今回は試写会で拝見させていただいた”ちいさな独裁者”のお話です
ナチスドイツを扱った骨太な戦争映画です映画
カエルくん(以下カエル)
「最近、ナチスドイツを扱った映画が増えているよねぇ」
主
「その政治的背景はわかる範囲で載せているけれど、やはり右寄りになってきている世界に対する啓蒙ということもあるんだろうな」
カエル「今回は試写会ということもあり、そこまで悪いことは書かない予定ですが……そもそもそこまで否定することがない映画でもあります。
ただ、純粋にオススメかと言われると映画のクオリティとは違うところで迷うところも……」
主「今作は相当過激な作品だからねぇ……
『サウルの息子』などのような作品が苦手な人はちょっと無理と思うかもしれない。それほどリアルに戦争犯罪を描いています。
ただ、最初に語るけれど映画としての欠点は少なく、見るべき価値のある作品なので、ナチスドイツを扱った映画に興味がある方は是非鑑賞してほしいです」
カエル「というわけで、記事のスタートです!」
(C)2017 - Filmgalerie 451, Alfama Films, Opus Film
作品紹介・あらすじ
『REDレッド』などの作品をハリウッドて監督してきたロベルト・シュベンケ監督が母国ドイツに戻り監督した戦争映画。1945年に実際に起きたヘロルトによる虐殺事件を基にしたドラマになっている。
1945年4月のドイツでは敗戦濃色の影響もあって兵士の軍規違反や脱走が相次いでいた。重罪である脱走を犯して命からがら逃げ延びたヘロルトは、道中の車の中に置いてあった軍服を盗んで大尉になりすます。
道中にあった兵士たちを騙してヘロルト親衛隊を作り、何かあれば「ヒトラーの特命」を口にごまかす男を他の兵たちは不審に思いながらも従い、やがてその行為はエスカレートしていく……
感想
それでは、Twitterでの短評はこちらです
#ちいさな独裁者
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2019年1月29日
試写会にて鑑賞
脱走兵だった若者が大尉の服を盗み囚人収容所にて上に立ち狂気に翻弄されていく物語に思わず息を飲む
特に中盤以降はあまりの映像に言葉が出ない
これが本当に史実とは…
ナチスを題材にした映画に興味がある方にはぜひ鑑賞してほしい
映像も美しく、オススメです pic.twitter.com/MPGZcI09m8
今回は試写会での鑑賞ということもあって、ネタバレはいつも以上に避けます
カエル「とは言っても、物語自体は史実が中心ということもあって、そこまでネタバレを気にするような作品ではありません。
極端なことを言えばあらすじに書かれていることが全てと言えば全てであり、後はナチスドイツものと聞けば予想通りの展開になり、それを何一つ裏切らない形になっていきます」
主「ただ、だからといってつまらない物語という感想は今作からは出てこないだろう。
ただし、物語の持つ”面白い、つまらない”という感想には行き着かないであろう作品だ」
カエル「やっぱり、あの映像表現がとてもリアルだしね……
今作は一応年齢区分はGであり、誰でも見られる作品ではありますが、小さな子供やグロテスク描写などが苦手な方は避けたほうがいいと思います」
主「一部では”デート、ファミリー向け映画”なんて喧伝している映画に関するTwitterのアカウントもあったけれど……流石にそれは宣伝としてもどうかと思う。
それだけ覚悟を持って観に行って欲しい。
だけれど、それだけの価値は間違いなくあります。今年1番感動したor楽しめた作品になった! という感想にはならないでしょうが、ある程度以上映画を観る人であれば、ズンと響いてしばらく忘れることができない作品です」
偽物の制服をまといながらも、多くの人に信じられてしまった理由とは?
(C)2017 - Filmgalerie 451, Alfama Films, Opus Film
映画の見所
少しだけ、あまりネタバレしない範囲で見所を紹介するとどこになるの?
リアルに、骨太に作られた映像表現ということになるだろうな
カエル「今作はナチスドイツを題材にしているし、彼らの戦争犯罪を糾弾するような映画でもある一方で、そんな簡単に善悪を分けることはできないよね、というお話でもあるよね……」
主「当然のことながら、世界中ではナチスドイツは”悪”である。
だけれど、そこに所属した一般の兵たちは必ずしも全員が残虐な行為に手を染めていたわけではない。
多くの戦争映画では悪の集団として、そして戦うべき敵として描写されるだろうけれど、本作では後方の物語ということもあって、連合国側の描写はほとんどない。
だからこそ、ナチスドイツに所属はしているけれど一般の価値観を持つ兵たちも多くいて、彼らがどのような対応をしていくのか……そこも見所の1つだね」
カエル「ふむふむ……映画としてはどのようなところがうまいの?」
主「残虐な行為に至るまでの描写や、徐々に狂い出していく彼らの様子の描き方、なぜそれほどの権力を得たのかということもうまいけれど……中盤あたりにちょっとした慰労会みたいなことが行われる。
そこでは元俳優だった脱走兵が登場するけれど、彼らとヘロルトの立場の違いがどこから生まれたのか? などを考えると面白いよ。
あとはEDも見ていてほしい。
近年話題になったあるヒトラーを扱った映画と同じ撮影方法をしているので、そこも面白いかも。ただ、あの作品ほどうまくはいっていないけれどね」
ヒトラーの死後70年を超えて
近年はナチスドイツを扱った映画が増えているという指摘もあるよね?
これには様々な要因があるだろうが、大きいのはヒトラーの死後70年が経過したということだろう
カエル「正式には遺体も発見されてはいないものの、もちろんドイツ終戦直後には亡くなっているであろうことは疑いようがないよね」
主「2016年の1月1日を持って死後70年を経過したヒトラーやナチスドイツを語るときに重要な『マインカンプ(我が闘争)』の著作権が切れている。
それはまではバイエルン州が著作権を持っていて、その権利を元に復刊を認めずに発禁処分となっていたが、著作権が切れてしまったんだ。
そして復刊が可能になった結果、多くの注釈がついた『我が闘争』がドイツ国内でも発売されたんだ」
カエル「この出版を巡っては賛否が割れたらしいけれど、歴史的資料として、そして教育的に自国の罪を後世に語り継がれる意味もあったりして、判断が難しいよね……」
主「ちなみに悪名も含めて知名度が高いこともあるのだろうけれど、世界中でロングセラーになっている本でもある。ドイツ国内でも次々に売れていき8万部以上を売り上げている。広辞苑ほどの厚さがあるような本だと考えると、やはり驚きだ。
このような状況が続き、やはりナチスドイツ、ヒトラーについて考えなければいけないという風潮があるのも、これだけナチスドイツものが続いている理由の1つなのではないかな?」
制服の力
でもさ、実際の事件でも主人公のヘロルトは当時19歳とか20歳くらいの若造だったわけで、騙されるわけがないような……
その辺りは色々な要因が複雑に絡んでいる
カエル「終戦間際で敗戦濃厚でもあり、軍隊自体が混乱していたということもあるのだろうけれど……どうしてこんなことになったの?」
主「1番大きいのはミルグラム効果だろう。
アイヒマン実験ともいうのだけれど、ナチスドイツの親衛隊将校であり、ユダヤ人をアウシュビッツに大量に輸送した責任者でもあるアイヒマンを調べると、普通の小市民だった。
その結果、どんな善良な市民であっても、より上位者による指示と責任の回避を保証されれば、残虐な行為に走る可能性はあるという結果が出ている」
カエル「指示されたから残虐な行為をやってしまうんだ……」
主「他にも有名なのはスタンフォード監獄実験で、これは看守役と囚人役に分かれて2週間それぞれの役割を果たしてもらった結果、看守はより看守らしく高圧的に、囚人はより囚人らしく卑屈で従順になるという結果が出ている。
とは言っても、様々な疑惑もあるからなんとも言えないらしいけれど……だけれど、偽物の看守や状況だと分かっていてもそんなふりをしてしまうのだから、本物の将校の服を着ていた場合はその効果はさらに増すだろうな」
偽物の権力を象徴するようなワンシーン
このような意図があるショットが多い”映画的” な作品でもあります
(C)2017 - Filmgalerie 451, Alfama Films, Opus Film
日常でも起こりうる話
でもさ、これは現代では関係ないよね?
いやいや、いつでも日常で起こりうるのではないか?
カエル「え? 今のこの平和な日本社会で?」
主「もちろん、戦争状態や虐殺といった極端な状況になるとは全く思わない。
だけれど、とても身近なところではこのようなことはずっと起きているだろう。例えば”上司に言われたから会計不正などの改ざんなどの法律違反に手を染めました”とかね。
これはミルグラム実験と同じだろう。自分に責任が及ばないと言われて、上位者に何度も命令されてしまうと、それに従ってしまうんだ」
カエル「本来ならばそれが悪いことだと分かっていても、手を染めてしまうことかぁ……」
主「さらに言えば制服の効果も大きい。
例えば警察官などは威圧的な態度の人もいるけれど、それは大きな権力を背景にしているからだと言える。
教師はその立場から生徒に命令口調で指示を出したりね。
間違っていることを間違っているということはとても難しいことだし、ある特殊で閉鎖的な環境にいた場合、疑問を持ったとしても行動できる人間は相当少ない。
そして、日本は良くも悪くも全体主義的な面がある。苦難があればみんなで乗り越えよう! が簡単にスローガンになりうる。その中でも集団心理に左右されずに行動することができるかというと……難しいと考えるべきなんじゃないかな?」
まとめ
では、この記事のまとめです!
- 史実を基にした骨太な映画!
- 残虐行為の描写などが過激であり、目を背けたくなることも……
- ズシンと響いて簡単には忘れないであろう1作に
注目してほしい1作です!
カエル「ちなみに試写会はどのような雰囲気だったの?」
主「ジャーナリストの津田大介と朝日新聞の記者が来たけれど……この映画でこの組み合わせだから、想像通りのお話になっていった。リベラルな人たちだかね。
ただ、できればこの映画の前に政治の話は聞きたくなったかなぁ……話の方向性もトランプ批判に行きがちであり、ズレているとも思えたし。
トランプは正当な手続きで選ばれた大統領だから、ヒトラーと比べるならばまだ同じ国家元首としてはわかるけれど、この映画のヘロルトとは状況が違すぎるし……」
カエル「そういうお話をしたくなってしまう気持ちはわかるけれどね」