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物語る亀

ネタバレありの物語批評

映画『マネーモンスター』感想 ドキドキの『生放送』犯罪劇! ネタバレあり

映画 洋画

 映画『マネーモンスター』を鑑賞してきたのでその感想を。

 ここ最近はリーマン・ショックなどもあったことで『マネー・ショート 華麗なる大逆転』などの金融の闇を描いた作品が次々と公開されているが、今作もその一つ。

 ただ、他の作品と違って直接金融市場を描くのではなく、テレビ局に乗り込んできた犯人を映すことであまり見ることのできない被害者をうまく撮った作品だろう。

 

 では一言感想から

 ドキドキの先が読めないサスペンス!

 

 

 

 1 金融ものの『強み』

 ここ最近『マネーショート』や、直接金融市場を描いているわけではないが『ソーシャル・ネットワーク』などの、巨額の金銭のやりとりを描く企業の映画が多くなっている。

 これは先ほどもあげた通りリーマンショックという大きな落とし穴と、さらにネット社会がもたらした指先ひとつで何億、何十億、何百億が簡単に動く社会になったことにより、刺激的な物語が作りやすくなったということもあるだろう。

 これが一昔前であれば、それだけの大金を稼ぐのにどれだけ汗水たらし、開発し、競争したかというサクセスストーリーになりがちだが、今ではこう言ったサクセスストーリー自体があまり目にかかることがない。

 

 金融物が強く人気を集めるのは、何と言っても『明確な目的』だろう。

 例えば物語において主人公が何のために行動するのか、という動機は観客に訴えかけるために重要なものだが、それが観客の価値観とあまりに離れすぎると主人公の行動全てに疑問が生じてしまう。

 だが『大金を稼ぎたい』という目的(願望)は現代の資本主義社会に暮らす人間であれば説明する必要もなくわかりやすいものだし、できればその方法も手っ取り早く、手軽に、楽に稼ぎたいというのが万人の共通意見だろう。

 

 さらに言えば、『リスクを数字で表せる』というのも大きい。

 100億を賭けた、今日は50億失った、最後に500億儲けたという話になれば、その物語で登場人物が起こした行動のリスクとリターンが非常にわかりやすいものになる。

 そういった『明確な目的』と『スリリングな数字のやりとり』というのが金融物が最近人気を集める理由だ。

 

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金融物の欠点

 ただ、多くの金融物には重大な欠点があることも指摘しておきたい。

 それはあまりにも専門的な話になってしまうために、一般の観客には理解が難しいものになってしまうことだ。

 映画には頭を空っぽにして、何も調べずに見た方がいい作品もあれば、予備知識を必要とする映画もある。例えば名画『アラビアのロレンス』はロレンスが何者でどういうことをした人なのか、という歴史の話を知らなければ楽しみも減ってしまうだろう。

 

 その点において金融や近年のネット産業を題材とした映画は専門用語や、その仕組みなどの事前知識を必要とする作品も多い。

 全く知らないで行くとちんぷんかんぷんで帰って来ることになりかねないのである。

(私もマネーショートは難しかった)

 

本作は金融物か?

 本作は『明確な目的』と『スリリングな数字のやりとり』という点においてはあまり効果を発揮することができていない。

 しかしこれが失敗かというとそういうわけではなく、本作の最大の強みは『生放送中に起きる立てこもり事件』という点にある。8億ドル(約800億円)の行方に関するやり取りなどはあるものの、直接お金のやり取りなどがあるわけではなく、作中において登場人物たちがお金を損するような描写も特にないので(犯人もスタート時にはすでに損をしている)金融物とは言い難いかもしれない。

 

 ただし金融物特有の専門用語の羅列であったり、よく分からない展開などもあるが、それも他の金融物に比べるとそこまで多くもなく、比較的まだわかりやすい部類に入るだろう。

 金融をテーマにしたサスペンス映画として、金融物の抱える長所も少し消えてしまったが、短所も解消することができていたのでバランスのとれた作品だと思う。

 

以下ネタバレ

 

 

 

 

 

 

2 スピーディな展開

 今作は近年では上映時間が短めの95分となっているため、スピーディに展開していく。特に序盤の日頃の『マネーモンスター』という番組収録風景の場面から、犯人が登場して事件が発生するまで、おそらく10分もかかっていないのだろうか。

 その10分もない中に前提条件となるキャラクターの紹介、番組の紹介、相手の企業の紹介、事件に至る問題発生の過程などということが、金融の専門用語と共に次々と繰り出されるために、ついていくので精一杯。

 

 ここの部分をもう少し軽くして欲しかったのだが、この後の事件発生以降もダレることなくスピーディに展開させようとしたら、この95分という時間は正解だと思うので、そこは致し方ないだろう。

 ただ、番組や主人公リーの見せ方などは見ていて飽きることなく、楽しめるものだった。多分日本で言えばみのもんたとか、小倉キャスターぐらいの年頃の設定なのだと思うが、そんな人間があんな踊って経済の解説をしてくれる番組があったら日本でも流行するだろうなぁ……

 

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3 中盤について

 事件発生からスタジオを飛び出すまでの中盤にかけては、いい部分もあればあれ? と思った部分もあった印象。

 

 まず目的がわかりづらかった。

 犯人のカイルの目的は自分が金融にて財産を失った理由を調べて公開するためなのだが、それはほぼ八つ当たりだと思う。何せその情報を信頼したのも、投資したのもカイル本人だし、ただのテレビキャスターに問い詰めるようなことではないだろう。

 リーの目的は初めは助かるためだったのだが、ある時から少しずつカイルを諭すために目的が変わっていく。ここはストックホルム症候群と考えればわかりやすいし、話の流れからしておかしくはない。

 警察は犯人確保のためなので目的はブレない。

 

 ただ、ディレクターのパティが少しわかりづらかったかなぁ……彼女は単純に身の保身のためなのか、テレビマンとしてのスクープなのか、悪を暴く公共に対する正義感なのか、犯人に同情したのかわかりづらかった。特に犯人と言葉でやりとりはするものの、リーほど突っ込んだ話はしていないので、そこまで入れ込む理由はわからなかった。

 

 それから何よりも、中盤の映画のポイントが企業の不正を暴くことなのか、それとも別の方法で解決することなのかがこんがらがってしまった印象がある。企業の不正を暴きながらも、そこを放って別の場面を映すなどという場面転換が余計にそうさせたかな。ストーリー自体は単純なだけに、そこが少し複雑にさせてしまっているようで勿体なく感じた。

 

良かったところ

 まず抜群に良かったのはカイルの恋人のシーンだろう。

 彼女に「どういう関係で?」と尋ねて、そこで初めて大きなお腹を見せて「当ててみる?」というやり取りは映画的で好印象。

 それにその後の説得のシーンというのは、心に響くなぁ……まるでダメ親父を叱る妻のようで、あの場面に関しては恋人の方が正論といえば正論なのかもしれないが、あまりにも酷すぎる……

 カイルに同情するリーの心情がよく分かる描写になっていた。

 

 それからこういった作品で多いのが『やるべきことをやらない』というツッコミ所が出てきてしまうことだが、警察もキチンと犯人確保に全力を注ぎ、場合によってはリーが死亡するリスクも考慮して行動していたのは良かったかな。

 リーが視聴者に裏切られるシーンなども、リーができる最大限の努力を払って、それが失敗したということも視聴者という他人が必ずしも動いてくれるわけではないという、いい裏切りになっていた。

 

 

4 後半について

 不正を確信したリーなどのスタッフ達はCEOの元へ行くための、リーが胸の爆弾を爆発させないためにカイルを盾にするというアベコベの形で会場に向かうというのは、すでに二人が共犯関係であり、爆弾を着せたという設定を上手く使ったいいアイディアだった。

 緊迫感はずっと一定のラインで続いていたが、確実にカイルはリーを撃つ気はないというのはわかりきっているものの、実は警察がリーの身を狙うという逆転した緊迫感を提示したのは上手い。その質は違うものの、リーはともかくとしてカイルはいつ撃たれてもおかしくない状況だしね。

(メタ的な見方をするならば、間違い無くラストまで撃たれないのはわかるけれど)

 

 CEOとの対峙の場面もよくて、決して簡単な悪者を作らないというこの作品のテーマを感じることができた。

 CEOは自分たちの利益のために、誰もがやっている汚いことをやって儲けようとしただけで、違法性はないと強調しているし、カイルはそもそも立てこもり犯罪をしているし、リーもまた自覚的ではないものの、CEOの思惑に乗ってしまった張本人である。

 本作に関しては登場人物の多くがこの事件の片棒を担ぐ形になっているのである。

 

 この部分は考えさせられたなぁ……非常に矮小化するけれども、舛添問題みたいなもので「違法性はないが不適切」な行為だが、舛添問題は都民が直接被害を受けたわけではない(舛添が使わなくても誰かが使うお金)のと似た様なものかな……なんて思ったり。まあ、映画はラスト捕まりますが。

 

テーマについて

 そう考えるとこの作品のテーマも金融問題を扱う作品に多い、『お金の稼ぎ方の是非』『富める者と貧しい者の対比』という点ではよく出てきている。

 特にリーとカイルの幸福度を比べたところで見ると、どちらも決して幸せという人生は歩めていないのは面白いところで、貯金や年収の多少によって幸福度は大きく変わらないということだろう。

 

 そんな研究データもあって、年収ごとによる幸福度を調査した際に、600万円以下は幸福度は低いものの、1000万円をピークとしてそこから先は幸福度は横ばい、あるいは下がる結果となっている。

 これは年収が多くなるほど残業などの時間が増えて家族が犠牲になったり、責任が重くなり余暇が楽しめないなどのストレスから来るものと言われている。

 日本においても家族の急死や宝くじによって大金が降りた際に、人生が破綻するというのは良く聞く話だろう。

 

 お金っていうのはそういうもので、稼げば稼ぐほどもっと欲しくなるし、そのゴールは見えないものになってしまう。

 だからこそ自分の身の丈にあった人生設計とお金の稼ぎ方を大事にするしかないのだろうね。

(あとはカイルの人生を思うと、やるせないところがあるなぁ……)

 

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最後に

 作品の総論としては粗もあるけれども、中々楽しめた作品でした。

 良くわからない単語はなんとなく傍に置いて、とりあえず鑑賞すればいい。サスペンスとしての面白さはちゃんとあるし、テーマもあるので見終わった後に『金と幸福』について考えるきっかけになるだろう。