物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『マネーショート』感想 事前勉強必須、わかったら面白い(かも)

 本日3月4日に公開になった、マネーショートを鑑賞してきたのでその感想を上げていく。

 本作は特に事前知識もなく、金融関係もサブプライムローン問題も詳しく無い人間が見た感想になるので悪しからず。

 では一言感想。

 理解できないような理解できたような…… 

 

 

  

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1 事前勉強絶対必須

 映画に限らず物語の中には例えば公開当時の社会情勢、歴史、文化、宗教的観点など事前に勉強をしておかなければ面白みが伝わらないものがある。私などは何の予備知識もなく名画だからと『アラビアのロレンス』を見たときなど、一体なぜそうなっているのか全く分からずに疑問符ばかりが浮かんでいた。他にも『ラスト・エンペラー』や『レ・ミゼラブル』なども事前にその描かれている人物や時代を知っておいた方がいいだろう。

 基本的に私は予告編以外の事前知識は映画を見る際に邪魔になると思っているので(純粋に映画の評価ができなくなる)積極的には取り入れないようにしている。

 

 そんな人間が見ると今回のサブプライム・ローンに関連するリーマン・ショック等一連の流れはあまりわからなかった。もしかしたらアメリカでは常識なのかもしれないが、あまり金融関係には強くない身には一体今何が起きて、何をしているのかよく分からない。

 それを解消するためにチョコチョコと説明が入るのだが、そもそも説明に入る単語がちんぷんかんぷんだから、わけわからんとなってしまった。

 多分、サブプライム問題や金融、株投資などをしている人たちからすると相当に面白い作品かもしれない。

 

 まあ、ある種の予告編詐欺みたいなところもあって、予告だと「ウォール街崩壊に気がついた男たちの勝ち抜き合戦」なんて非常にポップで見やすいように作られていたけれど、まさかここまで難解でガッツリと金融関係をやっているとは思わなかった……

 この騙され方は個人的に昨年見た『ハッピーエンドの選び方』以来かな。あっちは悪質さすら感じたけれど、こっちはうまくやったね、というのが感想なのが違うところだけど。

   

2 主人公は『不在』

 この作品における、我々が感情移入して注視してみるべき、明らかな主人公というのは本作にはいない。

 1番はじめに出てきて主人公オーラを出すのはドラマーのマイケルだが、彼は明らかに性格破綻者で、しかも中盤はほとんど登場しない。彼を主人公だと思い、注視してしまったらそれは見るポイントがずれてしまう。マイケルはただ1番に崩壊の予兆に気がついたというだけで、それ以外に冒頭から出る必要性はない。

 なんで冒頭でガラスの義眼やらで人生の深掘りをしたのか謎なくらいだ。そんな深掘りをするほど感情移入させたいならば、もっと出演させるべきだろう。

 

 1番主人公らしいマークも同じで、ここはチームで出てくるのだが、2番目に出てきと言うだけで物語は彼を中心には動かない。

 ではスタートの独白などを担当したベネットはというと、こちらがもう主人公と言えるほどの露出はなく、どう見ても脇役でしかない。

 若手個人投資家の二人組に至っては少しコメディ要素もあるだけで、出番だけで言ったら1番少ないのではないだろうか。(でも観客は1番わかりやすくて感情移入しやすいだろう)

 

 

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 このように主人公が不在である上に、彼らは作中において一切関わりあわない。ベネットとマークは共犯関係に比較的最初の方で(多分中盤に入ったあたり)なるのだが、それ以外の登場人物同士が接触しない。マイケルに至っては登場シーンの8割がオフィスであって、殆ど人と関わり合いにならないのだ。

 だから観客としてはよく分からないお話が続く上に、誰に感情移入したらいいかわからず、その人生が交差する偶像劇にもなりはしないという、どんな見方を要求しているのかイマイチ判りかねる。

 

 ではこの作品の主人公、および見るべき観点というのはどこにあるかというと、それは『金融市場』そのものが主人公であり、注目してほしい観点なのである。

 作中で何度か挟まれる一般市民の写真というのはどのような意味を持つかというと、このサブプライムローンの被害者は他でもない彼らのような一般市民なんだよ、ということを見せるための演出だろう。それは作中でも言及していて、結局最後に泥を被るのは一般市民であるとはっきりと言い切っている。

 結局マイケルにしろマークにしろ、その金融市場というものの上で踊っているにしか過ぎない。この作品の真の主人公はその金融システム、及び銀行であり、そこに翻弄されるすべての人々である。

 だからこそ、彼らの勝利は大量の失業者を生む『アメリカの負けに賭ける』ようなもので、それをはっきりと言ったシーンや、ここで利益を生んだら詐欺まがいの方法で金を稼いだ銀行と同じになるという惑いというのは、作品に深みを与えてくれていた。

(ただ主人公が明確な人物ではなく、金融市場や一般市民という形のないものとする描き方は正直どうかと思う。観客は金融市場に感情移入できないし、そこまで詳しいわけでもないから、相当にうまくやらないことには難しい)

   

3 演出について

 正直な感想を言えば、演出に関しては頭を抱えた部分もある。

 映画を見ている最中のメモに、はっきりと『センスない!』と書いてしまっているので、余程憤りを感じたのだろう。たぶん、すべて見終わってどういう映画かはっきりとわかっている今ならば理解出来るような演出だろうが、見ている最中は疑問点しかなかった。

 これだけ専門用語が並んでいるにも関わらず、本作はエンタメとして機能させようとしているのは間違いない。例えば登場人物がカメラ、そしてその奥の観客に語りかける手法は最近だとイーストウッドの『ジャジー・ボーイズ』などもそうだが、半ばドキュメンタリー調であるにも関わらず、きちんとしたドラマを持たせるという点においてはそこまで気にならないし、良いものだ。(まあ本作はそのドラマ部分が弱いけれど) 

 だが、結局セクシーな女性を多用するところに頭を抱えてしまったわけで、私が『ソーシャル・ネットワーク』を評価しない理由と似ているが、「結局世の中は金と女なんだよ」と言われているようでなんだかなぁと思ってしまう。本作はアクセントに使っているだけなので、まだ大分マシだが。

 

 途中の解説も分かりやすかった。

 ただ作中で解説されない専門用語が多すぎて、もっと解説が欲しかったけれど。

(この辺りはエンタメ性を重視するならある程度専門分野の話はカットしても良かったように思う。題材が題材だけに仕方ないが、それが映画としての魅力を殺している。観客は金融の勉強しに来てるわけではないのだから)

 

 それから相当に日本に対する営業も力を入れているみたいで、マーク・テゥエインなどからの引用がはじめにテロップで表示されるが、そこに村上春樹が使われたり、終いには徳永英明の曲が流れるなど日本に向けてアピールしている箇所がいくつかあった。別に日本人が出てくるわけでもないけれどね。

 ここまでくると露骨すぎてちょっとなぁ、と思ってしまったり。

 

 

 総論としては、わからないなりに面白かった。

 頭が話や単語についていくので精一杯でそこまで映画の構造などは考えられなかったが、やはり金が動く話は飽きないし、緊張感もあった。多分レビューだったら5はないけれど、1でもないからだいたい3に評価が定まるタイプの作品。

 もう1度見るならば是非とも勉強してから見たいものだ。

 

 アダム・マッケイ監督

 チャールズ・ランドルフ脚本

 

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