今回はドキュメンタリー映画の『君はなぜ総理大臣になれないのか?』の感想記事となります
ちょうど東京都知事選も終わったことだしね
カエルくん(以下カエル)
「選挙結果は緑のタヌキこと、現職の小池知事の圧勝という……まあ、なんというか、やる前から予想されていた通りの結果になったね。
ただ、ここまで圧勝するとは……」
主
「なんだかんだ、東京って保守派が強いんだろうな。
保守である石原慎太郎が高い支持率を得て長年都知事をしていたし、さらに対抗すべきリベラルな候補が複数人出てしまったら、票が割れてしまったというか。
ガチガチの保守は他の候補にもいるけれど……小池知事の票を割るほどでなかったと」
カエル「あんまり現実の政治に口を出すと荒れやすいので、抑えめにしながら……と言いつつ、うちでは結構、語っているテーマでもあります」
主「なんだかんだ興味はあるから。
ただ政治運動に対する不信感が強いだけでさ。
まあ、そんなことはいいや。とりあえず映画の感想と、そこから考える日本の政治について考えていこうか」
(C)ネツゲン
感想
それでは、Twitterの短評です!
#なぜ君は総理大臣になれないのか
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2020年7月2日
上半期ベスト10に食い込むほど、政治をエンタメとして捉えたドキュメンタリー
選挙戦や政治活動を描きながらも政策などの論争などよりも人間ドラマが深く印象に残る
お父さんが語る「政界は猿芝居だ、猿の方がうまく芝居をする」などの発言に膝を打つ思いがした pic.twitter.com/8aicpcQQQI
上半期映画ランキングを制作する前に観ていたら、TOP10入りしたでしょうね
カエル「今作はヤフー映画レビューなどの大手サイトでも高評価が続出しています。
リベラル寄りの小川議員に迫ったということもあり、やはり現政権や小池都政に不満のある人が高評価を付けやすい映画であるということは語っておきますが、それでもドキュメンタリー映画として、とても面白い作品になったのではないでしょうか?」
主「もしかしたら、2020年は小規模ながらも、ドキュメンタリー映画が注目を集めた年になるのかもしれない。
近年は『i 新聞記者ドキュメント』などもあったし、政権に批判的なドキュメンタリーが特に元気な印象がある。まあ、ドキュメンタリーって元々政権に批判的な映画が多いのだけれど、そこに注目が集まるということは、やっぱり色々と思うところが多い人がたくさんいるということだろう」
今作は政治劇を語る真面目な映画ではありますが、エンタメとしてとても優れています!
人間ドラマがすんごい面白いんだよ、この映画
カエル「政治を扱ったドキュメンタリーというと、どうしても真面目で難しいという印象があるじゃない。1つ1つの問題を徹底的に追求するというか。
だけれど、この映画はむしろ政治については語るというよりも、小川淳也議員がどのような人なのか、ということに着目し、その悩みなどに迫っていきます」
ドキュメンタリーは凝り固まったイメージを打ち壊した後に人間の内面がそのまま出てくる瞬間が好き
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2020年7月3日
主「上記のTweetもしているんだけれど、ドキュメンタリーの面白さって、自分たちが漠然と抱えているイメージをある瞬間にぶち壊す快感にあると思うんだよね。
例えば……それこそ森達也監督であれば、佐村河内守という人の世間のイメージをぶち壊し、人間である佐村河内守を暴き出した『FAKE』などがそうだと思うけれどさ。
この映画は……特に中心となるのが2017年の総選挙なんだよ。
当時の民進党が希望の党に飲み込まれる形で吸収されてしまい、野党が大混乱に陥った選挙。結局、最後に笑ったのは自民党だったというさ」
カエル「そこでどこから出馬すればいいのか、自分がどうありたいのかと悩む姿が中心だね」
主「幼い頃から父親が政治家ということで恥ずかしい思いをしながらも応援する娘の姿。重要な仕事とは思いながらも複雑な心境を抱える小川議員の父親の姿。
葛藤と、巻き込まれる家族の協力と苦悩を描いた作品だ。
この人間ドラマは観ていて面白い。
それこそ、サラリーマンの葛藤などと同じような面白さがあるんだよ」
今作から見えてきた日本の政治
① 高齢者中心の選挙
ちょっと、今作で見えてきた日本の政治の姿について考えていこうか
香川という土地柄もあるのかもしれないけれど、本当に高齢者ばかりが出てくる映画なんだよな
カエル「小川議員は2003年に32歳という若さで、官僚から政治家への転身を決め、若き青年政治家として出馬します。2017年は46歳ということですが、この年齢は政治家としてはまだ若手に入るのではないでしょうか」
主「日本の政治は高齢者が多いからなぁ。
この映画では選挙戦の様子が出てくるし、事務所の様子なども多く映されている。もちろん、小川議員の家族も出てくるので、2人の娘さんが選挙を応援する姿も映されている。
だけれど、応援に来る人々、事務所に集まる人々の中に、どう見ても小川議員よりも年下だろうという人は、その娘さんしかいないんだ」
カエル「全くの0と言ってもいいんじゃないかなぁ。
途中道を行く学生たちが応援してくれる、わずか数秒のシーンだけが若さを感じる場面かも」
主「元々小川議員が若手として出馬し、まだまだ現職の国会議員としては若手〜中堅ということもあるだろう。
だけれど、そのスタッフは同世代の人がいるとしても、応援演説に集まる人や、事務所に集まる人の多くが高齢者だ。
しかも、ある意味では若手の象徴でもあったはずの小川議員が、年齢を重ねたとはいえ地元でもそんな状況を見ると、若者の政治離れがいかに深刻なものなのかが見えてくるね」
(C)ネツゲン
あまりテレビなどでは見えてこない国会議員の選挙活動の姿が描かれている
政策よりも人柄勝負?
これはこの映画を制作するためなのかもしれませんが、政策論争のシーンが少ないのかな、とも思ったかな
この映画を見終わった後に、小川議員がどういう立場で、どういう政策をやりたいのかがあんまり伝わってこない
カエル「序盤では安倍政権に近いとされるジャーナリスト、田崎史郎が登場します。当然民進党の小川議員とは仲が悪い……と思いきや、意見は合わないものの、案外仲良さげに話しています。
この辺りは安倍政権に対する批判も含めて、観ていてうなづくことも多くて、政治スタンスなどがわかりやすかった部分ではあるよね」
主「たださ、それは民進党の議員であり、安倍政権を追求する野党の議員としては当然の姿とも言える。
とてもいい視点で話しているし、小川議員の政治観が伝わってくる部分とは言えるかもしれない。
だけれど……この映画のタイトルにもあるように『総理大臣になりたい』とは語るんだけれど、じゃあ総理大臣になって何をやりたいのか、その政策はどのようなものなのかという点については、何も伝わってこなかったんだよ」
つまり”リベラル寄りの野党である民進党の議員”としての姿ではなく”小川議員の政策”が見えてこなかったと
これは日本の政治映画の欠点と言えるのかもしれない
カエル「結局は、政治論争などの難しい話を中心とするよりも、その議員の人間性を中心に描こうとする点かなぁ」
主「もちろん、エンタメとしてはそっちの方が面白いから、悪いとは言わないよ。
だけれど、やっぱり情に訴えかけるしかないんだろうなって。
家族の問題を出し、人間性の問題を出し……というのは、誰にでも伝わり易くてわかりやすい。
だけれど『無所属だとできることが少なくなる』とは語りながらも、具体的に何がしたいのかは全くわからない。
あとは、小川議員は『前原さんほど右ではないが、枝野さんほど左ではない。中道をいきたい』と語るんだよ。確かに中道の考えは日本人には馴染みがあり、バランスもよくて聞こえはいいものかもしれない。
だけれどさ、政治を志す人が”中道”というと、それって聞こえはいいけれど、中身がないんじゃないかな? って思いがある」
カエル「安保問題の中道的解決策とは何か?
沖縄問題、原発問題、アメリカや中国との関係性における中道ってなんだ? って議論になってしまうのかなぁ」
主「たぶん、多くの人が自分のこと中道って思っているんじゃないかな…‥。だけど政治的な決断をした時に、どちらかに偏ると思うんだよね。それを重ねていくのが政治ってものだと思うだけれどなぁ」
以下、後半に対するネタバレがあります
政治家に求められる資質とは何か?
若い頃の思いから変わってしまった、小川議員
多分、この映画を評価する人は『小川議員みたいな人を総理大臣に!』という思いの人が多いと思いますが、うちはその見方をあまりしていません
……若い頃の思いから変わっていく人を捉えた作品だと思っているんだ
自分は世間知らずの熱い青年が魑魅魍魎の住処である政界に長くいることで自身が魑魅魍魎になってしまった皮肉の話にも見えた
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2020年7月2日
終盤の名演説は確かに胸にくる
だが自身も様々なしがらみがあり、意に沿わない行動をしたじゃないか、と見た
かつての自分の50歳に引退の公約を自嘲気味に笑う姿に涙が浮かぶ
そうだよなぁ…誰もが自分のやりたいこと、国や守りたいもののために政治家になったぱずなんだよ
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2020年7月2日
だけどいつの間にか魑魅魍魎の妖怪に成り果てる…変化しない人間はいない
序盤の30歳頃の小川議員には親近感を抱き拍手喝采したい気持ちが湧いたがラスト付近では遠い人に感じられた
カエル「初めて選挙に出たときは勢いがあり『50歳には引退する!』と言っていました。
おそらく今年辺りに50歳を迎えると思いますが、もちろん現職の国会議員を続けています」
主「それが悪いとは言わないよ。
多くの人の信任を得て国会議員をしている以上、引退というのはカッコいいようでありながらも、実は自分勝手な美学と言えるかもしれない。
確かにフランスではマクロン大統領が39歳で就任、アメリカのオバマ大統領も47歳で就任、今でもまだ60歳になっていない。
日本の場合は戦後では第一次安倍内閣の時の52歳が最も若い。
野田佳彦元首相の就任時では54歳だから、可能性が0とまでは言わないけれど、50歳で引退というのは、よほどのことがなければ総理大臣になれないんだよ」
安倍首相は地盤、看板、カバンがある、血筋も政界のサラブレットだけれど、小川議員もそうではないから、50代で総理大臣も相当難しいんじゃないかなぁ
だから、まだ政治家を続けているのは当然の判断なんだよね
カエル「映画の中で『過去の自分は本気で言っていたら馬鹿だよね。ただ胸にチクリと刺さるものがある』と語っていたのが印象的だったね」
主「自分はここに人間の性質を見た気がする。
世間知らずでも理想に燃えていた若き青年政治家が出馬し、魑魅魍魎の住処である永田町で戦っていたつもりが、気がつけば自分が魑魅魍魎の1人になっていた……というね。
自分は若い頃の小川議員の志や、あるいは前半の言説にはすごく納得した。
だけれど、後半は別人になったようで、観ていてちょっと辛くなってきたというのが本音かな」
(C)ネツゲン
”カメラの存在”が暴き出すドキュメンタリー
ドキュメンタリー映画で重要視しているのが、テレビ画面や撮影風景を撮るシーンという二重で撮られる構造です
カメラの存在をどこに設定するのか、という問題だ
カエル「うちではよく語りますが、ドキュメンタリーはカメラの存在がある以上、盗撮でもしないと本当の意味で素の対象の様子は撮ることが難しいでしょう。
そして公式の場……本作でいえば、希望の党から出馬を決めた会見や国会での答弁などを捉えたカメラは、ドキュメンタリー映画のカメラとは別物です。
- 素の対象の姿→撮影をされていない、最もリラックスした姿
- ドキュメンタリーの対象の姿→本作のほぼ全編にわたる小川議員の姿
- 公式の対象の姿→記者会見や国会答弁を行う小川議員の姿
という構造になっています」
主「イメージが凝り語った公式の姿を、ドキュメンタリーのカメラで壊して人間性を炙り出すんだよね。
で、とても当たり前なんだけれど、公式の場での小川議員の姿は、どこからどう見ても政治家の姿なんだよ。
こういう変わり身の巧さというか、言葉の使い方の巧さというか、そんなところも政治家らしいなって納得した」
希望の党から出馬を決めた時の会見の様子と、その本心を語る車のシーンでは別人のようだったよね
そこにいるのは理想に燃える青年政治家の姿ではなく、”党に縛れられている政治家の姿”でしかないんだよね
主「自分はすごく意地悪な見方をしたけれど、この映画の後半で立憲民主党の議員として、安倍政権を追求する頼もしいシーンがある。明確な答弁を記録できていないし、見つけ出せなかったので記憶によるものになるけれど『国会議員のとして圧力をかけるなど、官僚に介入しているのではないか』という内容だったと記憶している。
しがらみがあるんじゃないか? って話だよね。
だけれど、小川議員自体も当時の前川民進党党首の最側近として、小池都知事に疑念を抱きながらも希望の党への入党を決めた。
自らの信条と政界の義理、そして立身出世のための振る舞い方に悩んだ人である。
つまりさ……実は、統計不正などに関与した官僚と同じような悩みを抱き、同じようにしがらみのままに行動したのではないか? という疑念だよ」
カエル「あくまでもそういう見方もできるという話です」
主「どうだろう、監督にその意図があったのかはわからない。
緑のたぬきによって苦しめられ、余計な一言で苦境に陥ったことに恨み節がありつつも、でも無所属で出るということはできないというジレンマ。
ここは仮定の話だけれど、小川議員が官僚のままいたら、今の安倍政権の統計不正に関与しなかったと言い切れるのだろうか? という疑念が生まれた。
でもさ、それが人間だと思うんだよ。
ボクはその点は人間としてありうる行動だと思うし、指摘はしたけれど非難をするつもりはない。
その意味では、この映画はリアル『新聞記者』として成立しうる作品なのではないかという面白さだね」
(C)ネツゲン
ドキュメンタリーのカメラの前の姿とはまた違う、会見での政治家としての姿
理想の国会議員の姿とは何か?
この映画を見た後には、みんな色々なことを語りたくなるのではないでしょうか
自分は政治家に求める資質とは何か? という思いがよぎった
カエル「小川議員はとても情熱的で、まだまだ若々しく、演説も上手い議員さんだよね。応援したくなる気持ちもわかるなぁ」
主「う〜ん……自分はちょっと考えるかな。
理想に燃えている若き政治家というと聞こえはいいけれど、歴史を見ればロペス・ピエールやモハメド・シアド・バーレのような、純粋な改革を志した結果、暴君となってしまった政治家もいる。
もちろん、彼らと小川議員と同一視するつもりは一切ないけれど、若いとか、希望に燃えているとか、弱者の味方、質素倹約というと理想の政治家のようであるけれど、人は権力や金銭を手に入れると変わってしまう可能性もある。
人間は環境に左右されやすい動物だからね。
また鳩山由紀夫元首相はお坊ちゃんタイプというか、人柄がとてもいいという話もあるし、麻生太郎もタイプは異なることも人誑しだという話がある。
どちらもサラブレットと言えるほどのお坊ちゃんだよね。
彼らの政治の評価は難しい面があるが、賛否はあるだろう」
カエル「”有能な悪人か、無能な善人のどちらを選ぶのか”なんて問いもあるかもしれないけれど、そんな単純に割り切れるものではないよね……
たださ、それを言い出すと、人を判断する基準ってなくない?」
主「だからこそ、選挙でその都度ごとに判断するしかないのだろう。
人は必ず変わっていく。威勢のよいことを語っていたり、あるいは弱者のための政策を実行すると言いながらも、そうしないことだってある。
その都度ごとに国民がきちんと判断し、意思を選挙で表明する……結局ポピュリストが勝ってしまうとか、知名度優先とかの様々な問題があるかもしれないけれど、現状それ以外外で政治家を選ぶことはできないという話だね」
最後に
では、この記事を終えましょう!
政治劇としては、相当色々なことを考えることのできる良い映画でしたね
カエル「最近はTwitterでも政治運動のタグが増えているよね……Twitterユーザーとしては迷惑だなって思うこともあるけれど、少しずつ政治が浸透してきているということなのかな?」
主「たださ、面白いのは日本のTwitterトレンド1位がPP天使こと天音かなたが3D化したことだったんだよね。
東京都知事選よりも注目度があるアイドルというか。
元々オタクが多いTwitterで、しかもネットアイドルの晴れ舞台ということもあるだろうけれど、面白い現象だよね」
カエル「それが良いのか悪いのかって話だけれど……」
主「結局は都知事とはいえ、東京以外の人は見ているしかできないってのもあるのだろう。
個人的にはそれでも良いと思うけれどね。日本が平和な証拠とも言えるしさ。
むしろ、トレンド1位でも自分のTLだとホロライブ勢以外があんまり呟いてなくて、やっぱりTwitterって狭い世界の話なんだなぁと思い知ったよ。
超かわいかったんだけれどな。3DCGアニメの萌えについて考える良い題材でもあるしさ……」
カエル「あれ、結局ホロライブのことが話したいだけの記事だったのか、これ?」