カエルくん(以下カエル)
「え〜、今回は『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』の感想記事ですが、少しだけ違う視点も入ります」
主
「ズバリ、政治と映画の関係性について考えるという記事だね」
カエル「何度も語っているけれど、改めて語りましょうということだね」
主「特にこの週は政治的な映画が他にも公開されていて、詳しい記事を書くつもりはないけれど『ペンタゴンペーパーズ』もある。上手いのもわかるし、評価される映画だとは思うけれど、自分は全くノれなくて、記事を書くつもりもないんです。
その理由も含めて『映画と政治の関係性』について、ちょっとだけ言及しておこうということです」
カエル「なのでチャーチルの映画の感想記事としては薄めになるのかなぁ……でも読む価値はある記事だと思うので、ぜひ読んでください。
ということで、感想記事スタート!」
作品紹介・あらすじ
ゲイリー・オールドマンが第90回アカデミー主演男優賞を獲得したことも話題となった、イギリスの政治家であるウィンストン・チャーチルを主役とした映画作品。
首相就任からダンケルクの戦いまでの約一ヶ月の激動の日々をシリアスにならず、時にコミカルな演出も含めながら描き出す。
監督は『PAN ネバーランド、夢のはじまり』などのジョー・ライト。
イギリスの議会はナチスドイツのヨーロッパ侵攻に対してどのような対抗手段を取るのか紛糾、やがて首相の辞任まで求める騒ぎとなっていた。後任の首相には野党も含めたすべての政党が一致した内閣になることが望ましいために、野党も支持をする人物を選ぶ必要があった。
その条件に当てはまるのはチャーチルだったが、彼は非常に難点の多い人物でもあり、政敵も多かった。
イギリスの命運は偏屈な変わり者の首相によって舵を切ることになる……
『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』30秒予告編
1 感想
カエル「では、いつものようにTwitterの感想からスタートです!」
#ウィンストンチャーチル
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年3月31日
上手い! 思わず何度唸ったことが……
役者陣も素晴らしい上に演出がキレキレで小物や小技が光り輝く!
そして日本人には深く刺さる作品でしょう
これ、日本を舞台にしたら全く違う物語になるのよねぇ
日本人必見です!
主「まず、映画としてのうまさが際立った作品だったよね。
役者の演技も最高の一言で、確かに本作が非常に高く評価されているのもよく分かる。そこにチャーチルをはじめとした当時の人たちが実際にいるような気がしてくるほどだったね。
もちろん、自分は当時のイギリスがどんな雰囲気で街並みだったのか、よくわからないというものあるけれど、その再現度は全く違和感がなかった。
役者の演技などが中身だとしたら、それを収める器であるセット、街並みなども違和感なく調和していたよ。
昔の日本を舞台にした映画だと中には全く当時と風景などが違う作品もあるけれど、やはり海外はきっちりしたものを作り上げるなぁ……と感心したほどだよ」
カエル「他にも演出方法なども色々と魅力的な作品だったね。
で、何よりも面白いのがチャーチルが首相就任から1カ月ほどの、ドイツとの開戦とダンケルクの戦いまでの描いていて、昨年公開した『ダンケルク』や他の映画と一緒に見ると、実は政府の上の方でもゴタゴタがあって色々と試行錯誤していたんだなぁ……というのが伝わってくる」
主「歴史映画なので少しは事前知識があったほうがいいとは思うけれど、本作は結構わかりやすい印象を受けたかなぁ。
あと意外と重くないです。
結構軽くなるように、ポップに見せるように配慮されていた印象がある」
演出のうまさ
カエル「本作の見どころの1つである演出について語っていこうか。
まずはさ、小物の使い方が本当に見事!
序盤である説明がされるけれど、その回収が1番いいところで果たされた時は、本当に鳥肌がたったほどで」
主「さりげなく説明をした後に、その伏線を回収してくるセンスなども含めて、もう脱帽だよね。
他にも……序盤でチャーチルの人間性の欠点を示す時に、タイプライターを打つ書記の女性にきつく当たることもある。そこは確かにパワハラのひどいシーンではあるけれど、そのやりとりはどこかおかしいものもあった。
確かに声がどもっていて、しかも聞き取りづらい上に早口気味というのは書記として最悪の相手だという説明がさらりとされていて、しかも強烈なインパクトを残すという人物紹介のうまさが発揮されている」
カエル「そして何よりも車から街の人々を見るシーンだよね。
当時のイギリスの街に暮らす普通の人たちを、開戦直後と戦中の2回見せることによって、より印象が強く残っているんだよ」
主「一国の首相の判断というのは、とても難しいものでさ……兵士1人1人のことを考えて行動するわけにはいかない。大局を乗り切るためには、犠牲になってもらう必要もある時もある。
大局を見なければいけない葛藤と、その裏にある人命を尊重する葛藤……その両方が本当にうまく描けていた」
日本人には違うように響く?
カエル「でもさ、この週は『ペンタゴン・ペーパーズ』も公開されていたけれど……そちらにこのような反応を示しているじゃない?」
ペンタゴンペーパーズの記事は書かないことにしました
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年3月31日
ハリウッドは民主党広報機関と化していてトランプがどうの〜という視点しか見つかりません
なんか、どの洋画も同じに見えてくるなぁ、最近…
そんな単純な話じゃないのに正義と悪の構図を使うのもなぁ……
カエル「ペンタゴン・ペーパーズが高く評価される理由や、映画的な演出なうまさ、メリルストリープなどの役者の演技のうまさを認めた上で、それでも合わないと言っていたけれど……」
主「結局さ、アメリカの政治のお話って民主党が主張することの正しさをアピールする物語のように見えることが多い。
アメリカの闇にこれだけ切り込みました、文が国を変えました……もちろん、それ自体は立派なことかもしれない。
だけれど彼らを英雄視するような目線には違和感がある。
メディアと政府の関係性や、映画と政府の関係性はいつも一定の関係性にいたわけではなくて、国威掲揚に貢献していた時もあるんだから。
というわけで、ここからはハリウッドと政治の関係性について『ウィンストン・チャーチル』と『ペンタゴンペーパーズ』を引き合いにしながら考えていきます」
2 ハリウッドと政治の関係性
カエル「では、ここから記事の本題ですが……
そもそも、過去のハリウッド映画を観ると冷戦時代の敵の多くが共産主義や帝国主義を連想させる政治体制をとっているということもあるし、それこそ第二次世界大戦中はディズニーが戦意高揚のためのアニメーション作品をいくつも作っていたわけだしね……」
主「現代だったらテロリストが敵になるよね。
なぜそれが敵になるのか? アメリカ(ハリウッド)は何を問題視しているのか? という視点は非常に重要なものだと思う。
ただし、日本の映画業界はハリウッド映画に対して無批判に、簡単に受け入れているような現状もあって……そんな簡単なものじゃないでしょ? という違和感がある」
カエル「よく『日本政府はアメリカの犬だ!』なんて批判もあるけれど……実際映画や文化も結構無批判にアメリカの文化や考え方を受け入れているような気もしてくるかなぁ……」
主「アメリカが示す正義や映画で描かれるものに対してちょっと違和感を持った方がいいと思う部分もある。
例えば『差別はダメだ!』というけれど、じゃあ移民や難民問題に対して排他的で、しかも外国人が一流企業に入るには実質的に壁があり、さらに低賃金で過酷な仕事を外国人に押し付けているような現状の日本がそれを言えるのだろうか? という疑問もあったりする。
じゃあ、本当に『差別はダメだ!』の精神でドイツを初めとするヨーロッパのように難民や外国人を受け入れるのか? というと、難色を示す人はたくさんいる。
当たり前だけれど、難民や異なる文化、宗教を持つ人を多く受け入れている国が語る差別問題と、日本人の語る差別問題には温度差があるわけだからね」
今作の真逆の内容なのがやはりこの作品なのかなぁ……
本作の描いた『問題』
カエル「さて、そんな前置きを話した上で、じゃあ本作の話題に戻るけれど……結局何を語りたかったわけ?」
主「とても簡単に言えばチャーチルはイギリスにおいて英雄になった。
では、なぜ英雄になったのか?
答えは間違いなく『戦勝国だから』だよね。
この映画を見ている最中、実は結構違和感が大きかった。なぜならば、そこで描かれているチャーチルは日本だったら悪とみなされやすい存在だからだ」
カエル「『講和条約を結びましょう!』というリベラルな人に対して、徹底交戦を主張するというのは、日本だったら悪手、下策として描くよね。
現代で東条英機や昭和天皇が強硬に『戦争継続!』なんて主張する映画があって、そしてそれを正義のように描いたら……それはかなり物議を呼ぶだろうし……」
主「作中でチャーチルが一般市民に意見を請うシーンがあるんだよ。そこで、誰もが『戦争継続!』『敗戦は嫌だ!』『最後まで闘おう!』というまるで一億総玉砕を望んだ日本のようなことを語り始める。
これが2018年に公開される映画であり、しかもチャーチルをある種のヒーローのように描いている。
『大切なのは続ける勇気だ』って、それで日本はあれほどの悲劇に見舞われたわけで、戦争を続けるのが勇気か愚行か? って問題でもあるわけじゃない。」
カエル「う〜ん……一応理性的にチャーチル自身も問題の多い人のようには描かれてはいるけれどね」
主「そこでこの映画の葛藤は日本とアメリカ、イギリスの最大の違いを浮き彫りにさせる。
つまり、向こうは戦勝国であり、こちらは敗戦国なわけだ」
製作者が予期せぬ『葛藤』
カエル「つまり、その差が製作者が意図しなかった映画の持つ葛藤として機能してしまったということなんだ」
主「ものすごく短絡的に言えば、戦争って勝てばなんでも許されるし、国威掲揚のための表現だって正義になる。
『のらくろ』や『ロボット三等兵』は今じゃ読むことも難しいかもしれないけれど、ディズニーの国威掲揚のアニメだったり、スヌーピーがでてくる漫画『ピーナッツ』での軍事的描写……リメンバーパールハーバとかね、そういう表現は今でも読むことができるわけだ」
カエル「その視点で見ると……ペンタゴンペーパーズもちょっと意味合いが変わるかも」
主「ペンタゴンペーパーズはベトナム戦争を扱っているけれど、ではなぜ記者の勝利のように終わったのか?
それはベトナム戦争に負けたからだとも言える。
もちろん、それ以外にも政府の闇に深く切り込んでいったこともあるけれど、勝てばその判断は正しかったと言われるかもしれないのでは? という疑問すら生じる」
カエル「その勝つことができなかったからボロカス言われてしまうのは、まあ野球でも格闘技でもなんでも一緒かもしれないけれどね……勝つためにどれだけ努力できるか? が大事なわけだし」
主「もちろん、上記の『勝てばいいんだろ?』というのも短絡的な話であるし、あまり間に受けないで欲しいけれど……でもさ、今では日本とアメリカは最も強固な同盟なんて言われているけれど、戦勝国と敗戦国の差ってやはり大きいということを、これでもかとみせつけれられた」
3 個人的な疑問
カエル「で、ここからは個人的な疑問になるということだけれど……それはどのような疑問なの?」
主「なぜ自分が『民主党的価値観すぎる』といつも批判するのか? ということだよ。別にアメリカの政権を担う政党が民主党でも共和党でも個人的にはいい。右と左は単なるイデオロギーであり、見方の問題だから、そこまで気にしない。
だけれど1番怖いのは……この偏った価値観が暴走する時なんだよね」
カエル「日本だったら第二次世界大戦だよね」
主「ハリウッドは何度も偏った主張を表現している。
今では民主党的な、リベラルなメッセージを連発しているディズニーだって、ウォルト・ディズニーは差別的な人物だし国威掲揚に大きく貢献している。
赤狩りだってそうじゃない。共産主義者は排斥します、それで追い出されたのがダルトン・トランボであり、チャップリンだった。
エリア・カザンは共産主義者を告発して難を逃れたけれど苦しんで今でもアカデミーでは評価が割れる。作品自体はだれもが認める大傑作ばかりなのにね。
それを見てきた映画青年であるスコセッシは自分の命や生活のために思想や信仰を捻じ曲げる『沈黙-サイレンス-』を製作した。
あれはスコセッシから観たカザンと赤狩りの映画だよ。
ヘイズ・コードと呼ばれる自主規制を生み出したのもハリウッド業界だった。まあ、それがあって名作が生まれたということもあるけれど……」
映画『沈黙 -サイレンス-』感想と考察(スコセッシ監督、遠藤周作原作)
カエル「今ならばトランプに対する反動で排他主義者などに対する糾弾がそれに該当するのかな?」
主「今はまだそこまでではないけれど、本来は多くの人を受け入れるはずのリベラルな考えが、逆に自分たちと意見が合わないと排斥するということだって世界中ではたくさんあるんだよ。
答えが先に決まってしまうと、それはプロパガンダになる。
いや、プロパガンダが全て悪いとは言わないよ。全ての表現はプロパガンダ的なもメッセージ……反戦や差別反対も立派な政治的主張を含んだプロパガンダと言えるから。
ただ、それが暴走すると怖いわけ」
イーストウッドのバランス
カエル「それがこのTweetにつながるわけね」
イーストウッドが大好きな理由の一つは、彼がちゃんと描くから
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年3月31日
彼は第二次世界大戦もアメリカの正義と日本の正義をそれぞれの立場から描いた
グラン・トリノでは差別と偏見を描いたが、中には治安を悪化させる悪い奴もいることを描いた上でメッセージを表現する
当たり前だけど難しいバランス
主「イーストウッドはゴリゴリの共和党支持者だし、撮る映画は確かにそのような要素も多くある。
本人も『強いアメリカ』の象徴的存在だしね。
だけれど、その共和党の価値観を前面に押し出すだけでなくて、バランスを保ちながら表現を重ねている。
これが大事なわけだ。
例えば『アメリカンスナイパー』もそうだけれど、共和党支持者であってもイラク戦争に否定的な見解を示しているし、現場の兵士たちに敬意を払いつつ、でも問題もしっかりと描いているわけじゃない?」
カエル「都合のいい部分や、自身のメッセージ性に合致した部分だけ表現しているんじゃないよってことね」
主「で、このチャーチルの映画はそのバランスが結構取れている……と思う。
チャーチル自体も問題を抱えている人だということも示しているし、彼の決断が非常に難しいものであるということも描いている。その意味でも見るべき映画だと思う。
だけれど、それ以上に……日本が敗戦国だからこそ本作を鑑賞してほしいという思いが強い。
戦争初期とはいえ、描いていること自体には結構既視感があるはずだからさ」
最後に
カエル「結構政治的な記事になったのかなぁ……」
主「重ねて言うけれど、自分は政治的イデオロギーそのものを批判するつもりはない。ただ、バランスをとってほしい、ちゃんと作品にとって不都合な真実も描写した上で、表現をしてほしいということだ。
共産主義国のチームレッドのゴリゴリのプロパガンダ映画を批判しながら、自分は別のプロパガンダ映画を愛している、というのは笑い話にもならないし」
カエル「描くならもっと隠すように描けってことでもあるのかな」
主「あと、それが映画としてのうまさにもつながってくるからね。
最近、トランプの影響もあって民主党の考え方を強くアピールする映画が多いけれど、それはそれで危険な兆候だという危機感を抱くことも大事だと思うけれどね、という結論でした」