物語る亀

ネタバレありの物語批評

映画『この世界の片隅に』ネタバレなしの感想 笑い声が起こる戦争映画を知っていますか? 

カエルくん(以下カエル)

「…………噂に違わぬ作品だったね」

 

ブログ主(以下主)

「…………まさかここまでとは」

 

カエル「今年の映画界は素晴らしいね。特に……趣味もあるかもしれないけれど、オタク映画というのかな? 

特撮の『シン・ゴジラ』アニメの『君の名は。』『聲の形』ときて、さらに『この世界の片隅に』が加わったね」

主「どの作品も普通の年ならば年間1位クラスだよ。それがここまで重なるとは……異常な年だなぁ。

 個人的には2013年がアニメ映画の大ヒット年だと思っていたのよ。

劇場版 魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語』に『風立ちぬ』『かぐや姫の物語』の3本があって、この3作品は今でもアニメ業界のトップを走っていると思っているよ。そこにさらに今をときめく新海誠の『言の葉の庭』やあまり知名度はないけれど『魔女っこ姉妹のヨヨとネネ』とか、クラウドファンディングとアニメという枠では先駆的な『リトルウィッチアカデミア』が最初にアニメミライで発表された年でもある。

 だけど、2016年はこの衝撃を超えたかもしらんね……」

 

カエル「しかも、新海誠や片渕須直、山田尚子という『アニメ好きなら知っているけれど、一般には知名度がない』とされる人たちが監督をした作品だもんね」

主「ジブリとか、テレビシリーズの人気作ではなくて……もちろん原作人気や監督、制作会社の人気はあったにせよ、飛び抜けた知名度があるわけでもない中でこの大ヒットや名作を作り続けているわけで……

 アニメ界、邦画界が変わった年として語られるかもしれんな」

 

カエル「じゃあ、そろそろ感想記事を始めようかな」

主「この記事ではネタバレなしのレビュー記事を書いていくよ

 

 

 


映画『この世界の片隅に』予告編

 

1 戦争を扱った作品

 

カエル「何度も語っているけれど、戦争アニメってやっぱり『火垂るの墓』みたいなイメージがあると思うんだよね。可哀想な子供たちが、ひもじい思いをしながら、苦しんでいく姿を描く、とかさ。

 もしくは少しバイオレンスだったり、戦争で敵に立ち向かい、勇敢に散っていく兵士を描いた作品とか。でも……本作はそうじゃないね」

主「確かにまぎれもなく戦争映画なんだよ。戦争映画だけど、観終わった後の感情が全然違う。

 確かに泣けるんだよ。泣けるけれど、重くはないと思う。どーんと沈んで、もう立ち上がれない、映画を見たくないという衝撃ではない。だけど、確かに違う衝撃があるんだよ。

 何がすごいって、戦争映画なのに笑い声が起こるんだよ!

 しかも何度も!

 

カエル「戦争映画って難しいというのが主の持論だけど……」

主「結局、どうしてもプロパガンダのようになってしまいがちなんだよね。戦争は良くないというのは確かに正論だ。だけど、正論の錦の御旗を掲げて『戦争反対!! 悲惨な子供を失くせ!!』というのも、また違うと思う」

カエル「それはプロパガンダになっているというのが持論だもんね」

主「そう。戦争賛美も、戦争反対も、そのメッセージ性を言葉にしたり、強くしすぎたらそれはただのプロパガンダに成り下がるんだよ。

 だけど、この映画は違う。確かに伝わる強いメッセージ性が込められているけれど、それが押し付けがましくないんだよね

 

カエル「そうだよね……原作を読んでから行ったけれど、この映画を何も知らずに見たら、号泣間違いなしだもんね」

主「途中、見ていて辛かったんだよ……それはさ、この先の展開を知っているから、精緻に、素晴らしいリアリティを持って語られれば語られるほど、その衝撃が強いのがわかっていたから。

 それほどまでの力を持った作品だよ」

 

 

2 声優について

 

カエル「じゃあ、ここで声優について語っていくけれど……まず、主演の『のん』についてはどうだった?

主「……表現が難しいけれど……アニメ声優として上手いか下手かと問われると、多分下手だよ。他のアニメだったら、非難されていたかもしれない。声優の演技でよく言われるのは、上手い下手が出るのは怒り(叫び)と泣きの演技なんだよね。そこは、あまり上手いとは言えなかった。

 だけど、他の声優陣がリアリティ重視の芝居をしたから、全然気にならない上に……確かにね、みんなが語る通り、この映画は『のん』じゃないと成り立たないのはわかるよ

 

カエル「独特のポアポアした、能天気な声質だしね。もちろん褒め言葉だよ」

主「さらに、色々なことがあった女優が声優を務めることで、メディアへの宣伝にもなるし、それ以上に特別な意味が生じるんだよね。これは町山智浩とか、Twitterでも話題になったけれど……それはネタバレありの別記事かな」

カエル「そうね。物語の核心に迫るもんね」

主「やっぱり役者は上手い下手を語りたくなるけれど、それを超えた、素晴らしい演技というものはあるんだよ。心を掴んで離さない役が。今回の役はまさしくそれだったと思う」

 

カエル「じゃあ、他の声優について語ると……」

主「やっぱりさ、旦那である周作役の細谷佳正って時代の申し子の1人だよね。カッコイイ役もできるけれど、どこか朴訥した声が合っていて、それに方言が乗ると、なんとも言えない泥臭い味わいがあるんだよ」

カエル「『ちはやふる』の新の福井弁も素晴らしかったしね」

主「そういった声が乗ることで、この作品の説得力は一層高まったと思うよ」

 

カエル「他の声優陣もみんな良かったよね」

主「ちょっと小野大輔がカッコよすぎて、声が浮いちゃったかな? とは思ったけれど、そういう役だしね。

 全体的にはすごくよかったと思う。特に文句もないし」

 

 

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3 表現技法として

 

カエル「やっぱりここも語っておかないとね」

主「この作品はすごく、空白が、語らない良さが多いんだよ。よく分からない描写もあると思う。自分は原作も読んでいるから、その言葉や行動が意味することってよくわかるけれど、一見さんだったり、この時代のことがよく分からない人は戸惑うかもね」

カエル「そこも上手いんだけどね。『モガ』とかさ」

主「モガ……つまり、当時の『モダンガール』今で言えば……ファッションリーダーとか、おしゃれな人というか、そんな感じかな」

カエル「……なんかその説明も古くない?」

 

主「まあ、ハイカラな人ってことだよ。流行に敏感で、最先端のファッションに身を包む人」

カエル「そういう描写がたくさんあるんだよね。だからわかりづらいことが多いかもしれない。もしかしら『傘はあるか?』『新のを』という会話も意味が分からないかもね」

主「結構説明してくれているけれどね。それでも絵の情報量も非常に多いから、予習なしで……原作を読まないでこの映画を理解するのは中々難しいかもね。テンポも早いし」

 

カエル「そしてあの戦争描写! あんな描写は過去にも見たことがなかったし、素晴らしい表現だったねぇ

主「それは実際に見てもらいたいけれど、かなり迫力があるよ。しかもミリタリー好き曰く、リアリティがすごくあるみたいだね。個人的に軍艦も飛行機も同じに見える人間だから、そこのリアリティはよくわからないけれど、迫力はすごかった!」

カエル「監督がこだわって作ったということがよくわかるよねぇ……」

主「そういったリアリティは随所に発揮されていて、広島や呉の当時の街並みだったり、動物だったり、人物の動きだったり……もう見所満載だよね。

 特に人物の動きでいうとリンという遊郭の女性が出てくるわけだけど、その動きの艶やかさ!! 絵が動いているだけなのに、これほどまでに『色気』を強く感じることになるとは……驚愕だよ」

 

 

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4 クラウドファンディングとアニメ

 

カエル「あとは、やっぱり今作はクラウドファンディングで集金して、日本では過去最多人数であり、さらに映画では過去最多人数を叩き出したということでも話題だよね」

主「アニメとクラウドファンディングの相性って、結構いい気がする。もちろん、失敗例はあまり流れてこないから知らないということもあるかもしれないけれど、前出の『リトルウィッチアカデミア』も初めはアニメミライという若手育成のプロジェクトの一環作品だったのが、クラウドファンディングで劇場版も作り、さらにテレビアニメシリーズも制作決定している」

 

カエル「まだまだ例は少ないけれど、新しい集金方法として注目を集めているよね」

主「元々アニメオタクって、好きなものにはお金を出すという風潮があるわけだ。だからこの業界はたくさん作品が発表されているわけで。もちろん、原作が素晴らしいことと、実績豊富な片渕須直監督だから集まったということはあるよ?

 だけど、この作品もそうだけど、日本におけるアニメって……特にキャラクターものではないオリジナルアニメって、かなり集客が難しいんだよね」

 

カエル「一般層から『オタク向け』とみられて、オタク層からは『一般向け』とバランスが難しいことになるよね」

主「もちろん、監督も『クラウドだけで全ての資金を集めたわけではないし、それは不可能だ』と言っていたけれど、それが大きな活力になったとも語っている。

 この映画が終わった後に、EDのスタッフロールの後に支援者への感謝と名前を発表する場があるけれど、びっくりするよ。

 こんなにたくさんの人が『お金を出してでも見たい!』と思ったんだ! って」

カエル「中には漫画家のゆうきまさみとか、アニメライターで有名だ藤津亮太の名前もあったね」

 

主「見逃しているだけで、もっと大きな名前もあるかもしれないな。

 この例が成功例となったらそれは、もっとこのような……監督の作家性が出た、名作アニメが登場するかもしれないということだ。クオリティに関しては全く問題なし、むしろ絶賛の嵐。あとはお金だよね。この客の入りだと、あまり心配はいらなそうだけど……」

カエル「劇場によっては初日の上映が全て売り切れているみたいだね」

主「この作品が成功するか否かによって、この先のアニメ業界の流れも変わるかもしれない。資金に心配があれば、クラウドファンディングを行って、そこで固定のファン層という力を見せることによってよりスポンサー集めを容易にすることができるかもしれない。

 個人的には、日本のアニメの売りって『多様性』だと思うのよ。子供向けアニメもあれば、キャラクターアニメもあって、青春モノもあり、萌えもあり、さらに重い哲学的な話もある……この多様性をもっともっと広げるためにも、この作品には成功例になってほしいね」

 

 

 

 

最後に

 

カエル「ネタバレなしの感想記事だとこんなものかな?」

主「次はネタバレありの感想記事をがっつりと書いていこうと思うので、良ければそちらもよろしく。多分土曜日中にはアップできるはず。

 ちなみにこの映画、自分が見た劇場ではエンドロールでも誰も立たず、終わった後は拍手すら巻き起こったよ

カエル「それだけ評価の高い作品だよね。子供も大人も見て欲しい一作に仕上がったよ」

 

主「評論家をはじめとして、多くの映画好きが絶賛だったからなぁ……どれだけこの作品が広く支持されているか、よくわかるよ」

カエル「この公開館数(70弱)でどこまで興行収入を伸ばせるのか……それも楽しみだね」

主「本当に、2016年はTwitterをはじめとした口コミの力が証明された一年になりそうだな……その意味でも色々と変化が明らかになった歴史的な年になるかもね」

 

 批評と考察記事はこちら。

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