今回はテレビアニメ版の”ヴィンランド・サガ”の感想になります!
原作も大好きだから、熱心に見た作品だね
カエルくん(以下カエル)
「アニメ化する際には本当に驚いたけれど、予想以上のハイクオリティで仕上げてくれて感謝だね」
主
「その辺りもこれから話すけれど、テレビアニメとしてはそこまでケチがつかない作品になったのではないだろうか?」
カエル「うちは原作を最新刊まで読んでいますので、この先のネタバレはしないつもりはありますが、言外のニュアンスから読み取れるものもあるかもしれません」
主「こればっかりはどうしようもないかなぁ……
それでは、感想記事のスタートです!」
感想
では、Twitterの短評からスタートです!
#ヴィンランド・サガ
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2019年12月29日
テレビアニメとして文句なし、重厚であの難しい原作を高いクオリティで描ききったことに感謝します
壮大なプロローグは終わり、ここからトルフィンの真の戦士となるための試練が続く
ぜひとも続きが観たいと熱望する作品です pic.twitter.com/42tCCIWSY7
2019年ベストテレビアニメではないでしょうか?
カエル「寄稿しているリアルサウンドの2019年アニメ作品ランキングでも、あれだけ劇場アニメが大豊作の中で唯一テレビアニメ作品としてランクインさせているほど、お気に入りの作品でもあります」
主「あの時は放送終了前だったし、今年も劇場通いが多くてテレビアニメはそこまでチャックできていないけれど、でも間違いなく2019年を代表するにふさわしいテレビアニメの1つではないでしょうか?
さすがはWITスタジオと、唸らされた。
『進撃の巨人』が原作1巻、2巻の段階で生理的に合わなくて見れていないけれど、時々Twitterなどで流れてくる映像の迫力などがとてつもないレベルにある。
また、2019年では『鋼鉄城のカバネリ 海門決戦』も高いレベルにあり、今も注目を集める理由がはっきりとわかるスタジオですね」
カエル「作画も一部シーンは”おやおや?”と不安になる部分もありましたが、全体的には納得のクオリティで駆け抜けたのではないでしょうか?」
主「こればっかりはテレビアニメだからなぁ……
そして何よりもシリーズ構成がうまかったかな。
7巻までを全24話で描くには、ちょっとペースがゆっくりな印象もあったけれど、漫画を読んでいる身としてそこ以外には考えられないのも事実。
また、物語自体もよりわかりやすいように整理されていた。
原作だとシリアスの中にコメディが入って空気感が……壊れるという言い方だと否定的なようだけれど、テレビアニメはちゃんと物語が一定のテンションだったように感じた。
全ての面において評価するべきポイントが多い作品ではないでしょうか?」
エンタメと残虐のギリギリをつく描写の数々
どのような部分が特に気に入ったの?
やっぱり、暴力描写のバランスの良さですよ
主「なんだかんだ言ってもさ、人間は暴力が好きなんだよ」
カエル「……それはなんというか、極論だよね」
主「でもさ、そうじゃなければなんでヒーロー物や戦争物、戦国時代などの合戦ものがこれほど人気を集めるのか?
戦争大嫌いな左派である宮崎駿監督すらも、兵器は大好きなんだよ。
戦国武将ランキングでも1位の織田信長もそうだけれど、既存の構造を壊した人は人気がある。だけれど逆に、今度の社会の基盤を作った人……徳川政権とかは人気は少し落ちたりするわけだ。
それにゲーム業界を見てみなよ。日本はまだマシな部分があるけれど、海外製とかは人(ゾンビを含む)を撃つ作品が当たり前のように発売されているし、スマホゲームだってそんな作品も多い」
カエル「……まあ、そういう意見も出てくるとは思うけれど……」
主「先に挙げたWITスタジオが描いてきた作品だってアクションや戦闘描写、つまり命を奪う描写が人気なわけだ。
もちろん”そんな作品はダメなんだ!” とは否定しない。だけれど、暴力……悪い奴がぶん殴られるとか、そういう現代では禁忌とされることには快楽性があるんだよ。
で、基本的に物語表現ではそのあたりの残虐性は抑えられるか、あるいはさらに強調される。
銃で撃たれたり斬られても血も出なかったり、あるいは逆に血みどろだったりね。SWなんてのは、戦争をしているけれど血も少なかったりするから、ちょうどいい娯楽性だったりする」
じゃあ、ヴィンランド・サガはそのあたりのバランスが見事だと?
暴力の過酷さ、酷さ、目を背けたくなるような描写もしっかりと描いたよね
カエル「うちはずっとAmazon primeで鑑賞していましたが、NHKでの放映バージョンでは一部が黒塗りになったという話も聞きます。また、原作から一部の残虐なシーンがなくなるなどの改変がされています」
主「合戦のシーンは盛り上がるのと同時に、戦争の残虐性を出す。
ヴァイキングの行動がいかに残酷なのか、トルフィンを取り巻く環境が、そして父であるトールズを追ってきた運命がどのようなものなのかを、これ以上なく説明している。
でも、やっぱりエンターテイメントとしても面白いんだよね。
この辺りのバランスが見事だと思ったし、暴力は嫌悪されても、作品自体は嫌悪感を抱かれないであろうポイントを……ギリギリのところを探っていた印象。
その意味でも、高い評価を下したい。
単なる戦争ものとも違う漫画を原作としているから、この挑戦そのものを高く評価したいし、これを放送しようと決めたNHKの英断も評価すべきではないでしょうか」
トルフィンの過ちと幸運
ここからはこの先も読んでいるが故の感想となりますので、ご了承ください
直接ネタバレをするつもりはありませんが、今後の展開が察せられるかもしれません
カエル「ヴィンランドをここまで分析すると、まずはトルフィンとクヌートが同一の存在となっていると、考えられるという話ですが……」
主「間違いなくここまでの物語で大事な構図だよね。
さらに言うと以下のような構図とも言える」
トルフィン
- 実の父である敬愛する存在=トールズ→アシェラッドの手により死亡
- 義理の父であり憎悪する存在=アシェラッド→半分自殺(クヌートが討つ)
クヌート
- 義理の父であり敬愛する存在=ラグナル→アシェラッドの手により死亡
- 実の父であり憎悪する存在=スヴェン王→アシェラッドの手により死亡
カエル「まあ、こんな感じだよね」
主「トルフィンとクヌートは、やはり似たような存在として描かれている。最初は子供だった存在が、愛する者の死によって人生を狂わされていく。この先を知っていると、その思いはさらに強くなるんだけれど……
で、大事なのはこの2人だけ”2人の父”がいることだ」
カエル「敬愛する父と、憎悪する父だね……」
主「さらに大事なのは”スヴェン王とアシェラッドの関係性”なわけだ。
この2人も共通点が多く
- 策略家で人を率いている立場
- どちらも王の名を冠している
- どちらも王の器でない(アシェラッド曰く)
- どちらも父をその手で殺めている
ここで大事なのは最後の項目……”どちらも父をその手で殺めている”ことだ
運命を断ち切った男、アシェラッド
ここまでの描写だと完全にアシェラッドが主人公だよねぇ……
主人公のトルフィンとクヌートを結果的に導く存在だからね
主「父殺しというのは古今東西、神話などで語れてきた定型的であり普遍的な描写だ。フロイトの言うところのオイディプス・コンプレックスというやつで、男の子の最初の障害になるのが父親であり、その父を超える手段の1つとして描かれているものだ。もちろん、歴史上でなんども行われている行為でもある。
そしてトルフィンとクヌートには、その”父殺し”をしなければいけないという課題があった」
カエル「トルフィンは復讐のために、クヌートは自分の身を守り王になるために、だね……実の父と義理の父の違いはあるけれど、憎悪する対象という意味では同じなのかな……」
主「だけれど、結果的にその行為は行われなかった。
アシェラッドがその運命を断ち切ったからだ。
アシェラッドも面白い性質を持ったキャラクターでさ、トールズとの対比になっている」
敵も含めて全てを愛する男トールズ⇄全てを駒のように考える男アシェラッド
主「というわけで、最後には自分の命すらも駒として考え、散っていった。
でも同時に、そのアシェラッドも特別な視線を向けてしまった存在……駒でありながらも愛を向けた存在がトルフィンだ。あとは失った後に大きさを知ったのが親友であるビョルンくらいだろう。
この複雑な内面を獲得しているからこそ、面白いキャラクターでもある」
ふむふむ……
そして、アシェラッドの最大の功績は”誰にも父殺しをさせなかったこと”だ
主「父殺しというのは、その運命を背負うということでもある。
その傷は生涯つきまとうだろうし、スヴェン王もアシェラッドも結果的に色々なものに憎悪を向けているようにも見受けられる。
アシェラッドはその身をもって、トルフィンとクヌートの2人をその運命から解き放った。
留めを刺したのもラグナルの仇でありながらも、その罪をすでに許しているクヌートというのも、もしかしたら父殺しをさせられないトルフィンに変わる行動だったのかもしれない」
間違いだらけのトルフィンの幸運
それがこの先のトルフィンの行動に大きく関わってくるもんね……
結局さ、この24話まではトルフィンは主人公たりえなかったんだよ
カエル「なんていうか……ずっと復讐しか考えられず、それ以外頭にないし……生き残ったことが奇跡とも思えるような行動の連続だったね……」
主「トルフィンの行動は頭からケツまで、全部間違い。
彼が正しい行動を起こしたことは、少なくともこの24話の中で1つもないと言えるかもしれない。
最初に父の船に乗ったことも、アシェラッドの船に乗ったことも、復讐を誓ったことも、すべて彼の過ちである。
だけれど、幸運なことが2つだけある。
生き延びたこと。
そして”アシェラッドを手がけなかったこと”だ」
カエル「それが今後のトルフィンが主人公になるにつれて、とても大事なことになっていくね……」
主「基本的にヴィンランドは”何かを失って成長する男”が描かれている物語だ。
その成長とは暴力からの決別である。
はっきり言うと、エンタメとして面白いのはここまでかもしれません。
ここまでは分かりやすいドラマだった。だけれど、この先はトルフィンがどう生きるのか? ということを考える上で、とても哲学的で重いドラマになっていく。だからこそ、自分は現代で最も読む価値のある物語だとして、最大級の賛辞を浴びせています。
だけれど、ここが綺麗事で済ましがちな日本の漫画・アニメ……というか、とても難しい問題だから描けない部分もあるんだけれど、全くもって綺麗事でなく描かれていく。
復讐の相手であり、義理の父を失い呆然とするトルフィンが今後どのように生きるのか……是非とも見届けていたいな」
最後に
というわけで、ヴィンランドサガのアニメ版の感想でした
続きはやってくれるかなぁ……是非見たいなぁ
カエル「この後は……ちょっと物語として作るのが難しいかも」
主「でも、だからこそ挑む価値があるのではないだろうか?
WITは今後、間違いなく日本を代表するアニメスタジオになるのではないか? という思いがある。そのためにこれほどの原作を手掛けたのではないかな?
人気がどれほどあったのかはわからないけれど……少なくともアニメ化は成功だったと、自分は思うよ」