亀爺(以下亀)
「今週は300館クラスの大作が続くのぉ……」
ブログ主(以下主)
「お正月シーズンも終わって、映画界もエンジンがかかってきたってところかね」
亀「金曜日公開じゃからな、まだ見ている人はそこまで多くないとはいえ、結構重なって大変じゃったの」
主「本当だよ!
なんでこんなに被るんだってこっちも憤慨だよ!
まあ、でも一映画好きとしては笑い話だけど、映画によってはこの日程に決めた担当者が今頃顔を青くしていたりするんだろうな」
亀「やはり『マグニフィセント・セブン』と『ドクター・ストレンジ』を相手にしてお客を入れることができる映画というのは、ほとんどないからの。
『恋妻家宮本』などは苦しい勝負をせざるを得ないのではないかの」
主「宮本の場合はまだ客層が被らないかもしれないけれど、この2つはもしかしたらお客を取り合うのかもね。来週には『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』も始まるし、特に大型連休もないけれど、大作が続くのね」
亀「見る側も大変じゃが、ブログも映画の話が続くの」
主「年度末で仕事も忙しい人も多いだろうし、この時期は漫画賞や小説賞もあるし、アニメも全く手がつけられてないんだけどなぁ……」
亀「さて、それでは感想を始めるかの
今回は致命的なネタバレはなしでやるかの」
主「そんなネタバレすることもないしねぇ」
1 大味ながらも楽しめるエンタメ作品
亀「それではネタバレなしの感想じゃが、特に批判するところもない映画じゃったかの」
主「いい映画だよ。エンタメとしてよくできているし、特に否定するポイントもない映画でさ。若干大味かな? と思う部分もあるにはあるけれど、これだったら娯楽としてケチはあまりつかないんじゃないかな」
亀「今年度トップ10に入らんかもしれんが、ワースト10にも入らんじゃろうな」
主「それが褒め言葉なのか罵倒なのかは難しいところでもあるけれどね……」
亀「欠点を挙げるとすると、少し単調な印象も受けるかもしれないってところじゃな。ただ、基本のプロットはすごくわかりやすいし、単純なものじゃから子供から大人まで万人にオススメできる内容になっておるな」
主「そうね。こう言う作品は結構残虐な描写が多かったり、目を背けたくなるような描写が多い印象だけど、徹底的にエンタメに徹することに終始している。だから血などもあまり流れないし、見ていて『痛い!』と思うようなシーンも排除されている。
あとは話の内容からエロチックな描写があってもおかしくはないけれど、本作はほとんどそれもないね。どこを見ても西部劇として楽しめるように配慮されているなぁって印象を受けた」
カッコイイ役者と美しい女優
亀「役者に関してもそれは同じじゃの。
どのカットを見てもカッコイイ役者ばかりで、彼らに感情移入すること間違いなしじゃな」
主「リーダー役の黒人であるサムを演じるデンゼル・ワシントンは理知的な印象を受けるし、ギャンブラーで実質的な主人公と言ってもいい、ジョシュを演じるクリス・ブラッドを始め、みんなそれぞれの魅力に溢れている。
特に今回はアジア系の登場人物がいるけれど、ナイフ使いのビリーを演じるイ・ビョンホンもこの世界観で白人、黒人に囲まれると少し奇妙に見えるかな? なんて心配したけれど、それが却って味となって独特の色気を醸し出していたね。個人的にはこの映画で1番好きな役かも」
亀「この時代を象徴するように女性陣の服装なども非常にセクシーじゃったの。農民の妻の役を演じるヘイリー・ベネットなどは、その胸がこぼれ落ちそうなくらいの胸の谷間に終始釘つけであったし、モブの女性陣たちも娼婦が多いためか、この環境下では信じられないくらい露出も多かった」
主「それが下品になっていない。そういう部分も含めて、すごくわかりやすいエンタメ作品として仕上がっている」
2 七人の侍と荒野の七人
亀「この映画をどのように見るか、というのもあるが、わしなどは黒澤明の名作、七人の侍などが好きじゃから、その視点で見ると面白かったの」
主「はっきりと断言するけれど、黒澤明の七人の侍って脚本の流れが完璧なんだよ。
もう50年以上前の映画の構造だけど、現代でも通用するものになっている。古典的名作を見ておいたほうがいい、とはよく言うけれど、この作品などはまさしくそうだね」
亀「どこが優れておるか、というのを簡単に説明するとするかの」
主「七人の侍って一言で説明すると『農民を浪人七人が救う』ってそれだけの話なんだよ。で、この『七人の浪人』というのがミソであって、これが上級武士とかであっては単なる戦記物になる。
だけど浪人にすることでアウトロー集団という描き方ができる。それは今作でも同じだよね」
亀「それから七人というのがまた素晴らしいの。
これ以上の人数を描くとなるとキャラクター性が被ってきたり、観客が覚えきれなくなってしまう。じゃから、映画に限らず物語の主要人物は3人、5人、7人などに収めるのがベストと言われておるからの」
主「人間が数を用いずに覚えることができる数ってせいぜい7くらいって言われているんだよね。それ以上増えると印象が薄くなってしまって、よほど強烈なキャラクターでないと観客が覚えてくれない。
例えば『ONE PIECE』を連想してもらうと分かりやすいけれど、ルフィ、ゾロ、ナミ、ウソップ、サンジまでの5人ってすごく覚えやすくて読者の印象も濃い。そしてチョッパー、ロビン(ビビ)までは多くの読者に好評だよ。
だけどそのあとのフランキー、ブルックになると人気は1段下がるし、一部からはまだ馴染みがないって言われている。キャラクターはロボット、骨と相当濃いし、尾田栄一郎という天才をもってしても、7人の壁というのは越え難いものがある」
亀「あとは単純に動かしづらいというのもあるかの」
七人の侍の欠点
亀「七人の侍は他にも、黒澤明らしく『武士と農民』という対比構造が導入されておる。これは弱者である農民が武器を手にして立ち上がった時、どのような反応を示すか、ということを表した描写がある」
主「普段は臆病な農民が武器をもって落武者と対峙すると、落武者や侍が絶句するほど残虐になったりする。普段抑圧された弱者というのは、武器を手にした瞬間にどんな残虐な行為もできる、ということも描き出している。単なる娯楽として終わっていないのが素晴らしい点だね」
亀「黒澤明はこういうとなんじゃが、若干差別的なニュアンスがある監督じゃからな。農民や一般大衆は愚者として描かれることもある。スターウォーズの原案になったと言われる『隠し砦の三悪人』などは三船敏郎演じる武士と、2人の農民の対比がとんでもないことになっておって、若干苛立ちを感じるくらいじゃな」
主「そんな七人の侍だけど、現代で考えると致命的な欠点を抱えていてさ……」
亀「単純に長い。
前後篇で休憩時間を挟んだ超大作、上映時間も200分越えの207分じゃ。3時間半という長さの映画が現代で公開されたら、ブーイングものじゃろうな」
主「その欠点をぎゅっと縮小したのが本作でもあるんだよ」
3 七人の侍と比べると……
亀「それではそんな七人の侍などと比べて本作を語ってみるかの」
主「基本的なプロットは七人の侍と同じだよね。もちろん、それが原案になった荒野の七人も似ている。
特に農民が苦悩をする、それを救うのがアウトローな連中というのも同じ。先ほどもあげたリーダー役のサムなんて、まさしく志村喬が演じた島田勘兵衛にそっくり。
ただ、その分大味になっているのも露呈してしまうんだけど……」
亀「七人の侍はその序盤もまた素晴らしい描写があり、いかに島田勘兵衛が優れた男なのか、説明する描写があるが、そこが息をのむほど素晴らしい。この男が物事を深く考え、しかも腕も立つということを説明するシーンなのじゃが、本作だとそれが単なる腕自慢のように見えてしまった部分もあるの」
主「これはこの作品の致命的な欠陥でもあるけれど、そういう1つ1つの描写がすごく甘い。もう少し工夫をすれば、もっと面白く、名作になれると思うのに、結局は単なる銃の腕自慢で終わってしまった印象ばかり残ってしまうかな」
亀「ただ基本的な流れやプロットが素晴らしいから、それでも面白いものになっておる」
主「あの原案だから、そりゃあね。
それから大味ということになると、これもエンタメらしいと感じる人も多いだろうけれど、味方の弾は当たるし敵も1発で倒れるけれど、敵の弾は絶対に……というと語弊があるけれど、だいたい当たらない。当たる弾はそれなりの意図を持って発砲されたものだけ、というね」
亀「そこは仕方ないとはいえ、若干のご都合を感じてしまう部分でもあるの。まあ、それがいいのかもしれんが」
主「ここでリアルな銃撃戦を見せられてもねぇ、っていうのもあるだろうから、これはマイナスポイントにはならないだろうけれど。ただ、そういうことが積み重なって大味な印象を与えるかも」
4 本作が過去作と違う点
亀「荒野の七人との差についても考えていくかの」
主「そうね。本作が真っ当なリメイクになっているなぁと感じたのは、実はこの荒野の七人との差の部分が多いのね」
亀「実際、この作品はリアリティは皆無じゃからの。もちろん、エンタメじゃから現実とのリンクは考えておらんじゃろうが、それにしても歴史考証があまりにも酷い」
主「あの時代に黒人がカウボーイや保安官みたいなことができるはずがないよ。しかも白人を引き連れて悪党退治のリーダーなんて考えられない。この当時の黒人は、まさしく奴隷扱いを受けていたわけだから。
それを考えるとアジア系と白人のコンビもおかしいし、この仲間にネイティブアメリカンが一緒になるのもおかしい。その意味では大減点と言えなくもないけれど……ここがこの映画の味になっている」
亀「農民も男ではなく女性をメインに据えたのも、ポリコレを意識したのかもしれんの」
主「そうだよね。どうしても西部劇って時代性も考慮すると『白人たちがカッコイイ!』って話になりがちだけど、この映画はそうなっていない。
この映画はアウトローたちが大活躍! という作品だけど、じゃあこの時代におけるアウトローってなんだ? って考えたら、弱者や差別されていた有色人種、それからネイティブアメリカンも、十分にアウトローなんだよ」
亀「この時代の常識から離れたはみ出し者ではあるしの」
主「そういう人たちを主役級に添えることで、ある程度のテーマ性を保つことができている。
ただ、ここが惜しい部分でもあるんだけどね……」
この映画の惜しい部分
亀「そうじゃの。この映画はせっかくいいテーマを抱えているようであるが、どうにもそれがうまく調理されておらん印象がある」
主「例えば『資本主義と民主主義』とかさ、それから『神』というテーマを抱えているのかな? という思いもあったけれど、結局は悪徳経営者をアウトローな連中が退治するって映画で終わっている。
そしてその人助けの理由も、ネタバレになるから言及はしないけれど、ああいうものだった。ここいら辺ももっと細かく作り込むことができれば、稀代の傑作西部劇になれた可能性もあったのに……」
亀「エンタメとしてガンガン撃ち続けることを重視したのかもしれんの」
主「まあ、わかりやすいけれどね。この監督の前作である『サウスポー』を見たときも思ったけれど、その辺りのディティールの作り込み方が微妙だなぁって印象。ここは相性もあるかもしれないけれど」
亀「途中で荒野の七人の音楽が流れた時はテンションが上がったの」
主「もう荒野の七人を最後に見たのはかなり前だから、ほとんど覚えてないんだけどさ……こうやって音楽を流されると感慨深いものがあるよね。その意味ではやっぱり、正当なリメイクだよ。
そういう小技もうまいから、やっぱり七人の侍や荒野の七人を見た後に鑑賞すると、よりグッとくるものがあるね」
最後に
亀「大作娯楽映画としては、そこまでケチのつかん作品に仕上がっておったの」
主「原案になった映画ももう何十年も前の映画だから、今さら見ろとは言えないよね……あのシーンがないとか、このシーンがうんたらってことが色々あるだろうけれど、今でも130分もあるから、これ以上詰め込むのも難しいし、こういう作品に仕上がったのは仕方ないんじゃない?
個人的は結構満足だよ。こういうとなんだけど『頭からっぽにして楽しめる』映画に仕上がっているから」
亀「本来映画とはそういうものかもしれんしの」
主「テーマがどうのとか、ここであの描写がって言い出すような人たちはあまり相手にしていないような気がしている。しっかりと原案の作品をリスペクトして、現代的な要素も入れた良作だよ。
まあ、ご都合主義がすごく目につくけれど」
亀「さて、それでは今日もこれから映画館へ行くとするかの」
主「……なんか、すごく忙しいわぁ……なんでこんなにやることが多いんだろ?」
亀「主が普段怠けすぎなのではないか? ほれ、いくぞ!」
主「へいへい……こうして亀と1人の人間は立ち上がった、と……」