今回は『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』 の感想となります!
久々の洋画大作の記事かもしれんの
カエルくん(以下カエル)
「うちはどちらかといえばアニメに強くて、洋画は苦手だからね……
特にヒーロー映画は相性が悪いけれど、悪党の物語だからそれなりに相性が合うかもしれないね」
亀爺(以下亀)
「洋画ファンの意見ではなく、単なる1映画好きの意見として読んでほしいという思いが強いかの」
カエル「ただ、今回は褒めが中心となりますので、そこまで変なことにはならないんじゃないかな?
それでは、感想記事のスタートです!」
感想
それでは、Twitterの短評からスタートです!
#ザ・スーサイド・スクワッド
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2021年8月13日
娯楽作としては2021年の洋画ベストの完成度ではないだろうか
(昨日も似たようなこと言ったな)
悪役を主人公とする必要性をしっかりと作りながらも派手なアクションと現代の大作に必須なポリコレを意識させないように見せる手腕も光る
ただ露悪表現は嫌悪感もあったかな pic.twitter.com/U467FmviJx
これは、なかなか見事な、誰もが見たかった”悪党の物語”だったのではないじゃろうか
カエル「スースクって前作が公開された時は期待値は高かったけれど、内容そのものはあまり評判の良いものではなかっんだよね。
良かったポイントとしては、誰もが口を揃えるのがマーゴット・ロビーのハーレイ・クインくらいで、それ以外はほとんど印象に残らないっていうか……正直、つまんない作品だったかなぁ。
それでも、1つのハーレイ像を更新したのはとても大きくて、ジョーカーの付属物ではないハーレイ像を浸透させ、様々な作品に出てくるようになったのは大きかったけれど」
亀「しかし、今作はそのような見方を一新し、おそらく誰もが観たかったような娯楽大作に仕上がっておるな。
前作の欠点の1つであった、悪党の物語なのに妙に良い子ちゃんな物語から、とてもゴア表現なども目立つようなノリノリの悪の表現となった。
その結果、悪党でなければできない、ヒーローとの差別化を果たすことができた。
この辺りはさすがはジェームズ・ガンといったところじゃろう。
音楽に合わせた見せ方だったり、キャラクター性だったりという点において、信頼のおける監督ということも証明したの」
問題があるとしたら……ゴア表現が少しキツいってところかなぁ
ここに関しては、わしも少し辟易としてしまう部分があったかの
カエル「掴みからして結構過激なゴア表現が見られるので、それが苦手な方にはご注意くださいというほかないかな。
そうだなぁ……『デットプール2』のノリとか、ゴア表現が苦手な人にはオススメしづらい部分もちょっとあるかもしれない。普通に、人体損壊描写などもあったりして、かなりドキつい映像は多くなります」
亀「そのあたりは”悪ノリ”のような気もしておるが、特に冒頭を乗り越えたらあとは見やすい映画になる。
正直、最初に言ってしまうが冒頭のノリにはついていけなかった。
あれが続いていたら、わしは途中で帰ったかもしれんが……まあ、掴みだけだったので、そのあとはちゃんと見ることができたの。
その辺りでもコントロールされてはいるのじゃろうが、少しだけ人を選ぶ部分かもしれんの。 R15じゃから子供には見せられないというのは賢明な判断じゃが、だからこそ何でもありの悪の物語が楽しむことができるぞ!」
物語について
では、物語についてはどうだったの?
ネタバレをあまりしないように話すと、まあよくできておるの
カエル「お、うちがこういった洋画大作の、しかもヒーローが関連するような……今回はヴィランだけれど、そういう映画を褒めるのは珍しい気もするね」
亀「実は悪党を主人公にしている割には、窮屈な部分も多い作品なんじゃよ。
ヴィランというのは何でもありなのが魅力であるが……さすがに娯楽大作だからといって、本当に何でもありというわけにはいかん。例えば、人を嬉々として殺傷する姿を正義の味方のように描くのは難しいじゃろう。
ガチの悪党にしてはいけない、笑える・愛される悪党にしなければならないわけじゃ。
広く大衆に膾炙することが目的の娯楽大作である以上、一定の基準があるし、ちゃんとカバーしなければいけない部分は大いにある。しかし、だからと言って今作で『ジョーカー』のような作風を行なってしまっては、それも方向性が異なる。
- ヴィランだけど良い人に見せない
- ヴィランだけど道徳には外れない
- ヴィランだから悪いことをする
この矛盾するかのような見せ方というのが、今作に求められる。
だから実はヒーロー映画とは違う……むしろ、それ以上の難しさというものがあるわけじゃな」
だけれど、それをうまくカバーしたのがこの作品なんだね
この辺りはアウトロー集団をヒーローにした『GotG』シリーズの実績などもあるしの
カエル「具体的にどこがどう上手いのか、という部分に関してはこのあと、ネタバレありのパートで述べていくことになります」
亀「その点で言えばマーゴット・ロビーのハーレイ・クインというのはちょうどいい塩梅だったのかもしれん。極悪党で人を傷つけるが、優しい一面もあるワガママでキュートな女性。しかもアクションもできるというの。
むしろ、男性でそういったキャラクターを生み出すのが難しい時代かもしれんな。
そのキャラクター像の描き方、そして物語にも深い哲学性や社会性を描きながらも、それを感じさせないように作ることに成功している。
このバランスの良さこそが、今作を”2021年屈指の完成度の高さ”と称する一因となっておるの」
吹き替え版について
今回は吹き替え版で鑑賞したので、その感想も書いていきましょう
わしには解像度が上がるような、良い吹き替えであったの
吹き替えで観たけどアニメ的なキャラクター描写が多い作品だからキャラ魅力が上がって声優ファンにも◎
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2021年8月13日
山ちゃん、明夫さんとかの存在感はさることながら、MVPは悠木碧のネズミ使いで決定でしょう
碧ちゃんの演技で解像度がめちゃくちゃ上がっている印象
カエル「今回は山寺宏一、大塚明夫、玄田哲章などの吹き替えでも印象の強い大御所勢をはじめとして、さらに宮野真守、悠木碧などの若手人気声優も目白押しという吹き替え版となっています。
うちはこういった大作洋画は、CGを多用して背景やアクションを描く意味では、すでに半分アニメだと思いながら見ているので、吹き替え版を観ることも多いですが、今回はその判断が当たったような気がしています」
亀「わしのような人間には解像度がひたすらに上がる吹き替えではあったの。
というのは、本作はキャラクターづけの方向性も日本で言えばアニメのようなものであった。ギャグもあり、実写の人間が演じているアニメ、というかの。
その意味では声優陣の声質だったり、演技がよりアクション娯楽作品性を高めており、見事な吹き替えだったと言える。
声だけで、耳からでも楽しめることができる作品じゃな」
その中でもMVPを1人あげるとしたら、やっぱり悠木碧じゃない!?
気だるげでキュートな感じがものすごく上手かったの
カエル「まあ、元々碧ちゃんファンということもあるんだけれど、並みいるイケボの面々と正面からぶつかっても印象が消えないというか……むしろ、マッチョな山寺宏一、大塚明夫のボイスの中で、普通の可愛らしい女の子である彼女が入ることによって、作品全体にいいバランスをもたらしていたよね!」
亀「これでマッチョな人たちばかりであれば、それはそれで偏りすぎておったが、キャラクター性がバラけるように演技の質も変えてきておる。
それが後半の展開への説得力にもつながっておる。
わしは今回、吹き替え版も視聴候補に入れても良いのでは? と思っておるぞ」
以下ネタバレあり
作品考察
序盤について
それでは、ここからはネタバレありで語っていきましょう!
まずは序盤の展開についてじゃな
カエル「今回は序盤から凄かったよね!
ゴア表現もたっぷりで、ノリノリで監督しているというのが伝わってきて!
……まあ、ゴア表現がたっぷり過ぎて、途中から帰ろうかなって思いもちょっと出てきたんだけれどさ」
亀「今作のスタートは……某知る人ぞ知るアニメの傑作と同じようなものじゃな。
ネタバレになるので名前は伏せるが、ヒントをいうと『〇〇-○-』とやっていることは同じなのじゃが、あの展開をするためには、”観客にこいつらが主人公だと思わせながらも、微妙に薄いキャラクター性”という絶妙に難しいちょうどいいバランスが求められる。
そして、それが見事に体現したのが今作であるというわけじゃな」
カエル「……そのヒントって誰がわかるんだろ? 必要だったのか疑問なのはおいておくとして……
確かに、予告とか見ても彼らも活躍するんだ! と思わせる気満々だったものね。同時に、あの予告ってよく作られていたなぁ……とびっくりしちゃったよ!」
亀「また、前作は8人ほどキャラクターがおって、それらの説明や描写に四苦八苦しておった印象じゃったが、今回はメインは5人+説明済みのハーレイ&軍人というわかりやすいキャラ付けも魅力的じゃ。
軍人タイプ2人(白人と黒人)と女性、遠距離タイプ、サメというキャラクター設定もわかりやすく、それぞれの魅力が伝わりやすかった」
それに、今作って簡単に味方キャラクターであってもひどい目に遭うんだなぁという説明になっていたよね!
ヒーローの映画と違って、使い捨ての舞台というのがよく伝わってくる作品じゃったの
カエル「これがヒーローの映画だったら、その仲間を守るために奮闘する姿とかもあったりして、仲間が退場するときも感動の別れがあるというものなんだろうけれど……今回はそんなものが一切なく、まるでゴミのようだ! って具合にコロコロと倒されていくというのが、ヴィランの物語らしかったね」
亀「ヒーロー映画との差別化であり、そして今作は簡単に味方キャラクターが酷い描写でいなくなっていく世界観の物語であるよ、という説明になっておったの。
それがあることによって、今作は”スーサイド・スクワッド”つまり『犠牲を運命づけられた部隊』とでもいうかの、そういった人々であることを印象つけることに成功した。
ここで過去作との差別化も徹底的に行われていたわけじゃな。
この辺りも計算された物語が作られておった印象じゃな」
使い捨てにするのに、ちょうどいいキャラクター性を持ったヴィラン達
意外と多かったポリコレ要素
そういえば、今作って意外とポリコレ的な描写が多かったんだけれど、それを感じさせないってのが上手いよねぇ
それを感じさせないように作っておったからの
実は制約も多くて窮屈な作りのはずなんだけどそう感じさせづらいのもさすがだわなぁ
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2021年8月13日
カエル「現代の大作洋画を制作する上で、クリアしなければいけないハードルでもあるポリコレ描写ですが、特に今作のような”悪いお話”では、特にそれが重要視されてしまうかもしれません。
だけれど、今作はそれもクリアしていて”社会的に正しいメッセージを描いている映画”になっているんだよね」
亀「ポリコレが社会的に真に正しいのか、という論争はとりあえず置いておくとして……今作で重要なのは以下の点じゃな。
- 女性の活躍
- マイノリティ・有色人種の活躍
- 近隣諸国の文化を肯定的に描く
まあ、非常に大雑把ながらも、こう言った作風が求められている。
そして本作はそれを感じさせないように、見事にクリアしたの」
最も象徴的だったのは、ハーレイ・クインだったんじゃないかなぁ
彼女がそれまでよくあった”囚われのお姫様”ではない、ということじゃな
カエル「多分、囚われたハーレイをそのまま救出に行っていた展開だったら、人によっては”女性が囚われているところを助ける=旧時代的”という判断をする人も、向こうにはいると思うんだよ。トロフィーヒロイン、というとちょっと違うかもしれないけれど……
だけれど、ここで魅惑的なアクションと華々しい描写で独力で脱出してしまうのは、現代の力強い女性像を描く上でも……悪趣味な見せ方かもしれないけれど、とても重要なものだったよね」
亀「それを物語として絶対必要なものとして描ききり、しかもコメディとして処理を行うという点に関しても評価が高いの。
また今作では架空の独裁国家を舞台としておるが、きちんとそのラテン的な風俗そのもは肯定的に描いているし、隊長が黒人などの観点からも、ポリコレをクリアしておる。また巨大な宇宙生物に対して、邪魔な扱いを受けがちなネズミがキーとなる展開は弱者の団結の力という意味でもポリコレ的じゃな。
これは直接的に言及しづらいが……この作品の中で誰が死に、誰が生き残るのか、という点を考えても、人種や性別による多様性を重視しているのがわかるじゃろう。
ポリコレ塗れになることへの賛否はあるじゃろうが、この作品は上手い手法で色々な批判ができるようになっておるじゃろうな」
悪党の物語だからできた、アメリカという国に対する皮肉
社会批評的な面で言えば、後半の展開だよね
ある真実が出てきてからの、2人の対比じゃな
カエル「これもどこまでネタバレして良いのか、ラストへの直接的言及なので奥歯に物が挟まったような物言いになりますが……あるアメリカにとって不都合な真実が出てきたときに
- 真実を公表するのか
- 真実を破棄してしまうのか
という風に対立してしまいます」
亀「まあ、ピースメイカーには頭の爆弾のこともあるから選択肢がなかった、という考え方もできるが……『平和を生み出す人』という名前を冠した人物が、隠蔽を支持するということも重要かもしれん。
その点はパーフェクトな傭兵だからこその発想かもしれんの。
実際、このどちらが正しいのか? と問われたら、少し悩むのではないじゃろうか。
国家の闇を暴くのが正義なのか、それとも混乱を避けるために闇に葬り去るのか……心情として前者を応援したくなるものかもしれんが、実際問題としては後者なのかもしれんな」
カエル「ヒーロー映画って『シビル・ウォー』がそうだけれど……
- 国家に従属することが正義
- 国家に頼らず、個人で力を行使することが正義
という大まかに2つの考え方があるんだよね。
前者は強い力や情報は国家が管理していくことで平和を維持する一方で、国家の不都合な真実は隠蔽されてしまい、個人の力が制約されてしまう。
後者は国家の闇は暴けるけれど、個人の倫理観や正義感に依存してしまったり、個人という力の範囲外の事になると無力になりやすい。
どちらが絶対的な正義とは、言えないのかなぁ」
それに対して、物語も何が正しいという結論は出さんわけじゃな
亀「悪党たちだから裏取引をしてもいいわけじゃな。あれが正義のヒーローであれば、何らかの結論を出すことが求められたじゃろう。
今作はアメリカの正義の価値を、暗に皮肉った作品とも言えるじゃろうな」
ジェームズ・ガンの禊となる物語
今作って、テーマの1つが”家族と子供”だったという考え方もできるよね
ここいらへんは、ジェームズ・ガンという監督だということを考えると、とても色々と勘ぐりたくなってしまうの
カエル「そういえば『ハリウッドの踏み絵を踏みまくっている』という話もあったと思うけれど、それってどういうこと?」
亀「……まあ、もはやみんなが知るところであろうが、ジェームズ・ガン監督は過去に子供に関する大きな過ちを犯してしまっておる。
そしてそれが原因で仕事を失うような事態にまで発展、もしかしたらこのような大作を見ることができるというのも、奇跡的な話なのかもしれん。
もちろん、監督自身は過去の行いを認め、何度も謝罪をしておるが……それで社会的に許されて良いのか? という意見は当然あるじゃろうな」
だからこそ、この映画では何度も”子供を守るため”という言葉が出てきたり、キャラクターの行動のトリガーになっていたんじゃないかってことだね
その反省がものすごく大きいというのは、伝わってくるのではないじゃろうか
亀「その点も『スーサイド・スクワッド』の監督という点でも、適任なのかもしれんな。
ブラッドスポートもそうであるが、この映画の登場人物は親子関係で過ちを犯したもの、その被害者も多い。だけれど、それをやり直すことができるのでは? というのは、ブラッドスポート、そしてラットキャッチャー2の描写からも感じ取れる。
過去が綺麗でなくても、深く反省すればやり直しができる……ジェームズ・ガンという監督だからこそのメッセージも、この映画は内包しているように感じ取れるのは、わしだけなのかの?」
最後に
というわけで、この記事はここで終了となります
おそらく、実写洋画大作としては2021年ベストになりうるかもしれんの
カエル「下半期は洋画大作が溜まっていた分、いっっっっっっっぱい入ってくるけれど、これ以上の完成度の作品のハードルはとても難しいんじゃないかなぁ」
亀「多くの分野に於いて、うまくまとめあげられていた印象じゃな。
ジェームズ・ガン作品が特別好きだったわけではないわしにも通じるような、彼の娯楽監督としてのレベルの高さを痛感するような作品じゃったの」