亀爺(以下亀)
「今回は才能溢れる子供の教育方針について描いた作品を扱うわけじゃな」
ブログ主(以下主)
「『(500)日のサマー』の監督らしいから、それなりの作品には仕上げてくるんだろうな」
亀「数学の才能に溢れるというのは素晴らしいことじゃな。わしなんて、2桁の掛け算すらも電卓に頼ってしまうわい」
主「これだけデジタル機器に溢れると、頭で計算する機会ってほとんどないからね。すぐにスマホを取り出してパパっと計算しちゃうよ」
亀「特に図形なんて全く意味がわからん。
どこにどう補助線を引けば、角度が求められるのかもわからんし、そうする意義もまるでわからん。そこそこ長い人生の中で、図形の知識が役立ったことなんて1度もないわい」
主「ある種の専門知識だし、図面を引いたり絵を描く人以外はそこまで意識することはないんじゃないかなぁ。空間把握能力がものを言いそうだから、多分絵が上手い人は図形の問題もスラスラ解けるんじゃないの?」
亀「自分が絵が全く描けないことを図形の問題にしているの」
主「うるさい!
まあ、数学に関しては並以下の人間ですから、今回も問題に関してはちんぷんかんでしょうが、そこはあまり深く考えずに観ていきましょうか」
亀「では、感想記事の始まりじゃ」
作品紹介・あらすじ
『(500日)のサマー』などでコンスタントに大作映画を撮影したことでも知られるマーク・ウェブ監督作品。MVを多く手掛ける監督の音楽を担当するのは『明日は最高のはじまり』など近年精力的に活動するロブ・シモンセンであり、作品を支える名アシストを見せる。
主演は『キャプテン・アメリカ』などのヒーロー映画に多く出演するクリス・エバンス。また本作の子供役のメアリーには若干11歳にして10作品以上の映画に出演するマッケンナ・グレイス。
フランク(クリス・エバンス)は娘のように育てている7歳のメアリー(マッケンナ・グレイス)を公立の学校へと通わせる。しかし、メアリーは小学校1年生レベルの問題は全く面白くないほどに数学の才能に溢れている天才だった。
学校の先生も有名進学校への転校を勧めるが、フランクはそれを拒絶する。しかし、ある時フランクの母であるエブリンが現れて、彼女の才能をもっと高めるために1流進学校へと通わせるべきだと提言し、さらに2人の仲を裂こうと画策し始める……
クリス・エヴァンス出演 映画『gifted/ギフテッド』予告
1 感想
亀「では、まずはいつものようにTwitterの感想からじゃ」
#ギフテッド
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2017年11月26日
名作です
途中から涙腺緩みまくり、もう素晴らしいとしか言葉がない
教育とは何か? という人類普遍の命題を扱いながらそれまでの教育制度を振り返り、最高の物語を提示している
何より子役が最高!
もう言葉がないです
主「このブログには『名作・傑作』というタグがあるのよ。これをつけた初めのうちは『あれもこれもいい作品だからこのタグつけよう!』と思っていたんだけれど、こうやって現在進行形で書いていると、結構迷うことがある。
記事を全て書き終えて、さてタグをつけようか、と思った時に……あれだけ褒めていた作品であっても、このタグをつけることを躊躇してしまう自分がいるわけ」
亀「やはり『オススメ作品』となると、その人が一押しするから見に行こうという人もおるじゃろうから慎重にならざるをえないし、あんまり気軽に連発すると却ってタグの意味がなくなるしの。
結局、このタグを使うのはランキング記事や過去作など以外では、月に1作か2作という感じになっているのが現状じゃな」
主「だけれど、今作は何の迷いもなくこのタグを付けられた。
もう考えるまでもない、名作です。
劇場内では鼻をすする音がこだまして、隣の席に座る女性は目頭をずっと抑えていて……それだけの感動が劇場を包んでいた。
もちろん、単なるお涙頂戴な映画ではないんだよ。
それだったら自分もここまで絶賛しない。この映画は脚本、演出、演技、音楽など細部に至るまで優れているし、何よりも『教育』という答えのないテーマについて真正面から考えていたところも評価が高い。誰が見ても納得することのできる作品に仕上がっているんじゃないかな?
今月、1作だけしか見れませんというのなら、間違いなく自分は本作を推すね」
亀「もちろん他にもいい映画はたくさんある……むしろ11月も平均的な満足度は高い作品が多かったのじゃが、その中でも飛び抜けていたということじゃな」
微笑ましく、可愛い親子の物語
名子役マッケンナ・グレイス
亀「そして役者についてじゃが、なんといってもマッケンナ・グレイスの演技力が飛び抜けてよかったの」
主「自分は本当は子役って嫌いなの。子供が嫌いなんじゃなくて、子役の演技が嫌いってことね、勘違いしないでほしいわ」
亀「つい最近も子供が出てくる映画を見ておったが、渋い評価をしておったしの」
主「子役の演技ってさ、全く子供らしくないんだよね。特に日本の子役はそう。台本が見えるし、棒読みだしさ、動きなどもバタバタしていて全く良くない。お遊戯会を見せられる身にもなって欲しいと思うよ」
亀「……まだ子供なのにそこまで言わんでもいいではないかの?」
主「例外は是枝裕和ぐらいかな。是枝作品の子供たちは時折素の表情を見せてくれるんだよね。それは大好きなの。海外はそこまで悪くもないけれど、とにかく、子供は子供らしくハツラツとした演技を見せて欲しいけれど、どうしても子役だと台本などもあるからそうはならない」
亀「ただし、ハマった時はとても好きになるということじゃな」
主「そうだね。今年は3作品子供が素晴らしく良い! と思った映画があって、『LOGAN ローガン』と、正確には2016年公開だけれど今年鑑賞した小規模映画作品で『無垢の祈り』と、そしてこの作品なわけ。
3作品とも今年の主演女優賞ものですよ」
亀「特に生意気そうで大人ぶっていながらも、子どもらしい弱さを残した演技が印象に残ったの」
主「マッケンナ・グレイスって向こうでも天才子役のように扱われているらしくて、多くの映画やドラマに出演しているけれど、それも納得の演技だった。
もちろん、他の役者も素晴らしかったけれど、今回は彼女の印象が強く残った作品だったね」
以下ネタバレあり
2 テーマは教育
亀「では、ここからはネタバレありで語っていくことにするが、まずはなんといっても『教育』といういつの時代も重要でありながらも、正解のない問題について真正面から取り組んだ作品だったのが印象的じゃったの」
主「本作は天才モノなんだよ。つまり、特殊な才能を持つ子供をいかに育てるのが正しいのか? というのがテーマになっている。これはアメリカだけの問題ではなくて、日本でも十分通用する問題になっている。
私立の学校に通わせるのか?
公立の学校でのびのび育てるのか? というのは日本人にも効くんじゃないかな?」
亀「今作では祖母のイブリンがまるで悪役のようになってしまったが、彼女が言っていることも決して間違いではないからの」
主「ちょっと見方を変えてみるとさ、この映画って詰め込み教育がいいのか、ゆとり教育がいいのか? という問題でもあるんだよね。
今ではゆとり教育が間違いだったという風潮もあるけれど、じゃあ詰め込み教育が正解なんですか? と……子供が遊ぶ時間もなく、夜遅くまで塾や習い事を学ぶ環境が正常で正解なんですか? と問われると、決してそんなことはないという人も多いだろう。
だけれど、やはり親としては少しでも学力を伸ばしたり、得意なことを身につけて欲しいという思いもあって……そのせめぎ合いをドラマとして描いている」
亀「だから本作のイブリンを『憎らしい悪役』とは思わないで欲しいの。
彼女の言っておることも1つの正論じゃ。
他の人とはまったく違う能力、個性が天から与えられた場合、それを伸ばすのが親の務めであり、社会への義務であるというのも正しい。そのような才能が時には世界を変えるような大発明をしているのも事実じゃからな」
主「難しい問題だよね。自分の子供がメアリーだったら……多分自分もその才能を育てようとするかもしれないなぁ」
今作に登場する片目の猫の存在感がとても良い
そしてこの絵だけでも本作の魅力が伝わって来る……
作中で描かれた様々な要素
亀「本作では特に小物の使い方が目立ったの。
まずは猫について語っていくが……この『片目の猫』というのがとても重要な意味を持っておる」
主「この片目の猫というのは、もう1人のメアリーでもあるんだよ。
片方の目しか見えないというのは、片方の世界しか知ることができないという意味だろう。
この作品の中で重要なある選択を示唆しているし、さらには片方の親しかいない……母親がいないメアリーのメタファーとも言える。
このネコをメアリーはすごく自慢するんだよね。片目しかないけれど、それもまたイカすでしょ? みたいなことを語るわけだけれど、母親がいないことに対して色々な思いがあるだろうけれど、でもそれに対してイカすでしょ? という態度でいるという意味であるとも言える」
亀「そしてその猫がある重要な転換をもたらすわけじゃが、あのシーンは『メアリーにも同じようなことをしようとしている』という意味にもなるわけじゃな」
主「だから1回解決したように見える問題をフランクは振り出しに戻して、あれだけ怒ったんだよね。
他にも上手いのが『ピアノ』でさ。メアリーはピアノを欲しがるけれど、フランクはそれを拒絶する。そんなお金なんてないからだ。
だけれど、祖母のイブリンの家にも、途中から登場する家にもピアノはあるんだよ。これは『メアリーの望むものを用意できることができる』という意味もある。もちろんピアノだけじゃない。
彼女の才能を満たす環境……一流の家庭教師、一流の学校、一流の環境だ。
それを長々説明することなくピアノ1つだけで語ってしまった。
それからこれは邪推だけれど、MVなどを多く手掛けて、音楽を重要視しているであろう監督からしたらピアノは『才能』の象徴でもあるんじゃないかな?」
3 二つの世界
亀「そしてとても重要なのがこの『2つの世界』についてじゃな」
主「今作はメアリーを満たすために2つの世界のせめぎ合いだということもできる。
1つはフランクがいる……中流になるのかなぁ? そういった環境の世界。公立の学校へ行き、普通の生徒たちと遊び、特殊な勉強はしないけれど、友人などを遊べる、いわゆる『普通』の世界。母親役になるであろう、学校の先生も公立学校の普通の先生だしね。
もう1つはイブリンが用意した上流で選ばれし者の世界。
進学校に通い、その才能を遺憾なく発揮し、勉強が好きなだけできるけれど、友人などは少ない孤独で選ばれし者の世界。
それを象徴するのが黒人の存在なんだよ」
亀「今作でもいい味を発揮しておったのがメイドであるロバート役のオクタビア・スペンサーであるが、彼女をはじめとして今作は黒人が脇役に多い印象もあったの」
主「家族の話ということもあってメインどころはほとんど白人なんだけれど、それ以外はなるべく黒人を出そうという意思も感じた。もちろん、これはアメリカを取り巻く差別的だと言われることを回避するためかもしれないけれど、それ以上に大きな意味がある。
フランクの周囲には黒人が多いんだよね。
ロバータもそうだし、弁護士も黒人、それから中盤の感動的な病院のシーンも黒人家族だった。
一方でイブリンの周辺は白人ばかりなわけ。
これはそのままフランク側は多様性がある社会を、イブリン側は選ばれた一部の人間たちだけの世界……つまり白人たちばかりの閉じた世界にいることを揶揄している。
イブリンの携帯電話の中には10件程しか連絡先がない……寂しい人生なんだよ。それが上流の、選ばれし世界だとも言える。どれほど閉じた社会なのか、彼女の携帯電話の連絡帳だけでわかる」
亀「しかし、ではフランクの方がいい社会なのか? というとそうとも言い切れないわけじゃがの……」
主「公立の学校へ行って相手の鼻を折るくらいの喧嘩をしちゃっているわけだからね。そんなに育ちがいい環境とは言い切れない。
そしてそれは裁判のシーンにも表れているんだよ」
今作の黒人俳優たちの存在が多様性のある『普通』の社会を表している
裁判のシーンの意味
主「今作の脚本が上手いのは、裁判のシーンでイブリン側の弁護士がスーツがピシッとしていて、フランク側の弁護士は『重要なのは技術だ』というセリフがあったけれど、これはそのまま『お金(環境)』VS『愛』ということもできる」
亀「つまりスーツ=お金や環境を持つのはイブリンであり、技術=愛する心を持つのはフランクであるということじゃな。
こう聞くとやはり『愛が大事だ』と思うかもしれん。しかし、現実問題としては金銭的に問題を抱える側よりも、十分な金銭的余裕が有る家庭の方が子供は幸せになるであろうというのは、よく理解できる話であるがの」
主「そんな綺麗事な話じゃないんだよ。
イブリンはそのスパルタな教育方針によって、自分の娘を結果的に自殺に追い込んでいる。社会のためにと思い、そして娘のために教育を詰め込んだ結果、好きな男の存在も許してもらえずに孤独の世界に足を踏み入れることになる。
では一方のフランクの側もある大きなミスというか、過去の経歴に傷がある。それはフランクがそういう社会に属しているから起きたことだとも言える。
色々な人がいる多様性のある社会というのは、危険な人物やおかしな人物だっているし、何かあればトラブルになりやすい社会だとも言える。
じゃあ、どっちの方が子供の教育のためにいいんですか? と言われたら、そんなの正解なんてないんです」
亀「子供がUFCなんて暴力的な番組を愛好している、というのは典型的なアメリカの中流から少し下の階級の家族像じゃからの」
主「WWEやUFC自体はとてもいいコンテンツだけれど、やはりアメリカではそこまで高貴な趣味だと思われていない。日本のプロレスも似たようなものかな?
じゃあ、どっちの状況を選びますか? というのが裁判の意味なんだよ」
船の修理士という仕事もブルーカラーであり、フランクの境遇を象徴している
本当に大切なもの
亀「そして裁判はある決着を見せるわけじゃが……
難しい話じゃの。才能を活かす方が正しいのか、それもと普通であり続ける方が幸福なのか……」
主「一流の科学者や数学者たち……例えば作中でも出てきたラマヌジャンが果たして幸せそうだったのか? と言われると、それは難しいところである。ラマヌジャンについて扱った映画『奇蹟がくれた数式』を見たけれど、決して幸せそうな人生には思えなかった。
やはり有名な研究者たちが幸福な人生を歩んでいるとは限らないわけだ」
亀「ギフテッド……神から与えられた才能が果たして本当に人を幸せにするのかはわからん、ということじゃな」
主「今作を見ながら連想したのが『僕と世界の方程式』という今年の頭に公開された映画で、こちらも数学と自閉症(サヴァン症候群)をテーマにした天才のお話なんだけれど、やはりその才能が彼を幸せにするのか? と言われるとそうでもない。
ちなみに本作と並ぶくらいの、今年を代表する名作なので是非興味があれば鑑賞してほしい1作です」
亀「本当に子供が幸せになるために大切な物とはなんじゃろうな……
それこそ『神から与えられた才能』かもしれんし、選べない環境つまり親や金銭的なことかもしれん。もしかしたら、もっと別の……友人などかもしれん。
しかし、この映画で大事なのはみんなメアリーのことを思っているということじゃな」
主「本当に大切なのは『どんな能力を持っているか』ではないのではないか?
その子の事をどれだけ深く愛し、そしてその子のために行動することができるのか? ということだ。
フランクも折れるところは折れてメアリーのために環境を変えてあげた。フランクのエゴを貫き通したわけではないんだよね。
『愛があるから貧乏でも全部大丈夫!』という映画にありがちなラストだって、ある種のエゴである。
教育の問題って親や大人のエゴとエゴの問題になりがちだけれど、1番大切なのは子供が何をしたいのか? 何をして幸せになりたいのか? ということである」
亀「そう思うと本作のフランクはずっとメアリーのために行動しておるし、周囲の大人ができる範囲で最大限のことをしてあげておる。
学校の先生がその子にあったレベルの問題を用意したり、自分の生まれについて色々と悩んでいたら、子供が生まれる瞬間を見せてあげる……それを喜ぶ家族を見せてあげる。
それこそが本当の『教育』であるということじゃな」
主「すごく単純な、誰にでもできることでもあるんだけれどさ。でも、それができない親や大人ってすごく多いと思うんだよ。自分もそうだろうし。
もちろん、現実的な限界はあるにしろ、どこまで子供の気持ちを尊重してあげることができるのか? ということを語った作品だね」
最後に
亀「今年の作品の中でもそこまでマークしておらんかったが、いやいや、ここに来てとんでもない大傑作が生まれたの」
主「このような映画ってどうしても注目を集めにくいし、観客も少ない印象があるけえど、少なくともツイッター上では絶賛の声が相次いでいる。
もちろん大作の娯楽映画もいいけれど、こういった骨太な作品ももっと多くの人に見て欲しいな」
亀「それこそ誰が見ても絶対に納得して涙する傑作じゃからの」
主「文句のつけようがない大傑作に出会ったので、本当にオススメです。しかも映像も美しいし、少しでも興味があれば鑑賞してください。損はしないので」