カエルくん(以下カエル)
「今週はコナンに続いて、クレヨンしんちゃんも新作が公開しているね!」
亀爺(以下亀)
「アニメ映画の人気が非常に高いの」
カエル「ドラえもん、コナン、しんちゃん、ポケモンはやっぱり安定して楽しめるというのもあるだろうし、大人も子供も楽しめる1作だよね」
亀「実は住み分けができているのかもしれんの。
子供向けの中でも特に小さい子向けであり、教育的にも優等生であるドラえもん。
少し大人向けであり、殺伐としたお話も多いがファンも多いコナン。
お下品ではあるが自由度が高く、ジャンルも多岐にわたるしんちゃん
といったようにの」
カエル「女の子向けだったらプリキュアがそこに入ってくるだろうし、それから年末だと妖怪ウォッチかな?
そう考えるとうまくできているよね」
亀「クレヨンしんちゃんはその中でもギャグ漫画原作であり、近年は感動路線が目立つが元々はハチャメチャな作品も多かったからの。その分、作家性が強く出たりして、オタク的視野からしても楽しめる1作じゃが……さて今作はどうなった?
それでは感想記事を始めるかの」
1 簡単な感想
カエル「じゃあ、まずは大雑把な感想だけで……う〜ん、まあ、うん、普通かな?」
亀「世間評価は高いようじゃが、わしは全体としては普通の作品じゃと思う。
ただ、その中でも評価が難しいのは決して全てのシーンが悪いというわけではない。今作は様々な要素が詰め込まれておるのじゃが、その1つ1つは情緒的であったり、やりたいこともわかるものが多くての。
わしも全てを見たわけではないが、クレヨンしんちゃんらしさに溢れた描写もあったの」
カエル「たださ、ちょっと通してみると『結局このお話ってなんだったんだろう?』って思いもあって……」
亀「若干退屈な部分もあったかの。
物語の目的もハッキリしておるし、テーマも現代的なものになっておる。笑いもあったし、感動ポイントも作っておる。
じゃが……どうにも盛り上がりに欠ける印象かの」
カエル「やりたいことがたくさんあって、しんちゃんらしさを追求しすぎた感もあるのかな?」
亀「ギャグあり、ホラーあり、ロードムービーあり、お下品あり、感動ありと詰め込んだ挙句、全体的な作劇には失敗した……という印象かの」
今回の野原一家はみんな子供に!
橋本昌和監督について
カエル「今回監督を務めた橋本昌和はしんちゃんシリーズだと『映画 クレヨンしんちゃん オラの引越し物語〜サボテン大襲撃〜』も手がけている人だよね」
亀「実はオールナイトイベントに行ってきて監督のトークショーを見てきたのじゃが、その中で印象に残っておるのは『クレヨンしんちゃんの伝統を守りたい』という言葉じゃった。
その時はまだ本作の概要しか決まっておらんようで、急いで絵コンテを書いて物語の大筋を決めていこうとしていたようじゃが……」
カエル「その時に話題になったのは『オカマの扱い』なんだよ。
しんちゃんといえばオカマが出てくるけれど、近年ではポリコレの観点や配慮によってオカマというのは出しづらくなってきた。それは下ネタ描写もそうだよね。最近ではお尻ブリブリとかもあまり出なくなっているという話もあるし。
だけど、クレヨンしんちゃん作品においてオカマってやっぱり欠かすことのできないものでもあってさ。
本作もオカマが出てくるけれど、なんとなく『しんちゃんらしいな』って思ったもんね」
亀「その辺りの伝統を守ろうという意識は非常に強く感じたの。
例えば本作の中盤に出てくるサーカスの描写は初期の劇場版作品の監督を務めた湯浅政明のような、独特の色使いやデザインの動物などが登場したりしておる。それからしんちゃんではお馴染みのガンダーロボの出番もあったりと、懐かしいと思わせるものが多かった」
カエル「そう考えると前作の『オラの引越し物語』ってほぼオールスターキャストでもあって……当時園長先生役を務めていた納谷六朗さんが亡くなった後で後任がまだ決まっていなかった時期なのかな?
だけど園長先生だけ喋らないのもおかしいってことで、過去の音源から納谷さんの音声を抜き出して物語を作ったというエピソードがある」
亀「これを考えても、しんちゃんに対する愛とか、守ろうという気持ちが非常に強いことがわかる……じゃが、それがちょっと空回りしている印象もあるの」
シリリの声優は沢城みゆき! さすがの演技力です
前作の高橋渉監督と比べて
亀「じゃが、その気持ちもわからんでもないんじゃよ。これは勝手な憶測でもあるがの、高橋渉などと比べてしまうと少しかわいそうなところもあると思う」
カエル「どういうこと?」
亀「橋本監督がしんちゃんに関わったのは2008年からのようじゃが、その間にも色々な作品を手がけておる。
例えば『TARI TARI』などは深夜アニメであり、爆発的な大ヒットはしなかったかもしれんが、わしは結構好きな作品での。独特の魅力に満ちた音楽劇じゃった。他にも最近では『ハルチカ』の監督なども務めておるの」
カエル「一方の高橋渉監督は1992年からしんちゃんにずっと関わってきた人物だね。制作進行から演出、監督と徐々に出世してきた人で」
亀「映像化されたしんちゃんの歴史と一緒に仕事をしてきた人でもある。あたしんち、ドラえもんなども手がけた、まさしく『子供向けアニメーションの専門家』と言ってもいいかもしれん。
そういう人物じゃからこそ、それまでのクレヨンしんちゃんの肝を捉えながらも、その姿に囚われることなく製作することができるのかもしれん」
カエル「『ユメミーワールド』なんてなんでもアリの夢空間のお話だし、その前の『ロボ父ちゃん』はしんちゃんでその展開をやるの? って作品だったもんね。
ずっと一緒に作ってきた人と、外から来た人の差かぁ……」
亀「今作はそれが如実に出てしまったようにも思うの。
確かにクレヨンしんちゃんらしいといえばらしいのじゃが、そのせいで軸がなくなってしまった印象もある」
以下ネタバレあり
2 本作のテーマ
カエル「今回のテーマは結構わかりやすくて、おそらく『異文化交流』と『子供の親離れ』だと思うんだよね。
地球人と宇宙人の交流という異文化、そしてロードムービーにお約束の子供の成長をセットにしてさ」
亀「深読みをすれば『厳しい父の教え』というのは父=神様だとすれば、一神教の宗教を信仰する人という意味にもなるかもしれんの。それは考えすぎじゃとしても、文化、習慣の違う者との旅ということなのは間違いない」
カエル「これってトランプ政権もそうだし、現在の社会情勢を考えてもすごく大事な問題で……ちょうど今日入ったニュースだと、トルコが事実上の独裁政権になってイスラム色が強くなることになったりと、民族主義がより強くなっている中でのテーマだからね」
亀「それこそ『映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』もその要素があったからの。昨年の『ズートピア』と同じく、世界中の表現者が考えている案件なのじゃろう。
その意味でも本作はとても教育的配慮の行き届いた、子供向けアニメとして真っ当なものになっておる」
カエル「あとはいつものクレしん映画のように『家族の愛』とかもちゃんと入っているし、どの方面から見ても評価はできる映画なんだけれど……」
亀「不思議と、それが繋がっておらんように思うの」
どこかで見たことあるようなSF描写……あれ? スター……
様々なジャンルの詰め合わせ
カエル「監督の作品でいうと前作の『サボテン』がすごくパニックホラー色が強くて、子供が劇場で泣いてしまったほどだったとか……確かに映画館で見るとすごく恐ろしい描写もあって、しっかりとしたパニックホラーになっていて怖かった印象があるなぁ」
亀「今作もそれは健在でホラー描写もしっかりと組み込まれており、わしは『ドント・ブリーズ』などのような密室サスペンスホラーを連想したの。
橋本監督はホラーの素養があるのではないか? わしはこの路線でガッツリと怖いものを見せてもらえたら、きっとトンデモナイ作品ができると思うぞ。それが傑作か怪作かは置いておくとしてもの」
カエル「他にも最初に言った通りロードムービーでもあり、サーカスの場面はホラーとファンタジーの融合であったり、あとは当然スターウォーズを連想させるようなSFもあったりして色々なジャンルがあるんだけど……どれもあと1つ伸びてこないというか……」
亀「わしは詰め込みすぎてしまったように思う。
どれも結構いいのじゃよ。ホラーはそれなりに怖いし、ロードムービーは田舎の街並みなども面白く、旅の情緒がよく出ておる。SFもしっかりとSFをしておるし、サーカスのシーンはこの映画の見所の1つになっておる。
じゃがな、あれもこれもと詰め込んだ結果、幕の内弁当にはなっても1つの……メインとなるおかずがないんじゃ。顔が見えてこないというかの」
カエル「それこそメインディシュがないんだよね」
亀「例えばホラーであればもう少しホラーとして怖がらせてもいいと思うし、ロードムービーならもう1つ何かの展開があるといい。どうにもそのジャンルのさわりだけを詰め込んでしまい、全体のドラマ性が失われてしまったような印象も受けるの。
わしは各場面において『もう少し何か一波乱あるのか?』と思っておったが、それがなかったために肩透かしを食らってしまった印象もあるの」
3 繋がるような、繋がらないような……
カエル「時間の問題もあるしさ、メインのストーリーも進めなければいけないし……と考えると、納得は納得なんだけれどね」
亀「そのメインストーリーもわしは少し思うところがあっての……どうにもご都合主義なところがあったように思うの」
カエル「ちょっと具体的に言うと?」
亀「スタートにおいてひろしとみさえが子供にされてしまうのは、おそらく『ロードムービーのお約束』じゃからじゃろう。子供が主役のロードムービーでは大人が存在すると、多くの物事がすぐに決着がついてしまう。目的地に車であったり、飛行機などで一気にいけばいいだけじゃからな。
じゃが、それではドラマにならん。
ではどうするかというと、ひろしとみさえを子供にすることで、大人の力を封じたわけじゃな。
そして野原一家が旅をする理由をここで作り上げる」
カエル「だけど、そのあとすぐにシリリのあの力は取り上げられちゃうわけだよね?」
亀「便利すぎるからの。何かピンチになれば子供にしてしまえばいい。あの能力はまさしく理にかなっておるが、だからこそ強力で縛らねばならない。そのための能力取り上げじゃ。
そして旅をしていくが……ここでカバンなどを失くすことによって、便利な『お金』などのアイテムを失わせる。ここまでやらんとロードムービーとして成立しないからの」
カエル「ふ〜ん……なるほどね」
今作でもカッコイイひろしの姿が観れる!
分かれる物語の先へ
カエル「そして一悶着あった後に、ついにひろしやみさえとしんちゃんは別れて旅に出るわけだけど……」
亀「今作では3つの物語が同時に進行しておる。
しんちゃん、シリリ、シロのロードムービー
ひろし、みさえ、ひまわりがそれを追う
春日部防衛隊が野原家を調査
わしはいつも言っておるのじゃが、物語を3つに分けるときは何らかの理由があったほうがカタルシスが生まれやすい。例えばしんちゃんのピンチを救うアイテムをひろし達が持ってくる、などじゃの」
カエル「ひろし達の存在がヒーローとして登場すると、また違うんだけどね」
亀「わかりやすいところで誰もが名作と讃える『オトナ帝国』でいうと、しんちゃんの救出劇と、洗脳されてしまったひろし達という2つに物語は分岐する。
そしてしんちゃんが頑張ることにより、ひろし達は親としての自覚を取り戻す。これはしんちゃんが目的を果たすことで獲得した、いわば『トロフィー』であり、そして『大人という強力な味方』でもある。だからこそ、物語はそこから一気に加速してラストまで走り抜けるわけじゃな。
じゃが、この作品のひろし達は合流してもやはり子供のままで……以前と状況はそんなに変わっておらん。
そうなると物語を分けて、そこから合流させても……特に意味がないと思うのじゃよ」
カエル「劇的な大変化が起こったわけではなくて、元の状態になっただけだからね」
亀「これもおそらく色々なジャンルを詰め込んだことによると思う。
ジャンルもたくさんあり、思い入れもたくさんあり、しんちゃん要素もたくさんあり、そして物語も分岐している……けれど、それが多すぎて、尺に入りきらなそうになっておる。
じゃが、それでもまとまってはおるんじゃ。じゃから本作はそこまで大きな破綻はしていない。しかし、だからこそ……小さくまとまってしまい、ドラマ性が弱くなってしまったようにも思うの」
4 ラストについて
カエル「ちょっと直接的にラストについて言及するのもなんだけれど、ここは大事だから語っておこうかな」
亀「わしは父とのゴタゴタに関しては、まあ文句はあるがあれはあれで良かったと思うがの。欠点を欠点とせず、生かし方次第でピンチを切り抜ける……そして異文化の象徴である野原一家と協力して切り抜ける、というのは決して悪いことではない。
まあ、あの父がクズ親すぎるという思いはあるがの」
カエル「勧善懲悪にしろとは言わなけれど、カタルシスとしては弱いよね」
亀「ここのふたりの感動であったり、もしくは親離れした父の悲しみと喜び、和解……そのような複雑な感情が表現できていたら、ロードムービーとして素晴らしい作品となったと思う。
わしはこの手の少年ロードムービーが大好きで『モンスターストライク THE MOVIE はじまりの場所へ(モンスト)』なども絶賛したし、最近では『グッバイ・サマー』などもあったがの、その手の映画にあるような少年期の終わりを告げるようなほろ苦さなどというのは、ちょっと感じられなかったかの」
カエル「しんちゃんが成長するわけにもいかないし、シリリも年齢はよくわからないけれどロードムービーにするには幼すぎる年齢のようにも感じたかな?」
亀「その意味では……こういうとボロクソ言うようじゃが、シリリのキャラクターの魅力というのが伝わってこなかったというのが1番大きいかもしれん。
ロードムービーに肝心の『少年の成長』でいうと、しんちゃん以外で言ったらシリリが成長しなければいけないのじゃが……そこまで魅力がないので、どうにもノリづらい物語になってしまったかもしれんの」
ED後について
カエル「そしてED後についてだけど……いや、わかるんだよ? 子供向けだし、ああいうことになるのはわかるけれど……」
亀「わしは映画館で観て『ええ!?』となったの。
本作のテーマの『異文化交流』ということにするのであれば、あのラストではなくてもっと違うラストであっても良かったと思う。わしはEDのスタッフロールの後、そこで終わっておけばもう少し違う思いもあったのかもしれん」
カエル「あの宇宙人大好きないいお兄さんの家にいる、とかね」
亀「結局あのお兄さんの登場意義もよくわからんかった。非常に重要な役なのはわかるのじゃが……どうにももう少し魅力であったり、物語に登場する意義があればいいキャラクターになれたと思う。
それこそ、合流した時にあのお兄さんの存在というのが重要になる、もしくは宇宙人大好きな知識や思いがピンチを打破する、などいうのがあれば良かったのじゃが……ここも雑に見えたの」
カエル「ゲスト声優の志田未来の扱いもなんだかなぁ……って印象だったし。全くストーリーに絡んでこないじゃない? それどころか、とってつけたような印象で……」
亀「ゲスト声優は後から決まるらしいからの。シナリオが完成した時には、すでに入れる隙がなくなっていたのじゃろうな。
その意味でも『ユメミーワールド』は夢の世界ということでなんでもあり、ということじゃから、取り入れ方もうまいなぁと思ったものじゃがの」
最後に
カエル「結構ダメ出しをしたけれど、じゃあ『見る価値もない!』というレベルでもなくて……1つ1つの描写はいいんだよね。特にロードムービーは絵がすごく魅力的だったし、ホラーのシーンはしっかりと怖かったし!」
亀「じゃからこそ惜しいとも思う。
もっとうまく扱うことができれば、この作品は大きく化ける結果になったと思うのじゃが……そこが残念かの」
カエル「キャラクター映画と作家性の両立とか、やっぱり独特の難しさがあるんだろうね」
亀「わしはやはり橋本監督のガチのホラーが見てみたいが、さすがに2作続いたようなものじゃし、次はやめるかの?」
カエル「しんちゃんでトラウマを持ってもねぇ」
亀「じゃが、過去のしんちゃんは結構怖いシーンもあるからの……有名なものではテレビで放送するとき、あまりにも怖すぎてカットになった話もあるし……
昔は『学校の怪談』や『ゲゲゲの鬼太郎』などの怖い子供向け作品も普通にあったからの。しんちゃんでやってもいいのではないか?」
カエル「次のしんちゃんに期待だね!」
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