カエルくん(以下カエル)
「よくよく考えてみるとさ、この週公開の大規模映画が『君の膵臓を食べたい』と『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』と『東京喰種』って考えると、なかなかすごいタイトルばかりが並んでいる印象だよね」
ブログ主(以下主)
「タイトルだけ聞いたら全部ホラーっぽいもんな。
日本はいつの間にかカニバリズムブームでも巻き起こっているのかと思ったよ」
カエル「カニバリズムブームって……嫌ぁなブームだねぇ」
主「実際はどれもそれほどホラー要素は強くないどころか『君の膵臓を食べたい』に関しては全くホラー要素がないというね。
本作もタイトルが『君の膵臓を食べたい』でもなんとなく通用するんじゃない?」
カエル「タイトルから抱く印象はこういう作品だよね。そのギャップが受けているんだろうけれど……って、語る映画が違うから!」
主「そうね。
それにしても……これは後々改めて語るけれど、もったいないよなぁ……清水富美加」
カエル「発表されている中では清水富美加としての最後の出演作品になるのかな? この後は……千眼美子だっけ? になって、多分幸福の科学の映画にしか出ないようになっていくんだろうけれど……」
主「自分は結構好きなんだよね、彼女。『暗黒女子』もドロドロでダークな女の子の役だったけれど、それがドンピシャではまっていてさ。
彼女がこういう役が嫌だったのはわかるけれど、でもこういう役がドンピシャでハマる子なんだよ。そんな役者はほとんどいない。自分が好きな若手女優だと、栗山千明とか橋本愛もそうだけれどさ、その人にしか出せない雰囲気というものに満ちた女優だった」
カエル「では、本作がどのような映画だったのか、感想を始めましょう」
1 ネタバレなしの感想
カエル「えー、ちなみにアニメ版は見て、原作は未読の人間の感想になります。アニメ版も結構原作をいじっているらしいけれど……」
主「いうても、アニメ版の内容もほとんど忘れているけれどねぇ。
Twitterでの短評は以下の通り」
#東京喰種 短評
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2017年7月29日
やればできるじゃん! 久々に邦画アクションで当たった作品!
CG多様で確かにハリウッドに比べると一段落ちるけれど、それが作品を邪魔していない
窪田正孝のアクションも良いけれどなんといっても清水富美加よ!
彼女の損失は本当に痛い……
主「大絶賛というほどではないにしろ、傑作だと思う。
今年は邦画業界が苦戦していて、大規模上映映画で平均的に満足度が高い作品は『帝一の国』くらいしかないような状態だった。
洋画の方が圧倒的に話題になっていて、良い邦画もあるんだけれどアニメとか、100館以下の公開規模の作品が多かった印象だな。まあ、これから先に注目作がメチャクチャ多いんだけれど!
で、本作はというと……アクション映画としても一級品。日本の映画業界もやればこのクラスの作品が作れるのか、と驚いたくらい。多分、万人が認める面白さに満ちた映画だと思う」
カエル「漫画原作ということもあって、ファンなどがどう思うかはちょっとわからないけれど、映画としてなかなか良かったよね。ダークでシリアスな世界観と、深い内容があってさ」
主「ちょうどロメロが亡くなってそこまで日が過ぎてないから出てきた感想だろうけれど、本作もある意味ではゾンビものということもできる。じゃあ、グールとは何か? ということを考えると、ちゃんとそこに彼らの存在理由があるんだよ。ホラーとしても……ロメロが『ゾンビ』で行った社会風刺要素もあると思う。
あとは結構グログロな描写も多いけれど、全年齢向けになるように配慮されていて見やすかった。多分この手の映画が苦手な人でも大丈夫でしょう。
アクション映画として、ホラー映画として、漫画原作映画として……これは2017年度の邦画ではNO1を争えるクラスという評価を下してもいいんじゃないかな?」
アクションについて
カエル「本作は原作を読んでいる人なら知っていると思うけれど、喰種(グール)と呼ばれる……ゾンビのようなモンスターが主人公なんだけれど、見た目は人間と全く同じなんだよね。
彼らがいざ戦う時になると体から昆虫のような触手や羽などを出して戦うけれど、もちろんこの描写はCGを多用しているわけだね」
主「海外の、ハリウッドの映画に比べるとやっぱりCGのクオリティは一段下がる。CGだってはっきり分かるレベルのものなんだけれど、それが浮くことなく作品世界とマッチしているんだよ。だから見ていてそこまで気にならない。
そして何よりも、昆虫の持つグロテスクさを抱えながらも、しっかりと光沢感があって美しいの。形状や羽の1つ1つに個性があり、それが作品の説得力の1つにつながっている」
カエル「もちろん、CGの戦闘もいいけれどワイヤーアクションであったり、カメラをグリグリと動かした演出であったり、それから窪田正孝と清水富美加の体術のアクションもあるけれど、そこも迫力がすごくあって!
窪田正孝ってあんなに筋肉ゴリゴリの細マッチョだったんだ! とか、清水富美加も結構動けていて!」
主「そこだけ見に行ってもいいくらいだよね。トレーニング風景も出てくるけれど、そこも見どころの1つになっている」
スタッフとキャストについて
カエル「では、スタッフとキャストの話なるけれど、本作の監督を務める萩原健太郎監督って、調べてみたけれどどうやら長編映画初監督らしいね。
どうやらMVとか短編映画を撮っていたらしいけれど……」
主「公式サイトに行ってもよくわからなかったんだよね。昨年、1作公開しているらしいけれど、それは本広監督なども参加したオムニバス形式の映画だから、短編だし。
映像作品制作の経験は豊富なんだろうけれど、長編第1作目から本作を作れるというのは確かに素晴らしい。ちょっと中盤のテンポの悪さや、退屈になるシーンなどもあったけれど、初めてと考えたら絶賛するレベルの監督だよね。
今後に要注目していきたい」
カエル「本作の主演は窪田正孝だけれど、今作は役者陣がみんなうまいんだよ!
特に窪田正孝の演技は良かったね!」
主「主人公、金木のもつ弱々しさであったり、オタク的な、女性に対して免疫がないという部分がよく出ていた。やっぱり『デスノート』のイメージが強いこともあるけれど、藤原竜也の後継者になれる役者だよね。
基本的には派手な演技で、1つ1つがオーバーリアクションなんだけれど、それが作品の世界観と見事にマッチしていた。自分は役者の上手い下手って監督などの演出プランや作品の方向性とセットで考えないと見えてこないと思うけれど、本作のような非現実的な漫画原作アクション映画だと、演技は派手なくらいでちょうどいい。
本作が成功した要因の大きな理由の1つが、窪田正孝だね」
カエル「それから冒頭にも言ったけれど、清水富美加の存在感は素晴らしいよねぇ」
主「本当にもったいない女優だよ。
彼女は目がいい。狂気の演技をするときに、顔は笑っているけれど目が笑っていないという演技ができる女優だった。
本作ではアクションもできることを証明したし、ここから先……満島ひかりとか真木よう子みたいな役者になれたんじゃないかな? 仮に本作が上半期に公開されていたら、自分は『暗黒女子』と本作の合わせ技1本で上半期最優秀主演女優賞に選んだかもしれない」
鬼気迫る演技だが、その才能が彼女を苦しめたのか?
(C)2017「東京喰種」製作委員会 (C)石田スイ/集英社
カエル「それから助演なども素晴らしい演技をしていたけれど、出番としてはそこまで多くないのにすごく印象に残ったの蒼井優だったり、村井国夫の落ち着いた存在感も際立ったし……
何よりも大泉洋じゃない?」
主「大泉洋が本作では唯一コスプレらしい衣装に身を包んでいるんだけれど……絶望的に白髪のカツラが似合わない。演技はいいのに、そこが不思議な違和感になってしまった。けれど、それがまた却って真戸の底知れない恐ろしさにもつながっていたんじゃないかな?
でもさ、後半のすっごいシリアスなシーンで……普段の彼のキャラクターもあって、スッゲェ笑えるシーンがあるんだよ。劇場内でも何人か笑っていて」
カエル「あのノリはまるで『水曜どうでしょう』みたいだったもんね」
主「本人のキャラを考えたらどうしようもないけれど、コメディもできるだけに悩みどころかもね。
だけれど大泉洋も含めて、全体的に良い演技でした。演出と演技が一致していて、見ていて疑問に思うことはほとんどなかった」
以下ネタバレあり
2 序盤から光るうまさ
カエル「では、ここからネタバレありで語っていくけれど、まずは序盤について語ろうか」
主「だいたい映画の開始10分くらいでその映画が良い映画か否かってわかるものなんだよね。ほとんどの良い映画、合う映画って10分以内には作品世界の中に引き込まれるから。まあ、例外もあるんだけれどね。
それでいうと本作はそれができていた。開始10分でガラリと雰囲気も変えてきたし、見ていてなるほどなぁ、と感心したところも多い」
カエル「それはやっぱり窪田正孝の演技とか?」
主「もちろん、それもその要因の1つ。本作では『食』というのが1つのテーマになっているけれど、窪田正孝がオドオドとしながらも、少し汚らしく食べるんだよね。普通の邦画であれば、食事シーンというのは日常にある1つの物事にすぎないから、そこまで深く印象に残らない。
だけれど、口についたミートソースなどでしっかりと印象に残すことによって、食べ物、食に対する思いを強く観客に訴えかけている。
あとは、少しだけ汚らしくすることによって、食の抱える根源的な罪……命を奪うということへの嫌悪感を表しているわけだ」
カエル「庵野秀明とかは菜食主義者だけれど、その理由って『気持ち悪いから』らしいんだよね」
主「自分は何でも食べてしまうし、何ならゲテモノ料理でも食べるけれどさ、肉などを食べるという行為そのものが気持ち悪いというのもわからないではない。それは命がどうこうではなくて……肉を食べる、血が出たものを食べるということに対する生理的な嫌悪感なんだよね。
この生理的嫌悪感というのが本作には重要になってくる」
ドーナツを食べることにより単なる人間であることを表している
それにしても……白髪が似合わない……
(C)2017「東京喰種」製作委員会 (C)石田スイ/集英社
序盤の展開からの急変
カエル「最初は結構落ち着いた話からスタートするんだよね。好きな女性がいるけれど声をかけられない男の子が、勇気を振り絞って声をかけてデートに申し込む話。あそこは窪田正孝の演技と、蒼井優の大人な魅力で、この後どうなるのかわかりきっているのに見入ってしまったなぁ」
主「開始10分で引き込むためにメリハリをつけてきたんだよ。
この映画の最大の魅力であるアクションと、配慮されているとはいえグールに欠かせないグロテスクな描写の2つが入り混じる描写で引き込もうとしている。じゃあ、それが最大限に生きるにはどうすればいいのか? と考えたら、序盤で逆に普通のお話を作ることなんだよね。
もちろん、観客は東京グールという物語を見に来ているわけだけら、この先の展開がわかっている人も多いわけだ。原作ファンなら特にね。
だけれど、初見の人や全く知識がない人であれば、この効果はすごく高かったんじゃないかな?」
カエル「途中で『グールと人間の違いって見た目じゃわからないよ』みたいな話があったけれど、まさしくそうだったもんね」
主「それと同時に我々が普段暮らす『一般の生活』というものを見せてきている。でも、そのすぐそばにはグールという脅威があり、そちらの世界もあるわけだ。
この『一般の世界』と『グールの世界』の2面性というのが今作においては非常に重要な意味を持つ。こういったことが序盤ではっきりと示されていて……計算された作りだなぁ、と感心した」
3 グールと人間
カエル「今作の主題ってここだよね。グールと人間の生存競争であるのは間違いないわけだけれど……」
主「これは持論だけれど、人が生きることの象徴って『性』と『食』なんだよね。この2つは直接的に生死や種族の繁栄などに直結してくる。
特に食というのは日常で誰もが必ず行っていることであり、食べないということはイコール死を表している。食べるものが違うというのはそのまま住む世界が違うということであり、人間以外は食べることができないグールという存在が持つ、根源的な罪を浮き彫りにした。
だけれど、その罪は人間も同じく抱えているんだよね。ただ牛や豚、鳥、魚はOKだという共通認識があるだけだ。でも、その共通認識は本当に正しいのだろうか?」
カエル「作中でも『倫理は我々が決める』みたいな話があったけれど、捜査官側の意見としては人を食べることはNGだという。それはわかる話なんだけれど、じゃあ牛や豚は? と訊かれると……自分は答えに困るかなぁ」
主「倫理というのは社会秩序を守るために、集団が意識的、もしくは無意識的に決めたことである。だけれど、その倫理って時には簡単に変わってしまうこともあるわけだ。
例えば同性愛者なんてそうだよね。ちょっと前まで同性愛なんて倫理的に問題のある行為だったのに、今ではある程度受け入れる素養ができている。時代が変われば倫理も変わっていくものなんだ」
カエル「最初の方でロメロ監督の『ゾンビ』のようだと言ったのは……」
主「今作におけるグールとは何か? と考えたら、それは差別される少数派だよね。彼らは彼らでひっそりと生きているし、少なくとも人を傷つけるようなことをしないようにしているグールたちも多い。
だけれど、多数派そんな彼らを排除しようと行動を開始する。もちろん、原作の持つ設定などをそのまま活かした形ではあるけれど、本作はそこに社会性を取り込み、1作の映画として成立するようにできている」
カエル「一般人が化け物だと思っている相手にも家族がいて、家族愛があって、苦悩があるわけだもんね……」
主「グールを何のメタファーか? と言われたら色々な見方ができる。それはイスラム教徒であったり、在日外国人ということもできるし、社会からつまはじきにされてしまうような人たちであるとも言える。
もちろん、そんな見方をしなくても単なるアクション映画としても面白くなるように配慮されているんだよね。
観客の感性と求める物語に応じることができるようにできている。
相当力がある監督だな、という印象がある」
そこまで出番は多くないものの深く印象に残る蒼井優
(C)2017「東京喰種」製作委員会 (C)石田スイ/集英社
表の世界と裏の世界
カエル「ヘルマン・ヘッセの代表作であるデミアンも今作ではちょくちょく登場していたけれど……」
主「デミアンというのはどういう物語かというと、一言で表すと『自分は何者か?』という物語になっている。
アベルとカインの聖書の逸話を元に、表の世界と裏の世界……明と暗の世界の2つがあるけれど、その先にある自己の存在を追い求めるというお話なわけだ」
カエル「本作と結構よく似ているよねぇ」
主「面白いな、と思った演出があって、主人公の金木は眼帯をしているけれど、普段は左目に眼帯をしているんだよね。一方の敵側の……おそらくライバルに当たるであろう亜門は右目に眼帯をしている。
この2人は明らかに表の世界の亜門と裏の世界の金木という対比構造になっているんだよね」
カエル「だけど、金木は人をどうこうしたいわけではないじゃない? ただ、ご飯が食べたいだけで、元々人間ということもあって人に危害を加えることに賛成ではない」
主「その意味では表の世界と裏の世界のちょうど中間にいるのが金木という人間なわけだ。普段の状態では眼帯が左右で違う。これは自分の抱える、グールとしての特性を隠して『人間金木』として生きているということもできる。
だけれど、戦闘になると眼帯が入れ替わって『グール金木』になる。こういう演出をさらりとこなすところが中々いいよね
この先……2作目が続くのか、それとも原作を読んでくれとなるのかはわからないけれど、この金木の立ち位置がすごく重要になってくるという説明になっているんじゃないかな」
作品に落ち着きを与えていた村井国夫
(C)2017「東京喰種」製作委員会 (C)石田スイ/集英社
苦言を少し
カエル「アクションもよくて役者の演技もいい、テーマ性もあってメッセージ性もある……だけど苦言があるの?」
主「単純に、中盤がグダグダしていた印象かなぁ。
終盤にやはり見所が詰まったアクションがあって、そこはすごくいい。金木がやる気になって、特訓して、守るものを見つけて、それでも矛盾するようだけれど自分の守りたい気持ちを見つけて……というのは見ていて面白かった。
だけれど、そこにたどり着くまでが……彼が変化を遂げてから現在のパートにたどり着くまでが、若干グダグダしていた」
カエル「お話としては中盤は何か変化が大きくあるというわけではなくて、笛口親子の深堀りであったり、グールと人間の生態の違いなどを重視していたようだから、派手さは少ないけれど……」
主「中盤とかのアクションもスタートの焼き直しのようにも見えてしまう。まあ、これは金木くらいしかアクションをしていないからしょうがないところがあるけれど、全体的なバランスとして中盤のダレた描写が長かった印象がある。
ただ、中盤ってどの映画もダレやすいから、それはしょうがない部分でもあるけれど……邪推をすると、監督は短編映画やPVなど短い映像作品を撮ってきた人だから、2時間の長尺のテンポに慣れていないのかな?」
カエル「脚本では受賞もしているからズブの素人ではないらしいけれど……」
主「ズブの素人がこんな脚本は書けないって!
ほぼ長編初監督作品? で、こんなことを言うのもなんだけれど、中盤にダレ場があるのは仕方ないけれど、もう少しダレている展開を短くできれば今年の大作邦画では屈指の作品になったのは間違いないでしょうな」
最後に
カエル「原作ファンもこの出来なら満足なんじゃないかな?」
主「漫画原作でここまでの作品を作り上げるという実力があるのが素晴らしい。
この先続いて欲しい物語だったし、大作邦画としてちょっと思うところもあるけれど、全体的にはすごく満足ができる作品だったな」
カエル「原作のテイストを活かしながらもここまで映画化として完成させるのが素晴らしいよね」
主「まあ、続編製作には少しハードルがあるけれどさ……特に清水富美加をどうするんだ! とかさ。でも、ぜひとも続きを見てみたい」
カエル「あとは原作ファンが満足してくれれば、高い評価を受ける作品になるんじゃないかな?」
東京喰種トーキョーグール コミック 全14巻完結セット (ヤングジャンプコミックス)
- 作者: 石田スイ
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2014/10/17
- メディア: コミック
- この商品を含むブログを見る