カエルくん(以下カエル)
「じゃあ、今週公開の邦画の中ではおそらく1番注目されてそうなこの作品について語っていくとしようか」
亀爺(以下亀)
「小規模公開ながら映画好きの中では注目されておる印象があるの」
カエル「この作品は実は試写会で見たんだけど、平日ということもあるのかもしれないけれど、若い女性が多い印象だったなぁ。ターゲットにしている層がそのあたりで作為的に選んだのか、それとも偶然なのかちょっとわからないけれど……」
亀「主役が池松壮亮じゃからの。どちらかというと女性向けということなのかもしれんな」
カエル「試写会の場所が渋谷でさ。このお話って渋谷とか東京の街が多く出てくるお話だから結構リンクしていて……まあ、多分それも狙っているんだろうけれどね。
こういう『東京』のお話って比較的多い印象だけど、東京に1回も行ったことがないって人もそれなりに多いと思うけれど……そういう人はどんな印象を持つんだろうね?」
亀「ピンとこないのかもしれんの。
例えば『田舎の町』が重要な意味を持つ物語などもあるが、それは田舎であるということが大事なのであって、その特定の場所が大事なわけではない場合が多い。じゃが、東京が出てくる場合は『東京という街』が重要な意味を持つ作品も多いからの。
もしかしたら東京について語る……それだけで想定する観客を限定してしまうのかもしれんの」
カエル「自分は福岡とか札幌ってまだ行ったことないけれど『福岡という街が……』と言われるとへぇ……としか思えないし。まあ、確かに東京という言葉と場所に特別な意味があるのかもしれないけれど……」
亀「そのあたりについても記事で考えてみようかの
それでは感想記事のスタートじゃ」
1 ざっくりとした感想
カエル「じゃあ、まずは大まかな感想から入るけれど……試写会で見た映画でもある程度良かったらやっぱりネタバレなしで記事にするつもり方針はあるんだよ。やっぱり、映画について語ることが多いブログだしさ、ネタバレなしで応援するのが呼んでいただいたお礼だと思うし。
だけど、この映画はちょっとね……全く合わなかったなぁ」
亀「おそらく、この映画はどハマりするか全くハマらんかの2択じゃと思う。最初の15分でハマらなかったら帰っていいと思うレベルじゃな。
その代わりハマった時は言葉にならないほどの作品にになるんじゃろうが……どうにもあわなかったの」
カエル「全くつかみどころがなくて……言いたいこともわかるんだけど、でも一切納得いかないの。
なんでこんなお話になったんだろう? って気になるくらいなんだけれど……」
亀「この映画は原作を考えても少し特殊な映画じゃからな。その分、人を選ぶようなことになっておるのじゃろう」
原作が詩であることの影響
カエル「やっぱりこれってこの作品の原作が詩であることの影響があるのかな?」
亀「そうじゃろうな。
最果タヒの詩はわしは読んだことがないんじゃが、詳しい人に話を聞けば『最果タヒは天才』らしい。確かもそうかもしれんな。日本においては小説や作家としてご飯を食べていけている人はそこそこおる。じゃが、詩人として活躍してご飯を食べることができるのは……もしかしたら谷川俊太郎だけかもしれん」
カエル「確かに現代の詩人ときいてパッと思いつく人ってなかなかいないしね。それこそ昭和の詩も書いていた人たち……宮沢賢治とか寺山修司などは連想するけれど……」
亀「例えば『今月新作小説を買って読んだ人』というとそれなりの人数がいるじゃろう。小説はまだまだ一般に対してそれなりの影響力がある、売れる分野ということもあるかもしれん。
しかし『今年詩の新作を買って読んだ人』と言われてもほとんどおらんのではないかの?
そして現在でも存命であり、活躍する詩人の名前を挙げてみろと言われても1人も分からん人も多いかもしれん。実を言うとわしがそうじゃ。名前を言われれば『ああ、いたね』と思うかもしれんが、今は誰の名前も思いつかん。
日本において詩というのは少し不遇な表現になっておるのじゃが、その中では最果タヒは特に注目を集めているスターの1人じゃろうな」
カエル「注目度もあるから映画の原作になるというのもわかるけれど……詩が映画になるとこんな風になるんだ、って勉強にはなったけれど」
亀「わしに言わせてもらば、詩は感性に訴えかけるものが大きくての。素晴らしいとおもう詩でも、それを説明することが中々できない。詩は理屈や言葉でその良さを説明するのが難しい表現でもある。じゃからこそ、独特な表現でもあり、届くのかもしれんがの。
短い言葉で何かを伝えるというのは難しいことも多いからの。
その良さもあったかもしれんが……悪いところも目についたという印象じゃな」
主演の池松壮亮と石橋静河
役者について
カエル「今回の主演の池松壮亮や石橋静河についてもちょっと触れておこうか」
亀「この作品で演技力や役者についてどうのこうのというのは、ちょっと可哀想な気もするの」
カエル「え? どういうこと?」
亀「やはり詩が原作になっておるところもあるからか、会話の1つ1つがポエム調なんじゃよ。モノローグも多いし、そのセリフ回しも独特じゃ。
特に池松壮亮が演じる慎二が中々に癖が強くての、ベラベラと話す割にはその言葉に特に大きな意味はない、というキャラクターで、その言葉もポエム調なわけじゃ。じゃからどうしたって変な人に見えるし……実際に変な人なのであろうが、その設定がうまくいっておるとは思えんかったな」
カエル「詩の朗読で会話をしているような不自然な感じがあるんだよね」
亀「物語自体は割と自然なお話じゃ。日常にあること、貧困層などの現実を淡々と扱っておる。じゃが、どうしてもこのポエム調の言葉使いがどうしてもわしが映画の中にのめり込むのを邪魔してしまう。
このポエム調のセリフ回しが好きな人は何の問題もないと思うが……単なる異常な人間にしか見えなかったの。
じゃあ、それを演じる役者が悪いのかというと、そんなことはないじゃろうな。これは役者のせいではなくて、そういう演出をした監督などの責任が大きい。もちろん、それは意図して狙ったことであるから、その演出がわしには合わなかったということじゃがな」
カエル「だから役者の上手い下手以前の問題なんじゃないか? ってことだね」
亀「そうじゃの。その中でも池松壮亮は独特な演技の中に素が垣間見える場面もあったりして、その場面は抜群に良かった。
『あ、今のは素直な反応であって、いつもはある程度自己防衛するための演技混じりなんだな』と思わせる隙などもあったの。
一方の石橋静河に関しては……この人は役も演技も独特じゃからな。上手い下手というレベルでは語ることができんような気がするの」
池松壮亮といえば最近はこの作品が代表作か?
今作のMVP
カエル「じゃあ、今作のMVPに関してお話しすると……やっぱり圧倒的に市川実美子の存在感が際立ったんじゃないかな!?」
亀「最近は『ReLife』と言い、このような役が多い印象じゃが、彼女の存在感は抜群じゃったの。
決して役としては出番が多いわけではない。それなのに、石橋静河演じる美香の根幹をなしているというのが伝わってくるような演技じゃった。個人的な話になるがの、最近、市川実美子と松本まりかの評価が結構うなぎ登りで……どうにもこの2人が出てくると他の役者が目立たなくなってしまうほど、独特の存在感に溢れておるように思うの」
カエル「市川実美子が出てきたシーンは作中でも結構重要なシーンとして扱われていたようだし、結構力を入れているのが伝わってきたから、演出の力ももあるかもね。
破天荒なようにも見える母親の役だけど、そのたった数カット……おそらく時間にして30秒ほどの出演において全てを持って行ったよ」
以下作中に言及あり
2 詩を物語にするということ
カエル「じゃあ、ここからは作中に触れながら感想を述べていくけれど……」
亀「本作の難しさを感じたのがこの『詩を物語にすること』じゃな。
詩というのはその多くが短いものであり、瞬間的な気持ちであったり、あるいはそのときの情景などを言い表すものが多い。一方で小説などの物語表現は多くの積み重ねをしながら、その登場人物の感情の変化や状況の変化などを表すものじゃと思う。
これは簡単にまとめると詩は瞬間的なもの、物語は時間の積み重ねによるもの、じゃとわしは思う」
カエル「もちろん、瞬間的な物語や長い時間を表現した詩もあるだろうけれど……」
亀「この映画に対する違和感としてあるのが『1つ1つのシーンが物語として繋がらない』ということじゃ。
結構ショッキングなシーンもあるんじゃよ。唐突で『え?』と目を丸くするようなシーンもある。じゃが、そのシーンが一体どんな意味を持つのか、そしてどんな伏線が引かれていたのか? と言われると、それが見えてこない。
おそらくこの映画に使われておる最果タヒの詩も1つ1つは独立した別々の作品なのじゃろう。それをこうして1つにまとめあげたことにより、物語としての繋がりが一層なくなってしまったような印象じゃな」
カエル「色々な設定などもあるし、確かに社会の闇というか、現代社会において重要なことも示していると思うんだけど……『えっと、で、何を言いたかったの?』ということになっているような気がするんだよなぁ」
亀「その辺りも感性に訴えかけることを目的としておるからの。
そこが合わない人にはとことん合わない映画ということができるかもしれん」
池松壮亮は日雇い労働者を汗まみれで熱演していました!
東京という街
カエル「冒頭でも言ったけれど、この映画は東京が舞台なわけじゃない?
多分、この作品って東京の街に対してどのような印象を持っているかによって評価が変わると思うんだよね。この映画の中の東京は『東京のバカヤロー!』みたいな感じだったけれど……」
亀「東京という街に多く寄せる印象としては、やはり『夢の街』ということじゃろう。とりあえず東京に行けばどうにかなる、夢を叶えることができるという思いを抱いて上京する若者も多い。
わしの知り合いでも『東京でしかできない仕事を!』と言って就活しておるのもおったが……わしは断言しよう。東京でしかできない仕事なんてそんなにいいものではないじゃろうな」
カエル「東京をすごく非難するような描写もあって、それがうまくいかない現実や、破れてしまった夢の象徴=東京と言うのもわかるんだけどさ……この街はどれだけのものを抱えなければいけないんだろう? という思いもあって」
亀「例えるならばこの映画は長渕剛の『とんぼ』じゃの。
『東京のバカヤローが!』って叫びながら、夕日に向かって酒を飲むイメージの映画じゃの。
じゃがな、わしはこういう映画や物語を見るたびに思い出すのがBUMP OF CHICKENの『東京賛歌』という曲での。東京という街はそこまで特別でもないし、そのような夢破れた君の姿も見守っているよ、という歌なのじゃが、わしはこちらの方が好感を持てる」
カエル「これは関東に住んでいるということもあるかもしれないけれど、東京ってそんなに特別な街だとも思えないんだよね。そりゃ、映画館は多いしさ。東京でしかやっていない映画もあるけれど……今はインターネットもあるし、ちょっと待つけれど配信もやっているでしょ?
インターネットで全世界中の誰もが自分をアピールする時代で、東京という街にどこまでこだわるのかな? という思いもあるかな?」
街中で流れる歌
亀「その違和感を決定的に大きくしたのが、街中で歌うフォークソングかもしれんの」
カエル「作中で女性のアーティストが『ガンバレ!』って歌っている描写があるんだけど……それが流れるたびにちょっとずつ冷めていく自分がいるんだよ」
亀「確かにこの物語は低所得者であったり、過酷な環境にいる人への応援歌のようなところもある。さらに主人公たちを取り巻く環境はあまりいいものではなく、確かに頑張ってほしいという思いもある。
しかしの、あれだけ何度も『ガンバレ! ガンバレ!』と歌った挙句にアーティストとしてそれなりの大成をしていくという描写が……なんとも言えんの。
いや、確かに応援をつづけてあきらめなかったからこそ! という思いも分かるんじゃがな……」
カエル「そもそも、そんなにいい歌とも思えなかったという趣味の問題もあるかもしれないけれど……」
亀「あの歌が流れるたびに『一体なんなのだろう?』ということを考えてしまったの」
最後に
カエル「う〜ん……後さ、これは試写会主催者側が恋愛映画として売りたいというのもわかるんだけど、試写会のアンケートで『この映画の恋愛密度は何パーセントですか?』という設問があったんだよ。
いや、そんなことを聞かれても、そもそもこれって恋愛映画なの? って思っちゃったかな?」
亀「そういう『恋愛に至る前の物語』もしくは『恋愛というものがよく分からない男女の物語』じゃからの。恋愛密度云々ということとは少し違う印象も受けたの。
いや、悪いシーンばかりではないぞ? 市川実美子のシーンや、途中の池松壮亮が夜空を眺めながら呟くシーンなどは素晴らしかった。そう言った1カット、なしは1フレーズはやはり良いと思うものがある。
じゃから、やはり詩をもとにした映画であり、その雰囲気や感性を問うものなのかもしれんの」
カエル「予告編の雰囲気とかは抜群に良かったし、あとは『愛している』と『愛していた』の細かい違いとか……アニメーションもあったけれど、それもクオリティが結構高かったしね」
亀「詩を物語にするという心意気も素晴らしいし、細かいカットは確かに良いのじゃが、それが繋がらなかった印象じゃな。
この映画が好きか嫌いかは感性によると思う。わしらは好きになれんかったが、好きだ! という人の気持ちもわからんではないかの」
カエル「ぜひとも鑑賞して自分の目で確認してほしい1作だね」