物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『われらが背きし者』感想 脚本、キャラクター、動機付け……色々な意味で『うまい映画』 ※後半ネタバレあり

カエルくん(以下カエル)

「……あれ? 今週公開だと一番大きいのって、やっぱり『スタートレック』じゃないの? 公開初日なのに、そっちは見に行かなかったんだね」

 

亀爺(以下亀)

「50周年ということで盛り上がっておるらしいが、元々 CGを多用した実写洋画が苦手なのと、スタートレックシリーズを見たことがないからの」

 

カエル「それで同日公開のこっちを見に行ったわけだ」

亀「それにの……なんというか、こっちを見に行った方が通っぽいじゃろう?

カエル「……ああ、あれだ。公開館数が少ない方が……単館系の方が『ちょっとあなたがたと違うんで』って意識高い系を装えるやつだ。でも、そういう人ほど実は映画をあまり見ていないっていうね。

 しかもこの映画、単館というほど公開館数が少ないわけではないし、通ぶるにはちょうどいいよね」

 

亀「お主はわしや主に恨みでもあるのか!?」

カエル「別に? でもねぇ……通ぶっているにわかって、見るといじりたくなるよね。ちょうどデレステでも李衣菜のイベントが始まったしね」

亀「……今回はデレステの話は一切せんぞ……

 それでは感想記事の始まりじゃ」

 

 

 

Our Kind of Traitor

 

あらすじ

 

 大学教授のペリー(ユアン・マクレガー)と妻ゲイル(ナオミ・ハリス)の2人は、旅行先に来ていたモロッコの高級レストランでディマ(ステラン・スカルスガルド)と知り合う。

 ディマト旅行中に家族ぐるみの付き合いをしながら交流を深めていくが、帰国する前日にて彼から、ロシアマフィアと国家ぐるみの資金洗浄をめぐる情報が入ったUSBメモリーをイギリスに帰った際にMI6に渡してほしいと頼まれる。ディマはその資金洗浄を担当したロシアンマフィアの一員だったのだ。

 ディマと彼の家族はマフィアの監視が付いており、危険が迫っているのを知り、正義感の強いペリーはその依頼を引き受けてしまう。ディマの身柄を巡り、マフィア、MI6を巻き込んだ騒動が始まっていく……

 

1 ネタバレなしの感想

 

カエル「じゃあ、まずはネタバレなしの感想だけど……サスペンスということもあって、緊迫感がしっかりと続いている作品だったね

亀「マフィアとマネーロンダリングの証拠を巡る争いの話なのじゃが、今作はサスペンスの色が強く、さらにバイオレンスな描写もほどほどのあるわけじゃが……PG12ということを見てもわかるように、生々しいほどの描写というものはない。

 その意味では血や暴力が苦手な人にも非常に安心してオススメできる作品となっておるの。じゃが、本作の魅力はそのバイオレンス描写ではなく、サスペンスの作り方が丁寧でうまいと思わせられたの

 

カエル「最初から最後まで緊迫感が続いていたよね」

亀「今回の敵がロシアンマフィアということもあり、さらに国家ぐるみの……非常に大規模な陰謀論になっておる。

 また、ロシアンマフィアという存在がどこにいるのか、誰がロシアンマフィアなのかということがわからんから、どこで襲われるか、誰が敵なのかわからない恐ろしさもあったの」

カエル「また、巨大な陰謀とそれに翻弄される家族などの存在がさらに緊迫感を助長していたね。ペリーとディマの友情が芽生えていく様子とかもサスペンスにいい味を出していたよ」

亀「最後まで息をつかせぬ展開であり、中々安心することができんが、それが面白さを生んでおったの」

 

役者について

 

カエル「今回はみんな良かったよね」

亀「目を引くのは主役のペリーを演じるユアン・マクレガーの格好良さであろうが、わしは妻のゲイルを演じたナオミ・ハリスの美しさにハッとしたの。

 この夫婦は白人と黒人の夫婦という組み合わせなのじゃが、この作品でも唯一の黒人であり、その意味でも元々目を引くのは確かじゃ。しかし、それ以上に観客の目を離さんのは『気品のある美しさ』があるからじゃろうな」

 

カエル「弁護士をしている妻であり、要はインテリ美女なんだけど、その様子がよく出ていたよね。聡明で美しいという、非の打ち所がない人だったよ」

亀「この作品のサスペンスを盛り上げる上でペリーはディマと友情のような絆を育むことで思いを強くしていくのじゃが、ゲイルはその家族と主に交流をしていく。そしてその危ない橋を渡るのはゲイルも同じじゃから、余計にハラハラするようにできておるの。

 妻やディマ一家を守りたいペリーと、家族を守りたいディマの思いが一致していくのもしっかりと効果的になっておる

 

カエル「そのディマ役のステラン・スカルスガルドや、MI6のヘクター役のダミアン・ルイスも良かったよね

亀「そうじゃの。ディマの荒々しくも、それだけではない魅力であったり、 MI6という機関におり正義感が強いものの、うまくいかない現状に翻弄されるヘクターの役をしっかりと演じておった」

 

以下ネタバレあり

 

 

2 丁寧に紡がれた物語

 

 カエル「じゃあ、ネタバレありの感想記事に入っていくけれど……まず序盤からハラハラするよね

亀「基本的にこの作品は丁寧に、しっかりと練られて作られておる。サスペンスの教科書のような作品じゃ。

 その意味では取り立てて目新しいものはないかもしれんが、その分手堅くしっかりと脚本、演出をしてきたの。

 序盤でいうとマフィアという存在が恐ろしく描かれておった。あの少女が美しければ美しいほど、その無残な最期に涙を流すようにできておる

 

カエル「マフィアものの王道の始まり方だよね。それこそ『ゴッドファーザー』もそうだけど、マフィアという存在がいかに恐ろしいか、そしてこの問題の闇がどれほど深いかということを示すためにも、お手本のような始まり方だったね

亀「どこに敵がいるか、そしてどれほど根の深い問題であるのかというのを、しっかりと演出しておったの。そして、キーとなるアイテムもここで登場しておるしの」

 

 

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2人の出会い

 

カエル「そして話はいよいよ主役のペリーへと移るわけだけど、ここでのディマとの出会いも良かったよね」

亀「少し強引な気もしたが、逆にそっちの方がディマの焦りというものがはっきりと演出されて味が出る。物語における出会いのシーンというのは恋愛劇であろうと冒険活劇であろうと、非常に大切なものであるのじゃが、そこがうまくいかんと物語に入っていくことができんからの。

 ある種の運命的な出会いであると同時に、リアリティがないと一気に作品が壊れてしまう。その意味でも、しっかりと練られた出会いじゃった」

 

カエル「そこから2人がパーティに出向いたりして、色々知っていくわけだけど……」

亀「ここで初対面の2人だから、お互いに自己紹介のような会話になる。ここも観客にどのような人間なのかわかるようにはっきりと演出しておるのと同時に、説明ゼリフの連続になるが、その違和感がないようにできておる。

 さらにパーティの描写によって、ペリーというのが『相手を顧みず、自分の正義を行う者』という説明がはっきりとなされるわけじゃの」

カエル「すっごく丁寧でうまい作品だよね。そういう説明や描写って必要だけど、どうしても作品から浮くことになりかねないし……」

亀「冒頭に演劇の描写もあるわけじゃが、そこも映画の物語に入っていくために必要な『舞台演出』じゃったと思うぞ。これで物語にのめり込みやすくなったの」

 

 

3 中盤から先の展開

 

カエル「そしていよいよディマの正体も明かされて、サスペンスパートに入っていくわけだけど……」

亀「ここから先はMI6のヘクターなども巻き込みながら、家族を守るという話になるわけじゃな。

 ここまでの描写で妻のゲイルや、ディマの一家をしっかりと描いたことにより、単なる家族という以上に守るものの重みを増しておった

カエル「さらに、敵がどこにいるかわからないんだよね。MI6は絶対に味方かというと、実はそういうわけでもなさそうという……」

 

亀「マネーロンダリングでもたらされる、大量の金というのがどれほど国家にとって重要なものなのか、という負の側面もしっかりと描かれておった。確かにそれほどの額になると、迂闊に手を出すことも出来んしの。

 結局のところ、金に綺麗も汚いもない、金は金であり、それ以上でも以下でもないというのは、わしにもわかりやすい論理であったの」

カエル「だからこそ敵の思惑もわかりやすいし、ディマなどの物語の動機だったり、目的も明確、それに至る道筋と妨害してくる相手もはっきりわかっているという、ドラマとしてうまいよね

 

亀「この作品は中盤以降の展開も、取り立てて目を引くようなことは起こっておらん。ある程度この手の作品に見慣れておったり、物語の構造などに興味があると、ある程度予想はできる展開であったりするが、それだけ『王道の物語』ということじゃろうな。

 先進的な冒険というのも感じられんが、その分余計なこともしておらん。徹頭徹尾、物語をしっかりと紡ぐことに意識しておる。それはアーティストというよりも、職人技といったほうがいいかもしれんの」

 

カエル「あのラストもその意味ではテンプレだもんね」

亀「わしは『ああ、こうなるんじゃろうなぁ……』と思いながら見ておったから、驚きなどは一切なかったが、あまりそういうことを考えんで見る人には衝撃の展開かもしれんの。

 そのラストも含めて、やはり王道の物語であり、酷評はされない作品じゃと思う。ただ、難癖をつけるならば教科書通りすぎるということかもしれんが、それは美点でもあるからの」

 

 

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キャラクター同士の描きかた

 

カエル「あとうまかったのはこのタイトルの『われらが背きし者』というタイトルが示すものだよね」

亀「マフィアに背いたディマに関するタイトルなのは間違いないが、それだけではなくて妻の信頼を勝ち取りたいペリーと、MI6の中でも意見が割れる中、正義を貫くヘクターをも内包するお話ということじゃの。

 ひとりひとりでは大したことはできないかもしれん。じゃが、3人集まるとどうじゃ?

 この3人が揃ったことによって、それぞれの目的が達成されるという意味でも、すべて教科書通りのサスペンスじゃの」

 

カエル「……あれ? 亀爺、もしかして不満がある?」

亀「……う〜む、なんというか、うますぎるのが気になる映画ではあったかの

カエル「うまいのって悪いことではないじゃん」

亀「もちろんそうじゃ。うまいことはいいことなんじゃが、しかし『うまい物語』と『面白い物語』というのも違っておる。それは説明せんでもわかると思うが……この作品はうまい物語であるし、ハズレということもない良作ではあるが、あまりにも教科書通りでの……」

カエル「まあ、地味な映画だしね。教科書通りというのも地味な理由に入ってくるのかな?」

亀「多分、原作者であったりスタッフは満足する作品じゃろうな。この作品にケチをつけるとしたら……やはり『うますぎること』に尽きるかの」

カエル「……ほとんど無茶振りだよね」

亀「観客というのは我が儘なんじゃよ」

 

 

最後に

 

カエル「じゃあ、最後になるけれど何か言いたいことってある?」

亀「うまい物語が知りたい、お手本にしたいというのであれば、この作品は見ておいて損はないじゃろうな。物語の紡ぎ方、キャラクターの配置、その他の様々なことにおいても、非常にうまい作品じゃ。

 参考にするにはうってつけの教材でもあると思うの」

カエル「あまり突っ込みどころもないしね」

 

亀「ただ、先進的な物語が見たかったり、圧倒的な面白さや、派手さを求めるならばこの映画はあまりお勧めはしない。

 よくも悪くも『うまいこと』に徹底した映画じゃからな。大外れはしないが、大当たりもしないじゃろうな

カエル「難しいよねぇ……個性が強くて賛否両論の方が圧倒的な面白さはあるけれどさ」

亀「わしなどは賛否両論の映画の方が面白いと思うから、少し趣味に合わなかったかの」

カエル「……それこそ、冒頭のスタートレックの話じゃないけれど、映画に、物語に何を求めるかって難しい話だもんね」

亀「そこまで難しく考えることもないがの」

 

 

  

 

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