今回は、少し遅くなりましたが『朝が来る』の感想レビューとなります!
これは掘り出し物だったの
カエルくん(以下カエル)
「もともと河瀬直美監督だし、原作が辻村深月だから大ヒットしても良いといえば良いんだけれど……色々と厳しいのかなぁ」
亀爺(以下亀)
「まあ、売れるとは別に世界で評価されている監督ではあるから、ここで大きな賞でも獲得すれば一発大逆転もあり得るがの」
カエル「その意味でも、とても重要な作品になるのではないでしょうか?
それでは、感想記事のスタートです!」
感想
それでは、Twitterの短評からスタートです!
#朝が来る
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2020年10月27日
現実のような嘘=フィクション
嘘のような現実=ドキュメンタリー
だとしたら河瀬直美はその間を軽々と飛び越える
映画が捉えた現実に翻弄され、何が劇映画かわからなくなるし我が子を思う気持ち、その言葉や魂に思わず目頭が熱くなる
蒔田彩珠は助演(主演?』女優賞ものでしょう pic.twitter.com/1x7sRlXF94
2020年の年間ベスト10圏内に入るほどお気に入りの作品じゃな
カエル「元々、世界でも高い評価を受けてきた河瀬直美監督ですが、ここ最近は社会性も重視しながらも、娯楽性も合わせた作品を制作してきている印象があります。
例えば『あん』『光』などは、わかりやすさも兼ね備えて、素晴らしい作品ではないでしょうか。
ちなみに『光』は2017年でも年間4位に選出するなど、うちでも極めて高く評価している作品です」
今作もその期待に大きく応えてくれた作品じゃな
亀「河瀬直美の作品を見ていると"現実と嘘の境界線"というものが分からなくなる。
Tweetでも書いたが、
- 現実のような嘘、嘘の中にある真実を描く=フィクション
- 嘘のような現実を描く=ノンフィクション
だとすれば、河瀬直美はその間にある壁を軽々と超えていく。
ある時はフィクションに、ある時はノンフィクションになる。そうなると、物語がどっちつかずになりかねないが、そこを見事なバランスにするわけじゃな。
この映画を観終わった後に原作を少し読んでみたが、『ここも原作通りなのか!』と驚いた。それくらい、ノンフィクションとの壁がない」
カエル「作中では養子縁組に対して『真実告知を必ずしてください』と言われて、え、なんで? と思ったけれど、そう思ってしまったことが申し訳ないと考えさせるほどの社会性も、今作の魅力だね。
映像表現も本当に美しくて、そこで息を呑むよね」
亀「それこそ光の捉え方が印象的であったの。
この作品は確かに辻村深月という名ストーリーテラーの原作の持ち味や魅力を兼ね備えながらも、きちんと河瀬直美の映画になっておる。
優れた映画監督は、本当に1カットを観ただけで誰だかわかるほどに強烈な個性があるが、この作品もそうじゃろうな。
作品に人格があるというかの……それくらいの力強さを感じさせる作品じゃな」
ノンフィクションとフィクションの間に
その境目を行き来する手法
今作でも、おそらくノンフィクションと思われるシーンはいくつもあり、中には”反則だろ!”と思うシーンもあります
実は、大チョンボをしているシーンもあるわけじゃな
カエル「あるシーンでは映画の中でカメラマンがガッツリと入ってしまっています。映画としては致命的ともいえるミスですが、この映画の場合はそれは批判になりません。
なぜならば、そのパートは”ノンフィクション(的)”だからです」
亀「フィクションとノンフィクションの最大の違いは……と言っても例外はあるのじゃろうが、その多くで違うのは”画面の外を意識させるか否か”というポイントじゃ。
ノンフィクションの場合は、撮影者である監督やカメラマンが画面外から声をかけて質問することも多い。これはAVなんかもそうじゃが、画面の中の世界がこの世の全てではないことが前提の作品とでもいうかの。
画面の中にいる人物に注目を集めるためというか……まあ、そういうものなわけじゃな」
カエル「……なんでAVが出てきたのかは分からないけれど、言いたいことはなんとなくわかるよ。
つまり
- 物語の嘘を感じさせないようにしなければいけないフィクション
- 映画の内容を真実であると思わせなければいけないノンフィクション
の差とでもいうのかな」
亀「フィクションは”これは映画の中の話だ”と感じさせたらおしまいなわけじゃな。
確かに監督が登場する作品も多々あるが、それはあくまでも登場人物としてじゃ。カメラの存在を意識させない、というのは最も大事であり、物語という”嘘”を成立させる要件であり、大事な作法ともいうべきところじゃな」
だけれど、この作品はその壁を超えて、カメラマンの存在を察しても問題ないと
なぜならば、その瞬間は明確にノンフィクションであるからの
カエル「特に、このカメラマンが出てきたのは序盤から中盤のシーンであり、養子を受け入れる夫婦の説明会の場面でした。
もちろん、役者は出ていますが……あの質問した方々や、実例として出てきた家族は、演技では出てこないであろう表情や感情をにじませます」
亀「ここが素晴らしかったの。
養子というのは、今の日本では一般的とは言い難い部分もある。もちろん、変な手段ではない、古来よりある手段であるが……現代ではどうしても壁というか、ハードルがあることは否定できない。
しかし、ここで登場した家族や悩む人々は、おそらくノンフィクションじゃ。
これでフィクションであったら、本当に驚愕であるが……そうではないじゃろう。
つまり、この作品で最も重要なことの1つである、受け入れる家族の魂の思いは、真実の感情をそのままカメラに収める。
その力強さに、思わず圧倒されてしまうわけじゃな。
そしてその力をフィクションが引き受けていくわけじゃ」
リアルを出すための方法と、その代償
映画という”嘘”の表現の中でも、リアルを引き出そうとしていろいろな工夫があるけれど、それが崩壊してしまうことも多いよね
残念ながら、リアル感を出そうとしてかえって作り物めいてしまう作品はあるの
カエル「これは感覚的なものになるので、否定する意見もあるかもしれませんが……例えばクリント・イーストウッドは『15時17分、パリ行き』で、実際に英雄的行動を起こした方々を起用しています。
また、2020年ではワンカット風に撮影された『1917 命をかけた伝令』も話題になりました」
ただし、それらがリアルを演出することができたのかというと、それは賛否が割れる
亀「『15時17分~』に関しては、素人である役者陣の演技が実際に起こったときの行動を描いているのにもかかわらず、嘘臭さを助長してしまったという意見も海外では根強い。ネイティブではない日本人には伝わりづらいのかもしれんがの。
また『1917』は……ワシも思ったが、ワンカット風にする工夫によって、かえって嘘臭さを助長する映像になっているところもあった。
ノンフィクション風、あるいはワンカットで撮れば、リアル感が出るというものではない」
カエル「それはまあ、しょうがない部分だよね。実際に物語を作り込んでいるわけだしさ」
亀「ではこの作品は? というと、確かにフィクションとノンフィクションの繋ぎ目を感じる部分もあるが、なるべくシームレスに感じられるように工夫を凝らしておる。
なるべく演技を過剰にさせない、などの。
それでいながらも盛り上げるポイントはしっかりと盛り上げる。
それこそ、過去の河瀬作品では『光』の時に、台本も渡さず何も知らない主演女優の水崎綾女を放り込んで、撮影が始まり困惑する様子を撮ったということもやっておる。そういった様々な手法で、役者のリアルな表情を汲み取ったりするわけじゃな」
カエル「ふむふむ……その切り替えが巧みな監督なんだね。
それでいながらも、しっかりと劇映画として面白いものがあるんだよね」
亀「それでも……残念ながら、ノンフィクションと思われるパートとドラマパートでは解離がある。
それがほぼないように作られてはいるものの、な。
あとは、辻村深月が原作ということもあるじゃろうが……ここが少し、難点にもなるかの」
原作者・キャストについて
原作者、辻村深月について
最近はあんまり読めてないけれど、昔は辻村深月のファンで色々な作品を読んでいたよね
この作品も、良くも悪くも辻村深月らしいものとなっておる
カエル「以前も語ったかもしれないけれど……その辻村深月らしさって何?」
亀「……良くも悪くも、真っ直ぐなんじゃな。
野球で例えるが……オチとなる決め球に、ミステリー作家であれば変化球を……キレのいいスライダーやフォーク、小さく曲がるカットボールなどを選択するものだと思う。つまり、打者(読者)が予想だにしない動きにおいて、空振りを奪うというかの。
辻村深月は……とても綺麗な、スピンの効いたストレートを投げるんじゃな」
カエル「……はぁ。
まあ、野球が分からない人に説明すると、へんに凝った展開などにはしないで、王道の物語にするわけだね」
亀「なので、ワシはミステリー作家としてはかなり疑問符がある。
というのも、この設定であれば1番最初に思いつくネタを、そのまんまやってしまう。
逆に驚くぞ、そこまで真っ直ぐでいいのか、と」
……一応、直木賞&本屋大賞も受賞している、一流作家になんて言い草な
いやいや、むしろ、だからこそ高く評価されるわけじゃ
亀「野球でも綺麗なスピンのストレートは基本と言われておる。辻村深月の場合は、そのキレが凄まじい。わかっていても振ってしまう、言うなれば”基本であり、王道”の面白さじゃ。
だからこそ強い。
これはもう、否定することが難しいの。
何せ、わかっていても面白いわけじゃ。
むしろ、変に奇を衒うよりも、小説や物語としてはとても重要なことではないかの?」
カエル「正攻法ってわけね。
で、それが今回は良かったの? 悪かったの?」
亀「……う〜む、微妙じゃ。
一応、ミステリーとしての部分もあるようじゃが、そう見ると本作はとても微妙で……何せ、話の筋が見えてしまうからの。
ただ、そのような面白さをワシは求めていないがの。
その点、やはりラストが辻村節というべきものが出てしまったが、そこが賛否割れるかもしれんの。
あとは……単純に話が少し長く感じてしまった。
これは河瀬直美作品によく思うのじゃが、劇的な物語で釣らない作風というのもあるじゃろうが、せめて120分位内くらいにまとめてくれたら、もっと大絶賛できたかもしれんの」
キャストについて
キャストについては?
それはもう、何と言っても蒔田彩珠じゃろう
カエル「まきたあじゅって読むんだね。あや…め? とか思ったけれど、これはこれでびっくりな……
『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』の子だと知って、あー……あ? となったね。
まだ10代ながらも、ここまでの存在感を発揮するとは……」
亀「今作においては……主演こそ永作博美と井浦新であることは間違いない。実際に、キャスト欄も1番上にくるしの。
しかし、最も出番が多く、さらに重要な鍵を握るのが彼女であろう。
また、いろいろな側面をもつ難しい役を演じておるが、そのどれもが味わい深く、映画に深みを持たせておる。
中盤と終盤では息を呑むシーンも多いの」
カエル「新人さんということではないけれど、この作品で一気に注目度も知名度もあげた印象かなぁ」
亀「2020年最も活躍を予感させる名演技じゃった。
昨年の清原果耶以来のホームランといっても良い。それほどまでに絶賛したくなる存在じゃな。
主演か助演かは難しいが……2020年の年間ベスト女優賞にも絡んでくること間違いないの」
カエル「彼女に限らず、途中から『……え、これって役なの? リアルなの?』という見分けがつかないシーンも多かったよね。
役者の演技にも色々あるだろうけれど……現実的に、自然に見えるという意味では、今作はかなり上位に食い込むんじゃないかなぁ」
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