亀爺(以下亀)
「いよいよ今週末にアニメ映画が公開じゃな」
ブログ主(以下主)
「事前評判があまりにもよくてびっくりするよな……」
亀「映画版の評判を幾つか貼ってみるがの……」
本日3時から、TBSラジオ「たまむすび 」で、不肖町山智浩が、こうの史代原作・片淵須直監督・能年玲奈主演のアニメ映画『この世界の片隅に』(11月12日公開)の素晴らしさを皆さんに知ってもらいたいので一生懸命頑張って話しますので是非、聴いてください。お願いします。
— 町山智浩 (@TomoMachi) 2016年11月1日
アニメ「この世界の片隅に」気がついたらテレビも新聞もまったく紹介していないな。テレビ局制作だと、電波ジャックされたみたいに露出あるのに。まだ公開先なのかなと思ったら今週末から公開か。口コミで評判広がって尻上がりに世の中に浸透していくことを祈ります。それだけ力が潜んだ作品だから!!
— 梶尾真治@「壱里島奇譚」徳間文庫発売中 (@kajioshinji3223) 2016年11月7日
どうせアニメ映画でしょ、暗い戦争ものでしょ、興味ないよっていう方
— 雑感帳 (@R0M7JD3PtMJlc9l) 2016年11月7日
私もでした
その価値観崩れます。観たら崩れます
貯金ゼロ目前、食費は1日100円…苦境極まった片渕須直監督『この世界の片隅に』は、どう完成したか https://t.co/8VY1pNxi97 via @cyzo
https://twitter.com/videobird/status/796026101847834624
『ヤマト』と『ハイジ』の放送時間帯が被っていたら、今でも『ヤマト』を選ぶだろう俺。『鉄血のオルフェンズ』2期の第1話を見逃して地団駄を踏む俺。『ドリフターズ』を手を叩きながら観てる俺。そんな俺が観て面白かったのだから、きっとあなたも大丈夫。『この世界の片隅に』11月12日から。
— ゆうき まさみ (@masyuuki) 2016年11月8日
主「特に町山智浩は年間何百本と映画を見ているはずだけど、今年No,1と推しているからな。もしかしたら『君の名は。』と『聲の形』と稀代の傑作と並ぶクラスどころか、超えるかもしれんな……」
亀「そう考えると大変な作品じゃの……今年のアニメ大豊作の中でも、また一つの金字塔かもしれんな」
主「今回はそんな映画の原作について、語っていくよ」
亀「それでは感想記事を始めるかの」
あらすじ
広島市に暮らす『すず』は少し抜けたほんわかした女の子。
昭和19年に呉に暮らす北条周作の元へと嫁ぎ、新しい生活を始める。軍で働く義理の父、円太郎やその妻のサン、離縁してきた少し厳しい小姑の怪子とその娘、晴海と供に何気ない日常を暮らしていた。
しかし、そんな中でも戦争の影は少しずつ近づいてきていた……
登場人物紹介
北条すず(旧姓浦野)
本作の主人公。
実家は海苔屋を営んでおり、絵が得意でよく海の絵を描いていた。実家では兄と妹がおり、昭和19年に北条周作の元へと嫁ぐ。
性格は非常に温厚で、少し天然ボケ。人から悪く思われることはなく、スパイではないかと疑われた時も周囲が笑いをこらえるのに必死だったほど。
北条周作
すずの夫。
軍の文官。そのため、戦地には赴かない。
愛妻家であり、幼い頃に一度会っただけのすずを見初めて結婚した。周囲からは暗いと称されることもあるが、そこまで気にするほどでもない。
1 戦争の描き方
亀「何と言ってもこの作品の最も優れた部分はこの戦争の描き方じゃろうな」
主「もちろん、戦争を扱った名作というのはたくさんある。それこそ広島と原爆と日常を描いた漫画というと、誰もが思い浮かぶのが『はだしのゲン』があるわけだ。この作品は名作だし、こういう描き方も大事だ。原爆という世界最悪の武器について、その恐ろしさを知らしめるのにああいう作品も重要だよ。
だけど……日本において第二次世界大戦を扱った場合、よくあるのが……その悲惨な状況だけをピックアップして、悲劇を強調するか、あるいは勇敢な兵士の奮闘を描き、あの時代でも見事に散った英雄譚という作品だ」
亀「日本における第二次世界大戦というのはまだ総括できておらんからな。例えば乃木将軍であったり、日清、日露というのは同じく大規模な戦争ではあるが、比較的冷静に総括はできておるように思える。『間違った戦争』などと呼ばれる機会も比較的少ないしの。
しかし、太平洋戦争に関してはそれぞれの主張が絡み合い、なかなか総括することが難しいというのが現状じゃな」
主「しかも未だに影響力を持ったことだからね……世界各国が口出しをするし、この戦争の影響というのも非常に大きい。
だけど、そんな政治の話とは別に、物語の世界ではもっと……表現の形がいろいろとあってもいいとは思うけれどね」
亀「……ドイツもナチスの扱いには困っておるがの」
主「まあね。ナチスを英雄として扱うことはできない。だけど、最近は単なるナチス憎しではなくて、ナチスに協力していた人たちも……残虐な行為に走っていた人たちも普通の人であって、誰でもそうなりうるという物語も増えているけれどね」
普通の人の戦争
亀「結局はここの話に行き着くじゃろうな」
主「そうだね……普通の人の、普通の日常に訪れる戦争。
悲劇はある、だけどそれでも人は生きているという、当たり前のことを描いた物語だよ。
坂口安吾が好きだからさ、色々と読むわけ。その中でもちろん戦時中の人でもあるから、戦争中のことも書いてある。
見知った街が破壊されていく姿に『偉大なる破壊の前に戯れる一人の子供のようであった』(堕落論)という記述もある。
そして、さらにいうと『一分後には自分の運命がそうなるかも知れないというのが毎日のさしせまった思いの全部だから、散らばってる人々の屍体が変テツもない自然の風景にすぎなかった。』からと、死体の目の前で弁当を食べることだってできたというわけだ。(『もう軍備はいらない』より抜粋)
他にも死体が転がっている中でケラケラと笑いながら遊ぶ少女だったり……そういった様々なことがここで描かれているわけだ」
亀「それが良いか悪いかは別として、そういうことも日常として普通にあったわけじゃな」
主「もうあそこまで破壊されてしまうと、人間はその死や破壊にも慣れてくる。だけど、そういったことは現代の物語では殆ど描かれることがない……それが良いのか悪いのかは、自分でもわからないけれど。
普通の人にとっての戦争って、実は色々な見方もある。もちろん裸足のゲンみたいな描き方もそうだろうけれど、その死や破壊の前で生活を送る人だって、たくさんいたんだよね。みんながみんな嘆き悲しんだわけじゃない。むしろ、嘆く余裕すらもない時代だから」
2 この作品が描いたもの
亀「この作品をどのような作品かと論ずることは、実は難しいのかもしれんの」
主「もしかしたら『普通の人の何気ない生活を奪った戦争』という視点で語られると思う。それはそうなんだよ。間違っているなんて言うつもりはない。
だけど……自分の認識だと少し違うかなぁ……」
亀「というと?」
主「自分に言わせて貰えば『どんな状況でも生きる人間の力強さ』を描いた漫画だと思う。それは戦争だけじゃなくて……震災とかさ、色々とあるよ。経済格差もあるし、生きる上で辛いことなんて、戦争以外でもたくさんある。
だけど、そんな中でも……人間は生きているわけだよね。力強く、さ。
だからきっと、この漫画は『反戦漫画』ではないと思うんだよ。もちろん、それも間違いではないけれど、多分この漫画が描いたことは『人間賛歌』であって。
そういった、単なる反戦漫画とか、第二次大戦を扱った作品ではないというところに……この漫画の本当の価値はあると思う」
亀「反戦のプロパガンダではない、戦争漫画か」
主「戦争は悪いことだというのは、確かにその通りなんだよ。だけど、その正義の御旗を振り回すのが正しいとも、自分は思っていないからね」
最後に
亀「しかし、これほどの作品が映画化しているのだから、プレッシャーは相当大きいじゃろうな」
主「監督は片渕須直だからね、ベテランで名作を次々出ていたけれど……おそらく、大ヒットすると思う。この手の映画には珍しく、ね。
公開館数が少ないからトータルで見ると大したことないかもしれないけれど、規模を考えたら大ヒットになるんじゃないかな? 初日のチケットを予約して買ったけれど、もう半分くらい埋まっていたよ」
亀「熱心なファンが多いということでもあるんじゃろうな」
主「今年のアニメ映画の中でも屈指の作品になるのは間違いないし……この多様性こそが日本のアニメの力強さだからね。
公開初日を迎える明日は、この映画版の記事になります」
亀「どのような作品になるか、非常に楽しみじゃの」
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