物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『チアダン』批評と考察 この映画がなぜ『チアダンス』をテーマにした映画なのか? ネタバレあり

カエルくん(以下カエル)

「では、このブログの特徴である批評記事を展開していくけれど、それがまさかチアダンになるとはね……想像もしていなかったよ」

 

ブログ主(以下主)

トンデモなくハマってしまった映画でさ、自分でも驚いた。まさかチアダンでここまでハマるとは全く思っていなかったから」

 

カエル「でも手放しで絶賛というわけでもないんでしょ?」

主「一部で惜しいなぁ……と思う部分はあるよ。だけど、そんなことどうでもいいと思うくらい、本作は魅力であふれている。

 前回の感想記事でも語ったけれど『すべてが一貫している』と思ったね。作中で使われる洋楽はよくわからなかったけれど、調べたら一貫しているんじゃないかな?

 もちろん、批評として語りたいこともたくさんあるし、その意義もある映画だと思う

カエル「じゃあ批評、考察記事を書いていくけれど……

 今回は批評記事なので作中についてドンドン言及していきます。なので、ネタバレなしの感想記事が読みたい方はこちらを参照してください。

 

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 映画を見終わった後にこれから語る批評記事を読むと、もっと楽しめるはずなので!」

主「では批評と考察の記事を始めるよ」

 

 

 

 

 

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1 スタートについて

 

カエル「主がそこまでハマったのってどの段階で?」

主「具体的に言うと開始10秒くらい。そこで『あ、この映画好きかも!』って思ったんだよね」

カエル「10秒? というと、アメリカが映って体育館だかアリーナが映ってぐらいじゃない?」

主「そんなものだよ。不思議な話だよね、なんでそこで感覚的に『好きかも!』って思ったのか、全くわからないんだけど。

シン・ゴジラ』とか『ラ・ラ・ランド』だったら過去の名作のオマージュとか、特撮やミュージカル映画の歴史を内包しているよ、というテーマが取り込まれているよというアピールになっているからってわかるんだけど……本作は別にそういうわけでもない。

 ただ、その理由を自分なりに考えてみて見えてきた結論があるんだけど……」

 

カエル「お! それは何?」

主「やっぱりリアリティラインの問題はあると思っていてさ。例えば冒頭だったら入学式に学校に登校してくるシーンからスタートでもいいわけじゃない? それでも何の不思議もない。

 だけど、あえてこのアメリカという大地を写し、さらにラストを示唆させるポイントから始まったのって、意味があるような気がして

カエル「その意味って?」

 

主「1つは本作のリアリティラインをここで提示したこと。

 『本作は事実を扱っているけれど、リアリティのある演出ではないですよ』ということをここで提示している。だから冒頭でノレなかった人は、おそらく最後までノレないんじゃないかな?

 リアリティラインはそこまで変わらないし。

 あとは……この映画を見る人は結末がわかりきっているわけじゃない? どうせアメリカ行って、全米制覇するんでしょ? というのが物語のクライマックスになるのは見えているから、最初にそこを描いちゃった」

カエル「まあねぇ、タイトルでも『〜女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』って隠すつもり0だしね」

主「そこを最初にはっきり見せてしまったのは潔いというか……この映画が語るのって『チアダンスのうまさ』とか『アメリカ制覇までの道のり』ということではなくて……もっと大切なことだと思うんだよね。

 それは後述するよ」

 

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スタートから結末がわかっているストーリーを作る難しさもあるよね

 (C)2017 映画「チア☆ダン」製作委員会

 

 

見えてくるあの映画の影

 

カエル「あの映画というと、やっぱり『ちはやふる 』のことだよね」

主「今回はヒロインが広瀬すずだし、相手役が真剣佑と全く同じキャストを揃えてきた。ライバル……とまではいかないけれど、いけずなバレリーナ役の柳ゆり菜もその口調とかも、どことなくクイーンの若宮詩暢を連想させるじゃない? もちろん、あそこまでの存在感はないけれどさ。

 福井弁もちはやふると同じでしょ? もちろん、これは事実を基にしているから偶然といえば偶然かもしれないけれど……

 それはこの冒頭も同じだと思うんだよね」

カエル「それは?」

 

主「ちはやふるもスタートって3年生のクイーン戦から始まるんだよね。それは漫画も同じなんだけれど、どうにも被って見えてくる部分が多くて……

 あとは走る演技とかもちはやふるであったし……ただ、どれ1つ取っても青春アイドル映画の王道であるから、ここまでの一致は偶然かもしれないけれど、でも2016年に話題になったアイドル映画と似たような部分が多いというのは、ちょっと象徴的な事実だと思うんだよね

カエル「作り方など、1つ1つのテンプレートをしっかり踏襲しているということだしね」

主「その意味で計算が見えてくる。

 過剰演出が目立つから計算がないと思われるかもしれないけれど……自分は結構考えて作られている作品だと思った

 

 

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過剰な演出の先にあるもの

 

カエル「この映画を語る際に主が何度も語る『過剰な演出』っているけれど、それはどんなもの?」

主「もう全部だよ。

 例えばスタートの方で先生の車のナンバーが4592で地獄に、ということが示されたでしょ? ありえないドリフトと文字表現でそれを演出した。他にも雷が落ちる効果音とか、ダンスシーンの最初の衣装とかもバカバカしいものがあるし。

 じゃあ、なぜこのような映画にしたのか? ということだよ」

カエル「やっぱりTBSということもあるし、ドラマ出身の監督で、さらにいえば若い子を取り込むための映画だからじゃないの? わかりやすい演出にしてさ」

 

主「1番大きな答えはそうなるかもしれないけれど、自分は本作と似ている作品は『ラ・ラ・ランド』だと思っていて、あの映画も『夢を語る映画』であり、音と映像の融合であるミュージカルを武器とする映画でしょ?

 で、本作も考えてみれば夢を語る映画であり、チアダンスという音と映像の融合を武器とする映画なわけだ。その意味ではやっていることは似たようなものなんだよ。LAを目指すという意味でも同じ。

 これは偶然なのは間違いないけれど、でもさ、この一致ってすごく大事なんじゃないの?

カエル「ラ・ラ・ランドもスタートはすごく過剰な演出で一気に観客を作品世界に引き込んだもんね」

 

主「この映画は『バカバカしいほどの夢を追う!』という映画だから、リアリティが出てしまうとその夢が『到底かないっこない夢』に見えてきちゃうんじゃないかな? もっと大きなものを扱うからこそ、このような過剰演出にして少しファンタジー風にしたような気がする。

 物語の世界観に酔わせるための措置というか……それが見事に働いた代わりに、人を選ぶ作品になったね」

 

 

 

 

2 人物紹介のうまさ

 

カエル「本作品の人物紹介ってそんなにうまいの?」

主「うまいよ! 部活物の紹介として相当練りこんであるし、テンポも良くて省略を重ねている。

 まずはさ『チアダンス』という競技について説明するわけじゃない? 多分多くの観客が『チアダンス』という競技について、わかっているようでわかっていないんだよ」

カエル「『チアダンス』『チアリーディング』が違うものだって初めて知ったもんね。あんな大技を披露するのかな? って思っていたし」

 

主「それを言葉で延々と話すのではなく、チャチャッと説明しちゃったでしょ? あの体操部のレオタード姿もどうかと思うけれど、あれがあるから過剰演出でありながらも説明として一気にわかりやすくなったと思うけれどね。 

 それでいながらこの部活の特異性とか、先生の説明もできているし、この省略は結構良かった

カエル「あそこの天海祐希が足が上がっていなかったりするのも面白いけれどね」

主「それと同時に、スタート時点においてどれだけ無謀なことを言っているのか? ということをあそこでわかるでしょ? 1年生だけで、しかも初心者もたくさんいる中で全米制覇なんて夢のまた夢ということが示されている。

 これだけで

『チアダンスという競技』

『現在の置かれた状況』

『夢の無謀さ』

が描かれているじゃない?」

 

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こんな大失敗を重ねるほど無謀な挑戦

(C)2017 映画「チア☆ダン」製作委員会

 

 

多種多少なダンスの意味

 

カエル「でも、それだけならできている映画もいくつもあるんじゃないの?」

主「本作がうまいなぁ、と思うのは、そのあとにそれぞれのダンスを踊らせるじゃない?

 これだけでも各人の基本情報が色々と明かされる上に、後々に向けての大切な伏線が引かれている。

 これがすごく大事なんだよ」

 

カエル「え? あのバレリーナやヒップホップダンスが?」

主「一言で踊りと言っても様々な踊りがあって、もちろん踊ったこのない生徒もいる。その様々な踊りが『各生徒の個性』そのものなんだよ。

 それぞれ学んできたことが違くて、得意なことも違う。だけど、チアダンスという共通の目標を持って取り組んでいくという、まさに『個性豊かな生徒が団結していく』ということの初期段階をここだけで描いていく。

 だからチアダンス部にはありえない衣装を着せて、それぞれの得意なダンスをさせているんだよね」

 

カエル「なるほどねぇ……人物紹介の一環なんだ」

主「それだけじゃないよ。本作ほここだけで色々なことを開示している。

 これは各人の話になるけれど……

 

玉置彩乃(部長)……唯一の経験者で孤高の存在。

紀藤唯(ヒップホップ)……ダンスはできるが笑顔が苦手

東多恵子(太っている子)……それなりに踊れるが体型が向いていない

永井あゆみ(アイドル志望)……それなりに踊れるが自己顕示欲が強い

友永ひかり(主人公)……笑顔はいいがダンス未経験

 

 ということをここで説明しているけれど……これがまたいい味を出しているんだよね」

 

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基本はこの5人の物語でもある。

(C)2017 映画「チア☆ダン」製作委員会

 

 

意地悪な設定

 

カエル「このいい味って何?」

主「例えばさ、友永ひかり役の広瀬すずについて言及していくけれど『笑顔だけはいい』って役じゃない? これって広瀬すずに対する罵倒でもあると思うのよ。

 時々聞くじゃない? 顔だけはいい女優、とかさ」

カエル「まあ、これだけみんなに注目されればそんなことを言う人はいるよね」

主「広瀬すず自体は演技もできるし、稀有な才能を持つ、というのが自分の評価だけど、そういうことを言う人も少なからず存在している。

 それは永井あゆみ役の福原遥もそうじゃない?

 

カエル「もともとまいんちゃんとして人気で、子役時代から可愛いなんて言われれていた女優だけど、ここで成長してさらに魅力的になってきているよね」

主「だけど、いまだにアイドルみたいな扱いを受けているわけじゃない? ぶりっ子、とかって福原遥に対する印象として、決して少なくないと思うんだよね。そんな人を『アイドル志望の自己顕示欲が強い役』に配置するんだよ? これはすごく意地悪な配置だよね」

 

カエル「それでいうと富田望生なんてその風貌を見ただけで『あの体型で女優?』って言われかねないしね」

主「実際、作中でも『あんな体型でチアダンスができるのか!?』なんて笑われていたけれど、これをチアダンスじゃなくて映画に置き換えても一緒だよ。

『あんな体型で女優?』って思う人は少なくないだろうね。実際、自分もチアダンスをする体型じゃないだろうって思った。

 見た目だけで判断されるからさ、実際にどれだけ踊れるか、ということは度外視されがちなんだよね。どれほど上手くても、どれほど頑張っても見た目だけで評価されなくなってしまう……

 そういう役を与えたことに意味がある」

 

 

 

 

3 登場人物の背負った役割

 

富田望生の重要性

 

カエル「主は感想記事でも富田望生の存在がすごく大事って言っていたけれど、それはさっき語ったこと行き着くの?」

主「そう。多くのアイドル映画は可愛い&かっこいい俳優をこれでもか! と詰め込むことで完成している。観客はその俳優メインで見に来ているわけだし、事務所が売り出したい俳優もいるだろうから、バーターとかもあるだろうし。

 だけど、本作はわざわざアイドル映画にふさわしいとは思えない体型の女優を選択し、そしてそれを単なる友人Aにするわけでなく、チアダンスの一員にしてしまったわけだよね

 

カエル「確かにそれって異例のことかもしれないね」

主「しかもさ、彼女って結構出番が多いじゃない? 女優としての知名度とかを考えると、福原遥がピックアップされるのはわかるけれど、わざわざ富田を選んであんな重い設定までついて……それって何のためなのか? という話だよ」

 

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印象的なシーンが多い富田望生。いい女優です。

(C)2017 映画「チア☆ダン」製作委員会

 

 

家庭環境について

 

カエル「家庭環境も決して恵まれている人たちばかりではないんだよね」

主「ひかりは父子家庭でお父さんとふたりきりで暮らしているし、お母さんはすでに亡くなっている。いいお父さんだけど、大変なこともあるでしょう。ましてや多感な時期である高校生なんだからさ。

 多恵子に至っては半分ネグレクトに近いような、虐待一歩手前の環境で暮らしているわけだ。

 毎日神経すり減らしながら生活をしていて……

 そこだけを見ると、決して全国大会制覇とか全米制覇なんて言えるような環境ではないんだよね

 

カエル「唯もずっと1人でやってきて、あんな暗い街角で練習を重ねてきているわけだしね」

主「時間の都合もあって明確に家庭環境は語られなかったけれど、あの描写だけで色々と想像できるよ。

 一方でライバル役のバレリーナの麗華はすごくいい家に住んで、しかもお金がかかりそうなバレエを選択して世界制覇を夢見ているんだよね。彼女の想いはすごく立派だけど、家庭環境が雲泥の差のわけだ。

 じゃあ、なんでそんな描写をしたのか? って話だよ。両親を出さなかったり、片親にする必要がどこにあるのか?

 それがこの作品が一貫しているテーマにつながってくるわけだ

 

 

 

 

4 語られざるサイドストーリー

 

カエル「本作には『語られないサイドストーリーがある』と語っていたけれど、それってどんなものなの?」

主「半分妄想じみたものかもしれないけれどさ。結構色々な物語を想像する余地が多い作品でもあるんだよね。

 例えば、彩乃の夢ノートがあるけれど、あそこでさ、面白いのは『チアダンスで全米制覇する』の上に……つまり、1番の大目標のところに『CAになる』という言葉があったんだよね。

 これって、なんでCAなのかって気にならない?

 

カエル「え? そういえばCAになりたいなんて描写や理由ってそこまでなかった気がするけれど……」

主「その理由は健太郎演じる矢代なんだよ。

 あれだけ何度も告白して、失敗しているわけだけど、その夢は『パイロットになること』だったわけで、だからその健太郎を支える役割でもあるCAになりたがっていたんじゃないか?

 つまりさ、最初のうちは本当に嫌だったり困っていたからもしれないけれど、何度も接点を重ねるうちに少なからず思いを通わせることが増えていったんだよね。

 そしてそのうちに気持ちは揺らぐことになるけれど、チア部の部長として恋愛は絶対に御法度。しかも真面目だからうまくやることもできない。

 その葛藤が『CAになる』の一文に現れているわけだよ

カエル「そしてそんな叶わぬ恋を抱えた人に向かっても、本作はエールを送っているわけだね」

 

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健太郎は今後も注目したい俳優でした!

(C)2017 映画「チア☆ダン」製作委員会

 

 

母の写真

 

主「それは他の部分でもあってさ……お父さんがチアダンスをしていた母親を見つめる写真があるじゃない?

 お父さんはセカンドでバントがうまいタイプだったらしいけれど、結局は控えで……というそこまで成功をしてきた選手ではないんだよ。

 だけど、そんなお父さんを応援し続けたチアリーダーのお母さんがいるからこそ、その娘であるひかりが生まれたわけで……応援することの先も描いているように思うんだよね

 

カエル「たった数カットだけど、結構思うところはあるんだね」

主「物語の都合上、ひかりと先生と彩乃ばっかり注目されてしまう結果になったけれど、それ以外の人物もすごく大切な物語をたくさん抱えている。じゃあ、あゆみって描写がそんなにないけれど、実はどんな娘なんだろう? って想像してみると、結構ドラマが広がってきて、これがまた大切なことにつながっているんだよね」

 

 

 

 

5 本作の脚本について

 

カエル「じゃあ、ここいらで脚本構成についても語ってみようか」

主「そうね。単純に言うと3人の登場人物の対比によって成り立つ部分が多い。

 それが『ひかりと先生の関係』つまり師弟関係と『ひかりと彩乃の関係』つまり光と影の関係なわけだ」

カエル「ふむふむ」

主「自分が本作を高く評価する理由の1つが『お友達ごっこを許さなかった』というところにあって……ほら、よくあるじゃない? バラバラだったチームが仲良くなって強くなりました、ハッピーエンド! みたいな作品。

 もちろん、それ自体は悪くないよ。部活を楽しむためにやっています、というのはそれはそれで当然のことだから。

 だけど、本作はそうじゃないでしょ? 世界を、トップを目指すというのであれば、それは過酷な道であるはずだ

 

カエル「作中でも『夢を追う代償』について語られていたもんね」

主「自分が部活もので絶賛したのはアニメだけど『響け! ユーフォニアム』で、この作品でも夢を追うことをガムシャラに応援するだけでなくて、もっと辛い……その中で起こるトラブルとか、先輩後輩の諍いとかを描いていたわけだ。

 ユーフォはテレビシリーズだから、2時間で表現しなければいけない本作と単純に比較はできないけれどね。

 多くのアイドル映画があまり触れてこなかった『仲良しごっこでいてはいけない』ということを、この映画はしっかりと描いている」

 

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厳しい意見も時には必要。特にトップを目指すならなおさら!

(C)2017 映画「チア☆ダン」製作委員会

 

 

1人だけ理解していないひかり

 

主「だけど、その意味を1人だけ理解していないのがひかりなんだよね。

 だからこそ『余計なことはしないでくれますか?』なんて言われてしまう。自分はあの先生の言うことは間違いなく正しいと思うよ。友達ごっこじゃたどり着けない境地へ行こうとしているわけだから」

カエル「一方の彩乃はそれまでの流されてしまう自分というものを辞めて、人に厳しく接することで内部での切磋琢磨す道を選んだわけだね」

主「この対比がすごくいいよね。厳しい部長と甘いひかりの差が浮き彫りになっていく。そしてこの2人の間には溝ができていく……かと思いきや、そうではない。 

 それは向いている方角が同じだから。だから決して決定的にぶつかり合うことはない」

 

カエル「だけど、そんな状態になっても辞めなかったのはすごいことだよね」

主「もうこの段階では『ダンスをしたい』『体を動かすのが好き!』って段階になったからね。

 成功への道って『好き』ということ、そして『努力を続けること』この2つしかないんだよ。それは泥臭いようだけど、とても大事なことでさ。

 自分がすごくいいなぁって感動したのは『リンダリンダ』が流れた場面なんだよ。あの歌ってドブネズミの美を……這い蹲り、汚いとされるものの美を高らかに歌い上げた名曲じゃない?

 そのシーンって『ダサい』って言われることかもしれないけれど、だけどそのダサいということを貫き通すという場面でもあるからさ! だからすごく感激してしまったんだよね」

カエル「努力って泥臭いけれど、それしか道はないもんね」

 

 

 

 

6 本作の欠点

 

カエル「ただ、欠点が皆無というわけでもないんだよね」

主「自分は今作の後半については若干惜しいなぁと思う部分が多いんだけど……その1つがひかりと先生の対比なんだよ。

 あのラストを見ても、ひかりと先生というのは師匠と弟子の関係性以上に対になる存在である。だけど、それが弱かった印象かなぁ……あの教師になったのもなんとなくわかるんだけど、唐突なように見えちゃったし

カエル「あれもなんとなく『ちはやふる』っぽいよねぇ」

主「ちはやふるはまだ完結していないけれどね。

 あとは先生のドラマを語りすぎているのと……まあ、あれぐらいなら近年の邦画としては普通だから、そこまで減点するほどじゃないけれどさ。結構感動したし、分かりやすい感動ポイントも重要だから。

 それでいうとひかりと彩乃の関係性ももっと強くして欲しかった。

 センター交代劇がちょっとおざなりに見えたのは残念。

 それから麗華の扱いもなぁ……もうちょっとどうにかできなかったかな? という思いもある。

 何よりもラストダンスはちょっとねぇ……」

 

 

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ラストのダンスについて

 

カエル「ダンスのクオリティは結構良かったんじゃないの? 前年優勝のアメリカチームは確かに素晴らしかったけれど、そのレベルのダンスを俳優陣に求めるのは酷だし……」

主「それは仕方ないけれど、全国大会、アメリカ予選とかも含めてダンスがないのはさすがにね。少しくらいはあった方が良かったよね。まあ、ここいら辺はスケジュールの都合とかも色々あるのはわかるけれど。

 そしてラストのダンスはちょっとなぁって思いもある

 

カエル「え? 結構すごかったよ?」

主「すごいからこそだよ!

 だったらあんな先生のカットや観客たちを入れないで、彼女たちをのダンスをずっと見ていたいじゃない?

 あれほどのダンスだったら、映画における何よりの説得力と物語になると思うんだよね。

 そこは減点。ラストの盛り上がりが少し足りなくなっちゃった印象だけど……まあ、近年の邦画を考えるとこんなものなのかな?」

 

カエル「それでいうと最初の失敗もなんだかなぁ……って感じだったね」

主「全然足が上がってなかったり、揃っていなかったりというレベルでよかったと思うよ。

 あんなにドタバタ感を出して、笑われなくても……なんて思いながらも、あれだけ大失敗をして大笑い受けた後の挑戦を描きたかったんだろうな、と考えるとあまり非難もしづらいけれどね」

カエル「夢を追うにはときに笑われることもあるってことだね」

 

 

 

 

7 なぜこの映画は『チアダンス』なのか?

 

カエル「色々語ったけれど、結局はここに行き着くんだ」

主「そう。なぜこの映画はチアダンスなのか? って考えてみるとさ……チアダンスって基本的には『応援する』というものじゃない?

 個人的にはチアダンスや応援団って過酷な集団だなって思う時があって、どんなに苦しい状況でも笑顔でいなければいけないし、圧倒的な実力差、あまりにも一方的な試合展開でもずっと応援し続けなければいけない。

 誰よりも『諦めてはいけない』集団なんだよね」

 

カエル「そう考えると大変だよねぇ……」

主「そしてそれは作中でも一緒。彼女たちは何度も諦めそうになるけれど、絶対に諦めてはいけないんだよ。

 なぜならばそれがチアダンスだから。誰かを応援するということが1番大切なんだからさ」

カエル「ふむふむ……」

主「そしてそれはこの映画においても……さらに言えばメタ的に見ても同じなんだよ。

『笑顔しか取り柄がない女優』だったり『アイドルから脱却できない女優』やさらには『体系が女優とは思えない女優』そういう人たちにもエールを送っている。

 もちろん、それは役者にだけじゃないよ! この映画を見ている中高生はもちろんのこと、もっと年上の……これから先のことを悩んだ言えるアラサーだったり、お爺ちゃんやお婆ちゃんもその対象に入っているんだよ!

カエル「この映画に関わった全ての人にエールを送っているわけだね」

 

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時には笑われる時もあるけれど、諦めたらそこで試合終了です。

(C)2017 映画「チア☆ダン」製作委員会

 

 

言い訳を作らない

 

主「そしてさらに大きいことにこの映画で描かれた家庭環境って決して夢物語ではないわけだ。 そういう家庭は必ずあって、それは日本が向き合わなければいけない現実でもあるし、なくそうと思ってどうしようもないことでもある。

 そのせいで子供が苦労をすることも多い」

カエル「あのお父さんはいい人だけど、片親ってだけで色々言う人もいるだろうしねぇ」

主「だけど、そんな人をこの映画では主人公に添えたり、もしくは重要な配役にすることによって『家庭環境を乗り越えよう!』ということも宣言しているわけだ。

 諦めることってすごく簡単なんだよ。その言い訳作りも簡単。

 

『家庭環境が悪かった』

『夢を追う才能がない』

『あの時あんなことがなければ……』

『今から始めても遅いしなぁ』

 

 そういう夢や未来を諦める言い訳って、いつでもそこいら辺に転がっていて、それに挫けそうになる時もある。だけど、この映画はそんな人たちに向かっても応援するメッセージを発している。

 そしてそれこそが『チアダンス』でしょ? 人々が頑張る姿を応援するためのものなんだから! 

 だから、本作はテーマとメッセージが完璧に一致しているんだよ!

 

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時には思わぬトラブルも起こるけれど、それも乗り越えていかなければ……

(C)2017 映画「チア☆ダン」製作委員会

 

 

タイトルの意味

 

カエル「それが『女子高生が〜』っていうあの説明的な長ったらしいタイトルにもつながっていくるんだね」

主「そう! この映画でここまで説明的なタイトルにしたのは、近年の邦画にあるような長ったらしい説明的なタイトルをやりたかったということもあるだろうけれど、それだけではないんだよ!

 このタイトルだけでメタ的に『これは映画だけど、本当の話だよ!』って声高に主張しているんだよね!

 だからこれを見る学生や観客たちはもっと大きな目標を持って未来へ羽ばたいていこう! ということでもあるんだよ

 

カエル「『結局、これって映画の話でしょ?』という言い訳を封じちゃったわけだね」

主「その通り! ちっちゃな福井県の高校から、アメリカにまで飛び立った高校生がいるという事実にもっと目を向けるべきなんだよね!

 

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走り出せ! これぞ青春だ!

(C)2017 映画「チア☆ダン」製作委員会

 

 

『端っこでもセンターのつもりで!』

 

カエル「本作はたくさんの名言に溢れているけれど、これも結構キーとなる言葉だったね」

主「これって、この作品だとすごく大きな意味を持つ。

 例えば先ほどから挙げているように役者陣を内包した映画でもあるんだよ。ラストのダンスで広瀬すずはセンターにいるけれど、カメラは基本的に引きの絵で作っている。全体が良く見えるんだよね。

 だからこそラストダンスでカットが入るのはもったいないなぁ……という思いもあるんだけどさ。

 でも、この映画はこの記事でずっと語ってきたように『センター以外も注目を集める映画』なんだよ」

 

カエル「それこそ語られざるサイドストーリーとかだね」

主「そう! 確かにこの映画は主役でセンターを張る広瀬すずにばかり注目が集まるかもしれない。あとは先生と、部長であり本来のセンターである彩乃にばっかりカメラは向いているかもしれない。

 だけど、少ないけれど多恵子やあゆみ、唯、それから矢代や孝介にもカメラはむいているんだよ。ドラマがあって、ストーリーがある。

 だから、この映画に役者のMVPはいない!

 みんな MVPなんだよ!

 確かにお父さんは控えのバントのうまいセカンドという、如何にも『小技のうまい2番』タイプだったかもしれない。だけど、ステージに立ってしまえば、みんなセンターなんだ!」

 

カエル「……野球の話題の後にセンターというとややこしいね」

主「この中で1人でも『私は端で……』という人がいたら、この映画は……チアダンスは成立しない。

 それは現実世界においても同じだよ! 自分の人生のセンターは自分しかいない。確かにその役割は地味かもしれないけれど、その役割を果たさないと崩壊するものがあるんだよ!

 そういったことをしっかりと描ききっている。

 それを『チアダンス』つまり『応援する部活』をテーマに一貫して、しかも作品内だけでなく、役者、観客も含めて語りきってしまったことに、この映画の素晴らしさはあるんだよ

 

 

 

 

最後に

 

カエル「熱い記事になったねぇ」

主「自分の『好き』がこれでもか! というくらいに詰まった映画だからね。

 確かに完成度はラ・ラ・ランドの方が上だし、評価するのもおすすめするのもラ・ラ・ランドかもしれない。

 だけど『好き』なのは圧倒的に本作!

 愚か者たちに祝杯を! というテーマ自体は同じなんだけどね」

カエル「いつも語るけれど『うまいより好き』ということだ」

 

主「うまいという技術論もプロとして大事だけど、観客により深く届くの好きという感情だから。

 まあ、この映画は賛否がはっきり分かれると思うよ。よくあるアイドル映画のダメ邦画と言われるかもしれない。だけど、自分はここまで読み取ったし、熱くなれた映画だから、賞賛の声しかないね」

カエル「帰る時もBUMPの『オンリーロンリーグローリー』に『グングニル』だったり、それこそ『リンダリンダ』やユーフォの『サウンドスケープ』とかをずっとエンドレスリピートだったもんね」

 

主「いやー! 久々に突き刺さったね! 0から全てをかけて挑む映画! 素晴らしいよ! これが若さだよ!」

カエル「はいはい、じゃあ主も『時間がない〜』とかは今後禁止で。そんな言い訳絶対言ったらダメなんだからね?」

主「む……それとこれとは……」

カエル「話は変わらないの!」

 

 

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映画「チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~」オリジナル・サウンドトラック

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チア☆ダン 「女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話」の真実

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