カエルくん(以下カエル)
「人気の漫画家、押切蓮介作品が初めて実写化されたよ!」
主
「結構好きな漫画家だから注目していたけれど、評判も上々みたいだね」
カエル「押切作品は今後も『ハイスコアガール』がアニメ化を果たしたり、注目度が高い作品だね」
主「正直、ホラーやバイオレンスは苦手なところもあるけれど、押切蓮介は好きなんだよね。『ピコピコ少年』などもハマって読んでいたこともあるし、コメディーもうまいし。
あと、あの独特のキャラクターデザインが癖になる」
カエル「では、そんな押切蓮介の映画化作品はどのように仕上がっていたのか、感想といきましょう!」
作品紹介・あらすじ
『ハイスコアガール』などの人気作を次々と発表している押切蓮介のバイオレンスな作品を『ライチ☆光クラブ』などバイオレンスな映画を次々と発表している内藤瑛亮監督により実写化を果たした作品。
学生が主人公の作品ということもあり、主演の山田杏奈は今作が初主演となるなど、若い面々が顔をそろえる。
東京から引っ越してきた野崎春花は廃校になることが決定している中学生に転入してきたが、そこでは激しいいじめを受けていた。親も教師に対してなんどもいじめを訴えていたが、廃校になること、残り数ヶ月で卒業ということもあり、相手にしてもらえない。
家で引きこもりがちになっていたある日、いじめがエスカレートしてしてしまい、取り返しのつかない事態へと発展してしまう。
そして春花はクラスメイト達への復讐に向かうのだった……
1 感想
カエル「では、Twitterの短評はこのようになっています」
#ミスミソウ
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年4月8日
意外と平気だったのは原作を読んでいたからで、かなり暴力描写はエゲツなかった……原作通りだけど知らなかったら帰ったかも
いやー、思うところもあるけれど良かった!
特にあの改変は鳥肌もので……あれが見たかった!
主「自分は原作ファンだったのでどのような内容か知っていたから大丈夫だったけれど……何も知らない人が見に行ったらどのような反応をしていたのかな? というのは気になるね」
カエル「内藤監督作品は初だもんね」
主「普段から『バイオレンスな映画は苦手だ』とずっと言っているし、中にはグロテスクな描写にすることを目的としていて、映画として何を描きたいのかわからない作品もある。
内藤監督作品がそうとは言わないけれど、でもホラーやバイオレンスは積極的に観たいジャンルではないので……多分、今回も押切蓮介の作品でなければ、見ることもなかったかもなぁ」
原作からの改変
カエル「それでもちゃんとハマったんだ」
主「むしろ本作は原作を読んでいるとより大きくハマると思う。
よく『原作通りに作れ!』という人がいるけれど、自分はそれに反対していて……映画には映画の骨法や魅力があるから、原作通りに作ることが必ずしも正しいとは限らないしね。
本作は原作に忠実でありながらも、新しいミスミソウの形を見せてくれた」
カエル「新しい形?」
主「自分はミスミソウの原作も好きだし、推しているけれどさ、だけれど完成度の高い作品かと言われると、それは違うと思う。
漫画にはよくあるけれど、最初から最後までしっかりと計算されてカッチリと作り込まれたタイプの作品ではない。
むしろ、その逆でその場の流れに任せて製作される、言うなれば『デビルマン』タイプの作品だろう。
だからさ、正直言えば最初のキャラクター設定と後半のキャラクター設定の乖離もあるように思えた」
カエル「それも含めて味の1つなんだろうけれどね」
主「だけれど、本作は最初から結論が出ているから、そのラストに向けて作品を作ることができるわけで……それもあって、そこまで違和感がなく作り込まれていった印象もあるね」
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役者について
カエル「では、役者についてはどうだった?」
主「基本的には若手のまだそこまで売れていない役者も多いから、少しは覚悟していたけれど……でも悪くないよ。
特に主人公の春花を演じた山田杏奈はすごくいい!
途中から寡黙になるキャラクターなんだけれど、それによってより稀代の美少女であるのが伝わってきて……もう、この作品の中で特別な存在であることがはっきりと伝わってくるよね」
カエル「けっこう高評価が相次いでいるよね」
主「さすがに美男美女が田舎町に多すぎるとか、中学生なのに垢抜けすぎているとかはあるけれどね。
その点でいうと、ちょっと割を食ったかなぁ……と思うのがクラスメイトで中心人物の小黒妙子を演じた大谷凛香かな。彼女の役はけっこう難しいと思うけれど……原作通りとはいえ、ビジュアルの面でも違和感があったかな」
カエル「田舎町の中学生で一人だけ明らかに染めているような金髪は目立つよね……元々素行が良い方でもないし、学校も放任主義とはいえ、あれじゃあまりにも中学生らしくなくて、違和感が大きいというか……」
主「これは彼女が悪いわけではないけれどね。重要な人物であるというのが一発でわかるビジュアルではあるけれど……それが映画としてハマったか? と言われると個人的には微妙かな。
でも全体的には良いよ。
子役の演技だけはちょっと受け入れがたいところがあったけれど、それは邦画全般に言えることだし」
カエル「世間的にも評価が高いのも納得の作品だね」
以下ネタバレあり
2 攻めたバイオレンス描写
カエル「では、ここからは作中に言及しながら感想といくけれど……まずはあのバイオレンス描写だね。
この作品の1番の売りでありながらも、しっかりと見せてくれていて……特に背景が真っ白な雪の中で、赤い血の色がつくのは、すごくいいコントラストになっていたなぁ」
主「今作は演出面でも凝っていて、原作通りでもあるけれど痛々しいところを見せるんだよね。それが良いか悪いかは作品によるけれど、本作はそれで正解でしょう。
目を攻撃された後の反応などもリアルで、観ていて『う……』となる部分もあるけれど、それが結構リアルに感じられたり」
カエル「先生がいじめ問題を放置しているけれど、チョークで黒板に書く時の筆圧の高さとなどで苛立ちを表現しているのもすごく良かったよねぇ。あれだけで色々な思いが伝わってくるものだし」
主「そのあとで吐く描写があるわけだけれど、その時もどうしようもなく我慢できなくて戻してしまう、南先生の異常性とストレスの大きさなどもしっかりと伝わってきたね」
ここからスタートするバイオレンス描写が見どころの1つ!
退屈な田舎町のストレス
カエル「それと同様に作中での『娯楽が何もない』という言葉にもあるように、あの環境がひどく閉鎖的なものであるというのも大事な要素で……本作はそれも嫌という程伝わってくるなぁ」
主「中学生って1番残酷な時期かもしれない。
自分の経験でもそうだけれど、体は大きくなって大人と変わらない、もしかしたら一般的な大人よりも動いている分、力が強い部分もある。だけれど心はまだまだ不安定な思春期であり……残虐なことにも興味を抱いてくる年頃でもある」
カエル「大人になるともっと分別がついたり、あるいはやりすぎると警察にやっかいになって人生が……というリスクもあるけれど、中学生はそこまででもないものね……」
主「残虐な動画や武器などに手を出し始める年齢でもあると思うんだよね。
その退屈をしのぐためにクラスメイトに向かい、そしてその行為がエスカレートしていく……それ自体は、多分どこでもあることだろう。
大人であればブラック企業にいると感覚が麻痺していき、1日12時間以上の労働でも普通に思えてくるようなものでさ、人間はその異常な環境に慣れてしまう。
その『慣れによる暴走』 というものがよく描けていたんじゃないかな?
もちろん、暴力を煽るような描写はあるとはいえ、その根幹にある普通の人の感情をよく捉えている作品だよね」
雪の白と春花の赤のコントラストに、登場人物の制服の黒がよく映える
視覚的にも計算された作品
色の演出
カエル「目に付いたのがここなんだよね……春花は赤いコートを羽織っていて、それが返り血を浴びても目立ちにくいようにしている。そしてクラスメイトたちは制服が多いけれど、その多くが黒色で……このコントラストもまた美しかったなぁ」
主「やはりこの赤というのは憤怒の色、復讐の色ということができるだろう。
クラスメイトたちの黒は罪の色と言えるかもしれない。
そして妙子は重要なシーンで真っ白なコートを羽織るんだよね。
ここは原作と大きく変えてきているし、雪の中であれだけ真っ白なコートを選択するというのは作為的なものでもある」
カエル「他の生徒はもしかしたら特に深い意味はなく、自然に見えるものを選んだとしても……この春花の赤いコートと妙子の真っ白なコートは意味がありそうだね」
主「もちろん、白に対して映える赤を用意したという色彩の美を追求したのもあるだろうけれど、作中における妙子に対して春花が抱く感情、そして春花に対して妙子が抱く感情を色で表現したというのもあるんじゃないのかな?
またさ、流美が黄色い服を着ていたけれど、黄色という色は危険、注意を促す色でもある。信号の黄色や小学生の被る黄色い帽子などもそうだよね」
カエル「それだけ目立つ色ということもあるんだろうけれど……」
主「本作は色についてかなり練られているという印象があって、おそらく作為的な意味がある。
そこに注目して観るとまた面白いものがあるね」
原作では白い防寒着を羽織るのに対して、映画版では色を赤に変更している
原作からの改変について〜愛の物語〜
カエル「そしてこれは原作ファンの意見になるけれど……あの改変は痺れたねぇ」
主「はっきりと言わせて貰えば、あれこそが自分が望んでいたミスミソウの終わらせ方でさ……
原作もいいんだけれど、あの終わり方が理想だな、って思っていた部分もあった。
先に言ったように、原作も最初から最後まで考え抜かれた物語ではないと思うんだよね。もし本当にそうなら、妙子の描き方などがあまりにもおかしいように見える」
カエル「序盤の妙子の描写なども、もうちょっとマイルドな形にはするのかな?」
主「その刺激的なシーンで作りこむことが、バイオレンスの魅力ある物語につながったとは思う。だけれど、やはり押切蓮介はこの作品で愛を描くことにはそこまで成功しているようには思えない部分もある。
だけれど、本作はそのラストを大きく変えることによって、その味わいが変化している」
カエル「より『愛』とその反面の『憎しみ』に焦点を絞って、しかも最後に切なさも兼ね備えた形だよね」
主「この変化って自分は『ハーモニー』を思い出すんだよね」
主「この作品も伊藤計劃は魅力的な物語を作り上げたけれど、それでも主人公たちの2人の特別な関係性を描くということには、あまり感じなかった。それを映像化した時に見事にその要素を強くすることができているんだよね。
で、本作も同じで……原作ではバイオレンスと復讐メインだった物語に愛を加えている」
カエル「それが単なるバイオレンスな物語で終わらせなかった要因だよね」
主「自分は暴力的な作品は苦手だけれど、その暴力の後に何を描くのか? ということが大事だと思っている。
例えば北野武や深作欣二の暴力は描いているが、その奥では命の儚さや暴力に対する抵抗も同時に描いている。暴力やバイオレンスは単なる演出手法の1つでしかなく、目的ではない。
今作はその大事な部分を、原作通りのバイオレンスでありながらも達成した作品と言えるだろうね」
最後に
カエル「いやー……漫画原作作品の良い実写化がまた生まれたね」
主「確かに理想的な形かもしれないね。大筋は変えることなく、大胆に再構成して、だけれど映画版ならではの演出と味をつけるというさ。
元々長さも全2巻で、そこそこ登場人物は多いけれど物語も単純な構造でありながらも、深みもあるという実写化向きの作品だったろうけれど……」
カエル「公開規模はそこまで多くないけれど、これはバイオレンスな作品が大丈夫な人には鑑賞してほしい作品だったね。
ぜひお近くの映画館で公開している方は、この雪解けの春にふさわしい映画になっているので鑑賞してください」
主「……そんな春らしい爽やかな物語じゃないけどな」
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『ミスミソウ』などのホラー・バイオレンス要素の強い作品も多い押切蓮介ですが、私は特に『ハイスコアガール』や『ピコピコ少年』などのゲーム漫画をオススメしています。
コメディ要素が多くて、ゲラゲラと笑える作品に仕上がっています!