物語る亀

ネタバレありの物語批評

映画『検事 フリッツ・バウアー ナチスを追い詰めた男』感想 誰もが抱える『罪』

カエルくん(以下カエル)

「今回はナチスドイツの重要人物である、アドルフ・アイヒマンを追い詰めた検事のフリッツ・バウアーに迫った映画の感想だね」

 

亀爺(以下亀)

「今週も『アイヒマンを追え!』なども公開されるように、ナチスドイツを扱った映画がにわかに注目を集めているの」

 

カエル「まあ、いつの時代も無くならない問題だからね」

亀「日本はこの手の戦争の責任者に対する処罰は外国が裁くという形で決着をつけたが、ドイツは『ナチスの過ち』ということにして、ドイツ内で決着をつけるようにした、ということもあるかもしれん。

 まあ、日本の場合は『天皇の戦争責任』などの非常にセンシティブな部分も絡むから、一概にどちらがどうともいえる問題ではないないが……」

 

カエル「第二次大戦の結果が今にも影響を与えていて、それが国連とか色々な世界の構造の基になっているしねぇ」

亀「戦争に向き合うということは難しいことじゃな、特に敗戦国は。

 ドイツは定期的にそこに向き合う映画が撮られるが、やはりどの作品を見ても……ある意味屈折した思いというものが感じられるの」

カエル「日本の場合は『現場の軍人がこんなに頑張った!』『戦争に巻き込まれる悲劇!』に注目が集まるけれど、戦後に注目した戦争映画ってそんなに多くないのかな?」

亀「作るのが難しい、というのもあるかもしれんがの。

 では、感想記事を始めるかの」

 

 

 

あらすじ

 

 ナチスドイツの戦争犯罪の時効が迫った1959年のドイツを舞台にする作品。

 フリッフ・バウアー検事はナチスの中でも重要人物であるアイヒマンの捜索を続けていたが、数々の妨害に遭ってしまう。そんな中、ヨアヒム検事と手を組み、あの手のこの手の追跡を続けるが……

 

1 映画としての感想

 

カエル「じゃあ、まずは映画としての感想だけど……今回は劇場ではなくて、DVDで見たからっていうのもあるかもしれないけれど、決して人の目を引くような作品ではないよねぇ

亀「面白いかつまらないかと言われたら、まあまあ面白い、という回答になるかの。序盤のホロコーストについて学ぶシーンがあるのじゃが、そこでは実際の映像を使っていて事の残虐性を知らせるにはいい演出だったように思う」

 

カエル「ミステリー要素やサスペンス要素もあるし、物語としてもわかりやすいというのもあるよね」

亀「観客からしたらどちらが正義なのか、どちらを応援すべきなのかよくわかるからの。その意味ではエンタメ性も獲得しようと、色々と試行錯誤しておるのはわかる。

 じゃがな……」

カエル「どうにも、物語にノれないかな?」

 

亀「……この映画をエンタメ風にしようとしたことがもしかしたら失敗かもしれんの。この映画の本質というのはそこにはない」

 

 

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この映画が描きたかったもの

 

カエル「基本的にこの手の映画でいうと傑作だった『顔のないヒトラーたち』とかもそうだけど、戦争犯罪を追う辛さだったり、自国の罪を認めるという行動に対する葛藤が描かれるよね。

 だけど、今作にはその描写はあまりない」

亀「……実はそこがこの映画の肝なのかもしれんの

 

カエル「というと?」

亀「単純な善悪で語ることができないのがこの戦争犯罪を裁くということであるが……上記の『顔のないヒトラーたち』の中でもバウアーは登場しておる。その中では若き検事を奮い立たせ、応援する、ある意味では……正義の男というべき姿で撮られておった。

 この映画と共通するところでいうと、ナチスを憎むユダヤ人という点と、それから他の検事や裁判官などを始めとした圧力に毅然と立ち向かう、ということかの

 

カエル「たぶん、バウアーを描く上ではそこを強調せざるを得ないってことだろうね。それだけ強い圧力と戦った『正義の執行人』である面を強調したいだろうし……」

亀「じゃが、それが逆に少しばかりの違和感をもたらす結果になっておる。そしてそれは、この映画のキモでもあるように感じたの」

 

以下ネタバレあり

  

 

 

2 バウアーの描き方

 

カエル「バウアーの描き方? 結構孤高に立ち向かう検事って感じだったようにも思えるけれど……」

亀「じゃが、それだけではないじゃろう?

 バウアーという人間はナチスを追う上では色々な……歪み、という言葉が正しいかはわからんが、そういう思いを抱えておったわけじゃ

 

カエル「歪み? ……ユダヤ人だということ?」

亀「そう。ナチスドイツのユダヤ人に対する迫害を追い詰めるのがユダヤ人ということ自体はそうおかしな話ではないが……感情的なものがあるように思ってしまう。しかも、最後に処刑が執行されるのはイスラエルじゃし、この映画の中でも『ドイツでの裁判ならば執行まではいかなかっただろう』というバウアーの発言がある。

 ちなみに、イスラエルで死刑が執行されたのはこの例のみらしいの

 

カエル「……アイヒマンを執行したのが唯一なんだ」

亀「だから、この映画を見る限りにおいては、このナチスを追い詰めるという行為は……言葉が難しいが、やはり『ユダヤ人の恨み』が起こした行動という風にもとることができる。

 バウアーもイスラエルも、ユダヤ教とは深いつながりがあるからの」

カエル「感情的なものがないという言ったら、たぶん嘘になるよね……」

  

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バウアーの弱み

 

カエル「でもさ、バウアー自身にも弱みというか、どうかと思う部分もあるわけだよね」

亀「それが『同性愛疑惑』じゃの。この映画では同性愛者であることは認めているものの、清い身でいないといけないためにそこに関しては我慢している、というセリフもあるの。

 当時のドイツでは同性愛は違法じゃからな」

 

カエル「個人の自由っていうのは、現代に生きるから言えることかもねぇ」

亀「そうじゃの。

 そしてわしが思うのは……これこそが『ドイツがナチスを裁けない理由』ということじゃ」

カエル「どういうこと?」

 

亀「つまり、アウシュヴィッツに関することというのは、ドイツ国内では『誰もが触れてほしくない部分』ということじゃな。

 その理由は過去にナチスに深い関わりがあった、などの理由があるが……結局のところ、ドイツ国民の多くがナチスに関わっておったのだから、戦争責任などを拡大して考えると、ある意味ではドイツ国民=戦争犯罪に加担、という大暴論にもなりかねん」

カエル「……今なら暴論だよ、って言えるけれど、あの当時はどこまで戦争犯罪追求の声が響くかわからないということはあったかもね」

 

亀「じゃからみんな、この問題にはあまり深く追求してこなかった。それを追求できるのは、自分は必ず責任を問われないという存在、つまり、被害者であるユダヤ人であるバウアーだからこそである、との。

 じゃがな、見方を変えるとバウアーに裁く権利があるのかどうか、というのも問題視できる。なぜならば、法律で明確に規定しておる『同性愛の禁止』に抵触している可能性があるんじゃから」

カエル「犯罪を犯した検事にその資格はあるのか? ということだね」

 

亀「もちろん、バウアー自身は潔白じゃし、今ならなんの問題もない。じゃが……当時の『ナチス問題が後ろめたいドイツの法律家』『同性愛という違法性を抱える検事』というのが、対立構造ようで、その奥底にあるのはイコールかもしれないというのがこの映画の面白いところかもしれんの」

 

 

 

 

3 アイヒマンの描き方

 

亀「そして、この映画で特徴的なのが『アイヒマンの描き方』ということになる」

カエル「あんまり出てきていないじゃない?」

亀「そうじゃの。この映画の敵はあくまでものドイツ国内の反対派、反ユダヤということになっておる。肝心のアイヒマンの描写というのは驚くほど少ない。

 そして……それはこの映画では非常に特徴的に出ているのは『顔』じゃよ」

 

カエル「……そういえば、アイヒマンの顔は全く映さなかったよね」

亀「そうじゃ。これにもちゃんとした意味があるとわしは思う。

 つまりの……顔を映さない、ということは映画として処刑されたのは『アイヒマン』という形になるが、他にもメタファーとなるものがある、とわしは思う

カエル「……そのメタファーって」

 

亀「やはり『ナチスを支持したドイツ国民』であり『元ナチスの政治家、法律家』という意味じゃろうな。

 この映画のラストは極めて意味深なように終わっておる。それがある意味では尻切れトンボのように思われるかもしれんが、わしからするとこの終わり方はこの後のドイツというものを示唆しているようにも思う」

カエル「……終わらない憎悪と、過去の清算かな

 

亀「そうじゃの。こうやって過去のことを掘り起こしていくと、結局誰もが罪を背負っておることになりかねん……ナチスドイツの影というのは、それほどまでに色が濃い。

 そしてラストの不穏な終わり方も、その影が自らに迫ってきたら……それはナチスの復讐という意味でもあるし、自分の罪、つまり同性愛を追及されたら、ということでもあるんじゃろうな」

カエル「……戦争犯罪の追及って難しいんだね」

亀「結局はみんな罪人と言えなくもないからの。

 戦場に向かったから罪人、などと言い始めたら……どうしようもないの」

 

 

 

 

最後に

 

カエル「やっぱりナチスものってバランス感覚が優れていて面白いね!」

亀「爽快な面白さは少ないかもしれんが、しっかりとした作品に仕上がっておるものが多いからの。考察する楽しみが生まれる。

 さて、今週公開の『アイヒマンを追え』もどうなることか……」

 

カエル「比較対象ができているから、もしかしたら比べながら語るかもしれないね」

亀「同じ題材の映画じゃから、そこは避けられんの。

 あとはいづれ『アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち』も見て、それを含めて語りたいものじゃな」

 

 

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