかったけれど、暴力や戦争をチラつかせたトランプによって進展している現実がある。
本当に技術は素晴らしいし、泣ける作品だけれど……でもそこを描かないと絵に描いた餅、仏作って魂入れずってものじゃないのかな? って思いがあるけれどね。
自分が安全圏からの表現だって言った意味はこれ。
これがただの家族愛をうたった映画ならこんなこと言わないけれど……明らかにトランプに対する反動の映画だしねぇ」
他にも違和感が……
カエル「他にも言いたいことはまだあるの?」
主「例えば、この物語って『音楽がやりたい!』だから成立する。
多分、今の世の中で子供が音楽を行うことに反対する人は少数派だし、あの家族がとても頭が硬いように見えてくる。
だけれど、じゃあ子供が『YouTuberになるんだ!』 とかさ、最近ならば『プロゲーマーになるんだ!』と言ったら賛成できますか? って話でさ」
カエル「『ヒカキンさんは月収何千万も稼いでいるんだよ! 僕もそうなるんんだ!』って言い出したら、さすがに親は止めるよね……」
主「それを『音楽』にすることによって、多くの観客の理解があるものをテーマに選んでいる。ああ、これも安全圏だよなぁって思いがある。だって、最初から観客はその夢に対して理解があるんだからさ。異常なのは家族の方だって視点で物語を観ることになる。
あとはあの人がラスボスになることについても……物語としては理解できるけれど、なんていうか『仕立て上げられた』という気分でね。落とし所が必要だったから、あのような展開になったことは否めない。
もちろんミゲルの将来が彼のようになってしまう可能性を示した上のことなのはわかるけれど……」
カエル「結局ミゲルの行った過ちも似たようなものだし、そこに対する罰や反省がないように見えてしまったのはあるかなぁ。
そもそも、物語として毒を飲ませる必要性はあまりなくて、偶然亡くなってしまったから遺品を整理していたら、それを見つけて……とかでもいいと思うんだよね」
主「途中の展開なども『物語を持続させるためにどうすればいいのか?』という意図がありありと見えてしまって、そこがのれなかったなぁ。
あと、自分は1回ディズニー/ピクサーはミュージカルをやめるべきだと思う。
それがアニメーションの快感なのは大いに同意するけれど、それに頼りすぎている印象もあるんだよね……」
カエル「それが高く評価されているわけだけれどね」
最後に
カエル「じゃあ、最後になりますが……重ねていうけれど、世間や世界的には大ヒットしている作品だし、その意味も理由も納得はしていますよ、とは伝えておきます」
主「ただ自分に合わなかっただけだからさ。
そもそも、ひいひい爺さんのことなんて自分ならばもう他人で……いつまでもそれに縛られているなんて『バカじゃない?』と思うのが普通じゃないの? って思いがある。よほど上流階級の生まれならともかく、ミゲルは一般的な家庭の生まれだしね。
この話って現実でもよくあると思うんだよ」
カエル「音楽をやりたい、好きなことをやりたいから家族や故郷を捨てて東京に出てきました! って昔ながらの青春ストーリーだしね」
主「そうそう。だけれど、この映画は家族を説得できない場合は夢を諦めろと言っているようにも見えてくる。
最近は女性主人公の作品で『私らしく生きるのよ!』とか『伝統から脱却して自立する女性に!』と描いてきたのに、なんだかまた家族に縛られる話を描かれてもなぁ……という印象もある。
これ、女の子主人公だったらアメリカで今のように評価されているだろうか?」
カエル「アンクリッチ監督が関わった作品では女性主人公の独立をテーマにした作品はないけれどね」
主「う〜ん……どうにも違和感が強く残る作品になってしまったなぁ」