それでは、今回は『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来』の感想記事になります!
一足先に見させてもらっておったぞ!
カエルくん(以下カエル)
「昨年にはすでに公開されているので、そこで見た方もいるのではないでしょうか?」
亀爺(以下亀)
「今回、どれだけ興行収入を伸ばすのかにも注目じゃな」
カエル「実はい、前にも記事を書いていたことがあったんだけれど、アップ前に不手際により消えてしまいました……
今回はそのリベンジも兼ねています!
それでは、早速記事のスタートじゃな」
『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来』本予告映像
感想
それでは、全体の感想からスタートです!
大傑作という言葉以外ないの
カエル「今でこそ、大注目作品のようではありますが……そこはアニメ映画を中心としている物語る亀ですので、2019年9月の池袋での1週間か2週間の、限定上映の際にも既に鑑賞しております!
そしてその時に打ちのめされましたね……こんなに凄い作品が中国にあったのか! とびっくりしました」
亀「まだまだ、やる気が漲っていた時じゃな。今ならば……どうじゃろう、わざわざ池袋の2週間限定上映の作品を見るかどうか。
実は、その時は中国のCGアニメーション映画である『白蛇:縁起』を目当てに行ったのじゃが、ついでに……とは言っても、上映自体は別日なのじゃが、どちらかというと注目度は高くなかった。そもそも、どんな話かも知らなかったわけじゃしな。
そして蓋を開けてみたらこれじゃよ。
それはそれは驚いたし、最後の展開には思わず涙も浮かべたほどだったの」
カエル「当時は在留中国人向けの作品だったんだよね。中国とほぼ同時のタイミングで公開して、日本にいても中国アニメーション映画が楽しめる、というイベントで。
だから、一応日本語字幕はあるんだけれど、それも精度が本当に低くて‥…うちは洋画なども見慣れているから、字幕を読むのが早い方だとは思うけれど、それでも流れが早くて読めない部分もあるし、明らかに日本語が変なところもあったりして。
だけれど、それがまた良い味をしていたというか‥…」
あの日本とは思えない雰囲気で見るのも、貴重な体験だったよね
それでも通じる圧倒的な魅力があるわけじゃな
亀「全てにおいてレベルが高いの。
今作を見て、いろいろな日本アニメの影響を感じるはずじゃ。
例えば最も連想するのが『NARUTO』で、日本屈指のアニメーター陣が繰り広げる本気のアクション回の迫力はとても素晴らしいものがあるが、それを彷彿とさせるアクション描写じゃろう。
また、自然描写などはスタジオジブリ作品を思わせる。
いろいろな日本の作品の要素をうまくミックスしているようにも思えてくる」
カエル「だけれど、間違いなく中国の作品になっているんだよね!
以前に世界のアニメーションを研究している土居伸彰がイベントで『羅小黒戦記は”アニメーション映画”ではなくて”中国アニメ映画”』と仰っていたけれど、これは本当にそう思う。
アニメーションの文脈というよりも、日本のアニメの文脈にある作品あるように感じられる」
亀「それでいえば”日本のアニメ”がどれだけ”東アジアのアニメ”になってきているのか、よくわかる話じゃな」
吹き替え版について〜長所について〜
今回は吹き替え版の記事となるので、まずはそこから触れていきましょうか!
とても素晴らしい吹き替え版じゃな
カエル「もちろん、今をときめく花澤香菜、宮野真守、櫻井孝宏などを起用しているから、悪いわけはないんだけれどさ!
とても良い作品に仕上がっていたね。
以前、鑑賞直後に『日本語吹き替え版があったら誰になろうだろう?』なんて夢想をしたけれど、概ねイメージが近かった印象だよ」
亀「少しずるい考え方をすると、この吹き替え版キャストは日本でも中国でもヒットさせようという意気込みを感じさせるの。
特に花澤香菜は中国でも人気が高く、おそらく日本の声優では最も有名な人物の1人であるのは間違いないじゃろう。このキャスティングをすることで、中国国内に再輸入され、熱心なファン層が集まるのではないかの」
それに今回は宇垣美里が声優に挑戦しているけれど……
そんなに大きな役ではない、というのもポイントかの
カエル「アニメファンであり、多くの作品を鑑賞してきているし、今は宇多丸と共にラジオ番組のパーソナリティもやっているから、その影響もあるのかな」
亀「芸能人の声優起用に関してもいろいろな意見があるじゃろうが、今回は花澤香菜、宮野真守と顔出しでのテレビ番組の宣伝なども多く兼ねている2人の起用に加えて、知名度も高い人も起用している。
基本はこれまでに応援してくれたファン向けの作品でありながらも、一般層への目配せも忘れない作品になっておる。
バランスも整っておるし、その面においてもナイスキャスティングだと言いたい作品であると同時に、この作品で日本のアニメ映画攻勢を仕掛ける足掛かりになれば‥…という意気込みを感じさせるの」
吹き替え版について〜気になった部分について〜
それでいながらも、気になった部分があるの?
これは今回の吹き替え声優が悪いという話ではない
亀「単純にいえば、原語の声優陣がそもそも素晴らしいわけじゃな」
カエル「……あー、なるほど。
豪華キャスティングで声優を集めたけれど、そもそもがレベルが高いから、そことの勝負になって優劣がつかないと」
亀「その通り。
特に主人公の小黒役を務めた山新は特に素晴らしかった。
中国アニメを普段見慣れない人間としては、ここまで凄いアニメ声優が中国にいたのかと衝撃を受けた。それこそ‥…花澤香菜の衝撃に近いものがある。
それだけ声質が良く、さらにいわゆる”アニメ声優の演技”になっておった。だからこそ、日本アニメらしい今作であっても、演技が浮かなかったわけじゃな」
今回の吹き着替え版も素晴らしいけれど、元々も中国語版もいいわけかぁ
もう1つ気になるのは‥…これは言葉の特性じゃろうが、どうにも中国語と日本語ではリズムそのものが異なるような気がしている
亀「先にも述べたが、初期の日本語字幕が早かったのは、確かに1度に流れる字幕の量が多かったこともあるかもしれん。それとともに、中国語は日本語に比べるとスピード感が早い言葉である傾向があるのではないじゃろうか?」
カエル「確かに、中国の人が話している場面って日本の映画とかでも、少し早口になっているかも‥…」
亀「これは仮説に過ぎないが、中国語のリズムと日本語のリズムが合っていないようにも感じられる。
そうなると、日本語のリズムを早くするのも手じゃが、それよりも単語を短くすることが求められるのではないか?
例えが難しいが……原文では『この戦いに勝利すれば、全てが丸く収まるんだ!』というセリフがあったとする。
それを吹き替え版では『勝って、全てを終わらせる』という言葉にすれば短くなるじゃろう?
こういう行為が多く行われたようにも感じられた」
カエル「まあ、これは単純に初期字幕版の多い字幕量を浴びたからであって、新しく吹き替え版を見る人にはそこまで違和感がないかもしれないけれど‥…」
亀「こういった点が少し気になったかの。
とはいえ、先にも述べたように日本の声優陣が素晴らしいのは間違いないの」
以下ネタバレあり
羅小黒についても語っています!
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作品考察
都市・郊外・自然の描き方
ここからはネタバレ有りで語っていきましょう!
今作で注目するポイントの1つが都市・郊外・自然の描き方である
カエル「それこそ、ジブリなどが昔からやってきたポイントだよね」
亀「今作で面白いのが、きちんとその3者の描き方に味わいを感じられるところじゃな。島の中の自然は濃く、美しい。郊外は都市ほど発展しておらず、自然と協調している姿が描かれている。
そして都市には自然が全くなく、大きな建築物たちが並ぶ。ここが大きなテーマとなってくるわけじゃな」
カエル「それこそ、日本の観客の『ジブリっぽい』って感想の理由は『平成狸合戦ぽんぽこ』とか、あるいは『もののけ姫』の影響が大きいよね?」
亀「かつてはいろいろな社会問題の中に環境問題が存在しており、自然VS都市というものもあった。ただ、日本は、近年それらが少し減ってきた印象もある。
これはいろいろな理由があるのじゃろうが、ワシは日本、ひいてはアニメ界が都市部を中心に制作され、自然に親しんだ人が減ったということがあると思うの。
もちろん、中には『のんのんびより』や『ゆるキャン』などもあるにはあるは、これらの作品は自然との融和や、のんびりとした人間社会を描いておる。
そうじゃな……狸つながりであるが『有頂天家族』ですらも、都市に住む狸の話になっており、すっかり文明に染まった狸であるからの」
都市と自然、という対立論を語る上での目線だね
そんな堅苦しいものばかりではないがの
カエル「今作はそれぞれに魅力があり、そして新たに生まれる便利なスマートフォンや車などがある一方で、失われていくものに思いをはせる映画でもあります」
亀「おそらく、日本人でも……そうじゃな、宮崎駿ぐらいの世代であれば、同調する部分もあるのではないかの。しかし、日本は……もしかしたらワシが、かもしれんが、すっかり都市にそまり過ぎた。
一方で中国の急速な成長があり、まだまだ自然も残る一方で、その拙速な姿に追いつくことができていない。
その社会を見る視点が、この映画の物語の1つとなっている。
その意味では、本作は田舎VS都市という意味では、アメリカ大統領選挙にも通じる流れを内包しているということもできるの」
それはキャラクターの魅力にも繋がっているよね
今作はそれこそ、中国がこの先どのような国になるのか? ということでもあるのかもしれんの
カエル「あ〜……自然を捨てて、都市になるってこと?」
亀「うむ。
だが、それはもう誰が考えても止められんじゃろう。今の驚異的なスピードでの経済成長の中で、自然が次々となくなってしまうのは変えられん。それは社会の変換としては必ず必要なものじゃ。
しかし、それでも失われるものに対して思いを巡らせる……その決断と選択の物語になっておるわけじゃな」
共産圏での歴史に残す表現方法
あー、これって”今、改めて思い返すと……”という部分だよね
実は色々と攻めている映画でもある
カエル「つまり、地下鉄の描写であったり、あるいはラストバトルの後のことだよね?
地下鉄の落下、あるいは化学物質の不適切な取り扱いによる爆発によって生まれてしまった大穴などを指しているのではないか? という憶測だね」
亀「まあ、作中の中でもそれで共産党を揶揄するようなこともしないわけじゃがな。
この描写を入れた理由ははっきりとはわからん。ただ単に物語の都合上で入れたという可能性もあるし、”ああいう事件の多くは導師たちが行っているんだよ”ということもできる。
それこそ、昔は江戸幕府に無断で橋の修理などはできなかったが、緊急性の高いもの場合はこっそり直して『河童のせいだ』ということにしたいう。河童のせいならば、誰も悪くないからの」
カエル「市民の知恵だね。
誰かを犠牲にすることなく、ルールを超えた対応をしても罰せられない。もちろんお役所もわかっているだろうけれど、黙ってそれで処理をすることで終わらせるというね」
亀「案外、世界の妖怪伝説にはそのような側面もあったのじゃが、その意味では本作は意識はしておらんじゃろうが、それを行っておるの。
ただ、ワシは注目したいのはアーカイブ性じゃ。
中国国内では今ではどのような扱いになっておるかわからんが、決して良いことのようには扱われておらんじゃろう。それでも、物語にこうして残すことはできるというの。
キャラクター描写がとても良く、誤魔化されそうであるが、実は社会の記憶媒体としての意味合いもあるように感じられる。
それも、共産党を刺激することのないレベルでの。
こういったことが、共産党下の表現としては必要なのかもしれんの」