亀爺(以下亀)
「今回扱うのはワイドショーをモチーフにした映画『グッドモーニングショー』じゃな」
ブログ主(以下主)
「そうねぇ……フジテレビが制作した作品としても注目を集めているな」
亀「まぁ……色々な意見がありそうな映画じゃの」
主「朝のワイドショーの裏側を見せますっていうだけで、注目度は集めそうだもんな。しかし、6月くらいに洋画で似たような題材の映画(マネーモンスター)が公開されたけれど、こういうのも流行りなのかね?」
亀「やはり題材を探した時に『テレビ』と『事件』や『生放送ジャック』というのは洋の東西問わず、魅力的な題材なのかもしれんの」
主「でもこれで……番組の趣旨自体が全然違うけれど、アメリカと日本の番組の作り方……というか、映画にする際にイメージするある種の『番組像』違いも明白になって面白かったな」
亀「今回はそこにはあまり触れないでいくんじゃろ?」
主「マネーモンスターにはあまり触れないので、この作品単体で語るけれど、最初に言っておくけれど、結構手厳しい論評になるので悪しからず」
亀「では、感想を始めようかの」
1 『リアリティ』と『エンタメ』
亀「ここ最近の邦画大作ではずっと言っておる気がするが……リアリティとエンタメの、どちらに重きをおくのか問題じゃの」
主「そう。ここでミスをすると……つまり、リアリティのあるエンタメを作ろう! なんて言い出したら、中途半端なことになって映画としてつまらないものになる。その両立をした映画というのもあるだろうけれど……どちらかに偏った方が明らかに楽だと思うんだよね。
その意味ではこの映画は……中途半端だねぇ」
亀「そうじゃの。元々フジテレビが作った朝のバラエティ番組の裏側を探る! という作品だと、相当にリアリティがあるように観客は錯覚して見に行くと思うが……」
主「そのリアリティが全然ない。むしろ、出そうという気もないんじゃないの? ってすごく疑問に思うくらいだよ。
じゃあ、エンタメとしてはっちゃけているのか、観客を楽しませるようにしているのか? と問われると……それもあまり無いねぇ」
亀「だから映画としてはあまり面白くない上に、リアリティもないという作品になってしまった印象があるの」
主「いっその事さ、爆発とかさせてエンタメ性を高めてもよかったと思う。『フジテレビが爆発した!!』なんてエンタメとしては面白いじゃない? テレビ局の爆破ができないなら、犯人の自宅を爆発させるとかさ。それなら、エンタメ性も出てきたと思う。
あとは登場人物をはっちゃけさせたりね。あんな堅物主人公とか、ありきたりの人物像じゃなくて……長澤まさみの演じた圭子みたいなぶっ飛んだキャラクターをたくさん用意して、そのコメディ感をさらに演出するとかね」
亀「コメディと謳ってはおるが、そこまでコメディでもないからの。登場人物がおとなしすぎたか?」
役者について
亀「では役者について語るが……印象に残った役者はおるかの?」
主「基本的には損な役が多いよね……役者の良し悪しを語る前に、役がそこまで個性的でもないから、演じる側の良し悪しを語ることがなかなかできなくなっているように思う。
例えば主演の中井貴一もさ、あの演じ方しかないんだろうね。堅物な人物だし、はっちゃけようがない。それでいながら分かりやすいオーバーリアクションをさせられて、状況が状況だから突っ込みもできないというね……」
亀「その中で印象に残ったのは、犯人役の濱田岳かの」
主「やっぱり上手いよねぇ。『ヒメアノ~ル』の時もそうだけど、現代の情けない男を演じさせたら、すごく雰囲気がある。抑えていた感情が爆発して……ということが、今回は犯罪という方に向かったけれど、その破れかぶれ感とでもいうのかな? そういう雰囲気を作り出すのが上手い役者だよねぇ」
亀「他には印象に残った俳優というと……」
主「いないかなぁ。個人的な好みとして木南晴夏が引っかかったけれど、女優として素晴らしいとはまた違うし……」
亀「語るのが難しい作品じゃの」
以下ネタバレあり
2 リアリティの喪失
亀「さて、このタイトルは同日公開の『少女』と同じ小タイトルにしたわけじゃが……」
主「少女の場合はリアリティをなくすことでエンタメ性というか、虚構性を高めるという演出をしていたのね? だけど、この作品はただただリアリティがなくなっちゃったというだけだからさ」
亀「ではそこについて語っていくかの」
主「まず、モーニングショーの裏側を見せます! というアイディアは良かったと思う。始めに寝静まった夜の街をバックに、フジテレビの文字が見えるわけだ。その瞬間に『テレビ局が作ったテレビの話』という思いが生じる。
これは例えば『SHIROBAKO』という『アニメ業界について描いたアニメ』だったり『吼えろペン』『アオイホノオ』のように『漫画業界について語った漫画』と同じように、それだけで説得力が出てくる」
亀「業界人が作った業界モノじゃから、リアリティがないとおかしいの」
主「そう。だけどさ、いきなりおかしいのね? 例えば、みんな小綺麗な格好をして元気はつらつに働いているけれど、テレビ局みたいな24時間稼働しているところがそんなわけないじゃない? 疲れ果てた人もいれば、襟とかが汚れている人もいるでしょ? まずそこで『物語の嘘』が発覚してしまう」
亀「映画で役者が演じているとはいえ、少しは汚さや疲れを出せということじゃの」
主「そう。そして……怒号も飛び交わないしさぁ。和気藹々すぎる気がするのね。そういうところが悪い意味でテレビドラマ的だなぁと思ってしまった」
朝のニュース番組といえば?
亀「この『フジテレビの』というところがミソなわけじゃな」
主「そう。例えば『朝から甘いものを食べてはしゃいでいるだけ』ってセリフがあったけれど、フジテレビで考えたらこれは軽部アナのことでしょ? おじさんが甘いもの食べて、エンタメを紹介してはしゃいでいるわけだから。
それはそれでいいよ。だけど、不満に思ったのは……その肝心のニュース番組があまりのも固すぎるんだよね」
亀「NHKのニュース番組かと思うくらい固かったの。フジテレビというと、大塚アナといい、三宅アナといい、あそこまで固くなく、ポップな印象がある。むしろ、最近は朝の番組は軽くするようにしているような印象もあるの」
主「そうなんだよね。それでいて、原稿を読む時も棒読みだし……これはカンペを読んでいる、白板を読んでいるという演出かもしれないけれど、結構年数のあるベテランアナウンサーや、その局のエースアナでしょ? 朝の担当といえば。
だけど、それがあんな辿々しいとさ、違和感がすごいよね」
亀「いくら報道上がりとはいえ、のぉ。あとは演技の間とかも台本通りの予定調和間があったの」
主「観客は朝のワイドショーやニュース番組を見慣れているんだよね。そうなると、予定調和の会話とか、原稿を読むだけでないのは知っているわけだ。突然司会がアナウンサーをいじったりとか、アドリブみたいな場面もたくさんある。
だけど、そのアドリブをしているはずのシーンすらも原稿を読むように予定調和だから、すごく違和感がある。画面を通しての違和感が強い作品になったねぇ」
3 事件が発生して
亀「そしてここから事件が発生してからであるが……ツッコミどころ満載じゃの」
主「まず、一介のアナウンサーが現場に入っていいのか? しかもその際に盾役が守っているのはわかるけれど、先頭を歩く松重豊は顔を覆ってもいないんだよね。あんな至近距離に行くのにだよ?
ここがまず違和感」
亀「ご都合主義の連続じゃからな。それこそ、殺到する抗議とかも主人公たちに都合のいいものが多かったしの」
主「だから、その後で色々と決めゼリフみたいなものが続くわけだ。
『視聴者が見たいのはこれなんだよ!』とか『言葉で暴力と戦っているんだ!』とかさ。でも、そのセリフも全て空回りしている。言いたいこともわかるし、それが主題なんだろうけれど……結局ご都合主義の連続の果てにあるものだからねぇ」
亀「そして事件の発生現場に向かうが、緊迫感があまりないの」
主「結局さ、あの犯人の凶暴性が何も示されていないからね。あの至近距離で猟銃を打って外すというのもありえない……というか、その方が難しいと思うけれど、そのシーンで唯一凶暴性を出した。
でもそれ以外は……救出されるお爺ちゃんが笑顔で『いつも見ているよ』も含めて、緊迫感がまるでないんだよね。
いっそのこと、エンタメにするなら爆弾を爆発させてさ、死傷者を出さなくてもいいから『ここを吹き飛ばすぞ!』とか脅すのが欲しかった」
亀「エンタメとして振り切っておったら、あそこで爆発させたかもしれんの」
主「欲をいえば、死体が転がっていてみんなが震えているとかさ、怪我人がいるとかあればより緊迫感が出たと思うけれど、それができないのはわかるからさ、それならそれなりの方法で……警察官に発砲して防弾チョッキの上に当たるから何とか無事でも、病院に搬送でもいいから、欲しかったかなぁ」
いい人、澄田
亀「そして大事な主人公の過去に迫るわけじゃが……」
主「もう冷めるよね……まず、過去にトラウマがあるという描写だけでも説明しすぎだと思ったけれど、そのトラウマの理由が中継で笑いながら顔に泥を塗っていたという捏造疑惑。
そしてその真意が『カメラの外にいる男の子を笑わせようとした』でしょ?」
亀「カメラの外にあるものは映らない、というが……この理由ではの」
主「視聴者がテレビを見ていて謎なことってたくさんあるわけだ。例えば芸能ニュースではSMAP解散報道だったり、有吉、夏目問題だったりが、裏では芸能事務所のお偉い方に配慮して報道しない、もしくは一方的な報道になっているという『噂』もある。
これは陰謀論かもしれないけれど、豊洲市場問題も蓮舫の2重国籍問題から目をそらすため、という話もある。
その真相はわからないよ? わからないけれど、多分芸能事務所とのやりとりとか、スポンサーとか、倫理とか、お偉いさんの主義主張とか、様々な思惑があるんだろうなって思う。それが『カメラの裏側』なんじゃないの?
それをさ、子供でしたって……拍子抜けなんだよねぇ。不倫もしていませんとかさ」
亀「この作品はフジテレビが関与しておると考えると、澄田がいい人だったり、テレビにとってご都合主義なのは冷めるんじゃな」
主「だからこの映画って、本当にワイドショーやテレビに都合がいい展開にしかならない。その意味では『テレビ局によるテレビ局のためのプロパガンダ映画』になっているんじゃないの? って言いたい。
特にフジテレビって色々言われているからさ、その自己弁護にも思えてきちゃうんだよね」
亀「最後までテレビ局側に都合の悪いことは起こらんからな。アンケートの改変だって、状況と内容では仕方がない……というか、そのまま放送する方が大問題じゃろう」
4 テレビとブログ
亀「結局ご都合主義のまま始まり、ご都合主義のまま終わるのじゃが……主はこの映画を見てどう思ったのかの?」
主「う〜ん……でもね、この映画で描いていた『テレビと視聴率』の問題ってわからなくはないのよ。
結局のところ『テレビと視聴率』問題って、言い換えると『ブログとPV数(閲覧数)』とも同じ問題なわけ。視聴率が高くないと儲からないというのは、PV数をある程度稼がないと儲からないのと構造は一緒」
亀「まあ、そうじゃの。そのPVを稼ぐために、長谷川豊のように炎上商法に手を染める者もおるわけでの」
主「だから、この『報道とワイドショー』というのは、ブログで言ったら『正確な情報とネタ』みたいな話でさ、どちらを重視するかっていうのは、少し考えさせられた。
正確な情報と、中立的な番組を作っても視聴率を取れなければ意味がないし、かといって視聴率は取れるけれど中身のない、ネタや煽りをガンガンと入れてもいいのだろうか、と言うことを語ってきたね」
亀「……全く製作者サイドが意図していない刺さり方をしているの」
主「しかも、大多数の人には意味がない刺さり方というね」
最後に
亀「それではここで締めるが……最後に何か言いたいことは?」
主「う〜ん……結局さ、報道とワイドショーの対比が多くあって、そこがある種の主題になっていたわけじゃない?
だったらさ、この作品はワイドショー側なんだから、徹底的にリアリティを排除して、エンタメにしてもよかったんじゃないかなぁ」
亀「それならばエンタメ云々論もわかるからの」
主「そうそう。そこが中途半端になったことが、失敗の要因だと思う」
亀「しかし、テレビ局主導だから、それだけ色々と制限もあった中でこういう作品になったのかもしれんの」
主「そうねぇ……その意味では、まあ苦肉の策の連続なのかなぁ?」
亀「面白くなりそうな設定ではあるんじゃがのぉ……」