ブログ主(以下主)
「……なんかさ、今月めっちゃ忙しんだよね」
亀爺(以下亀)
「まあ、夏休みシーズンじゃからな。いい映画がたくさん公開するのは当たり前じゃろう」
主「それもそうなんだけれどさ、アニメ映画がめちゃくちゃ多いからさ……
最近アニメ映画しか語ってない気がする。まあ、それはそれでいいんだけれど、邦画なども見に行っているよ! ということでこう言う記事を書いてアピールしないと!」
亀「誰にアピールするのかよくわからんがの……」
主「今年は邦画があまり話題にならなくて、アニメ映画すらもほとんどいい映画はオタクむけ映画ばかりという印象があるけれど、決していい邦画がないってわけではないんだよね。
ただ、そのほとんどが小規模公開映画であって……どうしても話題になりにくい状況がある。『心が叫びたがってるんだ』の記事でも書いたけれどさ、今の邦画には『分かりやすいことが大事』という悪癖があって、説明的すぎるくらいに不自然なナレーションや説明台詞の連呼、余計な回想、ありきたりで教育的な着地点などで映画の魅力や味を損なっている印象がある。
コクソン見てみろよ!
あんなわけわからん映画でもメチャクチャ面白いから!
だけど、小規模公開映画は作家性が発揮されるからそういう映画はあまりないんだよね」
亀「その分、博打みたいなところもあるがの。見に行ったら予想と全く違うとか、予想すら出来ない映画などザラにあるしの」
主「でもそういう映画を探す楽しみもあるよね。
というわけでは今回紹介するのは小規模で少し注目度は落ちるかもしれないけれど、良作だな、と思った2作。もしかしたら女性の方が受けるかもしれないね」
亀「地方の方などはなかなか見るのが難しいかもしれんが、名前だけでも覚えてDVD化された時になど是非鑑賞してほしいの」
主「では感想記事を始めます」
世界は今日から君のもの
音楽はあの川井憲次が手がけています
作品紹介
『特命課長只野仁』シリーズや、最近の映画では『結婚』などの脚本を手がける尾崎将也の長編監督作品第2弾。
主演は門脇麦、父親役にマキタスポーツ、母親役にYOUなどの個性的なキャストが脇を固めている。
高校生の頃から5年間引きこもりを続けていた小沼真実は工場のバイト先をクビになり、父親が見つけてきたゲーム会社のバグを見つける(デバッカー)のアルバイトを始める。ひょんなことから会社で制作中のゲームの企画案を入手した真実は引きこもり中にずっと絵を描いたいたこともあり、キャラクターに独自で手を加える。
そのキャラクター案が話題となり、騒動が巻き起こっていく……
感想
亀「では、まずは感想から始めていくとするかの」
主「基本的には冒頭でも述べたように良作だと思う。
個人的には思うところがあるけれど、コメディタッチで軽く見ることができる作品に仕上がっているし、劇場内では笑い声も上がっていた。
自分はそこまで笑えなかったけれど、コメディって個人の笑いのツボが違過ぎて難しいところもあるからそれは仕方ないと思う。
何よりも主演の門脇麦がすごく可愛らしい!」
亀「引きこもりで引っ込み思案、他人とうまくコミュニケーションをとることの出来ないオタク少女を見事に演じておったの。彼女の魅力を際立たせたアイドル映画としてもなかなか面白い1作と言えるかもしれん」
主「映画の中の世界では、主演の女の子は世界一の美少女になることが重要なこともあるけれど、本作はまさしくそう。この映画は門脇麦のための映画になっていたし、その魅力を引き出すことができていた。
それと、脇を固める心配性のお父さんのマキタスポーツも中々の演技だったし、YOUの自活する現代的な母親像もあっていたんじゃないかな?
軽い映画だけれど、多くの人に受け入れられる余地はある作品に仕上がっていると思う」
亀「ふむふむ……では、そこまで文句はないんじゃな?」
主「う〜ん……でもさ、そうは思いつつも自分は全くのれなかった部分もあって……やっぱり少し安っぽいところはあるよね。
劇中でサバイバルゲームをする描写があるけれど、明らかに弾が発射されていなくて音でごまかしていたりさ。そういう描写を見るたびに冷めてしまうところがある」
亀「危険であったり、弾などでカメラが破損する可能性があるからということかもしれんが、そのような細かい描写が現実感をなくし、チープな作り物感につながってしまったということかもしれんな。それすらもコメディ要素として受け入れられたら笑えるのかもしれんが……」
主「あとは、やっぱりアニメ好きとして疑問に思うのが本作で重要なキャラクターデザインの要素でさ。ゲーム会社で勤務しているから、おそらくその会社で製作したであろうキャラクターのパネルが置いてあるわけよ。で、そのパネルが現代的な萌えの要素があるキャラクター像なわけ。
一方、作中で真実が手を加えるゲームのキャラクターデザインが、その業界では大御所のデザインらしいけれど……それがさ、20年前ぐらい前のデザインに見えるのね。 PS1などの時代。
キャラクターデザインから一切ワクワク感や現代感がなくて、作る前から売れないなってわかる。そういう細かいところが気になったかな」
亀「オタク的表現がおざなりであったということじゃな」
主「あと細かいところではずっと光が撮られていて、画面が明るいんだけれど……それもイマイチだった。
こういうのはメリハリだと思うんだよね。ずっと明るいとさ、何がやりたいのかわからなくなってくる。成長したシーンや、問題が解決したシーンが明るいのならわかるけれど、引きこもっている時や脚本でいう谷の時……沈んでいる時も画面が明るいと、違和感しかなかったかな」
門脇麦の可愛らしさが溢れています
引きこもりと才能論
亀「この作品の真実と主では同じオタクであってもタイプは違うからの。あちらは引きこもりで絵ばっかり描いている、ステレオタイプのオタク像じゃが、主は一応引きこもった経験もないし、このブログを書くなどのオタ活もしているしの。
その意味では相容れないのも当然かもしれん」
主「まあ、それもあるんだけれどね……
本作の意義はわかるんだよ。
引きこもりの人間であっても、才能がある人もいる。社会に通用する才能を持った人もいて、それを発揮する場所がないだけだという意見もある。ちょっと前に引きこもりが色々と語られた時、彼らは眠った才能を持った可能性の塊であると語った引きこもり専門家もいた。
その意見には……まあ、賛同するところもある。
だけど、本作が示した事柄にはちょっとなぁって意識もある」
亀「ふむ……ネタバレしない程度に語るとどういうところかの?」
主「本作ではゲームのキャラクターデザインを真実が手を加えて騒動が巻き起こるというのが話のスタートなんだけれど、結局さ、それって才能論じゃない?
自分は『僕と世界の方程式』という1月に公開した自閉症を扱った映画をとても高く評価しているけれど、その理由は自閉症=天才という意識からの脱出を描いたからなんだよ。
近年は自閉症の登場人物が出てくる作品も多いけれど、そのほとんどがやはり天才なんだ。天才であることの説明として自閉症が使われている。これは『パワーレンジャー』でも出てきたね。
でもさ、その意識が却って自閉症であったり、本作で言えば引きこもりの人を苦しめることにも繋がってくる」
亀「普通に考えたら自閉症の人や引きこもりの人の9割は天才ではないし、何らかの才能があってもそれでお金を稼げるかは別じゃからの。虫とりの天才であったとしても、それでお金を稼ぐのは難しい。
引きこもりなんて特にそうで、学歴がなくてもそれをカバーできるほどの才能があれば、そもそも引きこもりになるだろうか? という思いもあるの」
主「まあこれは自分が絵も描けない、お金を稼ぐほどの何らかの才能のないオタクだからということもあるかもしれないけれど……結局引きこもりからの脱出法が才能論に終始してしまうのかぁ、という思いがある。
それだけの才能があれば……ゲーム会社というプロを圧倒するほどの才能があれば、確かに引きこもりからの脱出はできるかもしれない。
だけど、その才能がない人たちの方が圧倒的多数であり、そちらの苦しみに対しては何も解決策になっていないどころか、余計に苦しませる結果になっている気がする」
亀「そういう細かいことを考えずに、1人の女の子が他者と出会い、成長して社会に飛び出していく映画というふうに考えれば、納得もできるいい映画なのじゃろうがな」
彼女の人生は間違いじゃない
作品紹介
このブログでは高く評価した『PとJK』や近年では『オオカミ少女と黒王子』『余命1ヶ月の花嫁』などの若者向け映画の印象も強い、福島県出身の廣木監督作品。自身で筆をとった処女作を自ら映画化した。
福島第一原発の事故を受けて避難生活を送る福島の人たちを主人公とした作品。
避難先の仮設住宅にて父と2人で暮らすみゆきは市役所で勤務する傍ら、高速バスで東京へと向かいデリヘル嬢として働いている。一方、農家だった父親は畑も失い、補償金で毎日パチンコして暮らしていた……
みゆきと父の2人にスポットを当てながら、福島で暮らしていて避難している人たちの『今』を描く。
感想
亀「さて、お次は福島県の東日本大震災をテーマとしたこちらの映画を取り上げるかの」
主「基本的にはいい映画だと思う。
やはり福島出身の監督が自ら小説を描き、メガホンをとっただけのことはある。廣木監督は上記のように若者向けのスイーツ映画の印象が強いけれど、元々はピンク映画出身の人でもあるんだよね。その時の経験が生きて女優の撮り方が美しいし、主演の瀧内公美の魅力を引き出していた」
亀「今作はデリヘルのお話ということで脱ぐシーンもあったりと中々過激な描写もあったが、理性的で煽るようなこともせず、静かに撮っていたという印象じゃの」
主「濡れ場も美しいよね。AVとポルノ映画の違いって扇情的で煽るように濡れ場を撮るのがAVだとしたら、ポルノ映画はそう言った描写を美しく撮ることにあると思う。もちろん、優れたAVもまた女優を美しく撮るんだろうけれど……
それ以外でも福島の仮設住宅で暮らす人々の悩みであったり、それまでの生活を奪われた人の苦悩などもしっかりと描かれている。
震災後の……今を描いた映画として、重要な作品なんじゃないかな?」
亀「もちろんエンタメ要素はあまりないから、若干退屈に感じる人もおるじゃろうが、この問題に関心がある人には深く突き刺さる作品になっておるの」
主「それに、女性向けな作品だな、という印象もある。
高良建悟が相変わらずかっこいいと言うのもあるんだけれどさ、主人公のみゆきの心情が分かる人もいるはず。
ただ……個人的には違和感がある作品でもある。だけど、その違和感は個人的な思いからくるものだから、多くの人には刺さるんじゃないかな?」
瀧内公実の美しさが光る
ちょっとだけ違和感
亀「では、その違和感について語るとするかの」
主「う〜ん……これはちょっと語りにくい話だけれど……
自分はさ、東日本大震災について福島と原発ばかりが注目されているような気がする時もある。もちろん、かつてない被害があり、今でも避難している人もいる。風評被害だって問題だし、それだけのことだったのは分かる。
だけど、どうにも東日本大震災を語るとなると……それは福島県を語ることになっているような気がしてしまうような、ね……」
亀「本作は福島出身の監督が撮った、福島の映画じゃから当然のことであるがの」
主「だからこの違和感はイチャモンですらない、個人的なものだけれどさ……
知り合いに宮城県石巻市出身の人がいるのよ」
亀「東日本大震災でも壊滅的被害を受けた代表的な場所の1つじゃな」
主「その人は家族は大丈夫だったけれど、それ以外は全てを失った。氾濫した北上川のすぐそばにあったらしくて、自宅も職場もお墓も全て流された。もちろん生活は一変したし、仕事もないわけだよ。
そんな中で地元に残ってもしょうがないねぇよな、って話を聞いていたけれど……土地があんなことがあった上に塩でやられているから、地価が下がっているわけだ。だから自宅跡地を売ろうとしても、お金にならない。
その人の言葉で印象に残っているのは『福島はいいなぁ』ってことだったんだよ。
『福島に住んでいたら補償がもらえる。こっちは同じように故郷がほとんど壊滅して暮らしていけないけれど、そんなに補償はもらえねぇや』ってさ」
亀「……不謹慎じゃが、当時の状況ではそうも言いたくなるのかもしれんな」
主「実際のところ、どれだけお金が払われたのか、国の補償や保険が下りたのかは知らないけれどさ、でもそういう意識があったんだろう。やはりあの震災で現実的に考えると故郷に暮らせなくなった人は福島だけじゃないって思いもある。
もちろん、そんなことを言い出したらキリがないよ。福島も宮城も岩手も……他の地域でも重要な被害を受けている。
でも……人間は他人と比べて時に、そっちも重要な被害を被っているとわかっていても……他人の不幸の上に成り立つものだとわかっていても『羨ましいなぁ』と思うものなのかもしれない」
亀「……結局、その人はどうしたんじゃ?」
主「今はどっかで会社を立ち上げたという話を聞いたから、多分まとまったお金が入ってきたんじゃないの?
それで今が幸せならば……震災が必ずしも不幸をもたらすだけの存在ではないということでもあるのかなぁ……」
濡れ場も美しい
人生と苦悩
亀「それだけが本作の違和感なのかの?」
主「う〜ん……本作の主題であるみゆきの2重生活だけれど、あれって福島の震災はそんなの関係ないんじゃないか?
単なる引き金にしか過ぎないような気がしている。
例えばさ、東電OL殺人事件ってあったけれど、被害者が昼は大企業の総合職のエリートであり、夜は風俗嬢であったという2面性に多くの人が意外性を思った事件があった。
だけど、彼女の気持ちが特別なものなのかというと、決してそういうわけじゃない。彼女の苦悩を、事件から20年過ぎた今でも理解する人っているわけ。
女の幸せって何? ゴールって何? 結局は容姿なの? とかさ。
本作が描いた2面性というのは、あたかも福島の現状であるかのようだけれど、多分そうじゃない。現代の状況の1つであり、別に福島や被災地が特別なわけではない。
普遍的な事柄なのかはちょっと難しいけれど……そう言った状況を描いたのは評価するけれど、なんでもかんでも『福島の今!』みたいな感じで撮ると、違和感があるんだよ」
亀「ふむ……」
主「別に震災以前でも日本は自殺者が3万人はいるわけ。
一説によると日本の自殺者がマックス3万人であり、それ以上は警察の能力が限界でカウントできないから3万人で高止まりしているだけだという話もある。また、病気を苦にしての自殺は病死として処理する場合もあるという話も聞いたことがある。
本作ではお父さんのいいシーンがあるけれど……そのシーンは『マンチェスター・バイ・ザ・シー』という、今年のアカデミー賞で脚本賞を受賞した映画を連想した。
大切な人が亡くなるというのは、別に特別なことではない。今日もどこかで必ず起きている不幸なんだよ。
それがまるで……『福島の今はこうなんですよ』と言われると、自分としては違和感がある」
亀「もっと普遍的な部分を扱った映画にしたほうがよかったのでは? ということかの。
震災を描くというのはデリケートな問題で難しいところも多い。しかも福島の現状を描くという信条はもちろん賞賛すべき部分であるし、評価のされるべき作品であるのは間違いない。多分、どのように描いても誰かが必ず文句を言うであろうしの。
そこを正面から扱ったことに賞賛の声はあってしかるべきじゃな」
2作品に共通するもの
亀「では、せっかくのクロスレビューなのじゃし、何の縁か同日に公開された2作じゃから絡めて語るとするかの。
何となくタイトルが文章形式で似ているといえば似ているかの」
主「どっちがどっちがわからなくなるんだよねぇ……逆でもそこまで中身とタイトルが変わるほどのものもないし。
自分はこの2作は確かにテイストも違うけれど、語ること……言いたいことは似ているんじゃないか? という思いがある」
亀「やはり女性の自立のことかの?」
主「そうだね。
近年ハリウッド映画を見ていると女性の社会進出をテーマとした作品が非常に多くて、ディズニーは女性主人公の場合恋愛要素は全カットであることも出てきた。おそらく、8月に公開される『ワンダーウーマン』もそういった作品になっているのだろうと想像できる。
アメリカ、ヨーロッパ式の考え方に追いつけと日本も女性の社会進出が叫ばれているけれど……じゃあさ、それが果たして本当に女性を幸せにしたのだろうか? という思いもある」
亀「両作ともに恋愛描写もあるにしろ、どちらもそちらがメインとは言い難いの。社会的なテーマ……引きこもりや震災避難民というテーマを元に、どうやって女性が生きるべきなのか? ということを描いた作品ということもできる」
主「今の彼氏のいない独身女性が、どのように生きるか、幸せを掴むのか? という問題は結構難しくて、実のところ女性は社会進出を果たしたいのか疑問に思う時もある。結局結婚こそが女の幸せだ、とする価値観は根強いし、そういう意見も多く聞く。
『彼女の人生は間違いじゃない』に関して言えば、廣木監督は恋愛映画を多く撮ってきた監督だけれど、本作はそういった作品とは少し違うテイストなんだよね。
『PとJK』を見た後だとちょっと面白くて……自分はあの作品を『恋愛映画』ではなくて『男の継承映画』として見ていて、すごく楽しめた。じゃあ本作はというと、守ってくれる男が見つからない女性の物語でもあるんじゃないかな? と」
亀「……恋愛以外の女の幸せのあり方、かの」
主「う〜む……うまくまとまらないけれど、女性が1人で生きるというのは相当に難しいことになるのかな?
どうすれば女性が幸せに生きることができるのか、自立することができるのか……それを見つけることができていない気がする」
最後に
亀「どうにもうまくまとまらない記事になってしまったの」
主「クロスレビューはまだ始めて間もないからなぁ。もっと描いていけば精度が上がっていくかな?
自分はこの2作が描いたものって共通点があると思うんだよ。それをオタク的な女の子を使って、コメディ調に撮ったのが『世界は今日から君のもの』であり、大人向けの真面目な映画として撮ったのが『彼女の人生は間違いじゃない』であって。
その共通点が何かというのが最後に書いたことなんだけれど……」
亀「しかし、女性の幸せな生き方も重要じゃが、男性の幸せな生き方もどうすればいいのかわからんの」
主「相変わらず金を稼いでくるのが男の価値、みたいなものが残っている中で、旧社会然とした『男が守るべき』というマッチョな思想ってあるんじゃないかな?
結局、今の日本の問題って明確なビジョンが見えないことにあると思う。それこそ昭和ならばみんなが富んで経済成長すれば幸せになれるというビジョンがあったのかもしれないけれど、それはバブルと共に弾けたわけだしね……」
亀「……難しい問題じゃな」